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はっぴーばけーしょん




普通に寝てた。はっと気づいたら、外は真っ暗で、海も寝てた。運転席の朔太郎を見れば、起きた?と目だけ向けられる。
「いやー、なめてたわ。めっちゃくちゃ道混むじゃんね」
「……渋滞してんのか。どのくらい?」
「ぜんっぜん進まない」
「マジか……」
「泊まるとこまでもうちょっとなんだけどね」
時刻は6時過ぎ。赤いランプが、長蛇の列になっている。朔太郎曰く、海も今さっきまで起きてたんだけどついに寝てしまった、だそうで。夜が心配だ。
ぼんやりラジオに耳を傾ける。沖縄のラジオ、と言われればそうだけれど、特に大差ないようにも思う。パーソナリティーの人が、沖縄出身のちょっと有名な歌手で、そこは得した気分だった。番組の中ではお悩み相談的なことをしていて、ラジオネームと、送られたメールの内容が読み上げられて、だめだ、眠くなってくる。
「どこのホテルなんだ」
「もう見えてきた。あそこ曲がるのかな」
「どれ、……………」
「お隣にご飯屋さんとかたくさんあるみたいだね」
「……………」
なんかすげえ豪華なんだけど。プールとかあるみたいに見えるんだけど。そして横にでかいんだけど。そういうことに疎い俺でも知ってるようなホテルブランドのロゴが、慎ましやかかつスタイリッシュに、壁に描いてあるような気がするんだけど。
「……ここ高いとこ……」
「え?部屋は三階だよ」
「そうじゃない!」
「だってプールついてたし」
「そんな理由で……」
「海っぺりで景色いいらしいし」
「……破産したりしないか……?」
「いくらハイクラスホテルでもそこまでのお金は取らないよ……」
普通に駐車場に入った。田舎者は帰れ!とか言われたらどうしよう。ホテルに入るのですらドレスコードあったらどうしよう。海がうるさくしたら嫌な目で見られるかもしれない、どうしよう。急にこんな身分違いなの持って来られると困るんだけど、とぶつくさ言っていると、車を停めた朔太郎が、あのねえ、と振り向いた。
「子どもが宿泊してやりやすいかどうかで選んだら、ここがいいよーって出たの。名前知ってるとこなら安心でしょ?」
「……えらい人が泊まるところだろ、ここ」
「なにで得た知識だよ、それ」
東京に出張した時に系列で泊まったから若干安いんだよ、とネタバラシされた。なんだ、じゃあいいか。ただ海がうるさくするのは避けた方が良いような気がする、お高いホテルだし、と思いながら車を降りて荷物を降ろしていると、全員男の子の四人兄弟を引き連れたお母さんがやいのやいの騒ぎながら歩いてホテルの中に入っていったので、もうなんか全てどうでもよくなった。勝手にハードル上げて悪かったよ。
「海、ついたよ」
「……うに……」
「うーみー」
「う……ぅ、に……」
「自分の名前間違えてるぞー」
そういうわけではないと思うけど。とにかく、海を起こして、フロントへ向かう。ころころ引っ張られるキャリーバッグと、寝ぼけた海。荷物を預かってくれたお兄さんに案内されて、朔太郎がチェックインしに行った。俺と海はソファーで待ってるんだけど、暗くなった外はライトアップで綺麗で、海がちょっとテンション上がって目が覚めたみたいだった。ホテルの近くに、なんかいろいろ食べられるところがあるって言ってたし、そこの光かな。結構広そう。
「おまたせー」
「おう」
「荷物みんな持って行ってくれるって。306号室、一個鍵渡しとく」
「カードなんだな」
「うみのだいじりゅっく、ちょおだい」
「はい、どうぞ」
でかいカートに荷物を積んで運んでくれてるお兄さんが、海の言葉にリュックを手渡してくれた。あともう一人、部屋まで先導してくれてるお姉さん。なにかあればいつでもお申し付け下さいね、と笑顔を向けられて、曖昧に笑い返した。そんな俺を見上げた海が、にぱー!って笑った。真似が本家を超えている。
「こちらで御座います」
「お荷物お運び致しますね」
「ありがとうございます」
「おーっきいおふとーん!」
「海、靴脱げって!」
「ふふ。ごゆっくり」
お姉さんが、ベッドにダイブした海を見てちょっと笑った。俺に首根っこを掴まれて猫のようにぶら下げられてる海は、それに気づかず、やなのー、ともだもだしている。よいしょと、って伸びをした朔太郎が、夜ご飯食べに行く?と財布をポケットに入れた。それだけで行くつもりか。
「うん、だって、すぐ隣だよ?」

ホテルから歩いて数分のところにある、小さな街のような商業施設。アメリカンビレッジ、というらしい。まるで外国に来たみたいだ、なんて第一印象。それもそのはず、外貨もある程度使えるらしい。聞こえてくる言葉も、英語交じりだ。辺りを煌々と照らすきらびやかなネオンと、ざわめく人の声。食べ物はもちろん、服屋なんかも結構揃っているらしく、夜にも関わらず人は多かった。飲みに来てる人が殆どなんだろうけど。
ホテルのフロントで、アメリカンビレッジの中の飲食店が載ってる地図をくれたので、灯りの下で、三人で頭を付き合わせて見る。行き当たりばったりよりは、これが食べてみたいとか、ここに行きたいとか、そういうのを重視したい。せっかくの旅行だしな。
「タコライスって沖縄のもの?」
「……いくつか店があるし、そうなのかもな」
「沖縄そば、は、食べたしなあ……」
「うみー、うみ、はたついてるおむらいすたべたいの」
「あー、そっか、飲み屋じゃキッズメニューはないから……」
「……………」
「……海?」
「……ばす……」
「ん?」
地図を見るのに飽きたのかきょろきょろしていた海が、あっち、ばす、にかいだてばす、と指をさす。どこだ、と二人で目をやるけれど、暗がりで見辛い。外の道に出るまでの通路があって、その向こう側のことだろうか。走って行っちゃったのか?って問いかければ、ちがーう!とまってる!だそうで。
「あそこー!ばす!」
「見に行ってみる?」
「二階建てバスなんて珍しいな」
「店探しがてら歩こうか」
「ばすっ、ばす、にかいだてっ」
どうも夜目が効くらしい海が、俺と朔太郎の手をぐんぐん引っ張って進む。バス停があるってことか?と首を傾げていた俺たちの目にも、赤い二階建てバスが見えて来た頃、朔太郎が海を抱き上げた。
「海ちゃん。ナイス発見」
「ほらあ、にかいだてー!」
「……ここにするか」
「そうね、海が見つけてくれたわけだし」
赤い二階建てバス。海の言う通り、走ってなかった、停まってた。というのも、お店だったのだ。バスの中でご飯が食べられるらしい。入り口は、バスの隣のお店。入ってすぐはバーになってて、奥まで行くとバスに繋がってて、そこからはテーブル席がいくつか。二階ももちろんテーブルがあった。大興奮の海を連れていたので、店員さんもすんなり二階席に案内してくれた。まんまバスなのに、テーブルと椅子が並んでるからどうしたってレストランで、ちょっと面白い。
「キッズメニューありますか?」
「ええ。お持ちいたします」
「航介飲む?」
「……お前は?」
「一杯ずつならオッケーってことにしない?」
「よし」
「うみ、おれんじじうす」
「さくちゃん泡盛」
「……オリオンビール」
「食べ物は?」
「お子様メニュー、お持ち致しました。おもちゃのプレゼントがあるので、後で選べますよ」
「おもちゃ!」
「お肉食べたいなー」
「俺これ」
「航介の、豚か……俺こっちにしようかな……ハンバーグ……」
「ハンバーグくれよ」
「じゃあ豚ちょうだいよ」
「あー、うみっ、うみもぶたたべる」
「海はどれ食べるんだ?」
「おむらいす」
旗は残念ながらついていなかったけれど、オムライスならば良いらしい。星型のにんじんをフォークに刺したまま、口いっぱいに頬張って満足そうにもぐもぐしている海が、俺たちがグラスを持ったのでがたがたと自分のオレンジジュースを持ち上げた。こぼすぞ。呆れたように笑った朔太郎が、海の口の中が空っぽになるまで待って、グラスの端を鳴らした。
「かんぱーい!」
「ん、美味い」
「明日は水族館に行こうかなって」
「すいぞくかん!」
「明日も運転してくれんのか」
「……ナビるから、途中交代しない?」
「構わないけど」
「さめ!くじら!ぺんぎんさん!」
「あと、海も見たいかなって。綺麗だって話じゃない?沖縄の海」
「ああ、砂浜が白くて、水が青いんだろ」
「そうそう!テレビで見るやつ!」
「しーさあは?」
「シーサー、気に入ったのか?」
「ん。かっこいい」
「新しいシーサー見つけてまた一緒に写真撮ろうねー、海」
「うん!」

お風呂も広かったので、みんなで!という海の希望にお答えして、三人で入った。ベッドもでかい。海がぼよんぼよんしても全く落っこちそうにない広さはある。ふあ、と大きい欠伸を漏らした朔太郎が、そろそろ寝よう、と電気を暗くした。
「さくちゃん、おはなしよんで」
「絵本ないよ」
「や、よんで」
「……むかしむかし、あるところに、綺麗なお姫様がいました」
お姫様は、薔薇の咲くお庭で仲良しの動物たちと遊んで、3時にはおやつを食べて、暮らしていました。お城の外には出たことが、ありませんでした。そこへ、迷子の王子様がやってきました。お姫様は大層喜んで、王子様をおもてなししました。王子様とお姫様は仲良くなって、だけど、王子様は自分の国に帰らなければならないと、お別れを切り出しました。
「……海、寝たね」
「あ、え、つ、続きは?」
「……ん、え?航介、気になっちゃう?」
「……だって、すげえ、中途半端……」
「そうだけどさ」
先は決めていないのだと、行き当たりばったりにぽろぽろ口から出ただけの話なのだと、海を撫でた朔太郎は眠たげに笑った。朔太郎が即興で作る話にしては可愛らしいなあ、と思いながら、俺も目を閉じた。続きは明日ね、なんて声を聞きながら。

「おっはよーう」
「……………」
「海の眉間に皺が寄ってる」
「眩しいんだろ……」
「つついてやれ」
「……がう……」
「口がぱくぱくしてきたぞ、お腹空いたのか」
「……ライオンの真似でもしてるんだろ」
疲れもあってか、寝起きの悪かった海を宥めて起こして。朝食はバイキングだから、すぐ機嫌は治った。朔太郎と海で選びに行かせたらポテトばっかり取ってきたので、明日の朝は俺が海を見て連れて行こうと思う。
「ではではー、しゅっぱーつ」
「しんこーお!」
「おー」
前半の運転手は俺だ。ホテルから、一気に古宇利大橋というところまで移動して、そこから水族館へ向かい、少しずつ戻ってくるようなルートになる。移動距離は変わらないので、最初が長いか帰りが長いか、の違いしかないわけで、そしたら疲れのない最初に移動しておきたいかな、って話になったのだ。
「お。桜が咲いてるね」
「……あれ桜か?」
「うん。うちの方で咲くのと種類が違うんだ」
こっちの桜は椿みたいにぼとって落ちるんだってさ、と植物に詳しい朔太郎が豆知識を披露した。通り過ぎざまによくよく見てみれば、色も違えば咲き方も違うように思えた。まだ二月なのに桜が咲いてるんだ。ちょっと感動。民家の庭に植えてある木の中にちらほら桜がある、って感じなので、しばらく走る間、あそこにも!あそこにも!って海が指差して教えてくれた。濃いめの桃色だから、目立つし。
海沿いの道に出ると、椰子の木のような背の高い樹木が増えた。防風林とか防潮林とか、そういう感じだろうか。台風も多いって聞いたことあるし。とげとげした葉っぱに、あれはなんていう木なのかなあ、と朔太郎が調べ出した。草木に対する興味がすごい。
「へえー、この辺だとよくある木みたい。アダンの木だって」
「椰子の木じゃないんだな」
「パイナップルみたいな実ができるらしいよ、食べれないけど」
「バナナとかその辺に植わってないのかな」
「南国フルーツ食べ放題になっちゃうじゃん」
「そんなもんなんじゃないのかと思ってた」
「いやあ……」
「……あ?海?」
「はあい」
良かった、起きてた。静かだから寝ちゃったかと思った。だいじリュックの中から自分で電車を出して、窓側に綺麗に並べて置いている。走っている風に見えるんだろうな。結構ぎりぎりのバランスで置いてるだろうから、急に曲がったりしたら落ちて怒りそうだ。
「ものれえる、のらない?」
「今日は乗れないなー」
「そっかー」
「海、ずっと車でもいい?」
「しょおがないなー」
「……ずっと車じゃ確かにいつもと変わんないかもね……」
「それもそうな」
しばらく走って、おなかがぐうだってー、と海がチャイルドシートの中でぐだぐだしはじめた頃、ようやく見えてきた。古宇利大橋。真っ青な海に白い橋がかかった先、古宇利島の駐車場に止めて車を降りると、一眼レフを持ってる人がちらほらといた。絵になるっていうか、写真撮りたいっていうか、残しておきたい気になるのはすっごくよく分かる。
「ごはんたべよー」
「まだ10時だよ、海……」
「おやつ」
「水族館まで行ったら食べようか」
「さめ?」
「鮫推しがすごいな……」
「ほら、海ちゃん、綺麗な景色でしょう」
「んー。そうかもね」
「雑」
海がこんな態度だからそうでもないように感じるが、ほんとにものすごく綺麗なのだ。はやくいこうよー、さめ、くじらさーん、と海が砂浜に座り込んでぶつくさ文句を垂れているので、全く感動出来ないけれど。そんなことをしてる間に朔太郎が、写真撮ろうよ!記念写真!とデジカメを取り出した。お前旅行来てから写真好きだな、と問いかければ、航介には思い出を残そうという気持ちが無いのか!だって。そう言われれば、写真って考えはなかった。海単体の写真はうちにはたくさんあるけど、三人の写真なんて滅多なことじゃ撮らないからなあ。ちなみに海は話の最中、いつのまにか変な形の木の枝を拾って、これかっこいー!とテンションがぶち上がっている。これ以上下がらなくて良かったけど、その木のどこがそんなにかっこいいのか俺には分からん。
「三人で、誰かに撮ってもらお」
「ちゃんとしたカメラ持ってる人は写真撮るのも上手いんじゃないか」
「そんな風に見える。俺はあのお姉さんを信じる」
「声かけてこいよ」
「うん。あのー、すいませーん!」
朔太郎が声をかけたのは、大人しそうな見た目で大きいリュックを背負ったお姉さんだった。びゅおんびゅおん木の枝を振り回している海を宥めている間に、写真を撮ってもらう了承は得られたらしい。朔太郎の携帯を渡して、海岸と古宇利大橋をバックに三人で並んで、海に揃えるのか海を抱き上げるのか、抱き上げるんだとしたらどっちが抱くんだとか、揉めてる内にお姉さんが噴き出した。
「ふ、っふふ、仲良しなんですね」
「すいません、お願いしといて……」
「いえ。楽しそうな写真が撮れました」
「えっ!?」
「いつ撮ったんですか!?」
「今です、今。ふふ、ちゃんとしたのも撮りますから」
かくして、がちゃがちゃ言ってて誰もこっち見てないいつも通りの写真と、ちゃんとカメラ目線で笑顔を浮かべている写真を、お姉さんに撮ってもらった。2枚目は至って普通普遍だけれど、1枚目はお姉さんが言う通り、楽しそうな写真だ。携帯を返してもらってお礼を言うと、お姉さんがぽんと手を打った。
「そうだ。見晴らしがいい場所がもう一つあるんですけど」
「……お姉さん、地元の方ですか?」
「いいえ?ただ写真を撮りに来た観光客です。あの高台、登れるんですよ。あそこからだと海が見下ろせて綺麗なので、おすすめです」
「へえ」
「うみー?」
「ありがとうございます。行ってみようか、せっかくだし」
「展望台みたいなもんなのかな」
「うみのはなし?」
「青くて広い方の海の話してる」
「うみ?」
「海ちゃんは青くないし小さいでしょー」
「ちーさくない!うみ、おにいさん!」
「家族旅行ですか?いいなあ」
「はい。お姉さんは一人旅です?」
「そうですね。海の写真を撮りに、いろんなところを回ってるんです」
「うみ、うみだよ!」
「ぼくのお名前、うみ、っていうの?良い名前ね」
「うん!うみ、いい!」
「どちらからいらしてるんですか」
「ええと……この前までは、四国の辺りにいたみたいです。その前は、東北に」
「転々としてるんですね」
「俺たち青森から来たんですよ。来たことあります?」
「青森……ええ、はい、確か……」
カメラをかちかち弄ったお姉さんが、ここに行ったことがあります、と、なんだか何となくものすごい見覚えのある写真を見せてくれた。観光地でもあるまいし似通った場所はいくらでもあるかもしれないけど、予想が外れていなければ、かなりうちの近くっていうか、なんていうか。そうなんですかー!へえー!って朔太郎が話を終わりにした。ド近所かもしれません!とは言えないからな。
「お世話になった方がいるんです。覚えていられないのが、勿体無いくらい。青森には、またいずれ行くつもりでいるんですよ」
「また来た時には、どこかでばったり会えるといいですね」
「かめらのおねーさん、ばいばーい!」
「ばいばい」
「またおしゃしんとってねー!」
「ええ、ぜひまたね」
海を真ん中に手を繋いで三人で歩き出した時、かしゃり、とシャッターの音が聞こえた気がした。後ろ姿だし、構わない。むしろ、あのお姉さんがそうしたいと思ったならそうするべきだと、なんとなく思った。
教えてもらった通りに、草の茂った細い階段と坂道を抜けて、展望台へ登る。そんなに長く登ってないが、大変だった。なんでって、お姉さんが教えてくれた割にここまで来る人はあんまりいないのか、草はびよんびよん生い茂り放題だったからだ。思わぬところでのプチ探検に、海は大喜びで、掻き分け掻き分けずいずい進んで行く。海が押しのけた長い草がびよんって跳ね返って、後ろにいた朔太郎に当たって、また海の草が朔太郎に当たって、5度目くらいで顔に直撃した。呻いてた。6度目は、頂上に着いたので無かったけれど。
「わあー!」
「……すげ」
「一周まるまる海だー」
「うわーあー!」
「海、ほら、海」
「いやー!うみはしってるー!」
「見ろよ!海を!せっかくなんだから!」
「ぎゃーん!」
上がったテンションのままにぐるぐる回っていた海が、何故か半ギレの朔太郎に抱き上げられて暴れている。もう見たくなかったら見なくてもいいよ。本島とこの島を繋ぐ古宇利大橋が宙に浮いてるように見えるくらい真っ青な、一面の海。潜ったらもっと綺麗なんだろうなあ、とぼんやり思った。夏来ることがあったら、やってみたい。デジカメで写真を撮った朔太郎が、いいなあ、ちゃんとしたカメラ、かっこいいなあ、とぼやいた。壊すだろ、一眼レフなんかあったところで。
「うん、壊す自信ある」
「無駄じゃん」
「でも想像して、一眼レフを構えてる俺。なんて素敵」
「……………」
「……………」
「……想像上の海を同席させた途端にカメラが駄目になる」
「そうだな……」
「うみここにいるー」
「ああ、変なとこ行くなよ、あ!?」
「きゃああ!落ちる落ちる!やめて!」
「あなぽこ」
「穴に気軽に入らないで!」
柵の隙間の穴に潜り込もうとしていた海を引っ張り出す。その穴を抜けた先、転げ落ちたら海だぞ。やめてくれ、心臓に悪い。くだらないことくっちゃべってた俺たちも悪い。朔太郎なんかすごい高い声出たし。
「うみたのしーい」
「……冷や汗すごい出た」
「りょこー、さいこー!」
「楽しみかたが違う……」


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