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☆すてらびーた☆設定過多編



「めーめー、おなかすいたー」
「あるクン、今度は右腕をご所望らしい」
「ヒッ」
「斬ってやろうか、痛くないように」
「やめてください!」
「おーしざ、おなかすいたよー」
人のいるところに行かないとやばい。しーたんさんの加入で、それがいよいよ本格的な危機感を持ってひしひしと迫ってきた。つかれた、と泣き声のしーたんさんが、べろんと背中に乗っかってきて、仕方がないからちょっとだけおぶってあげたんだけど、しばらく行ったところで「頸は美味くないぞ!」というアクアさんの一喝が聞こえたので、恐らく、齧られそうになってた。しーたんさんの特権は「食べる」なんだろうか。にしては、行き倒れてたけど。その特権を持ってるなら、何でもかんでも食べまくっててもおかしくはないわけで。分からないことだらけだ。本人にもどうやら何も分かってないようだし。
「あるけないよお」
「がんばれ、しーたん」
「みずばめえ」
「……齧らないなら背負ってやる」
「かじんないからあ」
「そういえば、アクラブくんともなんか話してたっけ。アクアくん、子どもに優しいね?」
「……紫がいたからな」
くったりしてるしーたんさんを背負ったアクアさんが、やっぱり皇軍の後をつけたほうが何れは街に辿り着くか、とじぶんに聞いた。そうかもしれない。でも、いつになるか分からないのも確かであって、それじゃあきりがない。とりあえず、と当て所なく歩き出そうとしたところで、コリンカさんが声を上げた。
「おねーさん、いいこと思いついちゃった!」
こういう時のコリンカさんの思いつきに良いことはないのだが、それに縋るしかない状況で思いつくので、実行せざるを得ない。複雑そうな顔のアクアさんが、言われた通りに、見晴らしの良いところにしーたんさんを下ろした。余計なことを言いそうだから、という単純な理由で、自分が着ていた上着で口を塞がれ手も縛られているしーたんさんが、むごご、と不満そうな声を上げた。
「後で牡牛座の半身ぐらい食わせてやるから」
「えっ!?なんて約束してるんですか!?アクアさん!?」
「早く隠れないと、巡回コースなんだろ?」
「……そうなんだがな……」
「ん″ー!」
「すまん、本当に悪いと思ってる、危なかったらすぐ助けに来る」
コリンカさんの思いついた作戦は、単純明快。囮作戦である。しーたんさんの見た目はどう見ても子どもで、そりゃ耳と尻尾が付いてたり、人間らしくはないが、しかし子どもなことは事実。そして、この星では、子どもは都市部へ連れ去られる。皇軍が巡回している中にしーたんさんを置いて、彼が回収され都市部へと運ばれるのをじぶんたちは後から追いかけ、囚われの彼は然るべきところで助け出そう、というものなのだが、まあ、筋は通っているけどやることは外道だ。アクアさんが後ろ髪引かれまくるのも分かる。けれど、しーたんさんだって星の現し身であろうことは事実で、多少頑丈にできていなければおかしいわけで。いざとなったら助けを呼べそうなもふもふもいるし。一応もふもふに「危ない時は教えてくださいね」って言ったら、任せとけ的なドヤ顔をされた。
「平気ですかね」
「馬鹿は上手く使えば上手いこと事が運ぶようになってるんだぜ」
「……腹が減った子どもを……」
「どうする?しーたんくんがお腹空きすぎて、皇軍の人たちが来た途端に見境無く食い散らかし始めたら」
そんな光景は見たくない。一応、それを危惧しての拘束でもある。多分空腹に耐えかねたらあのぐらい力付くでも解けるけど。
しーたんさんは、一人になると省エネモードに入るらしい。じぶんたちが少し遠くから見守りはじめて、すぐ、じたばたしてたのが大人しくなって、よく見たら寝てた。行き倒れてたのもそういう理由か。よく縛られながら寝れるな。暢気なやつだなあ、とコリンカさんが呆れていた。そして、ふと思い出したように目を上げて口を開いた。
「そういえばさ。私たちって、空腹って概念とか、お腹いっぱいとか、感じないように出来てるはずなんだよね」
「……そうですね、そういえば」
「そうなのか」
「そのはずだよ。アクアくんだって、人間だった頃ならいざ知らず、現し身になってからお腹空いたとか思ったことある?」
「……ないな」
「でも、あの子さっきから、本気でお腹減らしてるよね?」
「やっぱり特権が食事なんでしょうか」
「どうなんだろー。分かんないけど、なんかなあって思って、あっ」
「来たな」
「拾ってくれますかね……」
「拾うだろうな。皇軍の行動基準の最優先は、大人は殺せ、子どもは保護せよ、だから」
アクアさんの予想通り、コリンカさんの組んだ展開通り、縛られて転がされてる明らかに不審な見た目の子どもを、皇軍は保護した。なにやら話し合っていた彼らは、小さな馬車を魔術で組み立て、自分たちの乗っていた馬をそこに繋いで、しーたんさんを馬車に乗せた。しかも、ちゃんと拘束を解いてあげて、だ。じぶんには聞こえた。あの子、「ありがとー、おにーちゃん!」って言った。お兄ちゃん扱いされて多少なりとも嬉しかったのだが、どうやらあれはテンプレートらしい。くそお。
馬車を追いかけ、途中転送魔法も使われたが、それはじぶんの目で何とか読み切って探知し、ついていくことができた。アクアさんがさっきから、こんなこともできるのか、すごいな、と感心してくれるのがこそばゆい。数度目の転移した先は、大きな門だった。どうやら、この中にしーたんさんと皇軍の人たちは入ってしまったらしい。そりゃ、セキュリティぐらいあるよなあ。
「問題ない。この程度、殺せる」
「脆くなったらぶん殴って壊したらいいよね」
「……腕の立つ二人がいて良かったです……」
門はぶち壊して侵入した。と言っても、アクアさんが結界を殺す段階では何か大きな変化が起こるわけでもなかったし、コリンカさんにはできるだけ小さな穴を開けてもらったので、大騒ぎにはならなかった。結界が切られた段階で誰か飛んで来てもおかしくないはずなのだが、この星ではシナリオが決まっているので、台本上にないこの行為は誰にも咎められることはないようだった。現に、誰も来ないし。
「どこに連れていかれたんだかな」
「あそこじゃない?あの一番大きいとこ」
「お城じゃないですか……」
「あそこなら人がたくさんいそうだし、聞き込みしやすいよ」
「不法侵入者に何か教えてくれるとは思えないがな……」
「大丈夫大丈夫、コリンカさん聞き込みとか得意だから」

とんだ嘘だった。現在絶賛逃亡中。どたどたとじぶんたちを探し回る警備兵の足音に、やっちまったぜ、ふいー、と息を吐いたコリンカさんに、アクアさんが殺意のこもった目を向けている。早くしーたんさんを助けに行きたいんだろうなあ。もう捕まったほうが早いかな。でも、じぶんは今のところ見た目年齢18歳より下にはなれないしな。大人カウントされて痛い目に遭うのは嫌だ。
「……もういい。強行突破する」
「暴れ回ったところで数はあっちのが多いんだし、なにか打開策を見つけてからじゃないと。焦らないで、アクアくん」
「誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ!」
「大声出さないで、ああもう!見つかっちゃったよ!」
「殺す、どうせ死なないんだ」
「アクアさ、」
「お話中、失礼致します。先輩方、お久し振りです」
「、……アクラブ……?」
「ええ。学園ではお世話になりました。アクアさん、コリンカさん、あるさん、此方へ」
唖然、と言った様子のアクアさんが、飛び出して兵士を叩っ斬ろうとする動きを止めてくれたのは、助かった。突然、まるで影から生まれたように、忽然と姿を現したのは、アクラブさんだった。がちゃん、と民家の窓を勝手に開けてじぶんたちを匿ったアクラブさんは、どうやらここが空き家であることを知っていたらしい。通り過ぎていく足音に、警戒態勢を解いて参ります、とじぶんたちを残して離脱しようとするアクラブさんに、問いかける。
「あのっ、えっ、と、アクラブさん!ここ、どこですか!?」
「……ここは、主人様の星。蠍座の星でございます」

しばらく経って、アクラブさんが帰って来た。お待たせ致しました、と窓から入ってきたアクラブさんが、足音もなく膝をつき、潜めた声で言う。
「警戒態勢は緩めて参りました。しかし、ここから貴方がたを連れて城へ帰還するのは、少し骨が折れるかと」
「アクラブくん、そんなことできるの?」
「皇女の命だと言えば、多少のことは罷り通ります。それも、付け焼き刃ですけれど」
「城……お城に行けば、カルディアさんが?」
「ええ。主人様はこの時を、貴方がたがこの星に来て下さる時を待っておりました」
「私たち、何のためにここにいるかまだ知らないんだけど」
「……古くより、伝えが御座います。もしこの星から平穏が奪い去られた時、苦しみを耐え抜いた先で、皇女と同じ星の力を持つ者が、この星の災厄を取り払ってくれるだろう、と」
「災厄?」
「……内紛が絶えないと言っていたな。そのことか」
「はい。……ここで口にしても仕方がない話です。城まで、隠れながらの道のりにはなりますが、付いてきてくださいますか」
本当に、嘘偽り無く心の底から、骨の折れる移動だった。勿論、比喩的な意味で。どうやらこの都市は、軍の移動がやりやすいようにという計らいからか、入り組んだ道は少なく作られているらしく、馬車の通れる大通り、要するに隠れる余地のない道ばかりを通らなければ、中心部に位置する城砦まで辿り着けないのだ。しかしながら身を隠さないと捕まってしまうし、いくらアクラブさんが一緒とはいえ面倒ごとになるのは避けられない。よって、どう考えても見つかるわけにはいかないわけで、「隠れ場所のない道で隠れながら進む」という矛盾した手段を取らなければならなかった。魔術で身を隠してみようかと試したが、じぶんの目と同じように、今ここで組める術式程度は見破る監視魔法がかかっているらしく、全然だめだった。ていうか、無理だと思いますってアクラブさんが言ってくれてるのに、それを無視して、でも行けるかも知れないから!と強硬に試したコリンカさんがいけない。しかも身を隠す魔法かけられて道に飛び出したの、じぶんだし。秒で矢が飛んできた。危うく串刺しになるところだった。
ようやく着いた城の前にはもちろん門番の兵士がいて、アクラブさんがじぶんたちにぼろい布を被せて、捕虜ということにしてくれた。顔が見えないようにと隠されたので上手く歩けずにコリンカさんにぶつかったら、いったあい!とかでかい声を出されたので、どうやら察して歩くのが下手らしいじぶんは、アクアさんに手を引いてもらうことになった。ただ手を繋いでたら怪しまれるからと、手錠で繋がれているふりまでして。なんか、アクアさんにご迷惑ばかりかけている気しかしない。先を行くアクラブさんがコリンカさんを乱暴に引っ張るふりをして、演技も含めて蹌踉めく彼女の後ろにアクアさんがついていき、本気でよろよろしているじぶんが最後、という布陣だ。だって前見えないんだもの。そんなんじゃ歩けなくてもしょうがないじゃないですか。
「ご苦労。通せ」
「はっ、……アクラブ様、その、後ろの者たちは……」
「街を覆う守りの結界が弱まっている。狩り場から連れてきた、人身御供だ」
「はっ!不躾なことを伺い、申し訳ありませんでした!」
「許す」
「……ぁ、えっ、わ」
さっさと歩いて行ってしまったアクラブさんに頭を下げていた兵士が、一番最後の自分に、足を引っ掛けた。自分より下の立場の捕虜に対しての態度なら有り得るとは分かるのだけれど、今は本当にやめてほしかった。すっぽ抜けそうになった頭の布を咄嗟に押さえるのと、転ばないようにアクアさんがじぶんの襟首を引っ掴んだのと、兵士の悲鳴が、ほぼ同時だった。
「ひっ……!」
「……弁えろよ、雑兵。代わりにお前を生贄にしてもいいんだ」
「も、申し訳、ございません……!」
「こいつらの代わりはいくらでもいる、同じようにお前達の代わりもいくらでもいるんだってことを、分かっておけ」
兵士の首から刃を引いたアクラブさんが、このことは兵士長に報告する、処罰はそれを待つように、と吐き捨てて、這い蹲る彼を冷たい目で見下ろした。一瞬前まで一番先頭にいたのに、風のような速さだった。この星で、この歳で、皇女の護衛を勤めるだけの力があるということは、それなりの力があるということなんだろうな。颯爽と去るアクラブさんの後ろについて、城の中に入り、誰もいない部屋の中についたところで、へたへたとアクラブさんがへたり込んだ。
「……ば、ばれてしまうかと……カルディアさまに、怒られるかと……」
「……アクラブくん、肝が据わってるように見えて、案外どきどきしてたんだな」
「……皇女の命に万全を持って答えることができないということは、僕にとって、死と同意義です。貴方がたをお連れして無事に帰還することが、今の僕のお役目なのですから」
この部屋に、カルディアさんを連れてきてくれるらしい。その間に、しーたんさんがどこに捕まっているかも調べてきてくれる、と。じぶんたちはここから出ることはできないので、外部交渉はアクラブさんに全部任せることにして。
「分かんないことと分かったことを、整理しよう」
「はい」
「書こう。はい、書記」
「……俺が……?」
「人間だったんだろ?字ぐらい書けるんじゃないの」
「お前ら読み書きできないのか?」
「じぶんはできます」
「私もできるよ」
「じゃあなんで俺に……」
「アクアくんが私の中でクソ暴力男になる前に理知的なところを見せて欲しい」
「俺の中でお前はピラミッドの最下層だからどう見られていようと構わないんだがな」
「あ?」
「お?」
「喧嘩しないでください!もう!」
「……………」
「いーったーあい!刺した!」
「刺してない。斬ったんだ」
「手が早い!はやお!すけべ!27歳のあるくんに抱かれろ!」
「あ?」
「もういいから進めてください!早く!コリンカさん!」
「……あるくんに免じて、今回は見逃してやるよ……」
「そういえば書くものがない」
「本気で書記やろうとしなくていいです、アクアさん!」
「ああ、あった、これ借りよう」
「えーと。まず、この星は蠍座の星らしい。かみさまがバグったって言ってた原因とか、何をどうしたらいいのかは分からないままだけど、現在地が分かったのは進展だね」
「はい」
「あと、この星の人間は、決まった死因以外で死に至ることはない。台本通りの人生、ってやつだっけ」
「ピスケスさんの星の人たちも、管理されてましたね」
「あれは記憶管理だったけど、ここはそういうレベルじゃないね。死に方が決まってるんだから」
「ピスケスってどいつだ」
「魚座の方です」
「ああ、うん……」
「聞いてる!?ピスケスくんの話はいいからさあ!」
「わあ、すいません」
「……子どもだけがこの街に、結界内に連れ去られる理由も分かっていない。俺たちはだめで獅子座は連れて行かれる、年齢の幅が決まっているらしいな」
「それはカルディアくんに聞けばいいんじゃない?」
「紛争の理由もですね」
「……そこの関係はありそうだな」
「……えっ!?かわいい!アクアさん!」
「なんだ」
「なんですかこれ!」
「相関図だ」
「絵めっちゃかわいい!」
「え?どれ?」
「……………」
「なんで隠すのさ!」
「カルディアさんとアクラブさんとしーたんさんとじぶんとコリンカさんがいましたよ!」
「見せろよ!」
「……お前には嫌だ……」
「仲間外れ反対!」
「わあー、うわあー、スピカさんもかいてあげてください」
「スピカ」
「乙女座の……こう、髪の毛がこう……」
「……お前は絵が下手だな……」
「……………」
「……あ、悪い……」
「見せろってばー!」
とかなんとかやってるうちに、扉がノックされた。がやがやしすぎてばれたのか、と全員凍りついたのだが、入ってきたのはアクラブさんだった。ふざけてたのがばれたら、さっき兵士に向けた冷たい目で見られると思って、姿勢も正してしまった。
「お待たせしました」
「……お待たせー……」
「カルディアさん!」
「ひさしぶりー」
「あはは、ごめんね、迷惑かけて」
困ったような笑顔で、カルディアさんが入って来た。少し目を迷わせたカルディアさんが、ぺこりと頭を下げた。本当にごめんね、と絞り出すような声に、切羽詰まった状況を察さざるを得なくて。
「全部話すよ。助けてほしいから、全部話す。アクアには二度目になっちゃうけど」
「……構わない」
「アクアさん、知ってたんですか」
「……知ってた。いろいろ聞いた代わりに、自分のことを教えたからな」
そういえば、そんな話をしていた。学パロ編からカルディアさんとアクラブさんが先に抜け出すために、蠍座の事情を話す代わりに、二人はアクアさんのことを先に知ったんだった。隠し事をしていたことでばつが悪そうなアクアさんが、でも本人たちから聞く方がいいと思ったんだ、と小声で言い訳していた。まあ、聞き伝いって言うのも、あんまり良くはないしな。
「……なあ、俺は聞かなくてもいいか。獅子座と合流したい」
「そうですね。では、アクアさんは僕がご案内します」
「うん、よろしくね。……じゃあ、私は、この星の狂った事情の話でも、しようかな」


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