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☆すてらびーた☆学パロ編


「学パロ編だぞ☆ってかみさまが言ってたんだけどね」
「がくぱろ?」
「ああ!」
「スピカくんすぐ知ったかぶろうとするー」
「……あるさんが知ってると思って」
「でもそれはスピカくんは知らないってことだろ」
「あるさんが知ってるならそれでもう解決します」
「……あるクン、どうだい」
「本で見たことあります。学園パロディの略称だったと思いますけど」
「どういうこと?」
「じぶんたちが、学校に通うということです」
「学校?」
「人間が行くやつ?」
「どうして?」
「私たち人間になるってこと?」
「わー!コリンカさんもスピカさんもポールさんも、じぶんに聞かないでくださあい!」

「学パロ編だぞ☆」
「かみさま、ほんとに言ってましたね」
「みんな勢揃いだー」
はわー、と抜けた声を上げたポールさんが、周りを見回す。確かに珍しく、全員集合である。じぶんとコリンカさんとポールさんとスピカさん、はしょっちゅう会うし、割と頻繁に行き来してる。じぶんはピスケスさんの薇を巻かなきゃいけなかったり、スピカさんはサジタリウスさんと一緒にいることが増えたり、レオさんの星にはじぶん一人で行くことが多かったり、いろいろ関わりにも種類があるわけで。逆に、ピスケスさんとコリンカさんは犬猿なので会うことを避けてるし、ポールさんはまだしもトールさんは誰とも顔を合わせようとしないし、サジタリウスさんはまだ申し訳なさが勝つみたいであんまり星から出てこないし、とあんまり会えない人たちもいる。だめだぞ、みんなで仲良くしないと、とかみさまが腕組みをして溜め息をついた。
「もー。あるを中心に輪を描いて矢印を飛ばしまくりなさい」
「こう?えいえい!」
「いた、あう、く、くすぐったいれす」
「つんつん!こう?かみさま、こう?」
「……あざといだけで生きていこうとしやがって、片割れ如きが……」
「頑張っても可愛くなれないもんな!ババアだから!」
「殺すぞ」
「やんのかオラ」
「喧嘩はやめなさい」
「ぎっ……!」
スピカさんが呆れ顔でコリンカさんの手を背中側に捻り上げた。痛そう。ピスケスさんがそれを鼻で笑って、煽らない!とスピカさんに足を踏まれた。これまた痛そう。完全に支配されている。サジタリウスさんは、スピカが元気で楽しそう、僕は嬉しい、と涙を拭っている。時々思うけど、サジタリウスさん、スピカさん関係になると目がおかしい。その間それに気づかずじぶんをつんつんしていたポールさんが、ようやく手を止めて、それでがくぱろってなあに?と首を傾げた。
「かみさま、みんなに仲良くしてもらいたいわけ。でも、新しい星の子も作りたいわけ。前者は趣味だけど、後者についてはかみさまのバックアップ的な意味でね。あるに神代の記憶を渡したろ?ああいう感じで他に二人、記憶持ちで力は使えないようにセーブかけた子を作ったんだ」
「懲りないなあ!また大変なことになったらどうすんのさ!」
「しょうがないじゃーん、かみさまだって苦肉の策なんだから。またなんかあったら、コリンカも助けてくれるでしょ?」
「そうやって!ねえ!スピカくん!こういうの良くないよね!」
「あるさんが危険な目に遭わないならなんでもいいです」
「サジタリウスくん!どう思う!?」
「スピカが幸せなら僕はもうなにも」
「盲目ばかりか!くそ!」
「まあとにかくそんな感じだから、まだ君たちが会ったことない人たちとも出会える機会というか、一堂に会する機会というか。学園物にしちゃったら良いのでは?ってかみさま思ったわけよ。天才では?最高では?」
「私やりたくありません」
「ピスケスの薇、学パロ編の間は巻かないでも平気なようにしてあげる」
「楽しみですね」
「手のひらくるっくるしやがって魚野郎が!」
「……私も、やらなきゃだめ?」
「レオだけ不参加だとあるが悲しむよ」
「……じゃあ……まあ……」
「ぼくはいいけど、トールはきっと面倒がるなあ」
「学パロ中はトールとポールを本物の双子に分けてあげよう」
「ええ!嬉しい!トールに会えるの?」
「その条件だったら、トールも飲んでくれるかな」
「ポールを危ない目に遭わせたら承知しないからね」
「ってかみさま思って、うん、一瞬今トールが出てきたね」
「え?そう?ぼく気づかなかった」
一瞬だけ出てきたトールさんに、ピンポイントで睨まれた。ものすごい警戒されている。仕方ないけれど。ゔんゔん唸っているコリンカさんが、なんでみんなオッケーな感じなのさ、かみさまの思い付きで良い目を見た試しなんかないじゃないか、と頭を抱えている。確かにそれもそうなんだけど。
「もー。コリンカはしょうがないなあ。こっちにおいで、特別だよ」
「なんだよ、もう、コリンカさんはあんまり参加したくな、……なに?え?まじで?」
「まじまじ。コリンカそういうの好きでしょ」
「好き。でもさ……」
「……なら?」
「いやー……どうしよっかな……」
「欲しがりさんだねえ!もう!」
「だはは」
秒速で意気投合している。そして、じぶんは知っている。コリンカさんのあの顔は、悪戯悪巧みの顔だ。被害を被る気がする。とっても。流されてしまう気がする!とっても!
いやはや仕方があるまい、とにやにやしたコリンカさんがこっちに来た。交渉は成立したらしい。ちなみにじぶんには参加の可否は聞かれなかったけれど、かみさまの中でじぶんが拒否するとかはあり得ないので、もうどうでもいいらしい。いいけどさ。やりたくないですう、とか言いたくないし。
「じゃ、そういうことで!ぜひとも楽しんでくれたまえ!」
「はあ」
「あ、全員特権封じるから。普通に生活してもらうんで、ちゃんと助け合えよ?」
「え?」
「……えっ?」
「え!?」
「かみさまちょっと待っ」



目がさめると、空が見えた。数回瞬きして、体を起こす。うん。痛いところもない、欠けてるところもない、いつも通り。違うところがあるとしたら、服装か。本で見たことがある、制服ってやつ。一応頭も触ってみたけど、角は生えっぱなしだった。人間になったわけではないらしい。
「あ」
「……?」
「あるさん、ですか?」
「そ、そうです……」
「良かった。ナビゲーターの、みつです。お助けキャラ、と言ったらいいかな。説明役です」
「あっ、えっと、牡牛座のあるです!」
ちっちゃい角と、黒い髪。灰色のカーディガンの彼は、みつさんと言うらしい。みつさんはどこかの星の人なのかと問い掛ければ、首を横に振られた。ぼくは干支です、だそうだ。干支、読んだことある。どこかの星、人間がたくさん住んでいるそこの中の、国ってやつで言い伝えられてるもの、だったかな。曖昧。サポートキャラの特別出演なので覚えなくて結構です、と笑顔を向けられた。この人も、かみさまに我儘を言われてるクチなのかな……苦労してるんだな、かわいそうにな……
大人しそうな彼が口を開こうとした矢先、重そうな扉が思いっきり、ばーん!って開いた。勢い良すぎて時が止まって感じたくらいだ。三カットくらい見えた。
「あー!やっぴー!あれ!?みつが二人!?およ!?おっかしいなあ!?ぴな、ちゃんと追っかけて来たんだけども!」
「……彼女は、ぴなさんです。ぼくと同じく、サポートキャラとしてお手伝いに」
「こっちがみつかあー!やだもお、間違えちゃうとこだった!みつ!お顔にみつって書いといてちょおだい!」
「……お手伝いです」
「はあ……」
「おっと新顔!ぴなだよ!よろちく!きみの名前は?」
「あるです」
「ある!忘れちゃったらごーめんね!ぴな、頭よくないからさー!」
「ぴなさん、あのね」
「ん?なになに?大好きのちゅー?」
「違う、ぴなさん、お役目があるでしょう、彼を案内してあげないと」
「おー!そうでしたそうでした。にはー、みつがいないとぴなはもうだめだー、だめなのだ!おい!」
「あいた、ぴなさん、頭の尻尾で叩かないで」
扉の向こうから、ものすごいテンションの人が来た。もふもふの茶色い髪の毛は、後ろにも括られて長く垂らしている。頭の尻尾、確かに。赤いチェックのリボン、キャラメル色のカーディガン、短いスカート。女の子だ。純粋な女の子、久し振りに見た。女の子(に見せかけている)とか、女の子(のふり)とか、(元)女の子(現在半分男)とかばっかだから。レオさんは女の子のはずだけど、らしくないというか、性別の観念がかなり緩くなっているのは知ってる。信仰の加護のせいなのだろうか。自分で弄ってるコリンカさんが「どっちつかず」、ピスケスさんとサジタリウスさんが混ざってるのが「どっちも」だとしたら、レオさんは「どっちでもない」というか。だからとにかく、純粋な女の子は珍しいのだ。じぶんにとっては、特に。
そんなことを考えている間に、待ちきれないとばかりにぴょこぴょこしているぴなさんが、ではではれっつらごーですな!と走って行ってしまった。置いていかれた。苦笑いしたみつさんが、じゃあ、と先導する。
「しばらくは案内させてもらいますね。ぼくたちもここで生まれたわけではないので、分からないことも多いんですけど」
「お願いしますっ」
「まず学長室に行ってみましょう。多分誰もいないけど、そういう道順になってるので」
みつさんの案内ルートは、予め決められたものらしい。道中、この世界の設定をみつさんが教えてくれた。学園パロディ、というからにはここはもちろん学校で、みんながみんな普通の人間みたいに暮らしている。そりゃちょっと角が生えてたり獣耳が生えてたりもするけれど、それはアクセサリー的な感じとして受け取ってもらえるとありがたい、ということで。学校なので、年齢によって学年も分かれている。大雑把なものらしいけれど、じぶんは15歳なので、中学生の枠に入るらしい。そういえば、特権が使えないんだっけ。今日は中学生、明日は高校生、昨日は小学生、なんておかしいもんな。
「他のみんなもいるんですか?」
「はい。ええと、確かメモが……これかな。中等部が、あるさんとレオさんとピスケスさんとサジタリウスさん。高等部が、スピカさんとコリンカさん。初等部が、ポールさんとトールさん、ですね」
「……しょとうぶ?」
「小学生のことです」
「小学生!?」
「え、ええ、はい」
「あの二人小学生なんですか!?」
「ぎりぎり……あるさんが15歳で中学生みたいなもんです。12歳は小学生です」
「じ、じゅうにさい……」
その組み分けは誰が決めたんだ、と心の底から思ったけど、多分ざっくり外見年齢で決められている。かみさまのやりそうなことだ。ポールさんとトールさんが小学生ってのには眩暈を覚えるショックを受けたので、もうそれは見なかったことにするとして、サジタリウスさんはコリンカさんと同じくらいに見えてたけれど、大人びた雰囲気があっただけで、どうやらじぶんと同い年の見た目らしい。ピスケスさんは嫌に食ってかかってくるので同じくらいだと思ってた。我ながらすごい、正解だった。自己暗示のこともあってお姉さん推しが激しいコリンカさんはそりゃ学年が違うとは思ってたからまだしも、スピカさんが身近にいないと、若干あわわってなる。最近ずっと一緒にいたからな。でもまあ、レオさんがいてくれると安心するから、いっか。
長い廊下には、たくさんある窓、踊り場を境に半分ずつに分かれてる階段、規則的に並ぶ扉、その上には何の部屋なのかの表記、お手紙やポスターの掲示、あと消火器、などなど。本で読んだことはあっても、見たことのないものばかりだ。さっき学年のメモを見せてくれた時に使ってた、板みたいな機械で、みつさんが部屋の名前と大まかな使い方を説明してくれる。今の説明はみんなあるさんのスマホにも入ってますからね、と言われてポケットに手を突っ込んだら、あった。すまほ。ボタンをぽちっとしたら板が明るくなって、一体どんな魔法なのかと思ったけど、科学の力によるものらしい。じゃあピスケスさんは詳しいかな。歩きながらぽちぽち弄ってたら、壁にぶつかった。歩きすまほ、良くない。
あと、人間がたくさんいる。レオさんの星に行った時は色んな歳の人間がいたし、ピスケスさんの星にも魔力回路ができてから訪れたことはあるけど、若い人が多い印象はあったものの、とにかく「大人」がいた。ここには大人は滅多にいない。同い年くらいの、未成年ばかりだ。きょろきょろ見回していると、みつさんが教えてくれた。
「ここは中等部の校舎です。あるさんは、ここの生徒ですね」
「はあ、へえ、ほお……」
「ちょっと離れたところに、初等部と高等部もあります。中等部のお隣が、職員棟になっていて、そこに学長室があるんですよ」
「学長さんは誰なんですか?」
「皆さんが言うところの、かみさまですね」
「おっそーい!おそいおそいおそいぞー!ぴなさん待ちくたびれて校舎に苛立ちパンチ!そして痛む手!みつ!」
「いたいいたい」
「むふー。よろしい、許すでございます」
苛立ちパンチのせいで痛めたらしい右手をみつさんにさすさすしてもらってるぴなさんが、学長先生はご不在なりけり!と左手で敬礼してくれた。だろうと思いましたよ。かみさまが学長なんて、不在一択だ。大人しく椅子に座ってるとはハナから思っちゃいない。
「第二のみつ、きみにはぴなの左の手を繋ぐことを許そお」
「?あ、はい」
「両手にみつ!右手はマジモン!左手はみつもどき!ぴなは幸せ!」
「あわわわわ」
「ぴなさん、あるさんが振り回されてますよ」
「むむ?すまんだぞ、ある。あれ?みつじゃないじゃん!どういうこったい!」
繋いだ手をびゅんびゅんされたので、つられてふらふらしてしまった。しっかりしなくては。誰だお前はー!と手を振り払われて、ちょっとショックだった。みつさんが訥々とぴなさんにさっきより詳しい説明をして、ぴなさんがしゅんとした。
「ごめんよ、みつもどき」
「あるさん」
「アル=サン……」
イントネーションが違すぎてじぶんのことじゃないようだけど、九割九分じぶんのことだ。気にしてませんよ、と告げれば、しゅんとしてた頭が勢いよく上がって、頭の尻尾も元気になった。いざいざ!ぴながご案内してあげよー!だそうだ。つられて元気が出る。みつさんは、んもう、と苦笑いだった。

「ここは?」
「3年2組です。あるさんのクラスですね」
「同じクラスにお仲間がわんさかおるぞよ!」
お仲間。二人を、干支の人たち、という括りにするなら、じぶんたちは、星の人たち、とでもなるのだろうか。とにかく、サジタリウスさんはここにいるらしい。いるかなあ、と扉から顔を出して覗いたみつさんに倣って、その下から顔を出すと、ぴなさんが更にじぶんの下から顔を出した。これに似た、お団子ってものを、この前スピカさんとポールさんが作りたいって本を見ながら言ってた。あの二人にも早く会いたいなあ。制服ってやつを着てるんだろうか。いつもの格好しか見たことがないから、想像つかないけど。
「……なにしてるんだい?」
「わあ!」
「あー!このー!びっくりしたぞー!チキンハートがばくばくだ!くそお、ぴなアタック!だりゃー!」
「あいた、あはは、だって声かけにくくて」
じぶんたちの背後から声を掛けたサジタリウスさんが、ぴなさんに頭の尻尾でぶたれている。どうしたらいいか分からなかったから知ってる人を探してたんだ、とサジタリウスさんは笑って、ちょっと安心したような顔だった。突然一人でここにぽつんと、想像しただけで怖い。特権使えないしな。
いつもと同じ、空色の短い髪。高い身長と優しげな目。自分と同じく、細かいパーツは全部変わってない。ただ、服装だけ。うん、そうかなって思ってはいたけど、やっぱり女の子の制服なんだなあ。普通に似合ってるんだけど。まじまじと見ていることがばれたのか、上履きを鳴らして少し身動いだサジタリウスさんが、それでさ、と口を開いた。
「この人たちは?」
「案内人の、みつです。こちらはぴなさん」
「ぴなだぞ!よろちく!びっくりのあまり尻尾が荒ぶってしまったことは謝ってあげよー!許してくれるんならな!」
「ああ、それは全然。僕が後ろから話しかけたからだし」
「うむうむ、よしよし。そしてぴなのお友だちが着々と増えてゆくのであった。むふふ」
「……お、おともだち……」
サジタリウスさんが照れている。分かりやすく真っ赤になって照れている。彼にとって「お友達」っていう括りは特別なんだろう。スピカさんが呼ぶ「お友達」と、ぴなさんが呼ぶ「お友だち」は、もしかしたらちょっと違うのかもしれないけど、でも、仲良しになることは良いことだ。意を決した感じで、よろしく!と手を差し出したサジタリウスさんに、ぴなさんが、不思議そうな顔でハイタッチをした。そうじゃない、絶対そうじゃない、多分握手をしてほしいんだろうけど、サジタリウスさんがまだ赤い頰のままに嬉しそうなので良しとしよう。
「射手座のサジタリウスです。よろしくね」
「さ、さじ、?むつかしーなー、さじでいっかな!みつ、ある、さじ、ぴな!なかよし!」
「いいよ、呼び方はなんでも構わない。……それで、僕はどうしたらいいのかな?」
「ぼくらについてきていただけると、ありがたいです。中等部の全員を集めることが、一つの課題になっているので」
「課題?」
「それをクリアすると、初等部に行けるようになります。他にもいくつか、これをすればこれが出来るようになる、ってことがありますね」
「ミッション方式のイベントなのだな!」
「みっ……いべ……なんて?」
「ぴなさん、ここは現実です」
「なるほどなー!」
次に会いに行くのは、居る場所が分かっているピスケスさんだ。ここですね、と地図を見せて指された場所には、生徒会室、って書いてあった。なにをする部屋なんだろう。
向かう道中、サジタリウスさんに声をかける学生が結構いることに気づいた。元々の知り合いだったのかと聞いたら、そうじゃないらしく。一人だとどうしていいか分からずにふらふらしてた時に知り合った人たち、だそうで。ちなみに今更ながら、サジタリウスさんの特権は「必中」だ。彼が当てようと思ったものは必ず当たる。矢であれ、石であれ、なんであれ。物理的なものに留まらず、それは心理的なものにも相当するらしい。ほら、恋の矢で射止める、なんて言うじゃないか。この人は好ましいな、と相手に思われるストライクポイントに、自分のことをぶち当てることができるのだ。恋愛的な意味でとるか、友愛的な意味でとるかは、相手によるのだろうけれど。まあそれは、サジタリウスさんの性格もあると思う。特権が使えなくなっても、人に好かれやすい、という長所が残留した辺りを見ると、尚更。
「……あ、」
「ある?」
「……レオさんの、星の……」
通り過ぎた教室の中。仲睦まじく三人で笑い合う、女の子と男の子と女の子がいた。レオさんの星で、じぶんとコリンカさんと一緒に歩いてくれた、子どもたちだ。かみさまも、粋な計らいをするではないか。出会ったことのある人間が、楽しそうにしているのを見るのは、じぶんも楽しい。じぶんとは違う時間を生きているのだと知っているからこそ、というか。レオさんとピスケスさんは、そういった意味でも、この学園生活は嬉しいものなのではなかろうか。同じ立場で生活できるなんて、この先ないわけだし。
とかやってるうちに、目的の場所についた。生徒会室、だっけ。教室の中は、静かだ。一応そおっと扉を開けて覗けば、窓際に立つ人影。こちらに背中を向けている、長い髪。わざとっぽい。こういう演出がしたかっただけっぽい。負けず嫌いで高慢な彼女らしい。
「……えーと、ピスケスさ」
「生徒会長です」
「ん……?」
「生徒会長、です!」
くるりとターンして振り向いたピスケスさんの長い髪が、ふわりと広がる。びしい!って音がしそうなくらいの決め顔でこっちを向いた彼女の左腕には、腕章が嵌っていた。ゴリ押しのようにそれを引っ張って見せびらかしたピスケスさんが、もう一度言う。
「生徒会長、とお呼びください!」
「……ピスケ」
「生徒!会長!」
「……生徒会長」
苦笑いのサジタリウスさんが負けた。この数秒でピスケスさんの口から何度「生徒会長」の言葉が出ただろうか。そんなに誇るべきポジションをかみさまから与えられたのか、長って言うくらいだし何か取り纏めをしているのか、まあ人間の住む星を管轄しているのはピスケスさんとレオさんくらいのものなのでリーダー的な立場に据えられるには十全な人選ではあるのだけれども、とぼんやり考えていると、ぴなさんがぶるぶる震えていた。いつのまにか。
「あわわわ……」
「ぴなさん、どうしたんですか」
「……み、みつもどき……じゃない、ある……あるで合ってる?」
「はい」
「ある……お、畏れ多いぞ……せーとかいちょーさまの御前であるぞ!」
「えっ」
「ははー!」
「は、ははー!」
「ふふ……ようやく理解したようですね……私と貴方の立場の違いを!あーっはっはっは!」
「ぴなさん、状況をかき回さないでください」
「む?すまんすまん。ちょっとおふざけしただけ、御酉様ジョーク」
「えっ」
「ええ!?」
ちょっとははーってしただけのじぶんより、踏ん反り返って笑ったピスケスさんの方がショックを受けている。どうやら本気で偉い立場だと信じていたらしい。かみさまからそう言われたのかな。じぶんは無知なのでこういうことよくあるけど、ピスケスさんはちゃんと物事を知ってそうなのによく騙されている気がする。記憶操作の馬鹿強い特権持ってるくせに、もしやピスケスさん、騙されやすいタイプなのでは。コリンカさんに言いくるめられて騙され、それに気づいてブチ切れてるピスケスさんの姿、めっちゃくちゃ鮮明に目に浮かぶ。
でも偉いことは偉いんですからね、生徒会長なんですからね!と腕章をぐいぐいしながら、恥ずかしさからか目尻を赤くして噛み付いてくるピスケスさんに、そこは疑ってないですよ、と両手をあげる。サジタリウスさんも同じく。悪気は無いのに悪いことしちゃったのだぜ、と舌を出して誤魔化しているぴなさんをきっと睨みつけたピスケスさんが、お前らは誰だ、の意を持って口を開こうとした。の前に、みつさんが話し出す。出鼻を挫かれたピスケスさんが、突きつけかけた指を彷徨わせる。
「生徒会長っていうのは、生徒側の代表みたいなものです。だからと言って、先生の立場とも違いますし、生徒会長だからって何か特別な権利があるわけじゃありません。偉い……というと、そういうわけでもないかもしれませんね」
「……っそ、そお、そういうことを、言ってるんじゃなく、私は」
「資料によると、生徒の前で話すような機会があることは勿論、生徒会として様々な雑務もあるようです。みんなのために働いてくれているんですね。だからといって、偉ぶるのは」
「わ″あー!誰だお前はー!突然出てきて御高説垂れてくださいやがってクソ野郎!」
「あー!ピスケスさん!危ないから!椅子を振り上げないでください!」
「おっとり系の物静かな見た目で角が生えてたらこの私に向かって偉そうな口を利かなければならない法律でも制定されてんのかオラァ!」
「危ないからー!」


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