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☆すてらびーた☆学パロ編




場所、初等部昇降口前。なにやら話しながら楽しげに、靴を履いて出てきたポールさんとトールさんに、出来るだけにこやかに手を振る。あるだー!と手を振り返してくれたポールさんと対照的に、心底嫌そうな顔で中指を立てたトールさん。上々の嫌われっぷりである。
「ポールさん、トールさん」
「ある、どうしたの?なにか困りごと?」
「……嫌わないでください」
「え?」
「い、いえ、なんでも。ええと、そうですね、本題、そうだ、本題は、ええと」
「ある、顔が真っ赤だよ?火が出そうだ」
「いっそ燃えて仕舞えばいい」
「きっ、き、キスしてください!」
「あ?」
「へ?」
「……ちゅーしてくださあい……」
「いいよ?ちゅっ」
ぶるぶるしているじぶんに飛びついて、ほっぺにちゅーしてくれたポールさんの、ちょっと恥ずかしそうな、でも嬉しそうな顔越しに、射殺されそうな絶対零度の視線と怒りすらも読み取れない凍り付いた真顔で防犯ブザーを引き抜いた、トールさんが見えた。嫌われていく。どんどんトールさんから嫌われていく。悲しい。
目を開けると、というかずっと開いてたんだけど、びっくり顔のかみさまがそこにいた。レアだ、かみさまが驚いてるところなんて。こらこらー、と持っていた本を置いたかみさまが、こっちを向く。
「あるってば!だめだって言ったでしょー、帰ってきちゃ!今度こそ魔獣の腹の中だよ!」
「かっ、かみさま!かみさま!」
「うわお、わあ、なんだい、熱烈。ついにかみさまのことも抱こうとしてる?いやん」
「なんでも言うこと聞くので、本棚貸してください!」
「だめー。わがままだぞ、お仕置きに何回か魔獣に齧ってもらってから帰りなさい」
「なんでもですよ!」
「だーめ!しつこいと、がぶがぶで済むところを、がぶがぶがぶり!ぐらいにしちゃうぞ!」
「三つ聞いてあげます!」
「……だめだって!」
「18歳の男子高校生を抱くと言っても!?」
「詳しく聞かせてもらおうかあ!」

ちょっと自分に甘い条件ならすぐ飛びついてしまうちょろっちょろのちょろすけ、しかしながら下世話且つ欲望まみれの、そんなかみさまのお願い事を、3つ。3つも聞かなければならない。コリンカさんからは「5つまでは譲れ」と言われていたので、3つで済んでよかったと思うべきかもしれない。ちなみに、言い訳がましいが、18歳の男子高校生をなんたら、というハッタリもコリンカさん考案のものだ。成りすましの転校生くんが18歳だから、かみさまきっと飛びつくぜ。そう言って、にたり、笑ったコリンカさんは、かみさまと気が合うように思う。主に下世話な方面で。主に、下世話な、方面で。
反則手段だが、帰れないよりはマシだ。そんな手段を使ったとゆかりさん(仮)にばれたら普通に考えてキレられると思うので、これは全部じぶんの妄想、もしくは当て勘、ということにする。かみさまの本棚から帰ってきたじぶんを出迎えてくれたのはスピカさんで、コリンカさんは彼を呼びに行ったという。上手くいきましたか、と不安げな表情のスピカさんに、ぐっと親指を立てる。
「顔、青いですよ……?」
「……気のせいです!」
閑話休題、そして移動。場所は屋上だ。最後の一人の答えあわせ、ということで、全員集まってくれた。というか、じぶんは集めてないのだが、集まってくれた。まず、じぶんのスマホに簡易盗聴機を忍ばせて探っていたらしいピスケスさんが勝手に登場し、その後を「探偵ごっこなのだなー!」とぴなさんが追いかけ、それにみつさんが巻き込まれ、耳の良いレオさんが騒動に気づき様子を見にきて、ふらふらしていたレオさんのことを迷子と勘違いしたサジタリウスさんが一緒にいてくれて、その道中で中等部内で本当に迷子になっていたポールさんとトールさんが拾われた。つながりにつながり、結果全員集まってしまっただけだ。やいのやいのと口々に言い訳をされて、一人一人に曖昧な笑顔を向けて頷くしかなかった。自然と集まっちゃうなんて、もうとっくにいつの間にやら、すっかり仲良しじゃないですか。
「やめ、っやめてくださあい……」
「うるせえぶりっこ!ゆかりちゃんが可哀想ぶるとコリンカさんが悪く思われるだろ!クラスメイトの目が痛いわ!」
「きゃあっ」
「雌ぶるんじゃねえ!おら来い!」
「……コリンカさん、完全に悪役ですね……」
「お兄さんがゆかりさんのふりを続ける限り、どこからどう見てもコリンカさんが悪い男ですね」
抵抗の演技の名残か、しくしくしていたゆかりさん(仮)は、屋上の扉が閉まった途端に白けた顔でポケットに手を突っ込んだ。あんだけ騒いだのに誰も助けに来ねえとか、お前どんだけクソ野郎なの?とコリンカさんを胡乱な目で見たゆかりさん(仮)に、ただちょっと色んな子引っ掛けて遊んだだけだゴラ!とコリンカさんが吠えた。ついに自分でも暗に認めたし。仲良しの範囲外であること。
「じゃあ、じぶんの推測なんですけど。違ったら言ってくださいね」
「あー、全部違う」
「聞いてください、アクアさん」
水瓶座の、アクアさん。そう呼べば、片眉を上げた彼は、深く息を吐いた。短い逃亡生活だった、と首を鳴らした彼に、それ以上のことは口に出すのをやめた。名前の判明と同時に、プロフィールが更新されたからだ。じぶんのスマホの画面に、アクアさんの本当の姿が映る。灰色と青の合いの子の髪。深緑の瞳。ハイネックのパーカーと、膝下までの編み上げブーツ。笑いもせず、画面の中に映る彼と、ゆかりさんを見比べる。確かに似ていた。僕には詳しいことは分からないけれど、とサジタリウスさんが手を挙げる。
「よろしくね、アクア。元の世界に戻っても、仲良くしてくれたら嬉しい」
「……どこの世界に戻されるかなんて、分かったもんじゃねえのにな」
吐き捨てた彼が、終わりなら早く終わらせろ、とフェンスに寄りかかった。あまり友好関係を結べなさそうな態度に、ポールさんはしゅんとしている。きょろ、と辺りを見回したスピカさんが、全員コンプリートしたら帰れるんですよね、と問いかけた。
「どうやって帰るんでしょう?」
「……どう……」
「カルディアくんたちはきらきら消えてったけどね」
「ぼくらもきらきらしてる?」
「いや全く」
「話が違うじゃないですか、駄牛。死んで詫びなさい」
「ひえっ、み、みつさん、どういうことでしょう」
「ぼくも、各自ミッションをクリアすればこの世界から抜け出せるとしか、聞いていなくて」
「おやおや?ぴなの出番かな?ぴなさまの、魔法の言葉の出番なのではないかにゃー?」
「魔法の言葉?」
「そう!あったんだかなかったんだか曖昧なままふんわりと終わらせる、強制打ち切りワードがあるのです!ずばり!」
「ずばり?」
「……という夢を見たのさっ!」

夢オチかよ。
後日談、もとい、じぶんが濁したアクアさんの成り立ちについて。本棚にあった彼についての実験資料の記録を読んだので、正確ではあると思う。
彼は「元人間」だった。じぶんに神代の記憶を付与したのと同じような、実験。人間は、星の現し身と成ることができるのか。結果として実験は失敗だった。人間のままでは、現し身とは成り得ない。ただ、その特権だけが付与され、人間たちからは「異能力者」「異常」として差別対象になる、ということだ。
彼の生きた場所は、とても裕福とは言えない、貧困に喘ぎ、明日を生きることで精一杯の、何時かの何処かだった。身内は病弱な妹のみ。父と母は、彼が10歳の時に川の氾濫で流されて行方不明になったまま、帰って来なかったそうだ。持って生まれた病に苦しむ妹を少しでも楽にしようと、兄として、彼は奔走した。妹の名前は紫。兄の名前は蒼。普通の人間だった頃の彼の生活は、苦しいながらも必死でもがき、決して不幸せではなかった。
彼が18の時。かみさまの気まぐれで、水瓶座を降ろされることになった彼は、三日三晩高熱に魘された。人間の身で膨大な魔力を背負おうとした代償だろう。妹の細腕では、まともな看病も出来なかったが、兄は何とか回復した。熱も下がり身体を起こした兄は、見える景色の恐ろしさに、自らの瞳を潰したという。
アクアさんの特権。それは「死が見えること」だ。物質の綻び、唯一絶対の弱点、それがアクアさんには見える。生き物であれど、建物であれど、魔術式であれど、綻びを見つけて殺すことができる。全てにおいてのデリートキー、と言ったら良いのだろうか。人としての死を迎えた彼は、水瓶座のアクアさんとなってから、見える死を斬り、特権を我が物とできたけれど、その前の彼は話が違う。ただの人間でしかない彼には、目に見える全ての死が恐ろしくて仕方がなかった。激痛と共に感じたのは安堵。しかしながら、それも束の間だった。騒ぎを聞きつけた人間たちが治療してくれ、一命を取り留めたところまでは良かったものの、視力を失った瞳でも、死線は視えてしまったのだ。気が狂いそうな恐怖、とてもじゃないが今までのように働きになど出られるわけもない。病気の妹と二人、蓄えは減っていく。彼の心を支えたのは、妹の存在だった。少しずつ、少しずつ、はっきりとしていく、妹の体に浮かぶ死の線。狂気と慈愛の狭間で、兄は妹を楽にしてやろうと考えた。死の線を、指でなぞって。繰り返し繰り返し、なぞって。
妹は死んだ。彼のなぞった線に合わせて、身体は切り裂かれていた。視力を失った彼がどうやって妹の体を切り裂いたかは誰にも分からなかったが、身内殺しの罪として彼は処刑された。やっと死ねる、やっと視えなくなる、やっと楽になれる、やっと妹に会える。そう彼は安堵した。幸せの中で死を迎えた。
次に目を開けた時に見えたのは、新しい自分の体と、かみさまの姿。かみさまには死が見えなかった。じぶんの身体を見下ろすと、いくつかの線が見えた。君の星だと渡された場所で、野生の動物を見つけた。線が見えたので、斬ってみた。その動物は死んだ。刺し殺すほどの深さでもない傷で、あっさりと。
記録にあったのはそこまでだ。アクアさんは最後に、どこの世界に戻るか分からない、と言っていた。もしかしたら、彼はまた人間として特権を持つ異常者になるのかもしれない。もしかしたら、星の現し身として二度と妹には会えず人間ですらない生き物として存在するようになるのかもしれない。どうなろうとも、彼とまた出会うことができるといい。もう一度出会えたなら、次こそは笑顔を見せてもらえたらいい。一度も笑わなかった彼は、ずっとどこかで悲しんでいたように思うのだ。



「謎多き新キャラ!楽しみだねえ!次回!」
「次回あるんですか、かみさま」
「あるよ。あることにしようよ」
「次回があると3つのお願いを聞かなきゃいけないので嫌なんですけど」
「3つのうち1つは全員参加にする予定なんだけど、どう?」
「殺す気ですか?」
「何に参加とか聞かないの?」
「聞きたくありません」
「次回!」
「次回はありません」
「ありますー!次回!カルディアとアクラブの星のごたごた編!」
「かみさま、ベッドの下からなんか薄っぺらい本が出てきたんですけど」
「わーお!ある!やめなさい!どんどん積極的になるのは!」


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