このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

☆すてらびーた☆学パロ編




「おかえりなさい」
「おばけ怖かったか?せーとかいちょー」
「怖いわけないじゃないですか。ていうか、出てってください。なに居座ってるんですか」
「ほーお、かいちょーは、ぴなに負け越して良いと。残念だなー、だがしかし、それもぴなが強すぎるがためのこと。強大な力は全てを屈服させてしまうのだな」
「受けて立ってやりますよ!オラ!」
「あるさん、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「ヒントを出しに来ました。あと二人のうち、一人に繋がる方を見つけるためのヒントです」
「……本人ではない?」
「はい」
「……どこに行けば……」
「初等部です」
というわけで、初等部に来た。サジタリウスさんとスピカさんは二人で楽しそうだったので、行ってきますね!ってさらっと出て来た。邪魔しちゃいけない。ピスケスさんはぴなさんと腕相撲の勝負で忙しそうだったし、みつさんもヒントは出しても付いて来てはくれないので、一人だ。うっかりばったり、何故か中等部と高等部の境目をうろうろしていたコリンカさんに会ってしまって、何か話がありそうだったけど無視した。絶対に初等部に連れて来てはいけない人だ。情操的教育に良くない。ポールさんがいてくれたらいいな。
「……………」
「……………」
「……何の用だ変質者……」
「やめて!トールさん!防犯ブザーを鳴らさないでください!」
ポールさんに会いたいとかぬるいことを考えてるから、トールさんと出会ってしまうのだろうか。一人でいるなんて珍しい、と思ったけど、ポールさんはいろんな人と仲良くなれるタイプだから、そうじゃないトールさんは置いていかれてしまったのかもしれない。かわいそうに。
「何か失礼なこと考えてない?」
「えっ、あっごめんなさ」

「あれ?なんで帰って来たの?」
「……かみさま……?」
「あー、さてはポールとトールに手ぇ出そうとしたなー。だめだぞー、真っ当な普通の世界では18歳以下にそういうことは宜しくないとされてるんだから」
「……いえ、いや、そんなことしてません」
「まああるも15歳だけどね。わはは」
「わははじゃなくて」
「先に帰って来たニナが楽しみにしてたぜ?あると本当の姿で会えたら嘸かしびっくらこくんだろうなあって」
「そうじゃなくて!」
赤いソファーでのんびりくつろぐかみさまに、あれ強制送還スイッチじゃないですか、と詰め寄る。普通に頷かれた。あの防犯ブザーをポールさんとトールさんに順番に鳴らして貰えば、ピスケスさんもコリンカさんもスピカさんもサジタリウスさんも、帰って来られる。最後にポールさんとトールさんが対面して鳴らすのはどうだろう。それとも、片方が帰った時点で二分の一であるどちらかは吸収合併されるかもしれない。かみさまも人が悪い。最初から言ってくれればいいのに。
「いやいや。強制送還スイッチだけど、普段通りに戻れるとは誰も言ってないじゃないか」
「え?」
「今回は手違いってことでね、あるは元に戻してあげるけど」
「……え?」
「アバドーンの成り立ちを思い出してみなさいな。じゃ、もっかいがんばってー。今度は手ぇ出しちゃだめだぞう」
アバドーンさんの成り立ち。破壊の場、滅ぼす者、奈落の底。死さえ許されない5ヶ月の苦しみを与える、天の使い。嫌な予感しかしない。嫌がらせが好きなかみさまの考えることだ。死を知らないじぶんたちに、それと同等の罰を与えるだけのことは、あり得る。ばいばーい、とソファーに踏ん反り返って手を振ったかみさまが急激に遠ざかって、次に目が開いた時には目の前に金色が広がっていた。
「あ!ある起きた!もー、トールから突然寝ちゃったって聞いたから、びっくりしたよー!」
「……あ……え……はあ……?」
「……………」
「ねっ、トール。ある起きてくれて良かったねっ」
「……うん、そうだねっ」
あからさまににこっとした。絶対に良かったとは思っていない。どうやら自分が防犯ブザーを鳴らしたことは黙っているらしい。ポールさんのことだから、なんでそういうことするのー!って怒りそうだしな。
ポールさん曰く、自分がちょっと席を外した、というか、新しくできたお友達とお喋りしていたところ、トールさんが焦って自分のところに走って来て、ぶっ倒れたじぶんを見せて「このまま死ぬかな」と悲しげな顔をしたという。ポールさんがお友達と喋っていた時にトールさんがいなかったのはトールさんが人嫌いだからだし、ぶっ倒れたのはトールさんの鳴らした防犯ブザーのせいだし、恐らく八割がた確定の事実として、悲しげな顔なんてしていない。「このまま死ぬかな」と喜んだにちがいない。
「どうしたの?ねむかったの?」
「そうですね」
「お茶目だなあ」
「そうだねっ、あるったら」
「ねー」
目が笑ってない。あのまま目覚めなければ良かったのに、っておでことほっぺたにくっきり書いてある。そうですねー、って頷いておいた。あの防犯ブザー、多分二度目はないぞ。
話は戻って。こういうわけで、人を探してるんです、という話を二人にすれば、じゃあ一緒に探そう!おー!とポールさんが拳を上げた。トールさんはそれを見て、じぶんを見て、不本意ですって顔を向けた後に、おー!って作り笑いで乗った。嫌ならいいんですよ。
みつさんからもらったヒントは「初等部在学」「蠍座」。特権が使えればかみさまの本棚を漁って一発なんだけどなあ。前半で少しは絞り込めるが、後半のヒントがふわふわしている。意味が分からないので、とりあえず図書室に行ってみた。星の図鑑を見るのは楽しい。平仮名で書かれた簡単な図鑑ばかりだけれど、じぶんよりも小さい子が多いから、仕方ない。
「あ、見て、ある。牡牛座だ」
「本当ですね」
「双子座はこれだって。ね、トール見て、こうやって見るとあんまり双子っぽくないね」
「こじつけだね」
「双子座には流星群があるんだって。へー、へええ」
ポールさんが黙々と双子座のページを読んでいるので、一番分厚い星座の図鑑をじぶんは開くことにした。蠍座に辿り着く前に、蟹座の欄があったから流し読みしたら、全体的に暗い星から成る星座らしい。見失われそうなくらいぼやけた、実体のない、ニナさん。ちょっとしっくり来る気がした。
蠍座。恒星アンタレスを軸とした、全天でも明るい星座の一つ。大きなS字型をとる、特徴的な形をしている。女神アルテミス様や、女神ヘラ様、英雄オリオン様と関わりのある神話が有名。固有名のついた星がいくつか内包されており、アクラブ、ジュバ、サルガス、ギルタブ、などなど。どこをどう関わりがあると見てヒントにつなげたらいいのか分からないが、とりあえず読んだ分は覚えた。トールさんとポールさんは、仲良く図鑑を見ている。仲良きことは美しきかな。
「ある、なにか見つかった?」
「うーん、基礎知識は得ました」
「じゃあ、それに当てはまるものを探そう!在学ってことは人間だし、一人一人に質問していけばいいかなっ」
「……………」
「……そういうことをすんなり言えるポールってすごいと思わない?」
「……ええ……」
気が遠くなる話だ、と思ってしまったのは事実だ。まず名前を聞いて、生年月日も聞いたら生まれ月が蠍座ってことがあるかもしれないし、あと蠍座に関係しているものが少しでもあれば引っかかると思った方がいい。初等部在学って何人いるんだ?
しかしながら、まあ。みつさんも言ってたじゃないか。ヒント無しだと難しすぎて見つけられないので、とか。あっちから会いに来てくれますよ、とか。とりあえず図書室にいた子に話を聞いている途中、ポールさんが振り向いた。
「あ、あれ、ぼく仲良くなった子。おーい」
「……ああ、ポールさん。突然どっか行っちゃうから、どうしたのかと思った」
「あー、ごめんね、緊急事態で」
「どうかしたの」
「人探しをしてるんだ。君、なんて名前だったっけ?」
「僕?僕はアクラブ。ポールさん、仲良くする割に名前聞かなかったね」
「忘れちゃってた。アクラブだって、ある。よろしくね」
「あー!」
「わあ!?」
「アクラブさん!?」
「は、はい」
「蠍座に心当たりは!?」
「え、あ、はい、主人が、蠍座の星の皇女で、今は教員としてここに」
「ポールさん!」
「はい!」
「ビンゴです!」
「わあ、おめでとう」
「……ああ、あなた達が、主人様と同じ、星の御子だったのか。ポールさん、そうならそうと言ってくれれば」
「アクラブは普通の人間だと思ったんだ」
「僕は普通の人間だ。主人様も、御子であらせられますが、普通の人間」
「……?」
「ええと、先輩。主人様のところへ案内しましょう。僕ら、先輩に会わなければ国へ帰れなくて困っていたんです」
では、と頭を下げたアクラブさんが、ヒントのその人だったらしい。アクラブ、蠍座の星の中の一つで、β星の二重星。初等部在学、蠍座。どっちにも当てはまる、ばっちりだ。じぶんよりちょっとだけ低い身長、真っ黒の髪、あまり感情の変化を映さない表情。ポールさんより大人びて見える。
こちらへ、と先導してくれるアクラブさんについていく。主人が今は教員、って言ってた。蠍座の星の御子、でも、普通の人間だと。なんていうか、ちょっともやもやするけど、まあ今は何も追求できない。いくつかの教室の前を通り過ぎて、辿り着いたのは職員室だった。子どもばかりのこの場所で、唯一大人がたくさんいるところ。こんこん、と扉をノックしたアクラブさんが、失礼します、と呼びかけた。
「先生。カルディア先生」
「はいはーい。アクラブ、どうしたの?」
「人を連れて来ました。星の御子様です」
「お!待ってたよー、はじめまして!」
ちょっと場所変えよっか、と微笑んだ彼女とアクラブさんについていくと、着いたのは理科室だった。他の生徒はいない。暗幕を開けたアクラブさんの頭を、気がきく子だー、となでなでした彼女が、白衣を翻して振り向いた。
「蠍座の現し身、カルディアです。理科の先生は仮の姿、本当は皇女様なんだぞ。よろしくねっ」
「皇女である主人様の付き人、アクラブと申します。宜しくお願い致します」
「双子座の、ポールだよ!こっちはトール!普段は一人なんだけど、今だけは二人!」
「……………」
「牡牛座のあるです。はじめまして」
赤い瞳、高い位置で結われた黒い髪、斜めに流した長い前髪で隠された額には印。服の隙間から少しだけ垣間見えた、鎖骨に這う赤い蠍。普段通りじゃないと落ち着かないね、と髪を弄ったカルディアさんが、真ん中分けで低く髪を結び直した。そちらの方がお似合いです、とアクラブさんが優しく笑った。おでこの印が丸見えだと子どもたちに良くないだろうと、自主的に鎖骨と額を隠していたらしい。優しい人なんだな。
「君たちに会えないと帰れないと、かみさまに言われてね。牡牛座、双子座、山羊座、魚座、あと、射手座?他はなんだったっけ」
「乙女座と水瓶座です」
「そうそう。アクラブは賢いなー、自慢の付き人だ」
「勿体無いお言葉、ありがとうございます」
「だから、他にもお友達がいたら、紹介してほしい。私の星、というか国は、ちょっとばっかし大変でね。できる限り早く戻りたいんだ」
「はい、それはいいんですが、でも」
「でも?」
「……水瓶座って、誰でしょう?」


5/7ページ