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☆すてらびーた☆学パロ編



「すみません……そんなに怒らせるとは思ってもみなくて……」
「ドンマイ、みつ。みつの良いところは真面目で素直で正論が言えるところ、みつの悪いところは相手の気持ちの理解能力がまだまだ成長途中なところ。ぴな、みつの通信簿にそう書いたからね」
「ピスケスの沸点が低いのもいけないぞ。椅子で殴りかかろうなんて」
「殺そうと思いました」
「こら」
「う」
サジタリウスさんにぺしりと額を叩かれたピスケスさんが、口を尖らせて黙る。良かった……特権封じのお陰で椅子を振り上げるくらいで本当に良かった……つい先日までこの人に幾度となくずたぼろにされ、凄惨なバトルを繰り広げていた身としては、心の底から安堵しているじぶんがいる。
それじゃあ行きましょうか、と言ったみつさんに、ピスケスさんがつんとそっぽを向いた。天邪鬼。自分が偉いので、人の言うことは基本聞きたくない。ピスケスさんの行動原理に則ったとてもあるあるな発想である。しかしながら、じぶんはピスケスさんの螺子巻きをしているわけで、彼女が不貞腐れてつーんとしてる時にも言うことを聞いてくれる攻略法を、知っているのである。コリンカさんが、じぶんに大人しくついてきているピスケスさんを初めて見た時には、すごく潜めた声で「なんの弱みを握ったんだ……?」「悪いようにはしない、ヒントだけでも教えてくれたらお姉さんは嬉しい」とぼそぼそ言われた。弱みなんか握ってません。
「ピスケスさん」
「ふん」
「ピスケスさん、一緒に行きましょうよ」
「薇も持たない貴方の言うことなんて、もう聞きません。ここにいる限り自由なんですから、しかも長ですよ、長。私の黄金像を門の前にでかでかと立てるまで居座るつもりですから」
「それ逆に恥ずかしくない?」
「さじ、しーっ」
「そんなこと、僕は恥ずかしい……」
「……とにかく!私、もう貴方たちの言うことなんて、金輪際絶対に聞きませんから!」
「頑なだなあ」
「この扉から一歩も出ません!正々堂々、引きこもってやります!」
「それじゃあ像の建立も無理なのでは?」
「うるっさい!黙れ!」
「……じゃあ、じぶんたちは行きますね」
「えっ?いいのかい、ある」
「はい……仕方ないですもんね」
「ふふん、私を動かすことなんて、貴方如きに出来るわけないんですよ。草食獣が偉そうに」
「……一人ぼっちで、ここに……何があっても知りませんからね……」
「……?」
「なにかあるのかー?」
「ぴなさん、先に行きましょうね」
「なあ、あるー、なにがあ」
察したみつさんが、余計な口を挟みかねないぴなさんの手を引いて教室を出て行った。サジタリウスさんが、じぶんと、ピスケスさんと、行ってしまった二人を見比べて、おろおろしている。良い人。なにがあるんだい、と聞いてくれたサジタリウスさんに、ピスケスさんまで届くかどうか微妙な音量で話す。ピスケスさんは聞き耳を立てざるをえない。よーく聞こえるように、聞かざるをえないわけだ。
「学校っていう場所は、よく出るんですよ。お化け」
「ああ、ゴースト?それくらい、よくあることだろう」
「残留思念ですからね、人の多い場所に残りやすいのは当たり前ですし……でも、ほら。今ってじぶんたち、特権使えませんし、人間とほぼ同じなわけですし、もし悪いお化けに襲われでもしたら」
「そっか、それは困るね。僕も、そういうの全て引っ括めて好かれやすい性質だけど、矢で追い払ってきたからなあ」
「だから一人で残って何かあっても知りませんよって、ピスケスさんに言ったんです」
「大丈夫かな?」
「平気なんじゃないですか、生徒会長ですし」
「そっかー」
がらがら。扉を開けて出て行こうとすると、ぱたぱたと小さな靴音と共に、背中が引っ張られた。わざとゆっくり振り向くと、ピスケスさんが、ぷるぷるしながらじぶんの制服をつまんでいて。
「せっ、生徒会長として?貴方みたいな蛮族を野放しにしておくのは、他の生徒に悪影響ですし?やっぱり、私が行かないといけないとダメなんだろうなあって気になってきたりとか、してきましたし、しょうがないですから」
「ピスケス、幽霊怖いの?」
「怖いわけないじゃないですか!あんな残り滓ごときが!」
嘘だ。ピスケスさんの天敵は、お化け、もしくはそれに類する「科学的に根拠のない曖昧な何か」である。ピスケスさん自身は魔法を使えるし、それに則って産み出されたものに対して恐怖は感じない。しかしながら、ピスケスさんの星はついこの前まで、魔力が枯渇していて、住む人々は科学を発展させて生きてきた。そこに魔法の介入する余地はなく、完全に全てが手のひらの上で統治されてきたのだ。しかしながら先日、じぶんがちょろまかしたせいで、魔力が供給される星となった。人間たちは割とすぐに慣れ、それなりに暮らして行く。一番弊害を被ったのは、ピスケスさんだった。例えば一番多発した被害としては、魔力が空気中に満ちたことで、残留思念体、サジタリウスさんの言葉を借りるならばゴーストが、その辺をふよふよしてしまうようになったのだ。そんなちっぽけな、思い出の残り程度のお化けからでは、害を為す悪霊なんて、滅多なことでは生まれない。それでも「なに今の、びっくりした」くらいの感情を振りまくことはできるわけだ。例を挙げると、ポルターガイストとか。かわいそうなピスケスさん、自分が行使する以外の魔術耐性が無いばっかりに、星の主人であるにも関わらず、弱いお化けに散々からかわれて、びっくりさせられて、怒りとか悲しみとか通り越して、お化けは怖い、ってのだけ、はっきり刻みつけられてしまったようだった。それを知っているからこそのハッタリだったんだけど、上手く行ってよかったと思う反面、こんなに怖がるとも思ってなかったので心が痛む。しかも、ほんとにお化けが出るかなんて知らないしな。
「おー、せーとかいちょー」
「……聞きそびれ続けましたが、この女とあの男は一体なんなんですか」
「ええと、サポートキャラのみつさんとぴなさんです」
「……盾代わりにはなりそうですね……」
人の背中で、お化けに襲われた時のシミュレーションをしないでくれ。

「基本的には、誰がどこにいるのか、プレイアブルキャラクター扱いのあるさんのスマホで見られるようになってます」
「すまほ……」
「今はみんな一緒のところに表示されているはずですね」
「……どこ、ど、どれです?」
「貸しなさい駄牛が」
みつさんの説明におろおろする自分の手からスマホをひったくったピスケスさんが、ここをこうしてこう、とすいすい操作してくれた。流石は科学都市の主人であるだけある。サジタリウスさんは、その薄っぺらいのさっき落として割れた、と困り顔で見せてくれた。思ってたよりばきばきだった。
「中等部にはあと一人います。レオさん、ですよね?」
「はい」
「ですけど、彼女、彼?に関しては、地図上に表示されないことになっています。ここに降ろされる前のスキルが少なからず影響しているんでしょうね」
「ああ……たしかに、レオさん、かくれんぼ得意だから……」
「ですので、申し訳ないんですが、自力で探す形になります。心当たり、ありますか?」
「……うーん」
ピスケスさんとサジタリウスさんは、レオさんとの親交がほぼ皆無と言って差し支えない。というか、レオさんの場合そもそも誰かと関わること自体が少ないのだけれど。心当たり、と言われて少し考える。小さい画面の地図を見ながら、この中だったらレオさんはどこへ向かうだろうか、と。いつものあの、寒くて固くて冷たくて、でもどこか神々しい神殿と、レオさんの星の子どもたちのことを、思い出しながら。
「……行きましょう」

「レオさん」
「……ある?」
「……こんなところに……」
「?」
正に、こんなところに、である。現在地、校舎から出て校庭の反対側に向かった先の、うさぎ小屋である。漏れ聞こえてくる喧噪は届くけれど、人っ子一人いない。らしいといえば、らしいかも。
行きましょう、とか自信満々に言ったじぶんだったが、みんなを連れて意気揚々と向かった場所はもぬけの殻だった。いやまあ一応、理由ありきで行ったんですけどね、家庭科室。レオさんスープ喜んでたから、食べ物が関係するところにいないかなあ、とか。鍵閉まってましたけどね。ぶっちゃけ、じゃあ次!って向かうところ全て大はずれだったわけで、ピスケスさんには呆れ通り越して無感情なあの蒼い目を向けられたし、サジタリウスさんも苦笑いだった。そりゃそうだ。そしてもう最早らちがあかなくなって、一旦全員ばらばらになってレオさんを探すことになったのだ。見つけ次第連絡を、ということで、スマホを使った連絡手段を、ピスケスさんが繋いでくれた。サジタリウスさんのばきばきスマホは、まだあれでも生きているらしく、一応使えることには使えた。だから、みんなに連絡しなくっちゃ。
「……えと……れお、さん、いま、した」
「……私を探してたの」
「はい、実は……うーん、これで出来たのかなあ……」
「なあに、それ」
「すまほです。色んなことができる機械です」
「……機械。苦手」
「レオさんもこれ持ってるはずですよ」
「……………」
ものすごく嫌そうな顔。多分自分の身体検査なんてしてないだろうから、いつのまにそんなものを持たされて、って嫌悪の顔だろう。
レオさんの星の子どもたちに会いましたか、って話をしたら、一応頷かれた。顔は見た、らしい。ということは、まあそうだろうとは思っていたけれど、お話はしていないってことなんだろうな。レオさんの性格からして、自分の星の人間が同じ立場になったとして、関わりに行くタイプではない。かといって、無碍に扱うわけでもなく。多分、今までもこれからも、何があったとしても、彼ら彼女らに対してのレオさんの関わり方は「見守り」一択なのだろうなあ、ということだ。人間たちと一緒に星を作り上げ発展させてきたピスケスさんと、信仰対象としてそこにただ存在し時々力を振るってきたレオさんは、そこが違う。この立場になっても、レオさんはきっと人間と関わらない。見下してるとか、嫌いとか、そういうんじゃなくて、ただただ見ていたいだけなのだと思う。
レオさんはうさぎ小屋の柵の中に侵入して、まるで自分もうさぎの一員かのように混じっていたので、スマホをポケットに戻して、じぶんも中に入る。白いもふもふと、茶色っぽいもふもふ。ポールさんが喜びそうだ。
「かわいいですね」
「……私の星では、こういう生き物は、生きられない」
「……寒いですもんね」
「うん……」
「レオさん、どうしてここに?」
「……騒がしいところは、好きじゃないから。……でも、こう、ここは……」
レオさんが、ぼんやりと宙を見上げた。柵越しに、青空が見える。どこからか、微かに聞こえる、楽しげな笑い声。陽射しは暖かく降り注いで、風が吹き抜けた。うさぎの匂いがする。うん、と頷いて目を閉じたレオさんが、少し笑った。
「私は、好きだな」

「ミッションクリアなのだー!」
「おめでとうございます」
「ぴなからのおいわい!はい!」
「……なんですか?」
「せーとかいしつの鍵!」
「わあ」
「どうしてそれを!?」
「みんなの溜まり場にしよおぜ!」
「駄目です!何言ってるんですか、私の唯一の救いを、駄目に決まってるでしょう!」
「でもでも、お化け出るんですぜ、せーとかいちょー?一人っぽっちでいる方がやべえと思うんだけどなー、ぴなってば天才っちだから!」
「ぐぐ……」
天災の誤記ではないだろうか。
ミッションクリア報酬として、ピスケスさんの憩いの場であった生徒会室は、じぶんたちの集会場となった。うさぎ小屋にいたレオさんも、不承不承ながらに来てくれた。ピスケスさんは窓の外に向かって仁王立ちして偉ぶりながらいじけている。サジタリウスさんはばきばきのスマホをいじくっている。ここに集まっていて、ぴなさんの言う通り溜まり場にしていてくれるのなら、探す手間が省けていいかもしれない。
「今後は、僕らもここにいますので、何かあったら聞きに来てください」
「……付いて来てくれないんですか?」
「一応お助けキャラなので……こう、僕らが出しゃばるのも違うかなあ、と……」
成る程、確かに。次に行けるようになったのは初等部らしい。ポールさんとトールさんがいるはず。
がやがやしている生徒会室から出て、地図を見ながら歩く。生徒会室には、みんなの名前が表示されていて、やっぱりレオさんだけは表示されていなかった。気配遮断スキル。ピスケスさんとサジタリウスさんが隣同士にいるみたいなので、ちょっと仲良くなってくれたら嬉しいなあ、とか思ったり。一応、物は試しに高等部の方へ行ってみたけれど、見えない壁みたいなのがあって入れなかった。触ったところから、螺旋のような波紋が広がる。鍵がかかってます、ってことなのかな。残念、諦めよう。
初等部。全体的に白くて、ふわふわしている、ような気がする。多分そういう雰囲気ってだけなんだけど、いる人間がさっきまでより更に小さいので、余計にそう思うのかもしれない。建物の作りもちょっと違う。中等部が、赤い煉瓦造りの古き良き校舎だったのに比べると、初等部は白を基準にした、イメージとしてはチャペルに近い清廉さがある。高等部はどんなんなんだろう。
ポールさんとトールさんを探すために地図を開く。校舎の中にある教室は、中等部と同じくみんな名前が付いているようだった。どこにいるのか、廊下の端っこに寄って画面を見ながら探していると、小さい女の子が、どこへ行きたいの?と声をかけてくれた。みつさんやぴなさんのようなサポートかと思ったけど、恐らく単に親切なだけだ。でも、行きたい場所が見つからないので、取り敢えずお礼を言って離れる。ばいばい、と手を振られて、振り返した。オレンジの髪を跳ねさせながら踵を返したあの子も、動物の耳が生えていた。ってことは、元は人間じゃないんだろう。みつさんたちに聞いたら、お知り合いかもしれないな。歩きながらだとぶつかっちゃうからもう一度立ち止まって、壁に背中を預けた。地図に目を落として、やっと見つけた。校舎の外の、広めのところにいるらしい。校庭、って言うんだ。どうやって出たらいいのかな。ちょっとうろうろして、なんとかたどり着いた。
「……あ、」
「あー!あるー!ある!わーい!」
「ポールさん、わ、うわあ」
「会いたかったよー!ぼくらだけじゃここから出られなかったんだ!変な壁があってさ、どこ探してもあるもスピカもコリンカもいないし!ねっ、トール!」
「……………」
「……トールさん、お、お久しぶりです……」
「……………」
だだっ広い、校庭。走って寄ってきたポールさんと、無言でじぶんを見つめながらゆっくり歩いてきたトールさん。ポールさんの隣まで来たトールさんが、じぶんに飛びついてぎゅっぎゅしてくるポールさんの服の裾を引っ張った。そしたらポールさんも離れてくれて、うん、倒れる前にそうなってよかった。じっとこっちを睨んでいたトールさんが、ようやく口を開いた。
「……おい」
「はいっ」
「……ポールによく思われてるからって、お前調子に乗るなよ……」
「ひっ、すいません!乗ってません!」
「もお、トールだめだよ、あるが怖がってるじゃないか」
「ボクはこいつが来るのなんて待ってなかった、ポールがいたらよかったのに」
「でも、そしたらここから出られないだろ?」
「……ポールはボクがいるだけじゃダメだったの……」
「そんなことあるわけないじゃないか、もお!トールったらあ!」
「あはは……」
「何笑ってんだ殺すぞ」
「ひえっ」
二人仲睦まじく抱き合っていたポールさんとトールさんが離れて、でも手は繋いだまま話す。一人だったのが二人に別れられて、顔を合わせて話が出来るようになって、余程嬉しいんだろう。トールさんは相変わらずじぶんのことが大嫌いみたいだけど。
「待たせてしまったみたいで、すみません」
「ううん。人間と一緒に過ごすのは、それはそれで楽しかったよ!さっきまで、たいく、っていうのやってたんだー」
「たいいく」
「そう、体育!みんなで走ったり、あと、みんなでボールを投げたりしたんだ!」
「……二人でやりたかった」
「ぼくはみんなでやりたかったの!」
ぷん、とふくれたポールさんが、でもトールも一緒に来てくれて嬉しかった!とでれでれしている。なんだろう。お互いにお互いを全力で良しとする高濃度のいちゃつきを見せつけられているじぶんは、どういう顔をするのが正解なんだろう。割って入りたいわけでもなければ、拗ねて気を引きたいわけでもないし、かといって放っておくとポールさんがむくれてトールさんに殺される。微笑ましく見守っていると、ポールさんは喜ぶけれど、トールさんが「なに見てんだよクズ」と鋭利な言葉の刃で串刺しにしてくる。どんな顔をしていれば正解かほんっと分かんない。
「あるはどこにいたの?」
「じぶんは、中等部にいました。この地図の、ここです」
「へえー、これいいなあ。地図、ぼくらは持ってないもんね」
「そうだね」
「えっ、みんな持ってるって聞いてますけど」
「小学生?には、まだ早い?だっけ?そんな感じのこと、かみさまから言われたよ!」
「その代わりにこれを渡されてる」
「……なんですか、それ……」
「ここの紐を引き抜くと大きい音が鳴る。大きい音が鳴ったら、ボクたちを守るためのシステムが起動する」
「危ないんだって!えーと、しょた?こん?って人が、いるかもしれないからって!」
「だから、ポールはボクが守る」
「トールだっておんなじだよっ、ぼくが守ってあげるからね!」
防犯ブザー、と言うらしい。試しに引き抜いてみようか、と容赦なく紐に手をかけたトールさんに、嫌な予感しかしない、頼むからやめてくれ、と平伏した。かみさまのことだから、学パロっていう礎で出来てるこの簡易世界を1秒で破壊する爆弾を仕込んでてもおかしくない。アバドーンさんしかり。そういえば、アバドーンさんはどこに行ったんだろう。ポールさんが離さないだろうから、てっきり一緒に来てるのかと思ってた。そう聞けば、くるっとポールさんが後ろを向いた。トールさんと同じく、標準装備らしい防犯ブザーのとなりに、もふもふがぶら下がっている。一見、ポールさんに尻尾が生えたように見える。
「いるよ!ほらっ」
「……ちっちゃい……」
「ぬいぐるみのふりしてもらってるんだ。ごめんね、アバドーン」
ぷいー、と鳴き声をあげたアバドーンさんが、ちょいちょい腕を動かして、挨拶してくれた。手のひらに乗るくらいのサイズだ。確かにこれなら、大きめのキーホルダーってことにできるだろう。
じぶんが来たから、ポールさんとトールさんも初等部から中等部へ向かうことができるだろうか。星と星の間のゲートと同じ仕組みなら、一度通れるようになっていれば大丈夫なはずだけど。行ってみますか、と聞けば、二人とも頷いてくれた。先導しようとして、呼び止められる。
「あっ、待って、ある。着替えてこなくちゃ」
「着替え?」
「うん。ぼくら、体操着だから」
「……それ、制服じゃないんですか?」
「こんなでかでかと名前書いてあるのが制服なわけないじゃん、頭イかれてんの」
「そ、そうですよね、すいません……」
「待っててー!」
「……ポールの体操服姿を見て、なにか邪な感情を抱いたなら、殺す」
「抱いてません!なにも!」
「それはそれで腹が立つ。殺す」
「どうしたらいいんですか!」
「トール、はやくー!」
白い半袖は、体操服というものだったらしい。確かに、じぶんたちが着てるものとあまりに違いすぎるとは思った。あと生っ白い足が膝上から全部丸出しで、もし転んだら大怪我だとも思った。名前が書いてあるのは、まあそんなもんなんだろうかと勝手に納得していた。……ていうか、なんていうか、あれだな……振り返って考えると、じぶんは、あのポールさんにご無体を働いたのだな……っていう罪悪感とか、倫理に反した絶望感とかで、死ねないのに死にたくなってくるな……
「おまたせっ!」
「きゃあああ!ごめっ、ごっ、ごめんなさいもう二度としません!」
「へ?」
「……どうせ下衆なこと考えてたんでしょ、下半身脳味噌。最低、早く死ね」
「……もうなにも言い返せません……」
「ある?あるー、どうしたの?なんか、やなことあった?」
「……防犯ブザーを鳴らしてください……」
「ええ!?いやだよ!」

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