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電車シリーズ




☆友達
「中原」
「ん?」
「新城がしつこい。引き取ってくれ」
「……あの野郎……」
不快です、と書いてある顔だ。中原に新城を任せると嫌そうな顔をされるが、その実、俺のところに新城がいる方が中原としては非常に嫌らしいので、引き取ってもらえればwin-winのはずなのだけれど、この顔。気が引ける。ぼんやりそう思いながら、後ろからどたどたと追いかけてくる新城を撒くために階段の柱の陰に無意識に隠れたら、頭の上にはてなマークを浮かべた中原がそっと付いてきた。こういう小動物的なところならば、新城の言う「かわいい」が理解できる。
「こっがねいくーん!どこいったのー!」
「……朝からあの調子で、疲れた」
「しばらく禁じてたからな……」
「そうなのか」
「うん。あいつしつこすぎるから、迷惑だろ」
「助かる。悪い」
「ううん」
どたばたどた、と通り過ぎていった新城を見送って、二人で柱から出る。中原くんの言うことは全部逆、と新城はよく言うが、俺としてはしつこくてうるさい新城よりも、友人として良くしてくれる中原を信じたいので、俺を思って新城にストップをかけてくれていたという言葉を真実だと思うことにする。そうではなかったとしても、ここ数日新城が大人しかったことは事実なので、良し。
そういえば、新城からは何度も何度も、それはもう耳にタコが出来る程、やれ中原くんは自分のことが好きだの、中原くんは自分がいないと死んじゃうだの、中原くんは人目があると甘えてくれないから自分のことを嫌いなふりをするだの、さんざっぱら聞かされてきたが、中原自身から新城をどう思っているのかは聞いたことがなかった。もしも俺と同じく、うるさくてうざくてしつこくて最悪、と思っているのなら、中原に新城を任せるのは迷惑だろう。そこのところ、どうなんだ、中原。
「はん、あんな奴のこと好きなわけないだろ」
「そうか。それは悪かった」
「……あ、やー、えー、悪い?なにが?」
「これからは自分で処理する。中原も、あれに追いかけ回されたら迷惑だってことだろ。一度食事に行くとしばらく大人しくしてくれるわけだし、今までより短いスパンで構ってやれば」
「えっ、いや、え?別にそれは、そんなこと小金井くんがしなくても、良くない?」
「中原に迷惑はかけたくない」
「め、めいわく……迷惑、では……や、嬉しくもないけど、小金井くんとアレが二人で……ええと……」
「中原?」
「えー、と、えっと、待って。俺は、俺、新城のことは嫌いだしうざったいと思ってるんだけど、ええと」
「……気を遣ってるなら、その必要はない。俺だって、我慢ぐらいできるし。まあコップの水とかはかけるかもしれないけど」
「あー、水ね、水はかけてくれて全然いい、そのまま溺れ死んで欲しい……そうじゃなくて、ええとねえ……なんて言ったらいいか……」
「やっぱり好きなのか」
「はー!?好き!?好きじゃないですけど、ぜんっぜん!一緒にいるとことか見られたくないしあいつの作るご飯不味いし!?同棲じゃなくてルームシェアだし、それだってクソ不本意で仕方なく、っ」
「そうなのか」
「……あ、ぁ、待って、まっ、あー、小金井くん……」
「なんだ」
「……小金井くん、俺、もう、どうしたらいいか……」
「どうした、中原、お腹痛いのか」
「……痛い……や、全然痛くない……もう全部信じなくていいから……」
「医務室に行こう」
「行かない……行かないです……」
お腹を抱えて丸くなってしまった中原を抱えて医務室に行った。顔色が悪い。こういう時、この友人より、というか平均より背が高くて、良かったと思う。中原は割と小柄だし。
「……こがねいくん」
「どうした。次の授業の先生には、体調不良だと言っておく」
「……新城と、そんなに、仲良くしなくていいよ」
だってあいつうざったいでしょお、と青い顔で笑われて、頷きを返した。本当に、頑なに、どんなに板挟みになろうとも、好きとは言わないんだな。


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