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幸せはこの手の中に



「……おじゃま、します」
「どーぞ!」
ピンポン押したらすぐに玄関の鍵を開けてくれた、俺より少し背の高い茶色が笑う。夕日を反射して、耳に刺さった金属が光った。またピアス増えたのかも。なんにせよ、変わりなく元気そうでなによりだ。会うの半年ぶりぐらいだから、ちょっと心配してた。なんで心配してたのかと言われれば特に理由はないんだけど、伏見と二人でどっかにふいっと消えそうな予感がしてならないのは事実だから。はいよ、とスリッパを出してくれた小野寺が、自分は裸足で中に入っていく。
「冷蔵庫の中、何使ってもいいってさ」
「伏見帰ってこないんでしょ?」
「うん、特番の準備で忙しくて。でもほら、作り置きとか、ね」
「……ああ……」
「弁当ならそういう器用なこと出来るかなーとか、ねっ!」
小野寺と伏見の家にどうして俺がいるのか、もっと言えば、どうして冷蔵庫の中身云々、作り置きが如何、って話をしてるのかと言えば、話はまあ多少遡って。
暫く前、伏見と有馬が浅知恵な悪巧みをして俺を嵌めたことがあって、そのなんだかんだの時に、色々あった挙句最終的に俺は小野寺を呼び出して、二人で小旅行へと旅立ったのだ。ちなみに、温泉に行った。その時、まあ二人で話すなんて大学出てからは滅多にないわけで、ぶっちゃけ結構楽しかった。伏見と小野寺の関係性をなんとなく察してはいたものの何も言わなかった俺と、全く何も知らなかったところから突然伏見に「あの二人付き合ってるからね」とだけ言われ「そっかー!」と納得した小野寺。前振りがないから、気兼ねもない。ので、話しやすい。お互いもっと早く暴露しておけば良かったのではないか、そしたら相談相手として適切だったのではないか、と今更ながらに思う。きっかけ、というか、細かく突っ込んで聞く機会だって、それなりにあったわけだし。伏見と小野寺が家事できない同士で二人暮らしを始めるにあたって料理を教えたりした辺り、とか。
大学出る前、伏見と小野寺がいろいろごたごたしたインフルエンザ事件の話も、詳細は小旅行の時に知った。その時に、また料理を教えてほしいとか、今度はどっちかの家でゆっくり飲もうとか、そんな話をしたのだ。実際に現実として実行に移されたのは半年後になってしまったけれど、連絡はちまちま取ってた。そして、経緯は忘れたけど、どうしてだったか、小野寺と伏見の家で二人で飲み会、つまみ作りは俺、材料類の用意と酒の調達と場所の提供は小野寺、ということになった。伏見がいない日をチョイスしたのは小野寺だ。聞かれちゃまずい話をしたいのだろうか。
これ使って、とエプロンを放られて受け取る。料理してるよ!とは聞いたけど、エプロンが綺麗だ。疑わしい。冷食は料理じゃないぞ。エプロンつけて冷蔵庫の中を一応見ると、結構いろいろあった。逆に迷う。
「……なに使ってもいいって、なに作ったらいいの」
「まかす!」
「そう言われても……」
「伏見が食べたいって冷凍の海老買ってきたから、それは作り置きにしてあげたら喜ぶかも」
「俺の立ち位置はなに、親?」
「お礼はしますんで!」
「料理は嫌いじゃないから、別に構わないんだけど……」
とりあえずざっくり献立を決める。今食べるのはつまみだから、まあ適当にやればいい。伏見の海老は、冷凍庫を見たところ、結構な量があった。しかも、下処理が全部してあるタイプのやつだ。割高だから俺は買わない。金持ちめ。そして、どうせこれを放って帰ったところで、自分じゃなにもしないんだろう。俺が来るのに合わせて買ったとしか思えない。形から入る伏見らしく、調味料はそれなりに揃ってた。あんまり使った形跡はない。なににしようかな。
「海老どうするの?」
「……とりあえず、二人分はエビチリ作る」
「おお」
「残りは考える」
「そんなにたくさんあった?」
「買いすぎだって言っといて」
「はあい」
対面のカウンターキッチン、いいなあ。食洗機備え付けだし、収納めっちゃあるし。うちは安アパートなので、小野寺伏見家と比べると、至る所に雲泥の差が見える。賃貸なんだと思うけど、家賃いくらするんだろ。そこまでは聞いてない。
海老の背ワタ取りをしなくて済むのは楽だ。水に晒して解凍しようと思ったら、カウンターに肘をついて見ていた小野寺が、こうしたらいいんじゃ?とレンジに突っ込んで解凍ボタンを押した。うちにはないんですよ、そういう便利な電子レンジ。ちょっとお値段が高くても楽ができそうな良い家電が揃ってるこの家だからできることなんですよ、そういうの。なんて小言は飲み込んだ。材料入れたら調理してくれる鍋みたいなの最近あるじゃん、あれ買えば良いよ、もう。お金出せるんだから、おすすめするよ。
「……なんで見てるの」
「覚える!」
「じゃあ、教えるからやってみたら」
「ううん、俺、見れば覚えられる」
「そんな頭良くないでしょ」
「見取り稽古は得意なの!」
「はあ」
「高校生の時にねえ、伏見いっつも、見てろ!って俺に怒って、見てると俺も覚えようとするから、えへへ」
照れポイントが分からない。小野寺が伏見に怒られてるって話にしか聞こえなかったけど、俺の受け取り方が間違っているんだろうか。ねぎを刻みながらぼんやり思う。
小野寺と二人で話せるようになったことで面白かったのは、小野寺から見た伏見は俺から見た伏見と別人のように受け取られていることだった。俺から見た有馬も、多分そうなんだろうけど。惚れた弱み?とかいう、そんなもんなのかな。小野寺からは、伏見がかわいい、とにかくかわいい、どこをどうとっても最高にかわいくて自分は幸せ者である、なんて話しか出てこない。ちなみに、小野寺も話しっぱなしってわけじゃないので、弁当も有馬の話してよ、と強請られるのだが、俺からは同じように「有馬が可愛い♡」なんて話は一切出来ない。頭が悪いエピソードをつらつら話すくらいのもんだ。本人が知ったらショック受けそう。小野寺は大笑いしてくれるけど。
鶏がらスープの素と、ケチャップ、水、砂糖、片栗粉、塩。適量ずつボウルに入れて、混ぜ合わせる。分量とか説明しなくて覚えられるの?と小野寺に聞けば、でも弁当も適当じゃん?と返された。なんとなく、このぐらい入れたらいいかな、ってのが分かるから今は適当にやるけど、慣れないうちはちゃんと計ってた。でも小野寺、勘は良いから、平気かも。伏見は目分量だめそうだ。
「そういえば、あの後小野寺、どうしたの」
「ん?」
「温泉から帰ってきて、別れた後。伏見連れて帰って、ちゃんと叱ったの?」
「うん!ちゃんとお仕置きしたよ!」
「……おしおき……」
「泣いてた!」
「……………」
「なにしたか聞きたい?」
「全然、ぜんっぜん聞きたくない、いい、遠慮する」
「そう?」
危ない、手が滑ってボウルの中身が溢れるところだった。怖すぎる。あの伏見が泣くって。お仕置きって。殴る蹴るじゃないとは思うけど、じゃあなんなんだって、怖いから想像したくもない。
にんにくを刻んで、解凍したえびの水気を取って、片栗粉をまぶす。小野寺は基本じいっと見てる。見取り稽古、って言ってたっけ。確かに学ばれている感はすごくある。学ばれている、というか、コピーされている、というか。弓道ってそうやって練習するの、と問い掛ければ、普通に返事が来た。あれだけ集中してても会話はできるんだ、器用だな。
「それだけじゃないけど、方法の一つっていうか。でも、見取りは伏見のが上手だよ。俺はそれを真似してるだけ」
「じゃあ、伏見も俺が料理するの見てたら同じように出来るってこと?」
「料理は勝手にアレンジしようとするから無理じゃないかな……弓道に関してなら、完コピできるけど」
「上手な人のやり方を真似すると、上手になるの」
「なんていうかな……完璧な人はいないから、上手な人の良いところを見取りで盗んで、自分の射形に取り入れていく、って感じかなあ。だから、伏見の立ちはすっごく綺麗なんだよ」
「一回見たことある。練習してるとこ」
「かっこよかったでしょお」
「……うん。上手く言えないけど、凛としてるってこういうことかなって、その時思ったの覚えてる」
「ふふー」
伏見が褒められて満足そうだ。大学生の時、一回だけ、伏見が弓を引いてるところを見たことがあるのを思い出す。余分な音の無い、一人きりの時間。何も知らない自分でも羨ましくなるような、完成された絵。あれを見せてもらった自分は特別なのだとつい思ってしまうくらい、強く焼き付いている。大会とかにちゃんと出てたのは高校の時までで、大学生になってからはただの趣味、と本人も笑っていたけれど、勿体無い。ちらほら垣間聞いた話から推測するに、相当ストイックに作り上げてきた完成形だろうに。本人が趣味に落ち着けたいのならば、それに俺は口出しするつもりはないけれど、小野寺は、続けて欲しい気持ちは無かったのかな、なんて思ったりして。
「有馬は働きマンだったから部活してなかったんでしょ?」
「そうらしいね」
「バイトかー、高校生の時ちょっと憧れたけどな」
「ファミレスとかやったって言ってた」
「あー、似合う。やってそう」
熱した油に刻んだにんにくを入れて、香りが出てきたら海老を炒める。お腹減る匂いだー、と小野寺が眉を下げて笑った。うん、俺もお腹空いてきた。これを作り置きにしなければならないのが悔しいくらいには。
海老の色が変わったら、豆板醤を入れて、ねぎも入れて、酒をふる。ケチャップその他を混ぜたものも入れたら、とろみがつくまで炒めて、完成。明日の夜ご飯にでもしてもらいたい。一つ味見、と小野寺が指を伸ばして、無言で跳ねている。美味しく出来たならなによりだ。
同じくえびで、きょうのおつまみ。おろしにんにくのチューブがあったのでそれと、オリーブオイル、今日飲む用の中ではなく冷蔵庫の中にあった飲みかけと思しき白ワイン、塩、粗挽きの黒胡椒。全部混ぜて、冷蔵庫で寝かせる。にんにくのチューブ、使い勝手いいよね。ぜひとも冷蔵庫に常備しておきたい。
あと困ってるものはあるか小野寺に聞いたら、鶏肉を買ったけど何にしようか迷ってる、そうで。そのまんまじゃそう長く持たないから、塩鶏にしてあげよう。今日のつまみにもなるし、ちょっといじれば使い勝手いいし。
「作り置きその2」
「お腹空いた」
「……………」
悲しげな顔の小野寺と大きめのお腹の音に、ちょっと心が痛んだので、平行でおつまみも作ることにした。エビチリ食べちゃったら伏見怒りそうだし。
まずは塩鶏。鶏肉はフォークで刺して穴を開ける。塩と酒と砂糖をふりかけて、平らにラップで包みながら、水っぽくなくなるまでよく揉み込む。ここは小野寺も手伝ってくれた。ラップできちんと包めていることを確認して、沸騰したお湯に中火で5分くらい。火を止めたら、落し蓋と鍋の蓋をして、冷めるまで放置。以上。簡単なのでうちでもよく保存している。
鶏を茹でている間に、れんこんの皮をむいて縦に薄く切る。軽く水洗いして水気を取ったら、オリーブオイルとバターで炒める。れんこんが透き通ってきたらぽん酢をかけて汁気がなくなるまで炒め混ぜ、鰹節を乗せて完成。冷蔵庫に残しといたところで使わなさそうなれんこんから作ったけど、れんこんなんてあった?と小野寺も首を傾げていたので、正解だったようだ。忘れるなよ、自宅の冷蔵庫の中身を。味見、と一口食べた小野寺が、また跳ね回っている。気に入ると跳ねる仕組みらしい。
「んー!んんー!」
「……簡単だから、伏見でも作れるよ」
「ん?伏見れんこん好きじゃないよ」
「……………」
なんでれんこんが野菜室に入ってたのか、尚更不明である。早く一緒に飲もうよー、といそいそグラスとお酒を用意し始めた小野寺に、一品じゃすぐ足りない足りないって騒ぐでしょう、と冷蔵庫をもう一度開ける。あとちょっと。
「楽しくなってきてない?」
「別に」
「……絶対ちょっと楽しくなってるでしょ……料理番組みたいになってるもん……」
「汁物欲しくない?」
「早く食べようってば!」
しょうゆ、胡麻油、炒りごま、唐辛子、おろしにんにくを合わせて混ぜる。食べやすい大きさに切ったにらともやしを軽く茹でて、水を切ったら熱いうちに調味料と混ぜる。これで簡易ナムル完成。それが冷めるまでの間に、ねぎをみじん切りにして、胡麻油、レモン汁、味の素、塩胡椒と混ぜて、薄切りにした塩鶏の上に乗せる。ねぎ塩鶏の出来上がり。早茹でのマカロニがあったので、オリーブオイルでざっくり炒めて、キッチンペーパーに取って余分な油を落としたら塩胡椒と粉チーズで味付けして、揚げパスタ風マカロニ。キャベツとにんじんを食べやすい大きさに切ってしんなりするまで炒め、水と出汁でスープを作る。冷凍庫にあった鶏肉団子を入れて、卵を一つずつ落として、味噌をといたら、具沢山味噌汁。最後に、さっき寝かせたえびを炒めて、ガーリックシュリンプ。このぐらいあれば充分だろうか。小野寺がそろそろ空腹で溶けそう。それでも作ってる工程をしっかり見てるのはすごいけど。
「……………」
「このぐらいあればいいかな」
「……天才……」
「簡単なのばっかりだよ」
「弁当でも最高に難しいとかそういうの存在するの?」
「……材料が入手できないものとか」
「ローストビーフとか?」
「お肉の塊があったらローストビーフも作れるよ」
「……シェフじゃん……」
「漬けとくだけでできるやり方があって」
割愛。お肉もあるし、スープもあるし、マカロニあるし、野菜もあるし、えびもあるし。おつまみとしては豪華なくらいじゃないかと思うけど、小野寺はよく食べるから足りなかったら困るな。さっき冷蔵庫の中にご飯はあったから、出汁茶漬けでも炒飯でも作ってあげよう。
「いただきます!」
「いただきます」
「随分たくさんお酒買ったんだね」
「弁当がたくさん飲むと思って」
「……どうだろうか……」
有馬然り、小野寺然り、食いっぷりがいい相手に料理を作るのは楽しい。美味しそうに食べてくれるよなあ。残りの塩鶏もねぎで食べようかなあ、と幸せそうに言われて、他にもいろいろできるよ、と一応教えた。これがあると、棒棒鶏とか、チキン南蛮風とか、いろいろ。
「テレビ見る?」
「……どっちでもいいよ」
「あ、クイズ番組やってるよ」

「あのねえ、べんとお……あき、ふしっ、あきはねえ……ふし、ふふ……」
「……小野寺、お水」
「ふふ……ぐすっ……ふへへ……」
泣くか笑うかどっちかにしてくれ。ほとんど一人でつまみを食べ切って、お酒も相当飲んで、べろべろになってしまった小野寺は、幸せそうにへらへらしている。泣き上戸なのは知ってたけど、それに輪を掛けて惚気話をするので、ふにゃふにゃだ。伏見がいない日をわざと選んだ理由が分かった。いなくちゃできない話をしたいとかそういう後ろ暗い理由じゃなくて、伏見がいたって構わないけどこうなるのを予測するとちょっと恥ずかしいからやめとこう、みたいな感じ。コップに入ったお水をぐーって飲んだ小野寺が、涙を流しながらにまにまして、あのねえ、と口を開いた。ちょっと溢れてるから、水。
「あき……ふしみは……ぎょーざ、作ってくれるんだけどお……」
「……教えたやつ、ほんとに作ってるんだ」
「うん、でも、何回やっても、皮がぐちゃぐちゃになってえ……ふふ、かわいい……ずたずたの皮、手にくっつけて、悲しくなってるあきひと……うふふ……」
「……………」
上達してないんかい。声に出して突っ込みたかった。我慢した。あと、さっきから名字と名前をごちゃ混ぜに小野寺が呼ぶので、俺は久方ぶりに伏見の下の名前が「あきひと」だってことを思い出した。漢字、どんなんだったかな。小野寺は書けるのかな。その辺にあったメモとボールペンを手渡すと、ずびずびしながら顔を上げた。
「小野寺。伏見の下の名前、漢字で書いて」
「ええ……あき……ひ、と」
「……字が汚い……」
「お、の、でら……うふふ……」
自分の名字を相手の名前にくっつけるとか、中学生みたいなことしないでくれ。また突っ伏してしまった小野寺が、ぽそぽそと喋り出す。
「あきがこの前、お洗濯たたんでくれたの」
「……伏見が家事をしているところ、俺ほんと想像できない」
「干すのとたたむのは俺よりすーっごいじょうずだよ。あらうのは、へた」
「……洗濯機で洗うんだから、下手とか無いでしょう」
「んーん。むりやり全部ぎゅーって押し込んで洗濯機ぴーぴーゆわしたり、ごみ取りネットみたいなのくっつけ忘れてそのまま洗ったり、ポケットにペン入れたまま洗濯機に放り込んで回したり、する」
「……そりゃ下手だ」
「そんで、たたんでくれたの。俺みてた、あきがおひさまの中でお洗濯たたむところ」
あそこで、と指さされた窓の横。今は夜になってしまったけれど、確かに日中なら日が差し込んで明るい場所なんだろう。その、言ってしまえば一家に一つはあるであろうなんの変哲も無い場所を、おひさまの中、って言える小野寺の言葉の選び方が、俺は好ましいと思った。暖かくて柔らかい、とてもいい場所に思えるから。
ぽつぽつ、小野寺が零すのは伏見の惚気話ばっかりで、でもすごく柔らかくて優しくて、聞いていて楽しかった。あと、酔っ払ってる小野寺は、俺にお返しの惚気話を要求してこなくていい。蜂蜜のような甘い声が、酩酊のせいで途切れたり繋がったり、言い直したり言い間違えたり、笑ったり泣いたり。うん、うん、って重ねられる自分の肯定の中には、「それ分かる」がこれでもかと言わんばかりに、盛り込まれているわけで。
「あとねえ」
「うん」
「あきが、俺の服パジャマにするの、今までもずっとそうだけど、いま、今はなんか、ちがって、すき」
「……パーカー的なのとか?」
「うん。うーん、ちがうのも」
「ぶかぶかなのがいいみたいなこと、前言ってたじゃない」
「……そうだけど、そうじゃなくて……うーんと……」
「ん」
「おやすみの日起きて、あきが俺の服着ててそのまんま、ねぐせの頭で買い物行ったり、……んふふ」
「うん」
「ふふ……あき、かわい……ふふふ……」
「……思い出し笑い?」
「ん、うふふ」
「二人一緒のお休みってあるの」
「んー、ちょっとだけ」
「買い物行ったり?」
「そお」
「お布団干したり」
「あと、ふた、二人でだらだらしたり、あと、お茶飲んだり、ねたりする」
「……うん」
「わかる?」
「分かるよ」
「えへへえ」
「お水飲む?」
「おいひい」
「……自分で今度作って、伏見に食べさせてあげなよ」
「うん。これなに?」
「揚げパスタもどき」
「あき、すきかなあ。俺の好きなもの、好きになってくれるかな」
ふにゃ。笑った小野寺が、そのまま寝た。おやすみなさい。



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