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おやすみなさい


和葉、眠い。ちぃはよくそう言いにきては、俺の隣で寝た。独り寝が嫌いとか寒いのが苦手とか、そうやってぐずぐず理由をつけてはいたけれど、一人ぼっちでも全然平気で、冬場にお布団掛けないで寝てても熟睡な奴なので、全部嘘だ。正解は、和葉に側にいて欲しい、である。そう言えたら、100点なのに。
今日も今日とて、いつも眠たげな目を擦ったちぃがそう告げるので、俺は振り向いて笑いかけた。彼を安心させるのは、骨が折れるし面倒だが、自己満足感が充たされる。振り向いた先のちぃは、俺を通り越して、俺が見ていたテレビに目を向けていた。
「いいよ、寝る?」
「……それドラマ?」
「ううん、映画」
「見たい?」
「レンタルしてきたやつだから、別に、うわ、どうしたの」
「ここで寝る」
「はっ?」
「和葉がこれを見る、俺は和葉の膝枕で寝る、和葉は終わったら俺を起こしてベッドに連れて行く、オッケー?」
「……寝れるの?」
「うん」
嘘だ。そこまで寝つきはよくない。寝れないことを俺が知ってると分かっててはっきりと嘘をつくのだから、どうしようもないなあ、ちぃくんは。
宣言通りに膝枕で横になったちぃくんに、硬くてごめんなさいね、と一応断って、再生ボタンを押した。20年以上も前の映画だ、挿入歌くらいは聞いたことがあるだろう。殺人現場を目撃してしまった女が修道院へ逃げ込み、そこで出会った下手くそな聖歌隊と仲良くなり、どうのこうの、って話。有名な曲で言うと、ヘイル・ホーリー・クイーン。こう見えて、古い映画は好きだ。ミュージカルのように歌が交えられているものなら、尚更。サウンドオブミュージックとか、何度も見返した。
「……かずはあ」
「ん?」
「これ面白い?」
「うん」
「ふうん……」
ちなみに俺と違って、ちぃはこういう映画が好きじゃない。だから、ほんとにここで膝枕でいいの?と思ったんだけど。彼の好みは、もっとアウトレイジっぽいやつだ。極道映画とか、きゃっきゃしながら見てる。マジか、嘘やろ、と俺は思う。
「……………」
「……………」
案の定、終盤ちぃはうとうとし始めた。寝れるわけじゃなくても、飽きが勝ったらしい。据わりが悪かったのか、ころりと寝返りを打って俺の腹の方に顔を向けたので、完全に見る気は無くしている。そんなもんだ。音量を落として、エンドロールまで見終わって、画面がトップメニューに戻った頃には、ちぃの目は半分になってた。暗くしてベッドに転がしたら、すぐ寝そう。
「ベッド行こ、ちぃ」
「……んん……」
「ほら。支えてあげるから、捕まって」
「……だっこ」
「無茶言わないで、腰いわす」
「おんぶ……」
「うあああ」
全体重をかけて寄っかかってきたちぃを受け止めきれずによろけると、くつくつと笑い声が聞こえてきた。お前まさか、見た目ほど眠くないな。自分で歩け、重いんだぞ。ずりずりとちぃの足を引きずりながらそう零せば、小憎たらしくにやついた声で、やだね、と返ってきた。くそ、5秒で寝かしつけてやる。


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