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電車シリーズ



☆朝
「中原くん、おっはよー。卵はめだま?」
「……………」
「ゆで?」
「……………」
「ほい、半熟ゆでー」
よぼよぼと起きてきた中原くんを椅子に座らせて、美味しいものを並べる。半熟のゆで卵、フレンチトースト、オニオンスープ、レタスとトマトのサラダ、コーヒー。ふわふわと湯気を立てるいい匂いのそれらに、しょぼしょぼしていた中原くんの目が、ちょっとずつ開いていく。
「……いただきます」
「めしあがれー」
「うまい」
「ふふー」
「うん。これもうまい」
中原くんは、俺の作る飯の全てに対して「うまい」と感想を言ってくれるので、普通にめっちゃ嬉しい。練習した甲斐があった。料理とか出来なかったけど、中原くんが好きな食べ物なら作れる俺である。現金だと思わば思え。
「……食わないの」
「ん?」
「飯。俺のしかないの」
「自分のはもう食べたんだ」
「……ふうん」
半分嘘。失敗してしまったので、かっこ悪いから隠すようにとっとと食べた。俺が対面で一緒にご飯を食べていると、俺の顔を見続けることに耐えきれない中原くんはどんどん無言になってしまうので、これはこれでよし。どうして耐えきれないかって?嫌いだからじゃないよ!大好きすぎて!大好きだからだよ!
ぺろりと全部食べきった中原くんが、きちんと手を合わせてごちそうさまをした。礼儀が正しくてかわいい。パーフェクト。お皿を下げてくれるのも高得点。水につけて洗いやすいようにした中原くんが、洗面所の方に消えた。着替えて出てきた彼が、俺が洗い物をしてるのを見て眉を顰めた。やりたかったの?
「……洗い物はやるつもりだった」
「いいよお、中原くんの手が荒れちゃう方が俺は嫌」
「理由が絶妙に気持ち悪いな」
俺のパーカー知らない?と半袖のシャツでうろうろしている中原くんに、洗濯のところか干してあるところに無かったら知らないよ、と答えれば、探しに行ったようだった。しばらくして戻ってきた中原くんは、俺のパーカーを持っていた。彼シャツ的なことをしてくれるのかな!
「これ俺のなんだけど」
「え?そうだった?」
「勝手にパクんな」
「俺のじゃなかったっけ?」
「どうせ匂いとか嗅いでたんだろ」
「そうかも」
「気色が悪い」
どこにあったか聞けば、新城ゾーンの上着かけるとこの中にあった、そうで。いつのことだか覚えてないが、洗い物に出されていた中原くんのパーカーを俺が勝手に奪って匂いその他を一頻り楽しんだ挙句にその事実がバレることを恐れて隠した可能性は大いにある。しかも、上着かけるところの中、っていうのが尚更。ごめんねえ、と謝れば、容赦なく洗濯カゴの中にぶち込んでいた。あ、着てはくれないのね。
「チャリ鍵」
「中原くんは後ろですー」
「……お前の後ろ嫌なんだよな……」
「でも中原くんに漕がすと途中で絶対チェンジになるじゃん。触るなとか鼻息がうるさいとかで」
「……………」
納得してくれた。鍵を俺に渡して、リビングの電気を消す。ほとんど何にも入ってないぺったんこの俺の鞄を、中原くんのリュックに詰め込む。中原くんのリュックの中に俺の教科書とかルーズリーフも入ってるから、あとで受け取ろう。
「鍵閉めた?」
「閉めた」
「乗ってくださーい」
「うん」
「しゅっぱーつ」
大学まで自転車。とっくに散り失せた桜並木の下を走って、中原くんに呼びかける。基本無視。いつものことです。前から後ろに話しかけてるので、ちょっと大声で。
「あっついねー」
「……………」
「今日の服かわいーねー」
「……………」
「中腰で腰痛くなーい?」
「そう思うなら死んで」
「慮るとすぐ殺しにかかってくるー」
「新城」
「んー?」
「からあげ食べたい」
「じゃあ今晩はからあげだー!」



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