このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

☆すてらびーた☆設定過多編



「すまん、バグった」
「え?」
「解決してください」
「え?」
「頼んだんだぜ!」
「……えっ?」

細かい説明、一切無し。かみさまのかみさま足る所以である、とすれば格好がつくのかもしれないが、ただ面倒がりで適当なだけだ。現在地も分からない。隣にいるのはコリンカさん。ちなみに、暗示付き女の子バージョン。どういうことだい、と説明を求められて、首を横に振った。
「えー、知らないのー。最近もっぱらあるクン頼りなとこあるぜ、私」
「知りませんよ、コリンカさんこそかみさまと仲良しになってたじゃないですか」
「お?反抗的だな、なんだ、やんのか?ぼこぼこにしちゃうぞ」
「やめてくださいよ!」
コリンカさんが女の子ってことは特権が使えるってことであって、この前までの学パロ編と違ってここは魔術の存在する世界ということだ。試しに魔法陣を書いてみたら、木が生やせた。どうするんだよー、とぼやくコリンカさんに、とりあえず探ってみましょうと歩き出す。立ち止まってたら何にも分かんないしね。
「あるクン、なんか大きくない?」
「そうですか?」
「私と同じくらいの身長になってるよ」
「……あれ?ほんとですね」
「かみさまがそうしたのかな。元には戻れないの?」
「うーん、うん、えい!」
「どお?」
「だめですね」
「じゃあ、なんか理由があるんだ。場所の特定のヒントになるかもしれない、覚えておこう」
「いざとなったら本棚で検索します」
「よろしくー」
推定、18歳。かみさまが自分の年齢を成長させて、更にロックをかけているらしい。これより成長はできるようだが、元の15歳には戻れない。コリンカさんの暗示は有効だ。かみさまの本棚にも行けるだろう。ただ、探すキーワードが足りない。そのためにも、うろうろしないと。
しばらくうろうろして、ここには人間がいるということが分かった。ということは、知ってる星の中ではレオさんかピスケスさんの星だが、そうだったら流石に分かるだろう。レオさんの星には元々魔術回路が流れてる、ピスケスさんの星にはじぶんが無理やり通した魔術回路が流れてる、ので。じゃあ、まだ行ったことない人の星か。バグった、解決しろ、としかかみさまからは言われてないし、学パロ編が終わってから、その時に知り合ったアクアさんやカルディアさん、ニナさんの星と繋がるゲートは出来ていたけれど、まだ行ってみていない。もしかしたら、その三人のうちの誰かの星かな。少しずつ絞れて来た。けど、バグった、ってどういうことだろう。虫、じゃなくて、欠陥とか誤りとかの意味の方かな。
「どうする?話しかけてみる?」
「そうですね。星の御子様のところに連れて行ってください、って言ったら通じるかもしれませんし」
「オッケー。コミュ力ぶち上げのコリンカさんにお任せあれ」
こそこそ隠れてた物陰から出て、こんにちは、とコリンカさんがフランクに話しかける。胡乱げな目でこっちを見た妙齢の女性は、じぶんたちを上から下まで睨め付けて、顔をしかめた。
全然受け入れられてない。
「……なんだい、お前ら」
「いやあ、道に迷って困ってるんだ。この星、国かな?祀られている星の御子の居場所を知らない?」
「旅芸人の行商なら、別でやってくれ。この村には、金を払えるような奴はいないよ」
「え?いや、冗談じゃないんだけど」
「誰か。こいつら、追い払ってくれないか」
「えっ、ええ!?待ってよ!」
「なんだ?」
「……なんだ、こいつら。妙な格好をして」
「皇軍では無さそうだがね。おかしなことを宣っているんだ」
女性の声に、男性が二人出てきて、じぶんたちを追い払おうとしている。星の御子、という言葉に心当たりもないようだった。皇軍、という知らない言葉も気になる。じぶんの角も、人間らしくないから受け入れられないのだろうか。どうするんですかあ、とコリンカさんの後ろに一応隠れながら聞けば、出て行ってくれ、と最後通告を突きつけようとした男たちに、コリンカさんが口を開いた。
「覚えてることはそれだけなんだ。気づいたらあの岩山の麓に二人して転がってて」
「はあ」
「私とこいつが一緒にいたってこととか、自分の名前とかプロフィールは覚えてる。あと、星の御子って言葉」
「……どうする?」
「皇軍と全くの無関係とも限らないだろう」
「しかし、若く見えるしな……」
「焼かれた村からの流民かもしれない。生き残りがいると聞いたが、こちらの村にはだれも逃げ延びてこなかった」
「村長に伝えよう。皆の意を請わねば」
「お前たち。そこで待つように」
「うん。ありがとう」
にこにこひらひら手を振ったコリンカさんが、危なかったぜ、と肩を竦めた。山の麓に転がっていたにしては二人して見た目が綺麗すぎるけど、そこは見逃してもらえたらしい。どうするんですか、とコリンカさんに問いかければ、どうするもこうするもまずいろいろ揃えて行かないとまずいぜ、とじぶんの角を指した。やっぱりこれ気になります?
「折って」
「……ええ……」
「取れるんです、これカモフラージュに使ってたんです、って言って」
「なんのカモフラージュですか」
「なんかしらのだよ、なんかしら」
「……ついてたら疑われますかね?」
「うん」
「コリンカさんもついてますよ」
「これ、取ろうとすれば取れるから」
「ええ!?」
「折ってあげる。痛くしないから」
「嘘」
「痛くしないから」
「絶対嘘でしょう!」

角は「私はあるクンの角を小指一本で容易くへし折れる!」とやりすぎ暗示をかけたコリンカさんがぶち折ってくれた。本当に小指一本で折られる方のショックも鑑みてほしい。血も出たし。けど、そこで多少流血があったことで、村長さんに会った時には、薄汚れているし血も出ている、どこを怪我したんだい、と優しく接してもらえた。村の人たちが帰って来る前にコリンカさんとお互いに砂を投げつけあっておいて良かった。どうして砂を投げつけあっていたかって、痛くしないって言ったのにめっちゃ痛かったからである。
スピカさんがかけてくれている高等治癒魔法のおかげで角がすぐ生えてきてしまうのではないかと思ったけど、むずむずしてきたら上からぎゅっと押さえることにして、とりあえず今の所は難無きを得ている。疑いが晴れたら、お守りなんですとか何とか上手く言って、角が生えてても変な目で見られないように根回しをしておこう。穏やかな雰囲気を纏った村長さんは、ゆっくりと椅子に腰掛け、深く頷いた。
「あの岩肌を転げ落ちてきたのか。もっと北に逃げようとしていたのかも知れないね」
「何にも覚えてないんだ。この村の名前は?」
「グラフィアス。三日後の皇軍信仰で、滅びることが決まった村さ」
「……皇軍って、なんですか?」
「王様の軍隊さ。子供を攫い、都市部以外の村は潰して回る。お前たちが逃げてきた方にも村があるが、きっともう……そうだね。お前たちの故郷かもしれない。そう決めつけるのはいけないな」
「私たち、逃げてきたのかな」
「……覚えていたくないくらい、衝撃が強かったのかもしれない。連れ去られる年齢を超えてしまっていたんだね」
「村長さん。三日後に、なにがあるんですか」
「この村の住人がみんな死ぬ。逃げたって無駄さ、都市には大人は入れない。他の村に逃げたところで、いずれは順番が回って来るからね」
「……私たち、ここにいたら殺されちゃう?」
「ああ。逃げてきたところで悪いが、守ることはできない。全て忘れているのは、もしかしたら救いかもしれないね」
分かったこと。この国で一番力を持っているのは、皇軍なる国王軍であること。目的と理由は分からないけれど、皇軍は一定年齢以下の子どもを都市に集め、それ以外を皆殺しにしていること。歯向かう人間も逃げ出す人間もいるけれど、結局小さな村は潰されてしまう未来が見えていること。都市には、選ばれた人間しか入れないこと。とっくに逃げ出した村人の家を貸してくれた村長さんが、生き延びたいなら早く行ったほうがいい、また怪我をしないように気をつけるんだよ、とじぶんの頭を撫でた。胡乱げな目でこっちを見ていた女の人は、足が悪くて遠くまでは逃げられないんだって。二人の男の人は、その人の子どもなんだって。怪我人を疑って悪かった、って謝られて、その日の夜ご飯はあんまり具が入ってないシチューを出してくれた。もう食料も底を尽きて、後は殺されるのを待つばかり。
「それっておかしいよな」
「……はい」
「かみさまがなにをさせたいのかは分かんないけど、ここであの人間たちを見殺しにして他の村に行くって、あり?」
「なしです」
「私もそう思う、一宿一飯の恩とも言うしね。そもそも、人間風情の軍隊に遅れを取るようなコリンカさんじゃないしー?」
「余計な暗示をかけるとまたぶっ倒れますよ」
「あるクン、スピカくん乗り移ってない?」
三日後、と村長さんは言った。三日、心体共に健康な人間が逃げるには充分な時間かもしれないが、この村にはそんな人いやしなかった。出て行かないじぶんたちを見て、早く行ったほうがいい、と村長さんも足の悪い女の人も急かしたけれど、従うつもりは毛頭なかった。たかが三日、されど三日。じぶんたちが準備をするには、手に余るくらい余裕がある時間だ。期日当日、数少なく残った村の人たちには、村長さんの家に集まってもらった。
「ここにいてくださいね」
「……なにをしたんだい」
「この村の周りに全体保護の魔法陣と、この家の周りにもう一つ防御陣を。皇軍の人たちに手を引いてもらえるよう、お話してみます」
「まかせといてよ。私たち、ちょっとばっかし丈夫な身体してるんだ」
「あんたたちは……」
「いいのいいの、細かいことは気にしない。私たちからしたら、人間なんてみんな可愛いもんなんだから、庇護欲生まれて当然でしょ?」
「そうですねえ」
外から防御陣に鍵をかけて、村の入り口が見下ろせる場所を陣取る。人間にはこの包囲は破れないので、ここから話をしてみようという算段である。無闇矢鱈に攻撃されたいわけでもないし、今回撤退してくれればこの村の人たちが逃げる時間を稼ぐことができる。撤退させることが目的であって、真っ向切って戦うためにやっているわけではないのだ。来た来た、とコリンカさんが指をさした先には、恐らくは皇軍であろう人混みが見えた。鎧を身に纏って、それぞれに剣や弓矢、槍などを手に手に携えている。甲冑に覆われて、顔は見えない。歩くよりかなり早く近づいてくるなあ、と思ってたら、どうやら馬に乗っているようだった。近づいて来た彼らは、村の前で立ち止まり、馬を走らせようとして抵抗され、自分たちの足で進もうとしてそれができないことを知って、なにやら話している。一人の兵が、槍を構えて突っ込もうとして、見えない壁に阻まれて弾き飛ばされた。単純に突破しようとしても、あれは破れない。そういう防御陣だからだ。
「お。入れないことに気づいた」
「魔術の心得くらいはあるんでしょうか」
「どうだろね、魔法陣を張られてることは分かるかもしれないけど」
人間程度の魔力量じゃ生贄でも捧げない限りあれが破れるわけないからなあ。そう呟いたコリンカさんは、まさかそうはしないよな、という不安を孕んでいるようだった。古くはあるらしい、生贄の儀。人一人の命を犠牲に力を得る、手段。それには時間と労力と手間がかかるはずではあるけれど、そうでないやり方があるのならば、わざわざそんな手段を取ってもらうためにこの魔法陣を張ったわけではないわけで、引っ込めなければならなくなる。そうはしてほしくないな。なにやら話し合っているらしい人間たちの中の一人が出て来て、見えない壁をじろじろと眺め回した。珍しいのだろうか。自身に拡声の暗示をかけたコリンカさんが、眼下の人間たちに聞こえるように、声を張り上げた。
「えー、人間の皇軍さんたち。ここの村には入れません、なので、お引き取りくださーい」
「……そんなんで納得してくれますかね」
「入れないのは、私たちがいるからでーす。悪魔的なものだと思ってくれよな。すーっごく怖いんだぞー、がおー」
「……………」
思っていたより雑だった。ぱらぱらとこっちを見上げる人間たちも、首を傾げている。がおがおー、とポーズをとったコリンカさんが、とにかくここの人間は私たちがいただきましたので君らにはあげませーん、骨一本も残さずー、と間延びした声で言い、突然飛び降りた。自由落下に任せてひゅーんと落ちていったコリンカさんが、着地と同時に地面を割る。地響きと共に揺らぐ地に、人間たちはたたらを踏んで、コリンカさんは手をぱんぱんと払った。
「逆らったら、こうだぞー」
「……脅しにかかっている……」
コリンカさんと人間たちの間には、魔法陣によって見えない壁がある。撤退してくれるだろうか、と上から見ていると、先程うろうろしていた人間の一人が、少し離れたところで短剣を取り出した。しゅ、と軽く振るったそれが納められるより早く、ばちん、と魔法陣がぶった切られた反動が帰ってくる。
「うわお!」
「っこ、コリンカさん!」
「……わーお……無茶苦茶やりやがる……」
バウンドで、がくん、と膝を折りかけたコリンカさんが、半笑いでこっちを見上げる。どうする?どうします?の目配せに、目の前にいる多数の人間を見たコリンカさんは、うん、と一つ深く頷いた。
「……よし。今から君たちのことを、殺さない程度に殴るので、各自逃げてくれよな」
「脳筋の考えじゃないですか!」
おら!と手近な兵に殴りかかったコリンカさんのことはもう放っておくとしても。気になるのは、あの兵士だ。ただの人間に、魔法陣を切り裂くなんてできるはずがない。魔力量からして物理的に無理だ。しかしながら、あの短剣にエンチャントが付与されている様子もない。鎧のせいで顔も見えないし、仕方がない。解析しようとしたのとほぼ同時、短剣を捨てた兵士が駆け出した。向かう先は、コリンカさんだ。
「ぁ、っコリンカさん!」
「え?」
「避け、」
ぐちゃ、って、鳴った。間に合わなかった。刹那的な速さで距離を詰めた兵士は、迷うことなくコリンカさんのお腹を殴り上げて、コリンカさんがくの字に折れた。まさかとは思うけど、あのぐちゃって、内臓がぶっ潰れた音じゃないだろうな。声にならない声と、吐き出した血が地面を打つ微かな音。コリンカさんに蹂躙されてた兵士達が呆然としている中、宙に浮いた彼女の身体、もとい、もう意識が飛んで暗示が解けたから彼に戻りつつある身体を引っ掴んで、魔法陣を切り捨てた兵士がこっちに飛び上がって来た。思わず身体が引いたけれど、心当たりは、ある。
「……………」
「おら」
「……ぁ、あ、あくあ、さん……」
「あ?」
ぽい、とコリンカさんの身体をじぶんに投げ渡して兜を外したのは、予想通り、アクアさんだった。本物に会ったのは、はじめてだ。心臓がばくばく言ってる。ときめきとかじゃない。コリンカさんを思いっきりぶん殴る様を目の当たりにしてしまったからだ。なんの恨みが。
「恨みしかねえよ」
「……で、っです、よねえ……」

1/6ページ