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おはなし



「なんかおもろいことないかね」
「こないだ寝た外人さんの話するー?」
「アンちゃん、その話200000000回くらい聞いた」
「帝士さーん」
「なんだい♡俺のプリティースイートおおかみちゃん♡」
「依頼人さんですよー」
「お使いできてえらいな♡ちゅーしてあげるからおいで♡」
「すぐお尻触るのやめたら、ちゅーしてあげてもいいですよ」
「それは嫌!」
「身内の前でしかできない似非スケベのくせにねー」
「だからお尻触んないでって言ってるでしょうが、もー」
「……あのお……」
「はあい!」
あなたの悩みをなんでも解決!小さなことから大きなことまで、金さえ積めばどこへでも!僕らの名前は、丹原探偵事務所!

「さ〜て、今回のご依頼人は〜?」
「アンちゃん、サザエさんやめて」
「俺席外しますね」
「嫌!おおかみちゃんがいないと嫌!帝士さんやる気出ない!あーん!」
「膝に寝そべらないでください、いい大人でしょ!」
「そうだよお、てーちゃん、おーちゃんはただのバイトでしかないんだから、我儘言っちゃだめだよ」
「そうですよ、俺はただのバイトです」
「嫌〜!嫌の極み〜!おおかみちゃんはちょっとえっちでしかも優しくてろりくて怒る時にほっぺたとか膨らましちゃってでも喧嘩が強くてやっぱりえっちな俺だけの天使なんだから、いついかなる時でも俺の隣にいなくちゃ嫌〜!」
「誰ですか?それ」
「……あの……」
「はい!いくら積めますか!?」
「話が早すぎるよ、てーちゃん所長」
自己紹介から行きましょう。俺の名前から。てーちゃんこと、丹原帝士。我が探偵事務所の所長であります。お金大好き。女の子大好き。可愛い男の子も大好き。あからさまなエロよりふんわりと匂わせるいやらしさが好き。面倒事は嫌い。お風呂もあんまり好きじゃねえんだが、毎日入らないと愛しのスイートバイトくんが半径5メートル以内に入ってくれないので、最近毎日入ってます。待ち合わせする時は、もしゃもしゃの髪の毛と草臥れたスーツと帽子と適当にしてたら勝手に生えてくる無精髭と、あと胡散臭いと周りにもっぱらの評判の笑顔を目印にしてくれよな。以上。
依頼人のあんまり来ない我が事務所の構成員はたったの三人。選び抜かれた少数精鋭って言ってもらいたい。所長が俺、秘書(仮)がアンちゃん、事務その他がおおかみちゃん。おおかみちゃんはバイトだけど。
さて、おふざけも大好きなのだけれど、せっかくお仕事が来たんだから、一応まともなところを見せておこう。俺たちの騒ぎに、やばいな、来るとこ間違えたかな、と書いてある顔で半笑いしていた美女が、今回の依頼人である。一向に話を聞かない俺たちに痺れを切らして、お茶を出してくれたおおかみちゃんが依頼人に切り出した。さっすが!仕事ができる!
「どうされました?」
「……あっ、はい、ええと……お願いしたいのは、ストーカー退治というか……」
「退治?」
「アンちゃん暴力大好きー!イエー!」
「痛い痛い!アンちゃん痛い!髪の毛で殴りかからないで!」
「ぼ、暴力沙汰はちょっと」
「え?じゃあ何をもってして退治?」
「てーちゃん馬鹿だなー、退治っていうのは首を刈り取ることだよ。アンちゃん、パパにそう教わった」
「君のパパってセックスしたらお金くれる人のことだろ」
「帝士さん、アンさん、あっち行っててください」
「うす」
「はい」

追い出されました。所長と秘書なのに。まあ、おおかみちゃんに任せておけば、大丈夫だろうけれど。心配はしてない。自己紹介の続きと行こう。
おおかみちゃん、本名、三上大嘉くん。彼の特徴としては、「キャラクターが無い」。人物設定の欠落、と言い換えてもいいだろう。良い言い方をするならば、求められた立ち位置にその場で成り替わり、その上十全に全うすることができる。悪い言い方をすれば、個性がない。他人にこうと定められないと、自分のキャラクターがない。持ち味がない。口癖もない。特筆すべき事項がなに一つ、無い。小さい時一番仲良くしていた友達からは何故か怖がられてしまっていたんです、と悲しそうに眉を下げて話していたおおかみちゃんだが、俺からしたらそんなもん当たり前だ。相手に合わせてころっころキャラクターが変わるような奴、爪弾きにして当然。未知の存在として、恐怖の対象に誂えられても、しょうがない。ただ、おおかみちゃんにとってそれが悪かったのは、「恐怖の対象」という立ち位置を与えられてしまうと、彼はそうならざるを得ないというところだ。意味ありげな言い回し、人を食ったような表情、実害のないぼんやりとした悪意めいた何か。そんなことしてちゃ、忌み嫌われるのが加速したって、誰も相手のお友達を責められやしないだろう。
依頼先で初めて出会った時には、俺から定めたキャラクターが無かったので、彼は無だった。それから、「かわいくて」「がんばりやで」「ちょっとえっちで」「優しくて」「でもしっかりしてて」「俺だけの天使」という過剰なまでの役設定を与えた結果、今のおおかみちゃんがある。だから、俺やアンちゃんからいざ離れた時、彼がどうなってしまうのかは、分からない。ふわふわしてたおおかみちゃんをここに雇ったのは、彼が大学を出て半年くらい経った頃だから、大学在学中まで、ほんとどうやって過ごしてたんだろう。今でこそ、真っ当ではないかもしれないが、在り来たりなキャラクターを誂えているから、彼も違和感なくそれに馴染んでいるけれど。
おおかみちゃんが天然物の異常だとしたら、アンちゃんは人工物の異常だ。本名、無し。アンデッドエネミー、と呼ばれていたらしい。直訳としては、不死の敵。どこにでもいるように、なんにでもなれるように、誰の代わりにでもなれるように、作られた人間。彼女の人生はチートモードだ。ここに来る前は、いろんな人に成り替わりながら生きてきたらしい。一人の身には過多なくらい色んなことができるし、年齢に不釣り合いなくらい経験豊富だけれど、本人に意思らしい意思はない。ある事件でアンちゃんと知り合った時、彼女は俺の敵だった。にこにこしながら俺の片腕をへし折った彼女は、何故か俺のことを見逃し、その時の彼女の飼い主に裏切られ、殺されかけて、それを俺が助けて拾った形になる。どうして俺のことを見逃したかって「全然関係ない人に痛いことすんの、もうやだったんだもーん!」だそうで。生まれて初めての彼女の意思は、俺を助けるために行使されたわけだ。そんなの、ほっとけるわけないじゃん。もしかしたら、俺が腕を折られた時、破茶滅茶に痛がったからかもしれない。憐れまれたのかな。誰かに成るのではない生き方を探して、色んなキャラクターをころころしながら、今の彼女は俺の隣にいる。今のところは、俺の真似っこをベースに、今まで会った依頼人の幸せそうなところを掻い摘んで、人格を作っている。
それぞれにどうしようもない欠点を抱える二人だけれど、その欠点が、探偵稼業にはブチ抜けて向いていたのだ。だって「誰にでもなれる」のだ。潜入、聞き込み、その他諸々のこそこそやらなきゃいけない仕事に対して、それは欠点じゃない。俺じゃあ誰かに成ることはできないけど、おおかみちゃんやアンちゃんには、それができる。にこにこして、へらへらして、誰かに成って誰かを助けるのだ。プラスに使えば、欠点は欠点じゃなくなる。
「依頼人さんのお話、聞いてきたよ」
「おおかみちゃん」
「アンちゃんなにしたらいいー?殺戮?」
「殺戮はしなくていい」
「じゃあお昼寝してるね☆」
「でも、アンさんが一番向いてますよ」
「えー!じゃあがんばっちゃうー!」

今回のお仕事内容、ストーカー退治。特定、だけではなく、退治、らしい。なにかしらの実害が出ないと警察は動けない、しかしながら依頼主の彼女に精神的な疲労は積み重なっていく。長い前髪を斜めに流した彼女は、たしかに疲弊しているように見えた。お肌に張りがない、どころか、そもそも生気がない、というか。
事の発端は、一年前。何の前触れもなく、突然に、一人暮らしの彼女の家のポストに、恐らくは隠し撮りであろう写真が投函されるようになった。朝起きてカーテンを開けた時の写真。電車の時間に間に合うように急いで家を出た瞬間の写真。職場の最寄駅を歩いている写真。同僚と共に公園でお弁当を食べている写真。彼氏と待ち合わせしている時の写真。たくさん買い物して大荷物で家にたどり着いた時の写真。警察曰く、写真の投函だけでは実害に成り得ないのだという。もしかしたらケースによってはそれが決定的な証拠になるのかもしれないが、彼女の場合は残念なことにそうではなかった。そこまで付け回されると、背後が気になるのも当然のことで、足音が聞こえるように感じてしまうのだと彼女は言う。振り向くと誰かがいるような気がする、と。普通の人間の精神状態なら、そうなるのも致し方なし。アンちゃんは一頻り話を聞いて「きっとー、あなたの超絶大ファンなんだよ!すごーい!」ときゃっきゃしていたので、こういうのを異常というんです、とおおかみちゃんがさらりと言い放った。
そこで、丹原探偵事務所として取る策は、俺があいつであいつが俺で作戦である。基本いつもそれなんですけどね。要するに、アンちゃんが依頼主さんに成り代わり、依頼主さんは彼氏さんの家で保護。依頼主としてアンちゃんが慎ましく日常生活を送っている間に俺とおおかみちゃんでストーカーを突き止めて、痛い目を見てもらおう、という算段だ。ちなみに痛い目を見せるのは一番武闘派のアンちゃんである。殺さなければ刑は短い!とはきはき答えてくれた。そこまで痛めつけなくてもいいんだけどなあ。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
不思議なものである。どこからどう見てもさっきまでのアンちゃんなのに、依頼主さんとちょっとお喋りしただけで、コピってしまった。依頼主に見える。というか、依頼主さんが出て行ってしまった、と俺たちに錯覚させる。あのレベルの誤認、どういうギミックなんだろう。匂いは即座には真似られない、ということで、服は依頼主さんが着てきたやつを着ていたみたいだけれど。即座には、ってことは、しばらくしたら匂いすら真似られるってことだよな。口調とか声色とか、目線とか仕草とか、そういう全てはコピーしているわけだし。見た目がアンちゃんであろうが問答無用で「この人は依頼主さんだ」と脳味噌に刷り込んでくる。アンちゃんを見失わないようにしないと。発信機と盗聴器ついてるから物理的には見失わないけど、精神的に。
「おおかみちゃん、二人きりだね……♡」
「帝人さん、パソコンちゃんと見て」
「はい」
怒られた。ごめんなさい。アンちゃんの動線に合わせて、防犯カメラをハックして映像を分けてもらっているのだ。勝手にだけど。背後から誰かが付いてきていたら、カメラに完璧に映らないのは難しいし、手がかりにはなる。アンちゃんもそれを分かっているので、防犯カメラがありそうな道を選んで歩いている。学校の近くとか、銀行の近くとか、コンビニに入ってみたりとか。けどまあ、そう簡単に引っかかってはくれないわけで。
「おおかみちゃん」
「はい」
「膝枕して」
「アンさんが頑張ってるのに、帝人さんの欲望だけを満たすなんて、できません」
「じゃあ後でアンちゃんにも膝枕してあげればいいじゃん」
「帝人さん、ふざけ過ぎたら怒りますよ」
「おおかみちゃんに怒られても怖くないもん、俺には甘くて優しいの知ってるもーん」
「怒りますよ」
「ヒッ」
怒られた。さっきよりも激しかった。擦り寄る俺の鼻先に、だん!と突き立てられたのは鋏だった。こわ。依頼主さんの事情を聞いた手前、更にアンちゃんが頑張ってることも鑑みて、今回は甘やかしてはくれないらしい。今のおおかみちゃんをそういう設定にしているのは自分なので、大人しくしておこう。

二日経ち、三日経ち、四日経ち、一週間経った。ストーカーさんは出てこない。俺たちも危うく、アンちゃんと依頼主さんの区別がつかなくなりかける頃合いだ。ぱったりと止んだストーカーの気配に、定期報告に来てもらった依頼主さんは、顔色が悪かった。一般人がアンちゃんの偽装を見破れるわけ、ないんだけどなあ。しかしながらこれは、信頼に関わる。このままでは、丹原探偵事務所が無能だということになってしまう。それはいかん。アンちゃんは優秀な秘書だし、おおかみちゃんは優秀なバイトだし、所長たる俺は超絶ハイパー優秀有望な世界一の探偵なのだ。そんなデマレッテルを貼られては洒落にならない。解決まではお金を貰わないシステムだが、もういいです、が依頼主さんから出る前に、最終手段を取ることに決めた。
「いいんですか?」
「うん」
「てーちゃん、バレたらブタ箱行きだよ?」
「何度か行ってる」

というわけで。証拠となる写真や、その他諸々必要物を持って、俺は東京へと飛んだ。ちょっとしたコネで、昔取った杵柄で、ほんとはいけないんだけど、ちょっとした個人情報なら引っ張ることができるのだ。例えば名前とか住所とか世帯情報とか本籍とか、指紋とかDNA鑑定とか。ただまあ、バレたら100パーセントお縄になる。裏ルートってやつ。本拠地にしてる青森ではそんなことできない。都市部でごちゃごちゃしてた方が、後ろ暗いことはやりやすいのだ。
「たっだいまー」
「おかえりなさい」
「イデアちゃん元気だったー?」
「元気もクソも、あの子データでしょうよ」
「バグるかもしんないじゃーん、てーちゃんのいけず」
『そうですよ、私の身になにかあったら帝人さんの今までしてきた悪事を全部警察に流すようにしてあるんですからね』
「うっわ!」
「あー、イデアちゃんやっほー」
『やっほー、アンデッドエネミーさん。相変わらずの化けっぷりで』
「どうしてここにいるの!」
『ハッキングして侵入しました。スマートフォンのセキュリティって、豆腐みたいですよね』
にこりともしないで、画面の中でバーチャルらしく3Dモデルが突っ立っている。イデア、個人情報ファイルの案内人である。個人情報を誰が掻き集めてイデアに打ち込んでるのかも分かんないし、高性能AIであるイデアを作ったのが誰なのかも分かんないけど、使えるので使っているのだ。ごちゃごちゃ調べた時にイデアを使ったけど、ついてこられてるとは思わなかった。豆腐みたいなセキュリティ、強化してあげてもいいですよ、と工具を構えるイデアだが、法外な値段を取られるので遠慮しておいた。情報料も洒落にならないんだぞ。
『こちらのイデアはコピーです。しばらく満喫したら消えますので、暫し間借りしてもよろしいでしょうか』
「いいよお、君からも情報引っ張れるんだろ?わざわざ東京に出向くの、大変なんだよね」
「イデアちゃん、なにが分かったのお?」
『依頼主の女性は死んでいます。毛髪から読み取ったDNAによれば、整形と戸籍買収で他人が成りすましていると考えた方がいいでしょう』
「ストーカーの指紋は?」
『恋人として彼女を匿う男と一致しました』
「どゆことー?」
「狂言だね」
「なんのために?」
「またどうせアンちゃんに恨みを持つ者が誘き出すためにやったとかじゃないの」
「えー?アンちゃん、人気者ー?」
「そうね」
『位置情報を出しましょうか、アンデットエネミーさん。データ採取のため、イデアもご一緒させていただく条件で』
「おっけー!依頼主さんと、恋人さんに、聞いてくるよお!」
窓から飛び出してった。窓って。おい。割らないでくれてありがとう。スマホを見たら、イデアは居なくなっていた。どういう仕組みだか知らないけど、アンちゃんの持ってる何かしらの電子機器に移ったらしい。うちの事務所に駆け込みで来る依頼人は、アンちゃんの居場所を突き止めて危ない目に合わせたい危ない系の人がほとんどで、たまにマジでやばいぐらい追い詰められてる人がちらほら、って感じなわけで、まあ尻尾が出ない辺りで予想はしてたけど、こんなに骨折ったのにほんとにアンちゃん絡みだとなあ。萎えるよね。
「……おおかみちゃん、二人きりだね……」
「そうですね」
「ヒュー!ノリがいい!素敵な予感!」
「甘やかして欲しかったんでしょう?いいですよ、ほら。帝人さん、巻き込まれてかわいそうに」
「えーん!おおかみちゃん!」
「よしよし」
「くんくん!」
「くすぐったい」

おおかみちゃんにはたくさんなでなでしてもらった。しばらくしてから、アンちゃんは血まみれで帰ってきたので、すぐお風呂行き。イデアが大興奮だった。なんのデータを取ったんだ。
「ちゃんとした依頼人さん、早く来るといいですね」
「そうだねえ、アンちゃんがぶん殴りに行かないエンディングを見たいよね」
『人間の苦痛による悲鳴とそれに応じた痛みの呼応データを採取しました、サンプルデータが二人なのでまだ完成形とは言えません、やはりしばらくここに置いていただき、アンデットエネミーさんの動向をチェックさせていただきたい』
「ふいー!血は流せたよー!さっぱり!」
「アンちゃん、髪の毛どうしたの」
「切られちった!明日には元通りさー」
「どういう仕組みなんですかね」
「どういう仕組みなんだろうねえ」
「あー!おーちゃんのお膝、てーちゃんばっかりずるい!アンちゃんもいーれて!」
「いいですよ」
僕らの名前は、丹原探偵事務所。どんな依頼も速攻解決。所長の丹原帝人、秘書のアンデットエネミー、バイトの三上大嘉、期間限定加入情報屋のイデア。お困りごとがあれば、ご相談あれ!金さえ積めば、なんでも解決いたします!



『追記でございます』
「……イデア……今深夜二時……俺寝てた」
『事務その他を請け負うバイトの三上大嘉。彼に関しましては、大学卒業後から半年間の記録が一切ございません。この情報社会で、足がつかないように生きるなんて不可能。よって、彼は社会的に死んでいたことになります。例を挙げますと、どこかに監禁されていたとか、そういう状況が必要と考えられます』
「いいんだよお、おおかみちゃんはかわいいんだから」
『本当に?』
「ほんとほんと。おおかみちゃんは、しっかり者で優しくて、ちょっぴりえっちで頑張り屋さんな、俺の天使なの」
『それは貴方が与えたキャラ設定でしょう』
「それより前のおおかみちゃんに、なんの意味があるの?イデアに分からない過去は、俺には関係ないよ」
『……睡眠中、失礼しました』
「ううん。イデアにとって、不明点のあるおおかみちゃんはただのブラックボックスで、嫌いで嫌いで仕方ないのは分かるけど、おおかみちゃんは良い子なんだから、いじめないでね」
『それは依頼ですか』
「ううん。友達としてのお願い」
『了承しました。金銭の発生しないお願いについては、約束が守られるとは公言できません』
「あ、じゃあもう一個。これは依頼だよ」
『承りましょう』
「おおかみちゃんの昔を知ってる奴が、俺の手の届く範囲内に近づいてきたら、教えてね」
『監視。かしこまりました』
「そうそう、頼んだよ。おおかみちゃんも、アンちゃんも、俺のなんだから。ね」



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