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電車シリーズ




☆のんき
緩く肩にかかるくらい長めの髪、感情を移さない瞳。俺を見て、口だけ笑って片手を挙げた溝口くんが、俺が同じく片手を挙げてひらひらしたのを見て。挙げた手を振った。挨拶代わり。というか、暗黙の了解。この合図の時は、こういう話をするって決まり。
「溝口くん」
「はい」
「お話が」
「今晩は空いてないけど、明日ならー」
「はい」
「えーと、お付き合いしてるお相手と、喧嘩した?」
「その通りです」
「お別れしないのはどうして?」
「あの子は俺のことが大好きだからね」
「そっかー。それはいいことだね」
平坦な口調で、特段そうは思っていなさそうな声で、俺が好かれていることを喜んだ。溝口くんは、ずれている。小金井くんの場合は表出する感情が著しく少ないのだけれど、溝口くんの場合は、そもそも感情が動いていないように思う。自分が人の為になっていることに欲情する変態だからね。
「明日何時に待ち合わせする?」
「夜7時ぐらいがいいな」
「おっけー」
「それとも、もっと遅い方がいい?」
「夜ご飯どうするかによるかなー」
「うーん……」
顎に手を当てて明日の夜ご飯について悩んでいる溝口くんだが、呑気に話し合っているのは明日夜の浮気を含む性行為に関する内容なので、お互い最低である。また溝口くんに言い寄ったって小金井くんにばれたら、階段から突き落とされる。やべー。
「じゃあー、夜ご飯は奢ってあげるよ」
「ほんと?やったあ」
「何食べたい?」
「んー、なんでもいい。新城が食べたいものを選んで」
お蕎麦屋さんにした。その日の晩、明日は夜ご飯食べてくるね、と中原くんに言ったら、今朝から絶賛喧嘩中の彼は、聞いてるんだか聞いてないんだか、フルシカトだった。後で泣くに決まってる、そんなつんけんしてたら慰めてあげないからな。


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