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☆すてらびーた☆設定過多編



意識を飛ばしたコリンカさんの身体は普通に男なので重いはずなのだけれど、その襟首を引っ掴んで引きずるアクアさんと、その場を離脱する。一応、この村の人たちを守らないととか、皇軍の人たちはあのまま侵攻するつもりなんだろうとか、そういったことを言ったんだけど、アクアさんは「後で教えるけど、あれは防いでも無駄だし、意味もない。やるって言うなら俺はこいつとお前を置いて行くが、骨を折るだけだと思うぞ」と淡々と言われて、何も言い返せなかった。三日間この村を守ろうとしていたじぶんたちと、恐らくは何か掴んでいるアクアさんでは、後者について行きたい。引きずられたままのコリンカさんが、がっつんがっつんいろんなところにいろんなところをぶつけていて、流石に見ていられなかったので、途中で預かっておんぶした。ちょっとだけ大きくなったら、アクアさんは少し驚いたようだった。もしかしたら、他人が特権を使ってるの、見たことないのかもな。
「……というより、お前、そんな見た目だったか」
「えーと、今だけ、ちょっとだけ大人になってるんです。元に戻れなくて、学パロ編とかいうやつの時のじぶんが、本物のじぶんです」
「へえ……」
「あの、アクアさん、おっと」
「ここまで来れば、もう無関係だろうな」
「……助けてくれた、って受け取って、いいんでしょうか……」
「物のついでだ」
どこに対しての「ついで」だろうか。自分の進む先にじぶんたちがいたから、「ついで」に拾ってくれたのか。コリンカさんをどうしても殴りたくて、その「ついで」にぼけっとしてたじぶんを拾ったか。微妙。
お腹の中身がぐちゃぐちゃになってしまったコリンカさんを秒速で治すことは、じぶんにはできない。スピカさんがいないと。なので、ぜーひゅーしてるコリンカさんは、じぶんの精一杯の治癒魔法で、数時間かけて治すしかない。アクアさんに、ここまでやらなくても良かったのでは?と一応聞いたのだけれど、ぽかんとされた。恨みしかない。ごもっともである。コリンカさんの回復待ちの間、アクアさんから事情を聞くことにした。時間はあるわけだし。
「どうして皇軍に?」
「……人が一番多かったところに潜入したら、そうなっただけのことだ。そこらの村々ではなにも得ることができなかった」
「しばらく前からいたんですか?」
「お前達と同じだと思う。3日か、4日か、そのくらい前だな」
「じぶんたちもそのくらいです」
「その数日で分かったことは、この星は狂ってるってことだ」
この星、もとい、もっと言えば、この世界にはルールがある。一般普遍的なルールならば、人間はじぶんたちよりも脆く、儚く、簡単に死に至るし、その理由は幾千幾多に渡る。刃物で刺されれば死ぬし、首の骨が折れても死ぬし、魔法で内臓を腐り落とされたら死ぬ。じぶんたちはそれじゃあ死ねないけれど、じぶんたちによく似た見た目の人間たちは、それで命を落としてしまう。それこそが、じぶんたちが彼らを愛おしみ慈しむ理由に他ならない。しかしながらこの星では、それでは人が死なない。首の骨が折れようとも、アクアさんに死線をぶった切られて死のうとも、動くことができる。動く死体は、生きているとは言えないかもしれないが、完璧に死んでいるとも言い難いだろう。
「この星の奴らが死ぬ、というか、動作停止を起こすのは、シナリオに沿って然るべき瞬間が来た時、らしい」
「……シナリオ……」
「全ての人間に筋書きがある、と言えば分かりやすいか?例えば、あの兵士」
じぶんとアクアさんがいる高台から、さっきまでいた村が見える。村人が閉じこもっている家の周りに、じぶんたちは魔法陣を残して来てしまったので、皇軍の人たちはそれを解除しようと躍起になっている。人間の魔力量では足りないことは事実だが、先程も不安視したように、命を失う力を代替エネルギーとして利用するならば、あの魔法陣は解除可能となる。普通にやって出来ないのならば、一人を犠牲にすることも厭わない程、彼らは軍に全てを捧げているらしかった。アクアさんが指差したのは、簡素な陣の中心に鎧を全て脱いで座り込み、背後に剣を振りかぶった兵士がいる、年若く見える男。ここからじゃ、間に合わない。彼は命を落とすのだろう。彼の命の代償に、あの魔法陣は壊され、中に隠れている村人は死に至るのだろう。息を呑むより早く、彼の背後の剣が振り下ろされた。
「……っ」
「こら、目を背けるな。よく見てろ」
「よく見れますね!?」
「あの兵士の死因は『生贄に捧げられる』なんてイレギュラーじゃない。すぐに動き出す」
「……ぇ、」
アクアさんの、言った通りだった。切り捨てられた彼は、悼まれることもなく横を通り過ぎられ、皇軍が家の扉を壊して中の村人を殺戮し始めた頃、もそもそと動き出した。まるで何事もなかったかのように、機械的に鎧を身に纏い、家から引きずり出される村人を殺していく。瞬きの間に、彼がどの鎧なのか分からなくなってしまった。よく見ると、村人たちの挙動もおかしい。どう見ても動けないはずの傷を負った人が逃げようともがいていて、頭を殴られると静かになった。恐らくあの人の死因は、刺殺ではなく、殴打によるものだったのだろう。淡々と進む殺戮は、まるで作り物を見ているようで。血溜まりもそのままに撤退する皇軍の人たちを見下ろすアクアさんが、溜息交じりにぼそりと漏らした。
「皇軍の奴らは、俺がみんな斬ってる」
「……痛がらなかったんですか?」
「痛がるも何も、死線を切ったんだ。普通ならそのまま冷たくなる」
痛がりはしたものの、理由を問われることもなく、彼らが動かなくなることもなく、何も変わらず普段通りに、軍隊は動いたのだという。薄ら目を開けたコリンカさんに、無意識にか舌打ちをしたアクアさんが、吐き捨てた。
「もっと強く殴ればよかった」
「し、死んじゃいますよ……」
「死なないように斬らずに殴ってやったんだ」
ということは、あなた、コリンカさんの死線を拳で殴り抜いたんですね。そりゃ、暗示で強化済みのコリンカさんでも血反吐吐いて吹き飛ぶわ。
数時間後。アクアさんともそれなりにきちんと話せた頃、コリンカさんがようやく動けるようになった。ちゃんと女の子版で。ちゃんと、いや、うん、ちゃんと。やってくれたな!と食ってかかるコリンカさんだが、アクアさんがいちいち予備動作無しで拳を突き出してくるので、悲鳴を上げて逃げることしかできないようだ。一回、グーじゃなくてチョキだった。目を狙いに行ってた。
「私あいつ嫌いだ!」
「仲良くしてください」
「こわい!ぶってくる!」
「コリンカさんが先に嫌なことしたんだから」
「あの場では仕方がなくない!?私たちだって学パロ時空から脱出しようと必死だったんだよお!?」
きゃんきゃん鳴くコリンカさんは置いといて。
どこに向かっているのかというと、特に目的地がないのが現状ではある。アクアさんが皇軍に紛れていたのは、鎧を纏って仕舞えば誰が誰だか分からないがためにカモフラージュしやすいっていうのも勿論、人の多いところ、即ち皇軍の本拠地、都市部への帰還を狙っていたのだという。ただ、皇軍からは離れてしまったし、数日潜伏していたアクアさんの予想では、あの軍隊は恐らく村々を各個撃破するための遊撃隊であって、都市帰還はかなり先になるのではないかとのことだった。よって、手がかりなし。うろうろしながら、またもしも運良く村を見つけたら、人の多くいるところに向かうルートを教えてもらうしかない。さっきの村では、子どもたちは攫われると言っていたから、恐らくはこの星中の子どもが集められている場所があるはずで、そこに軍隊を動かしている権力者も存在する、はず。全て予測でしかないが、どれもこれもかみさまがちゃんと教えてくれなかったからだ。バグった!だもん。分かるわけない。
「あっち行けー!暴力男!」
「喧しい」
「ぎゃー!あるクン!この人ついに刃物を持ち出した!コリンカさんやられちゃう!可愛らしい女の子だから!」
「嘘つかないでください」
「男だったじゃねえか」
「はい味方ゼロ!だっ、あっぶね、喋ってる途中に斬りつけてくるやつがいるかよ!あるクン助けて!」
「アクアさん、コリンカさんも悪い人ではないんです」
「……そう言われてもな……」
「えーん!あるクン!」
「ぐええ、おもたい」
「……捨てて行った方が効率がいいと思うんだが……」
そんな感じで、どたばたしながら、コリンカさんを隙あらば斬ろうとするアクアさんを宥め、ここぞとばかりにじぶんにべったり引っ付いてくるコリンカさんを引き剥がし、とかやってるうちに。
「……………」
「……………」
「……誰も何も言わないから私が言うね?あそこに誰か倒れてる」
「……見えてます」
「あとね、倒れてる人、頭に獣の耳と、お尻には尻尾が生えてる」
「見えてます」
「人間じゃなさそうだね?」
「……そうですねえ……」
「殺して無視しよう」
「物騒なこと言わないでください!」
「そして残念なことに、星の現し身は死なないんだぜ、アクアくん」
生き倒れているのは、じぶんより小さい子だった。アクラブさんを思い出したが、この子は幼い顔で、アクラブさんは大人びていたので、違う。そもそも髪の色とかも違うし。
「つついてみる?」
「うーん……」
「生きてる」
「子どもですね」
「あるクンも大概がきんちょだけどね」
「……………」
「あー!大きくなって!そうやって!最近煽り耐性低いよね!初期は「こんな能力使い道ないじゃないですか!」的なこと言ってたのに!」
「お前、そんなことまでできたのか」
コリンカさんを威嚇するためだけに25歳ぐらいになったら、アクアさんがちょっと見直した目をしてくれたので、気恥ずかしくなってすぐ戻った。突つかれて唸った行き倒れさんは、眉根を寄せてむにゅむにゅ何か言って、まだ起きない。オレンジと金色の髪に蛍光っぽい緑のヘアピン、茶色くてふさふさの耳と尻尾、寝転がってるせいで土まみれの服。どこからどう見ても同族だが、見覚えもなければ顔見知りでもない。新しい星の現し身を作ったのなら、かみさまは教えてくれるはずではあるんだけど。どうする?とりあえず背負って連れて行く?それとも放っておく?なんて話していると、倒れている彼の服がもそもそと動いて、何か出てきた。
「……なん……」
「……?」
「……毛玉かな……?」
「動いてますよ……」
「アバドーンくん的なもの……?」
茶色いもふもふ。かわいい。顔はある、と言うかむしろ、生首である。無言だったアクアさんが、無言のままナイフを取り出して、目にも留まらぬ速さで一閃したら、ぷいー、と変な音を立てて変な生き物は消えた。が、2秒後ぐらいにまた服の合わせの内側から、もそもそ出てきた。無限湧きか。
「……喋れ……なさそうですね」
「ペットかな?」
「もう一回殺してみるか」
「アクアくん野蛮!」
「どうせ湧くだろ」
「あっ」
「あっ」
ぷぴぴー、と間抜けな音を立てながら、変な生き物は行き倒れさんの顔面に突撃した。その衝撃で変な生き物はまた消滅したが、すぐ服の内側から湧いてきて、しかもそのおかげで行き倒れさんの目がしぱしぱ開いた。袖の長い砂だらけの服で顔を拭おうとするので、咄嗟にそれを止めて土を払ってやると、ぼんやりとじぶんたちに焦点を合わせた彼が、ぱっと笑った。
「ありがとー、おにーちゃん!」
「おにっ……」
「ぶっふー!おにっ、ぷふっ、あるクンがおにいっ、ぷぷー!」
「おなかすいた!」
「は?」
「おれ、おなかすいた!」
いたらきまふ!と、言葉の途中から齧られたのは、自分の左腕だった。

「痛かった……」
「ごめんなさあい」
「いいんですよ、もう生えたし……お腹空いてたんですよね、きみ……」
「うん!おなかぺっこぺこだった!おにーちゃんのおかげで、もう大丈夫だよっ!」
にぱー!と笑われると、怒る気もなくなる。噛み付かれた左腕は、パニックで暴れるじぶんを押さえつけたコリンカさんと、咄嗟の判断でじぶんの腕を肩からばっさり切り落としたアクアさんのおかげで、まるごと全部彼のお腹の中に収まった。スピカさんのおかげで、そりゃすぐに腕は生えるけど、じぶんの腕をがつがつ貪り食われてるところを見るのは、精神的に良くない。泣きながら大笑いだったコリンカさんが、無言で自分の体を抱いているのがいい証拠である。恐る恐る、といった感じで、コリンカさんが話しかける。口の周りがまだちょっと赤い気がするのが嫌だ。
「……きみ、なに?」
「おれ?おれは、しーたん!獅子座のしーたんってゆうんだ!」
「獅子座!?」
「やっぱり現し身か……」
「かみさまはなにを考えてるんだ、もおお」
「なんだっけなー、おーしざと、めーめーざとー、みすばめざ、お手伝いするんだー!」
「あるクン、こいつマジもんの子どもだぞ。馬鹿だ」
「……確かに、幼い見た目でも、ポールさんとトールさんはしっかりしてますもんね……」
「水瓶座だ」
「みずばめ」
「が」
「がー!」
「アクアくんがお兄ちゃんしてる……」
「みずばっ、がっ、みずばめ!名前、なんてゆーの?」
「アクアだ」
「わかんない!おれはしーたん!」
「しーたんさん」
「ちがーう!しーたんはしーたん、しーたんさんじゃない!」
「……しーたん……」
「おう!」
「あるクンのはじめての呼び捨てがこんなところで……」
「恥ずかしい……」
自己紹介はしたが、しーたんさんはどうやら本当に見た目通り、というか見た目以上に幼いらしく、あまり覚えてはくれなかった。アクアさんを「みずばめ」、コリンカさんを「めーめー」、じぶんを「おーしざ」と呼ぶことにしたらしい。かみさまからもそう教えられてるっぽい。しかもコリンカさんのめーめー、そりゃ確かに山羊の鳴き声も聞きようによっちゃ「めーめー」かもしれないけど、どちらかと言えばそれは羊の鳴き声のような気もする。
「しーたん、ついてくるの?」
「まかしとけ!おれがいれば、すーぐおしまいしちゃうんだからな!」
「お前は何ができるんだ」
「たべる!すききらい、しない!」
「……そうか……」
アクアさんが諦めた。コリンカさんは半笑い。しかし、この子をここで置いていくわけにもいかず。なんて考えているうちに、ふわふわとしーたんさんの周りを浮いている茶色のもふもふがしーたんさんの後頭部に激突して、一人と一匹で喧嘩していた。やめろー!としーたんさんがもふもふに掴みかかると、もふもふは消滅してしまうが、すぐにしーたんさんの服の裾から出てきて体当たりをかましている。仲良しか。仕方ない。
「……しーたん、行きましょうか」
「おー!どこにー?」

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