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おはなし





≫さくちゃん・おべんと
「ただいま」
「おかえりー」
家に帰ったら、朔太郎が我が物顔でゲームをしていた。見る限りでは恐らく、RPG。多分俺が途中までしかやってないやつだ。やり込んでパーティーを育てようと思った矢先に別のゲームが発売されて、それっきりになってる。朔太郎はこういうの好きだよなあ、と思いながら荷物を適当に置いてソファーに座る。ソファーの下で床に直座りしてる朔太郎が、うーむ、と難しい声を上げた。
「なかなか勝てないんだよなー」
「珍しいね」
「昨日と同じクエストやってんの。ここのボス倒せなくって、高難易度ってだけある、わあ」
おどろおどろしい効果音と共に、勇者側のパーティー全体に呪いがかけられた。何人か即死した。いつもなら、二回か三回くらいで攻略法を編み出してクリアすんのに。やちよどこいったの?と聞いたものの、ゲームに夢中の朔太郎は全然見当違いの答えを返してきた。だめだ。どうせ買い物かなんかだろう。
「もうこいつすぐ即死飛ばし、あっ、ん、やめろ!」
「俺ここまでまだ進んでない」
「ネタバレないから大丈夫っぐ、ぎゃ」
「……………」
「あっ待っ、あん、あっ、あっ」
「……………」
「死ぬ!」
航介はゲームをやる時、ぶち切れまくりながらやる。FPS系なんて最たる例だ、てめえぶち殺すぞクソエネミー、と犬歯を剥き出している姿をよく見る。朔太郎は、自分が負けそうになってやばくなるとものすごく喋る。それは主に対人ゲームの時に現れる傾向にあって、要するに喋りまくっとけばこっちがそれに気を取られてゲームを疎かにしてくれないかというクソくだらない浅知恵が含まれているのだけれど。
「え?なに?あっ、やっ待っ」
「……………」
「んん!やめて!んああ!」
対人でないゲーム、例えば今のようにRPGなんかをやっていて、勝てなさそうな時。喋ったところで、どうにかなるわけではない。しかしながら朔太郎の中に黙るという選択肢はないらしく、変な鳴き声をよく上げるのだ。まさに、今みたいに。身近な二人がゲームやっててうるさいので、俺は静かにゲームをやろうと常々思っているけれど、一人でゲームやってる癖にひんひんうるさい朔太郎を見てると、死んでもこうはならないようにしよう、って黙りたい気持ちが強くなっていくのを感じる。
「あー!死んでしまわれた!」
「もう一回やって」
「やるよ!悔しいじゃんかさ!」
そして、一人うるさい朔太郎を見ているのはなかなか面白いので、特に本人にそれは伝えていない。いつになったら、「あれ、俺、もしかして一人なのに騒いでる……!?」って気付くかなあ、と思って。


≫ふしみ・ありま
「なにしてんの?」
「ゲーム」
「なんの?」
「パズルゲーム、みたいなやつ。弁当が教えてくれた」
「見して」
「嫌」
「なあ、見して」
「嫌」
「伏見」
「しつこいぞ」
「いってえ!てめえ!前髪根こそぎ抜けたらどうしてくれるんだ!」
そりゃまあ、笑う。大笑いする。前髪だけないのとか面白すぎるでしょ。死ぬほど笑う自信がある。殊勝に謝るとか有り得ない。
大人しくなった有馬が、こうすりゃどっちにしろ見えるわ、と俺の背後から覗き込んで来た。まあ、見られて困るようなもんじゃないし、いいけど。黄色と緑色の、グミみたいなもちもちが、連鎖して弾けて消える。ゲームしてるとこ見られるとプレッシャー感じて上手くできなくなるとかいう人もいるけど、俺の場合はどうせ暇潰しなので、見られたところで特に何も感じない。ていうか、上手い奴は見られてても上手いから。むしろパフォーマンスとして使うレベルだから。単なる下手くその言い逃れでしょ。そんなことを考えながらすいすい指で動かしていると、有馬が口を開いた。
「このさあ、爆弾みたいなのはさあ、なんで爆破しないの」
「まとめて消した方が得点が高いから」
「でも爆破したら気持ちいいだろ?」
「……気持ちいいとか気持ち悪いとかでゲームしてないんだけど」
「ほらー、終わっちゃうぞ、早く爆破しろよ」
「タイム伸ばせるから」
「あ!今なにしたんだ!時間が増えた!」
「そういうアイテムがあるんだよ」
「え?ちょっとついていけない」
なんでだよ。お前やってないだろ。ついて行く必要ない。やいのやいのとうるさい。時間いっぱいになるまで有馬はうるさかった。弁当の横でもこんなんなのか、弁当がかわいそうだ。そんなようなことを言ったら、有馬がしれっとした顔で答えた。
「え?弁当はゲームやってる間に話しかけても答えてくれないから話しかけない」
「……あっそ」
もう二度と相手しない。


≫こーちゃん・さくちゃん・おべんと
「ただーまー」
「おかえりなさい。あら?とーちゃんは?」
「え?帰ってきてないの?」
「ええ。一緒じゃないの」
「一緒じゃない。航介どこいるか知ってる?」
「知らん」
「だよね、知ってた」
当たり前のようにただいまを言って侵入した当也の家で、やちよに出迎えられて、そこで初めてまだ当也が帰宅していないことを知った。いなかったから、てっきり先に家に帰ったもんだと思ってたんだけどな。どこ行っちゃったのかなー、とか言いつつ朔太郎が当也の部屋に荷物を置きに行く。リビングだと邪魔だからな。
「いないいなーい、誰もいなーい」
「なにそれ」
「虚無のいないいないばあ」
「さくちゃん、こーちゃん、おやつ食べる?」
「食べる」
「おやつなに?」
「肉まん作ったの」
「へえー!すげー!」
「でもねえ、ちょっと困ったことにね、大きさ間違えちゃったのよ」
「食えればいいよ」
「うんうん、そうそ、……」
「はい、じゃあ、一つずつね」
「……………」
「……………」
思ってたのと違った。思ったやつの数倍大きかった。顔ぐらいある。乗ってる皿がもう既にでかいやつだ。おやつというか、まあ、全然食べれるんだけど、とにかく思ってたよりかなりでかかったのだ。朔太郎も固まっている。というか、呆然としている。大きさはアレだけど美味しくできたのよ、とやちよは頰に手を当てた。美味しいならいいんだけど。いや、大きさは良くはないんだけど。
「……おやつつまみながらゲーム、くらいに思ってたんだけど……」
「無理だな」
「うん……」
リビングで、もすもす齧る。美味しい。しかし大きい。そして減らない。いつも通りにテレビを使うのだろうと、やちよがホットカーペットをつけてくれた。うん、合ってる、普段だったらそうしてくれるとかなりありがたいのだけれど、今に関しては目の前のキングスライムみたいな肉まんをとにかくどうにかしなければならないので、ゲームとか言ってられない。
「やっちゃんお買い物行ってきていい?」
「うん」
「どうぞ」
「好きに使ってね」
俺が食い終わる頃、やちよが出て行った。朔太郎の肉まんはまだ半分よりもうちょっと残っている。うめえ、でけえ、やべえ、とぶつぶつ朔太郎が呟きながら食べているのを横目に、ゲームを繋いだ。昨日の続きやろ。
「あー、ずるー」
「食い終わったら代わってやるよ」
「えー、いいです」
「面白いのに」
「……ていうか、終わり見えない……」
「美味かったけどな」
「そうなんだよねー。美味しいんだけどさ、でかいよ。当也は確実に途中でギブする」
「ああ……」
こないだ買ってもらった新しいゲーム、ちょっとしたホラー要素が入ってるやつなんだけど、ストーリーは普通に面白いので、当也が苦しんでる。朔太郎もびっくり系は得意ではない、というかものすごくうるさいので、プレイするのは基本俺にされた。ストーリーを先に進めるためにいくつかミッションをクリアしなくちゃいけなくて、昨日は時間がなくてそこでやめた。ぽちぽち探索していると、玄関の鍵が開く音がした。
「ただいま」
「おかえりー」
「……やちよは?」
「買い物行った。当也肉まん食べない?」
「……なんで?」
「俺こんなに食えない」
「航介は?」
「もう一個食った」
「……食べる。その半分でいいや」
勝手に進めないでよ、ととりあえず文句を吐いた当也だけれど、肉まんを齧ったら大人しくなった。お化けもどきみたいなのが飛び出して来たので、後ろで二人が同時にびくってなったのが、ちょっと面白かった。お化けもどきに会いながら思い出のモニュメントみたいなのを集めていって、それが規定数になったらストーリーが進む方式だ。画面に急に手の跡がついたり、構えてる懐中電灯がちかちかしたり、そういうので当也がいちいち無言のまま台所へ逃げるので、数度目でいい加減にからかってやろうと振り返ったら、朔太郎が当也の服の裾を握っていた。落ち着かないからそれがいい。
「話飛んでる」
「飛んでねえよ、昨日から進んでないから」
「でも勝手にやった」
「どうせお前しょっちゅう逃げるだろ!」
「メインストーリーは進んでないよ」
「なんだ、使えないゴリラ」
「やんのか」
「ヒュー!ぶちかませ!」
「あら、とーちゃんおかえ……」
「あっ」
「やべ」
朔太郎の煽りに乗って喧嘩をおっ始めようとしたところで、運悪くやちよが帰って来てしまった。お互い今にも出そうとしてた手を引っ込めて、元の位置に戻る。なんか零したとか壊した
とかじゃないから、やちよの般若面はすぐに引っ込んだ。よかった。当たり前だが、汚すと怒られるのだ。烈火の如く。
「とーちゃん、おやつ食べる?」
「お腹いっぱいだからいらない」
「そう言わずに。まあまあ」
「……なにそのでかいの……」
「俺が当也にあげた肉まんの原型だよ」
「あれ欠片だったの?嘘でしょ」
「あっためてあげるからね」
「いらないって」
「ね」
「いらないってば」
仕方ないから俺が食べた。そのせいで、ストーリーはあんまり進まなかった。


≫はんだ・やよいさん
「半田、連想ゲームしよ」
「二人で?」
「イエス」
「それ何て名前の地獄?」
「はいはい!半田といったらリボン!」
「変なイメージ持つなや」
「リボンといったらプレゼント!」
「弥生さん?聞こえてる?一人でやんの?」
「プレゼントといったら〜?」
「……あ、はい、参加します」
「いったら〜?」
「……お誕生日?」
「お誕生日といったらケーキ!ケーキといったらいちご!」
「弥生さん2に対して半田1なの?」
「いちごといったら〜?」
「全然聞いてくれない」
「もう、半田早く答えて、いちごといったら」
「……赤い」
「フゥー!」
「なにでテンション上がってんの?」
「赤いといったら血飛沫!血飛沫といったら殺人!」
「弥生さん。ちょっと、弥生さん」
「殺人といったら〜?」
「弥生さん」
「なあに」
「デンジャラスが過ぎる。もっと可愛いこと言って」
「えー。どこから?」
「赤いから」
「赤いと言ったら血液!」
「弥生さん」
「うっかりしちゃった、血液は乾くと黒ずむ」
「そうじゃない」
「かわいいことは半田に任せるよお。ほら、殺人といったら〜?」
「……………」
「いったら〜?」
「……出刃庖丁」
「かわいい〜!」
「頭腐り果ててんの?」


≫こーちゃん・おのでら
航介がゲームをやってるところを、見るのが好きだ。
「……楽しいか?」
「うん」
「見てて?」
「うん」
「……やるか?」
「ううん」
「……そうか……」
弁当と朔太郎と航介でチーム組んでるネットゲームがあるって聞いて、どんな風なやつ?って問いかけてみたら、最初は口頭で説明しようとしてくれていたんだけど、俺が理解しないのと、説明がなかなかに難しかったので、実際に航介が見せてくれることになった。そんなこんなで、だらだらしていた弁当の家から、俺と航介だけで航介の家に移動して、彼の部屋でパソコンをつけた次第である。何で弁当の家でやらなかったかって、「ログインするの普段使ってるパソコンだから実家のパソコンから入り直すのめんどくさい」と弁当が手をばってんにしたからだ。航介は、それに対してぶつくさ言ってた。
画面の中では、軍人っぽい見た目の人が銃を構えて走っている。これがゲームの中の航介、思ってたよりもごつい。キャラメイクできるらしいけど、装備があるから殆ど似たような見た目になるんだって。じゃあどうやって弁当や朔太郎と別人を見分けてるかって、頭の上にIDが出るらしい。あと、同じチームだと色が変わったりとか。ゲームの中の航介はアイテムを拾いながら、現実の航介が俺に説明してくれる。片手でゲームパッドを操作しながら、ちょこちょこ画面を指差してくれるので、分かりやすい。
「対人なんだよ。顔も知らない、同じ時間にこのゲームやってる、世界のどっかのだれかと対戦する」
「へえー」
「今やってるのはフラッグ。……えーと、旗取り合戦?」
「どういうルールなの?」
「制限時間になった時に、旗を持ってる数が多い方の勝ち。この、これが旗のマーク。今二つ敵チームが持ってる」
「うん」
「五つの旗を取り合うから、三つ見つけなくちゃいけない。誰にも見つかってない旗は地図に出ない。地道に探して見つける方法もそうだけど、わざと敵チームに旗を見つけさせて、地図に表示されるようになってから殺して奪いに行くやり方もある」
「えぐい」
「でも敵チームは全然知らないやつだから、もしかしたら滅茶苦茶に強いかもしれない。時々いるんだ、どこから撃ってるか分かんない狙撃してくる奴とか……ん、あっちが旗、三つ目取ったな」
「航介は旗持ってないから攻撃されないの?」
「いや?されてる。狙撃されまくってるけど、相手チームのエイムが下手だから、避けてる」
「当たらないってこと?すごい!」
「違う、あっちが狙い下手なだけ」
しかもこっちが逃げてるからって隠れもせずに撃ってきやがって、と眉を顰めた航介が、仕返ししてやろうと画面を切り替えた。スコープみたいだ、と思ったら、その通りだったらしい。遠距離狙撃のモードにした航介が、こいつがさっきからばかすか狙ってきやがったんだ、しかも旗持ちだから殺されても文句は言えない、とゴマ粒みたいな人影に照準を合わせた。たん、と軽い銃声が画面から響いて、下の方のチャット画面に、敵チームの一人が死んでリスポーンした旨と、そいつが持っていた旗を航介が奪ったことが掲示される。地図を見て、ほんとだ、航介のところに旗のマークが移動してる。
「おもしろいね」
「やってみるか」
「うーん、見てたい」
「……見てて楽しいか?」
「うん。ゲーム上手な人のプレイ見るの、俺好きだよ」
「……別に上手くは……」
「朔太郎と弁当とチームでやってる時のも見てみたい」
「チームでやってはいるけど、身内潰しとおふざけが過ぎるから、一人でやったほうが勝てるんだけどな……」
この相手なら一人で全取り出来るかも、と零した航介が、黙ってゲームに集中し、ちょっとしたら5本全部の旗を本当に一人で集めきってしまった。旗を本拠地に起き、守りの体制に入った航介に、味方の誰かさんから、拍手のモーションと、英語らしきメッセージが飛んでくる。敵側は、取り返しに来たけれど、ある程度の近さに来ると猛攻で迎撃されるので、死ぬか逃げ帰るかしかできないようだ。こういうゲームあんまりやらないからかもしれないけど、すげー上手く見えるんだけど、そうじゃないのかな。
あとから朔太郎に聞いたら、「FPSは航介めちゃくちゃ強いよ、俺だって何やってるのか分かんないもん」だそうだ。やっぱりすげー上手いんじゃん!


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