このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

電車シリーズ



☆すき
「しんじょおの、ばあか……」
中原くんは、弱虫で、泣き虫で、そのくせ意気がって噛み付いてきてはそのことを後悔して死にたくなる、とても面倒で回りくどい性格をさている。俺のことが大好きなのに、口では嫌いだと言う。俺には何をされても嬉しいくせに、気持ちが悪いとか最悪だとか言う。ツンデレと呼べばかわいらしいが、ただの天邪鬼な嘘つきと呼んで仕舞えばそれまでだ。
そんな中原くんは現在、しくしくとくぐもった声で、クッションかなにかに顔を埋めて、泣いている。泣き虫モード。理由は、俺が小金井くんとご飯を食べてきたから。もとい、詳しく言えば、そのご飯を食べてきた話を俺が嬉々として語り、そんなに楽しかったのかよ!と吠えた中原くんに、そうだよお、と俺が頷いてでれでれしてしまったがために、怒った彼は足音も荒くリビングを出て行き、寝室を占拠した。鍵なんて付いていないのに扉が開かないのは、つっかえ棒をされているからだ。見えないので仕方がなく、扉に耳を当てると、しくしくと啜り泣きが聞こえる。これでばれてないと思ってるんだから、かわいいよなあ。中原くんを泣かせるのは最高に興奮する。やめらんない。声をかけると、啜り泣きが収まった。泣いてること、ばれたくないんだよね。一丁前なプライド。君がすぐ泣くことなんて、とっくのとうに知ってるって。
「中原くん。ごめんね、嫌だった?」
「……………」
「楽しかったよ。俺、小金井くんと仲良しだもの」
「……小金井くんの方が俺よりかっこいいから好きなんだろ……」
「うん。それは否定しない」
「しんじゃえ!」
「嘘はつきたくないもん。小金井くんのこと好きだよ。でも、中原くんの好きとは違うよ」
「ばか!あっち行け!」
「小金井くんのことは顔が好きだけど、中原くんのことは、どこもかしこも好き。怒ってるとこも、ぶさいくな泣き顔も、お酒飲み過ぎてゲロ吐きそうになってる時も」
「うるっさい!吐いてない!」
「扉開けてよ。かわいい顔見せて。仲直りしよう?」
「開けない!」
「中原くん、好きだよ。中原くんの方が俺のこと大好きなのかもしれないけど、俺も俺でかなりハイレベルに君のこと好きな自信がある。例えば中原くんをただただ泣かせたいがために浮気してみたりとか」
「……最低」
「怒った?怒った顔も見せて」
「殴らせろ」
「ハグがいいなあ」
「……………」
扉が開いた。真っ赤な目をした中原くんは、俺の顔をじっと見て、握りこぶしを作って、ぺちりと猫パンチをお腹に繰り出してきた。痛くない。ゔぅ、と唸った彼が、一つ涙をこぼす。手を広げて引き寄せれば、おずおずと背中に手が回った。よしよし。ごめんね。泣いてる君はかわいくてしょうがないんだよ。
「……他のやつと遊ぶな……」
「ご飯もだめ?」
「……好きになるならだめ……」
「一番好きなのは中原くんでも?」
「……………」
「わかった。3日我慢する」
「……うん」
3日じゃ嫌、ずっと隣にいて、と言わないのは中原くんの意地だ。そんなに依存してない、ふりをしたい、から。強がりさんめ。
「かーわいいんだから、もお」
「……どこもいくな」
「うん♡」
今だけね。

4/7ページ