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☆すてらびーた☆設定過多編




「わあー!?」
「うあー!なんだよー!」
「なかっ、中身がっ、しーたんっ、中身がないんですけどお!」
「だから言ったろー」
夜になった。カルディアさんとアクラブさんは自分の部屋に戻り、かみさまはじぶんについてきた。しーたんさんは寝ていたのだが、自分の声で飛び起きた。アクアさんとコリンカさんにはちゃんと説明したが、信じてもらえなくて、カルディアさんたちが部屋を出ていってしばらく経ったところで、一定区間内に侵入されたら反応するようなセンサーを勝手に張ったかみさまが、ぺらぺらと喋り出し、二人が信じてくれたところで、今に至る。
「かみさま!」
「なにがしーたんじゃお前、オラ、化けの皮を脱げ」
「うわあー!いたい!なにこの子っ、しーたんにらんぼーする!」
「しーたんはこっちのもふもふだろ!かみさまが貸してあげたの!監視用に!」
「うええ、みずばめー!たすけてー!」
「……………」
「うわお!アクア、こら!ちくしょー、人間だと自分が作った現し身にいとも軽々と抱え上げられてしまう!クソ!」
「かみさまちっちぇえなー」
「コリンカお前!くっそ、もお、帰ったら覚えとけよ!パン食わしてやっからな!」
「えっ、私パン食べたらどうなるの……」
アクアさんに抱え上げられたかみさまをつついていたコリンカさんが、手を引いた。こわいよお!とじぶんの背中に逃げ込んできたしーたんさんからそっと離れる。怖いのはこっちだ。今までこの目で見なかったからだけど、ガワはじぶんたち星の現し身と同じなのに、中身がかみさま同様、見えない。猫被り。化けの皮。しーたんって、誰だ。アクアさんに降ろしてもらったかみさまが、ふん、と鼻息も荒く腕組みをして、しーたんさんに迫った。
「箱庭の中の一つが変なことになって困ってるって言ったら、珍しく手伝ってやるって言い出したのはお前だろ。だから空いてた獅子座の場所をあげたのに、自分の癖に従って遊び呆けやがって」
「やだ!なにゆってるかわかんない!この子こわい!」
「なりきってる内に自分の成り方忘れたのか?ばかだなー、おばか、胃袋脳味噌」
「ばかじゃない!しーたんかっこいい!」
「だから、しーたんはもふもふの方。お前の名前は、えーと、なんだっけ?なんて名前で降ろしたっけ」
「しーたんはしーたんだもん!」
「違う、えーと、そうだ。レオナルド。レオ、しっかりしなさい」
「、」
茶色のもふもふを、初めて自分で握り潰したしーたんは、笑う途中みたいな不安定な表情で固まって、真顔になった。大きい目がぱちりと瞬いて、かみさまが溜息をつく。はあ、もう。
「帰ろっか」

かみさまの場所。どうやら、蠍座の星から強制転送されたらしい。アクアさんと、コリンカさんと、元の15歳に戻ったじぶんと、白髪赤目の幼い子どもの見た目のままのかみさまと、知らない人。
「!?」
「だっ、誰!?」
「しーたんですよ」
「いつまでその嘘ぶっこくつもりだ、いい加減怒るぞー」
「はいはい」
諦めたように溜息をついて、長い髪を肩から滑り落とした、彼。オレンジと金の髪、茶色の耳と尻尾、丈の長い黒の上着、って一つずつを取り上げると全部さっきまで一緒にいたしーたんと変わらないのに、ものすごく大人になった。コリンカさんより、成人済みのカルディアさんよりも、大人だ。温厚そうな垂れ目、左目の下の黒子、服から覗く鎖骨や、大きな手。なんか、こう、大人な雰囲気があって、気怠げっていうか。どっちで自己紹介したらいいんですかね、と首を傾げた彼の手を、幼女のかみさまがくいくい引いた。
「全部隠さず話そうぜ。君としーたんが行ってくれたおかげで、かみさまにも全貌が分かったんだから」
「君、自分のこと神様って呼んでるんですか?ははは、うけますね」
「もう!手伝いなんか求めなきゃよかったよ!食べ物絡まないと性格悪いよなあ!」
「……獅子座は……どこに……?」
「獅子座は僕です。レオナルド。しーたんは、魔力消費を抑えるための仮の姿です」
遡って、かみさまがじぶんたちを作るよりも前の話。人間で例えると、創世記より昔、みたいなことだろうか。かみさまはそもそもにして、勿論本物の神様なんかではなく、じぶんたちを作るだけの力を持った、力の塊みたいなものなのだ。ただの力の塊にどうして意思があるかって、基盤が人間の欲望だから。七つの大罪、というものがあって、それに則って存在するらしい。七つというからには、かみさま以外にあと六人いるのだけれど、それはまあ、一人を除いて置いといて。かみさまの持ち回りは、色欲。最初からじぶんに、他の星の現し身と肉体関係を結べと迫りに迫ってきたのも、それが面白いからってのもちろん、かみさまの在り方から考えたらおかしくはない話なのだ。そしてレオナルドさん曰く、「色欲の今のブームが男の子がいっぱいってだけで、それが終わったら貴方達箱庭の住人、星の現し身でしたっけ?突然全員女の子になって百合百合させられてもおかしくありませんからね」だそうだ。余計な不安を与えないでほしい。
話を戻して。じぶんたちを作って、箱庭のように自分だけ楽しんでいたかみさまだったが、蠍座の星に異常を見つけたため、何とかして直そうと、しばらく前からいろいろ弄っていたらしい。学パロ編も、蠍座の星の現し身を星から引き剥がしたかったがために起こしたところがあった、と。しかしながら、創造主であるかみさまの力を持ってしても、異常の原因が分からなかった。割と懇意にしている七つの大罪の一つ、食欲を司る彼に相談したところ、じゃあ手伝ってあげましょうか、と彼は引き受けてくれた。調査を頼むために、監視カメラ代わりのしーたんを相方につけ、獅子座の立場と星の現し身の肉体を食欲の彼に与え、名前もつけて送り出したのが、じぶんたちを調査に出した直後のこと。すぐに合流したじぶんたちとしーたんさんたちを見て、かみさまは面食らったらしい。
「てめえ、なにが手伝いだ!クソほどふざけやがって!」
「あっははははは!あはははは!おっかし、人の領地でやりたい放題やんの、楽しかったですよお、はははは」
「だからもう焦ってさあ!あるたちがみーんな食べられちゃうと思って!こいつほんとなんでも食べるんだよ!食欲の化身だからさあ!」
「いやあ、流石に病気とかは食べられないですよ。お腹痛くなるんで」
「お前に特権与えなくて良かったよ!あの時のかみさまの機転にははなまるをあげたいね!」
「いらないですよ、特権とかそういうの。だって僕、全部食べられますし」
そして、しーたん越しに見るうちに、かみさまには一つのことが分かったらしい。そこで、自分もあの星の人間の身体を借りて、じぶんたちを強制的に回収する手段に出た、と。変な役回りにしちゃって悪かったよ、と申し訳なさそうな顔をされた。かみさまは、また話し出す。終わった話として、まだ途中の話を。
蠍座の星の現し身の特権は、自分に都合のいいフィールドを作ることだ。結界作成の最上位。自分以外即死の毒を蔓延させた結界を、事前準備無しに張ることができるとか、そんな感じ。カルディアさんとアクラブさんは、学パロ編で記憶持ちで、カルディアさんに至っては本人も現し身を名乗っていたが、現し身ではない。変わり身人形、と言ったらもっと正しいかもしれない。蠍座の星の現し身の誰かが、自分の代わりに、星に座標として召喚した、ただの人間。あの星の狂ったルールは、蠍座の現し身の誰かが組んだものだ。死因の決まった人間たち。子どもだけがかかる、死に至る病。それを組むに至るきっかけは、かみさまは話してくれなかった。本人から聞きなさい、ということなんだろう。
しかし、そのルールを組むだけならば、かみさまの観測上、異常にはなり得ない。引っかかった原因は、七つの大罪の一つ、嫉妬が絡んできたからだった。今現在、蠍座の星は、嫉妬を司る化身が手をかけている状態らしい。嫉妬の名に恥じず、こっちが一人でなにやら楽しんでいるのが耐えられなかったんだろう、というかみさまの見解である。嫉妬の息がかかったおかげで、かみさまは蠍座の星に手出しすることができなくなり、食欲の彼を頼った、と。星座の一つまで明け渡して、大盤振る舞いですよねえ、と、しーたん、じゃない、食欲の化身、獅子座のレオナルドさん、は言った。
「僕に頼ったってことは、頂いちゃってよろしいんですよね?」
「あー。もういいよ。嫉妬の手に渡すぐらいなら、君の胃袋の中で眠らせといた方がマシ」
「わあー。あんなに大きいの、食べるの楽しみですねえ」
「……なにを、するつもりなんですか?」
「蠍座の星、レオナルドに食べてもらおうと思って。またおかしなことになる前に、消化してなかったことにしてもらうよ」
「えっ!?」
「カルディアくんとアクラブくんはどうなるんだよ!?」
「どうもこうも、あれはただの作り物だよ。蠍座の現し身も嫉妬に呑まれてもう反応探知もできないんだ、あのままほっとくわけにはいかないからね」
「レオナルドさん!」
「えー、僕は食べれるものはなんでも食べますよ。大丈夫、君たちにはしーたんとしてこれからも接しますから、仲良くしてくださいね」
「そうじゃないんです!」
しーたんさんがどうこうというよりは、このままじゃ、カルディアさんとアクラブさんが、あの星の人たちが、みんな丸ごと、いなくなる。狂った世界で、あんなに苦しんで、悩んで、それでもなんとかしようとしていたのに。噛み付くじぶんとコリンカさんに、かみさまは呆れたように首を振った。
「あのねえ。かみさまだって、あるだって、全部を救えるわけじゃないんだよ。今まで上手くいってたから、これからも上手くいくと思った?どうにもならないことっていうのは存在するんだ。レオナルドにあの星ごと食べてもらって、食欲としてのレオナルドじゃなくて、あのクソふざけたしーたん、獅子座の現し身としてこれからはやってってもらう。それは、君たちになにを言われても変えないからね」
「……分かった」
「アクアさん……?」
「それしかないって状況があるってことは知ってる。あんたたちの選択肢が間違いじゃないことも分かったし、そうしてもらって構わない。その代わり、カルディアとアクラブにもう一度会わせてくれないか」
「それは全然いいけど。なにするの?」
「……アクラブと、約束をした」

元の部屋に戻った時には、朝になっていて、アクラブさんが少し驚いたような顔で、扉を開いた。
「……先程来た時には、誰もいなかったので、驚きました」
「ちょっと用事があって……」
「ごめんね」
「いえ。朝食を用意しました、が……食べますか?」
「たべるー!しーたん、ごはん好きー!」
「うわ」
「うっわ!」
「?」
こっちに来るとしーたんなのか。コリンカさんと二人で大声を上げてしまった。流石のアクアさんも、もういい加減世話を焼かない。だって元を見ちゃったもんな。
しーたんさんが朝食に夢中になってる間に、アクラブさんとカルディアさんが二人で揃って来て、反乱軍の狼煙が上がった、と痛ましい顔をした。それは、また大きい戦が起こるということなのだろう。レオナルドさんにぺろっと食べてもらってしまえば、こんな悩みを感じることもないのだろうか。しかし、そもそもにして蠍座の現し身の誰かが、嫉妬に付け入られるだけのきっかけと、こんな世界を組み上げた原因が分からないのも事実で。黙して話を聞いていたアクアさんが、口を開いた。
「……次に会ったら自分たちを殺してくれと、あの学校で最後に別れる時、俺にそう言ったことを、覚えてるか」
「……………」
「アクラブ。お前に言ってる」
「……ええ」
「アクラブ!?」
「主人様、ごめんなさい。ごめんなさい……」
「俺は、それを叶えたいと思う」
「アクア!そんなの許すわけないだろう!」
「お前には、聞いてない」
きん、と硬質な音がした。アクアさんの振るった短刀が、アクラブさんの刃に防がれた音だ。カルディアさんの死線をはっきりと狙ったアクアさんが、眉を寄せて溜息をついた。ぎりぎりと擦れる刀同士が一旦離れて、カルディアさんを庇うようにアクラブさんが構える。
「……人形は人形でも、バックアップがとってある本体がカルディア、その守護がアクラブ。そうだろう」
「え、あの、アクアさん、どういう……」
「年の割には、アクラブの記憶量が多すぎる。カルディアは逆に、少なすぎる。他のメモリが脳を圧迫してるから、自分の記憶容量が少なく設定されているんだろうな」
「……夜の間に、どこにお出かけなさっていたんでしょうか」
「事情を知りに行っていた。約束は、破ろうかとも思っていたんだが、守ることにした」
食われて無くなるくらいなら、俺が殺す。そう言って構えたアクアさんが、踏み込んだ。アクラブさんが半ば無理やりに受け流し、唸り声を上げる。体格差からして、覆い被さられたらアクラブさんに抵抗する手段はない。それでも、アクラブさんは抗い続けた。腕を切られても、喉を切られても、悲壮なまでに動き続けて。
それを呆然と見るカルディアさんが、誰に言うでもなく、宙に向けて、言葉を漏らす。まるで譫言のように、ぽつりぽつりと。
「……私、夢に見るんだ。そこでは、アクラブが皇女様で、私はそのお付きの者で、成人の戴冠の儀では、泣きじゃくって喜んだ。でも、アクラブは死んじゃったんだ。誰かに殺されて、誰がやったか分かんないけど、私が部屋に入った時には、ぐちゃぐちゃになって、死んでたんだ。私、わたしは、それがどうしても、悔しくて、悲しくて、この星で一番やっちゃいけないことをした。この星の主人様を、呼んで、アクラブが生き続ける世界を願ったんだ。あの人は応えてくれた。わたしが皇女様で、アクラブが従う側になったけど、アクラブが元気なら私はそれで良かった。変な病気ができて、人がたくさん死ぬようになったけど、それはアクラブが生き続ける代償なんだって。あの人は、私にそのことを思い出さないように言って、私のことを羨ましがった。人間はいいなあって、その後あの人とは会えなくなってしまったけれど、アクラブが生きてれば、他のことなんか全部、どうだって良かったんだ。この星の人間がみんな争い続けて死に絶えても、子どもがみんな病に侵されても、私には、カルディアには、関係ないんだ。アクラブが生きてくれさえすれば、それで、良かったのに。どうしてこうなったのかなあ。……どうして、こうなったのかなあ。思い出せないよ。もう、全部、わかんない、や」
ゆらりと立ち上がったカルディアさんが、一歩前に踏み出した。ぼろぼろになりながら彼女を守るアクラブさんには、きっとそれは見えていない。傷一つないアクアさんが、アクラブさんの手から武器を奪って、振りかぶった。
「……痛かったよね。ごめんね、アクラブ」
「カルディア、さま」
がこん、と鈍い音。アクラブさんを抱きとめたカルディアさんの頭を、振り抜いて殴ったアクアさんが、返し刀で二人まとめて、胸の真ん中を刺し貫いた。返り血で汚れた彼の目には、二人の死線が見えている。きっと、それは胸の真ん中に重なっていたのだろう。どさりと倒れ伏した二人を見下ろしたアクアさんが、膝をついて、目を閉じてやり、手を合わせた。血溜まりが広がっていく。カルディアさんとアクラブさんの死因は、アクアさんに殺されること。アクラブさんは、それを察していたのだろうか。だから、あの世界で最後に、アクアさんにじぶんたちを殺して欲しいと頼んだのだろうか。アクアさんのあの時の頷きは、了承のそれだった。こうなることを知っていて、彼はずっと、自分たちと一緒に。
ひくり、心臓の止まったカルディアさんの指先が動いた。
「……、ぃ、憎い、憎い憎い、悔しい、どうして私とアクラブだけ幸せになれないの、憎い、憎い憎い憎い、ぁあ、」
「そんじゃあ、いっただっきまーす!」
がぶり。幼気な笑顔のレオナルドさんが、未練に伸ばされたカルディアさんの手に、齧り付いた。貪り食われて、なくなっていく。途中まで食べたところで、血まみれの彼が、ぱあっと顔を上げて、アクアさんに手を伸ばした。
「かたい!みずばめ、ナイフかーしてっ!」


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