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☆すてらびーた☆学パロ編




みんなで、いつもの溜まり場、もとい中等部生徒会室に戻り、改めまして自己紹介をする。現し身ではないはずのアクラブさんがどうして記憶を保持しているのかとか、現し身であるはずのカルディアさんが普通の人間らしいとか、首をかしげるポイントは多々あるけれど、今はそれよりも未だ見ぬ水瓶座さんの方が重要だ。さらりと自己紹介を済ませたカルディアさんとアクラブさんに応えて、まずスピカさんが頭を下げる。なんとなく人見知りしてるのか、おずおずって感じなのが、ちょっと可愛かった。
「スピカです。乙女座です」
「僕はサジタリウス、射手座を任されてるよ」
「……ピスケスと申します。魚座を預かる者です」
「乙女座、射手座、魚座。君は、牡牛座」
「はい」
「双子座」
「はい!」
「……はい」
「水瓶座さんと、山羊座さんは?」
「山羊座のコリンカさんは、高等部にいらっしゃいます。水瓶座さんは、まだ、じぶんたちも知らなくて」
「一緒にしないでください」
「ピスケスさん、知ってるんですか?」
「いいえ。ただ貴方と一緒くたに「自分たち」と言われるのが不快だっただけです」
「同意見」
「ピスケスとトールは、あるのことが嫌いなのかい?」
「なんて今更な……」
「……普通に考えて、恐らくは、まだ見つけていない残り一人でしょうね。あるさん、どうします?」
「お二人にも、一緒に探してもらうのが一番早いかもしれませんね」
「それは全然構わないんだけど、手がかりはあるのかな?」
「……みつさんに聞いてみないと……」
「ほら、私、教職員だからさ。手がかりさえあれば、この学園に在籍しているなら検索がかけられるってわけ」
「ああ!なるほど!」
「カルディアさんが先生でよかった!」
「けど、そうだな。まずはその、高校生の山羊座さんに会いに行きたいな。可能性と選択肢は一つずつ潰していく派なんだ」
というわけで、高等部に来た。コリンカさんがさっきうろうろしてたのは見たし、何か用事があったっぽくはあったし。ポールさんとトールさん、サジタリウスさん、ピスケスさんは居残ってもらった。上から順に、今のコリンカさんが教育的に悪いから、周りを無差別に落としまくるから、マジでこてんぱんにされて泣くところは見たくないから、である。高等部在学のスピカさんには、不肖ながら、ついて来てもらった。先生だけども実は来たことはなかったもので、と白衣のポケットに手を突っ込みながら校舎を見上げたカルディアさんが、ふと顔をこっちに向けた。
「……みんな私より大人びてない?大丈夫?私一応、人間年齢で言うと22とかなんだけど」
「大丈夫ですよ、先生」
「ナメられない?」
「主人様に不敬を働く者は、何人たりともこのアクラブが殺します」
「うん、すごく頼もしい、流石は私のアクラブなんだけど、対人間でそういうこと、ここでは多分しない方がいい」
「弱体化の影響は受けておりません」
「そうじゃない、アクラブ、かわいいからこっちおいで。……ちょっとタイム、作戦会議させて」
「はい」
「どうぞ」
思ってたより武闘派らしい。カルディアさんに言われるがまま、アクラブさんがこくこくと頷く。普通の人間って言ってたし、てことは特権封じの範囲外だ。純粋に戦闘能力が高ければ、普通の高校生なんて、百人斬りどころか全生徒殲滅くらい出来るだろう。そんな小説をかみさまの本棚から持ち出して読んだ覚えがある。スピカさんが、あんなにちっちゃいのに戦うことが普通だなんて、と少し悲しげな顔をした。ブチギレさせたら怖いスピカさんだが、基本的には温厚で平和主義だ。
「どうもどうも。お待たせしました」
「いえいえ」
「アクラブ、一般人には?」
「手を出さない」
「私がなにか言われても?」
「手を出さない」
「オーケー。肝に命じておきなさい」
「はい」
「アクラブ、すっごくかわいくていい子なんだけど、いかんせん沸点が低くてね。主人に対しての不敬っていうボーダーラインが地面から5ミリくらいしかないんだよ、悪いね」
「……主人様にご迷惑をおかけしないよう、今後も善処します」
「善処ってことは気をつける気は無いよね、うんうん、そういうわがままちゃんな君がかわいくてたまらないぞ、うりうりー」
アクラブさんがカルディアさんに頭をぐりぐりされているが、なすがままだ。むしろそこはかとなく嬉しそうである。こういうの、きょうだい、って言うのかな。いいなあ。ただの主人と従者ならば、こうはならない気がする。
高等部の中で、コリンカさんを探す。スピカさんが持ってるスマホの地図で見るのが一番早かったので、案内をお任せした。サジタリウスさんが写真を撮ってた時にも思ったけど、じぶんたちのスマホの中身には一応多少なりとも差異があるらしかった。サジタリウスさんのスマホで写真を撮ると、じぶんたちの頭に動物の耳が生えたりとか、変な顔になったりとかしたり、とか。ちなみにスピカさんのスマホには、じぶんのよりも正確で精密な地図が入っている。じぶんの地図には「プロフィール登録する相手」かつ「出会ったことのある相手」の場所が映るけれど、スピカさんの地図にはすべての人間の名前、行きたい場所を指定すればそこまでの最短経路、などなどがポイントされる。そんな地図だから、スピカさんの眉が寄りっぱなしだ。また女の子連れてますよ…だそうで。
「ゆかりちゃんですって……」
「ただのお友達かもしれませんよ、ねっ」
「でも体育倉庫にいますよ。人気のないところに女の子と二人で。あるさん、コリンカさんのところに行って彼と彼女の衣服に乱れがあったら、アクラブちゃんの目を隠してくださいね」
「……お友達かもしれませんから。ねっ、カルディアさん」
「高校生は爛れてるなー」
体育倉庫に到着した。中から物音はしない。余計怖いなあ。スピカさんの目が笑ってないのも怖い。しかしながら、コリンカさんと、ゆかりちゃんなる女の子の、存在位置はここって出ているわけで。とりあえずそおっと扉を引く。鍵がかかっていた。まあそうだよね、そうでしょうよ、そういうことするなら鍵はかけるでしょうよ。背後にいるスピカさんの髪の毛がごおっと逆立ったのが分かった。ああ、もう、コリンカさん。お願い出てきて、コリンカさん。スピカさんに打たれる前に。でも扉を叩くのも気が引ける、コリンカさんはまだしも、ゆかりちゃんさんがびっくりしたらかわいそうだし。
「侵入可能です。あそこに窓があります、主人様、許可を」
「駄目だよ、アクラブ。教育に悪いかもしれない現場が待ってるかもしれないんだ」
「かもしれないでは分かりません。手がかりが中にいるのなら、僕にとってのブレーキとは成り得ません」
「おー、わあー、もう、アクラブ全く言うこと聞かないじゃん!さっきの話分かってる!?」
「窓に石を投げてみましょう。アクラブちゃんが行くよりはいいです」
「スピカさん!?」
「うるせっ!中で丸聞こえ!早かれ遅かれ来るとは思ってたけどさあ!」
だーん!と勢いよく開いた扉に、わーお!とアメリカンナイズな声を上げたカルディアさんが素早くアクラブさんの目を隠した。服着てますから!と主張するコリンカさんに、今着たんでしょう、と吐き捨てるスピカさん。主人の手は振り払えないらしく、無言でされるがままになっているアクラブさん。どんな状況だ。
「あるクン!もう!君がどっかでのろのろやってるうちに、高等部は大変だったんだ!」
「そうなんですか?スピカさん」
「私知りません」
「ですって」
「スピカくん基本いないじゃん!もういいや、とりあえず説明するから、ゆかりクン、隠れなくてもいいよ」
「あ、うん、ありがとう」
「ひゅー、かわいい女の子じゃない。私的には全然あり、むしろあり」
「え、あ、ありがと、先生……?」
「主人様、見えません、離してください」
おずおずと出てきた女子生徒、ゆかりさん。何故かテンションが上がっているカルディアさんに不思議そうな目を向けながら、不安ですって顔で立っている。カルディアさん、さっきのアクラブさんへの態度といい、どうやら「年下の男の子」もしくは「女の子全般」がお好みらしい。かわいいかわいいと持て囃していたし。
なにがあったのか、とコリンカさんに問いかける前に、肩をすくめた彼が口を開いた。
「私たち、帰れないかもしれないぜ」

「もうもやもやするのでとりあえず一回強めにビンタしてもいいですか?」と不条理なことを宣うスピカさんになすがままビンタされて頰を赤くしたコリンカさん、曰く。
突然に転校生が来たんだと言う。みんなのお兄さんとしての勘、が働いたコリンカさんは、転校生こそが新しい星の御子の一人だと考え、接触した。自分だってそう思うし、そうするだろう。しかしながら、転校生の彼女は、星の現し身としての自覚もなく、記憶もなく、まったく関係のない普通の人間だった。しかしながらそれはおかしいのだ。もともと知り合いだったじぶんたちは勿論、ニナさんだってカルディアさんだってアクラブさんだって、星の現し身であった記憶を保持したまま、この世界に介入している。何も知らず、生まれ育ったここが普通の世界だと思っているのは、人間だけ。仮初めの学園パロディ、それに準じているのは星の力と無関係の人間だけだ。
「じゃあ、ゆかりさんは関係なかったってだけの話なんじゃ……」
「私、かみさまにヒントをもらってる。高等部に来る転校生が、星の現し身だって」
勘じゃないじゃん。基盤がはっきりとした推測じゃん。そう言いたかったが、あくまでも「お兄さんとしての勘」としたいらしいコリンカさんは、それでね、と話を続けている。気まずそうに俯いているゆかりさんを、スピカさんがそっと連れ出してくれた。多分そういうのが一番上手いのはスピカさんだ。
「本当に何も知らないのか、ここで聞いてたってわけ。だって、かみさまは適当だしふざけてるけど、そういう嘘はつかないだろ?」
「そうですね」
「ゆかりクンがただの人間なら、他に転校生は来るってことになる。カルディアくん、そういう話はあるのかい?」
「ないねえ。さっきの子の話は、職員の全体会議で上がってた。他所から誰かが入って来るなら、先生は知ってて当然なんだろうけど、他に誰かが来るって話は聞いてないな」
「じゃあ、ゆかりクンが私たちの仲間ってことになる。けど、彼女は何も知らない。いろいろ洗ったけど、普通の人間だ」
「……だから、出られないかも、ですか」
「そう。どうする?って話」
「困っちゃうねー。ね、アクラブ」
「はい」
一番困ってそうな二人が一番軽い。魔術的な隠蔽がなされているのなら、じぶんの目で読み解けるが、外にいるゆかりさんを改めて見たところ、何も見つけられなかった。一旦帰って、ピスケスさんやサジタリウスさん、レオさん、ポールさんとトールさんにも、相談してみようかな。私はゆかりクンに直接聞いてみる、とコリンカさんが居残る旨を明かした。ふむふむと頷いていたカルディアさんが、コリンカさんに告げる。
「ま、君はそうしないと尚のことここから出られないわけだしね」
「……まあ、そうね」
「ゆかりさんが何か知っていたら、教えてください」
「オッケー。コリンカさんはコリンカさんの出来ることをするさ」
ぺこりと頭を下げたゆかりさんと、へらへら笑っているコリンカさんと、ゆかりさんにしばらくついていることに決めたらしいスピカさんと別れて、高等部を後にする。別れる前、心配そうな顔のスピカさんに、あれじゃあゆかりさん可哀想です、コリンカさんには任せておけません、と言われたので、フォローも含めてお任せしたのだ。確かにコリンカさんは基本的には話しやすくて気がきくが、今は見た目がちゃらちゃらしてるし、それに重ねて質問の内容が内容だから、多少の威圧感を与えていてもおかしくはない。誰が悪いわけでもない、気づいたスピカさんがすごいって話。
中等部の生徒会室には、ピスケスさんしかいなかった。ぴなさんとみつさんもいない。思ったより早かったじゃないですか、と眉を顰めたピスケスさんが、カルディアさんとアクラブさんには椅子を勧めた。自分はどっかり会長席に座って、説明なさい、って踏ん反り返っている。いつも以上に虐げてくる。新参二人の手前、なんとしてでもじぶんのマウントを取りたいらしい。ふんふん偉ぶってるピスケスさんからそれが薄っすら伝わってしまう辺り、ちょっとかわいい。というわけで、こういう話なんです、と説明すれば、ふむ、と顎に手を当てたピスケスさんが目を細めた。魔術的な思考だけではなく人間たちが使う科学にも詳しいピスケスさんだから、こういう顔をする時はじぶんたちには考えつかないアイデアを出してくれると、じぶんは知っている。そのモチベーションが「駄牛如きにはこんな簡単なことも分からないと!あーっはっはっは!あいも変わらず笑わせてくれますねえ!」とじぶんを踏みつけることだったとしても、ありがたいものはありがたいのだ。
「つまり、ゆかり為る彼女が、星の御子でないとおかしいと」
「そうですね」
「演じている可能性もなく?」
「変幻の術はかかっていませんでした」
「そもそもこの世界って魔術なしだよね?」
「……そうでした……」
「じゃあ、それ以外の方法で誤魔化しているんでしょう」
「どうやって?」
「は。クソ牛、自分で少しは考えなさい」
「うう……」
「んー、要するに、人間同士の騙し合いってこと?」
「そうなりますね。そうなると、いくらでも方法はあります」
「えっ!?」
「自らを他人に偽ればいいのでしょう?顔を変えて、名前を変えて、口調を変えて、性別を変えて。魔術に頼らなくとも、人間はその程度やってのけますよ」
医術、というらしい。ナイフで切るんです、こうやって、とピスケスさんになぞられたおでこがぞわぞわした。なんだってそんなことするんだ、痛くないように魔法でやれば、と思ったけど魔法なんて人間は使えないんだった。とにかく、辿り着いた一つの可能性に、踵を返して高等部へ走る。カルディアさんは、白衣をばさばさしながら、やだあ、待ってよお、と走って追いかけて来るけど、アクラブさんがあっという間に見えなくなってしまった。先に行ったとしてもどこへ行ったんだ。スピカさんに電話をかけると、今は中庭にいます、だそうで。走って走って、中庭到着。
「きゃああああ!」
「暴れないでください、顔の皮を剥がします」
「アクラブちゃん!だめです!ちょっと!ゆかりさんに痛いことしないで!」
「あー!こらー!アクラブ!離れなさい!ハウス!めっ!」
「……………」
不承不承、といった感じ。手に持っていたのは先の丸まった子供用ハサミだった。それでどう顔の皮を剥がそうとしていたのかは不明だけれど、アクラブさんならきっとやる。どこに隠してたんだ!凶器はさっき全部取り上げたろ!とカルディアさんに普通に怒られたアクラブさんが、しゅんとしている。
「と、いうわけで」
「そうかそうか。あるクンの目で分からないはずだ。やっぱり君は、星の現し身だったんじゃないか」
「……ゆかりさん」
「本当のことを言ってくれたら嬉しいな」
「……………」
「……なにか、事情が?」
「……………」
何も知らないんです、とはもう言わなかった。コリンカさんを騙し切った嘘は、もう通用しないからだ。魔力のない世界の盲点をついたものだ。コリンカさんが持つ精神感応に対しての耐性も、じぶんが持つ魔術を読み解く目も、ピスケスさんの記憶を読む力も、全部ない世界だからこそ切り通せた嘘。スピカさんの地図にも、流石に性別までは映らない。溜息をついた彼女は、がりがりと男のように髪を掻き回して、胡乱な目で顔を上げた。
「……ゆかりってのは俺の妹の名前だ」
「君、元は男か」
「だったらなんだよ。俺は、この世界を維持するためなら、何だってする」
「維持……」
「特権のない、魔術のない、世界だから。そういうことかな」
「ああ。平和極まりなく頭から花咲いてそうなやつばっかりの世界だから、だ」
「どうして、」
「理由なんてお前らには関係ないだろ?」
「……待ってください、妹?」
「星の現し身には、そういう血縁関係、双子座の二人でもない限りはあり得ないはずだけど」
「……ちっ」
舌打ちして立ち上がった彼女、もとい彼は、ポケットに手を突っ込んで、不快そうに吐き捨てた。ほっといてくれ、と去ろうとした彼に、カルディアさんが声をかける。
「待って!私、私とアクラブは帰らなきゃいけないんだ!民が待ってる、今この瞬間にも反乱が起きて何人死んでいるか分からない!」
「……あ?」
「君の事情も知らない私の、ただの我儘だって分かってる。そんなことまでするんだ、相当のことがあってこの世界を守りたいと思っているんだよね」
「……主人様」
「全部話す。私とアクラブの事情を話す、だから君は君のことを教えてくれ」
「主人様!」
「アクラブ、黙っててくれ。皇女としての命令だ」
「……お前らに教えたら、この世界は終わる」
「じゃあ、カルディアさんたちだけで構いません」
「あるクン!?」
「あるさん、それじゃわたしたちは」
「……だめですか?」
君はそういうやつだ、と。
あなたはそういう人です、と。
コリンカさんとスピカさんは笑った。

「それじゃあ、一足先に失礼するね」
「……申し訳ありません。御恩も返せず」
「いいえ。カルディアさんとアクラブさんが帰れてよかったです」
「なにか力になれることがあったら、わたしたちが元の世界に戻った後でも、言ってくださいね」
「そうそう。カルディアくんとアクラブくん、縁はもう結ばれたわけだし」
「……ごめんね」
少し申し訳なさそうに、頭を下げながら、二人は消えていった。きっと、星に帰れば二人が住まう蠍座の星に繋がるゲートもできているんだろう。カルディアさんとアクラブさんは、ゆかりさん(仮)にもきちんと頭を下げた。彼はそっぽを向いていたけれど、アクラブさんの言葉には目だけ向けて、頷くように瞼を閉じた。なにを告げたのかは、聞こえなかったけれど。
さて。弱気で大人しい女の子のふりをしていた彼が、どこの星の誰なのか、特定しなければならない。今となっては隠す気もないのか、他に生徒もいないからなのか、胡座をかきつつがりがり頭を掻いている。いろんなものが崩れるからやめてほしい。
「ゆかりさん」
「そうやって呼ぶな。妹の名前だって言っただろうが」
「じゃあ、君の本当の名前を教えてくれよー」
「拒否する」
「わー。どうしたらいいんだー、もおー」
「じゃあな。お前らに正体がバレなければ、俺は逃げおおせてそれで勝ちだ。ゆかりとして生きていくさ」
「……どうして、妹さんのふりを?」
「……、」
もう会えないから。そう零した彼は、背中を向けたままひらひらと片手を振って、去ってしまった。どおすんだよ、ゆかりクンの化けの皮を剥がす方法、と口を尖らせたコリンカさんが、自分の背中に頭をつけた。なんて珍しい、コリンカさんが自分から甘えてくるとは。
「疲れちゃったよー」
「……誰より楽しんでたじゃないですか……」
「コリンカさんはもう帰れるんだもーん。あるクンに付き合って残留してるから、消費が半端無いの」
「えっ?」
「ど、どういうことです?」
「終わった話だから言うけどさ。私とみんなじゃ、課題が違うの。みんなは、あるクンがプロフィールを全コンプするのが条件だろ?私は、ある一定数以上の人数の人間と関係を結び著しく親しくなる、ことがミッション。遊び歩いてるとか、発情期が服着てるとか、スピカくんはひどいなー」
「……わ、わたし、なんてことを……」
がーん、とスピカさんはショックを受けているけれど、忘れちゃいけない。コリンカさんはこの世界が始まる前にかみさまとこそこそなんか言ってた。一定数の人間と関係を結ぶってミッションだって、遊び呆けたいがための課題だと思う。いいんだよお、言わなかった私も悪いよお、とスピカさんに寄り添うコリンカさんがにやにやしてるのがいい証拠だ。
とにかく、コリンカさんはもう帰れる状態にあるらしい。しかしながら、戻ったところでじぶんたちは置き去り、それじゃあ楽しくないし寝覚めも悪い、ということだ。あの男が誰なのか暴き立ててみんなで帰ろうぜ、とはコリンカさん談である。
「で?どうする?」
「かみさまの本棚に行ければ、一発なんですけど……」
「特権封じ、意外と不便だね。人間ってすごいなー」
「ゆかりさん、じゃない、そのお兄さんが、ああいうことをしてるのは、かみさまはご存知なんでしょうか。知っていてわたしたちに解かせたいのか、知らなくてこうなってしまったのかが、分からなくて」
「知ってるけどめんどくさいからほっといてるってパターンもあるぞ」
「……一つも否定できませんね……」
「あるクン、かみさまのとこ行けないの?行ってきてよ、そんでお願いしてきて」
「コリンカさんが行ってくださいよ」
「行けないじゃん、特権もなにもかもないんだから」
「行けますよ、行くだけなら。ポールさんかトールさんに防犯ブザーを鳴らしてもらえばいいんです」
「……そうなの?」
「はい」
「ほんと?」
「……え、はい……」
「あるクン、帰りたい?」
「……そりゃまあ……」
「コリンカさんの作戦に乗ってくれる?」
「……………」
嫌な予感しかしない。

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