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☆すてらびーた☆




じぶんと、コリンカさんと、ポールさんと、レオさんと、ピスケスさんと、スピカさんのお友達。じぶんたちはかみさまの前に並んでいる。やあやあ、と片手を上げたかみさまが、お気楽に笑った。
「おつかれさま。かみさまから言えることはそれだけだ。なにもできなくて、ごめんね」
「なに言ってるんですか、ずっと近くにいたくせして」
「あはー、あるにはばれてたか」
「本棚で見ました。もしもの時のかみさまのバックアップ、それがアバドーンさんです」
「アバドーンが?」
もふもふを抱きしめて離さないポールさんが、不思議そうな声を上げた。お喋りしなくなったアバドーンさんが、もそもそと彼の胸元に寄り添った。
アバドーンとは、ヨハネの黙示録に登場する奈落の王様を指す。破壊の場、滅ぼす者、奈落の底を意味する。馬に似た姿で金の冠をかぶり、翼と蠍の尾を持つと伝えられていて、蝗の群れを率いる天使として現れ、人々に死さえ許されない5ヶ月間の苦しみを与えるという。人間たちの中では、蝗害が神格化されたものだと考えられている。しかしながらそれではバックアップとして相応しくないので、名前と神格だけを借りて、かわいらしい見た目を付与した。ふわふわでもこもこで、憎み難いキャラ付け。直接介入ができない事象が起こった時に、かみさまの思い描く方向に話を持っていくために、緩やかにレールを敷く役割。そして、それでももうどうしようもなかった時の、世界破壊用爆弾。ピスケスさんと神獣から分離したように見せられていたけれど、そうなるように最初から仕込まれた存在だったのだ。神獣たちがじぶんたちをぶち殺した時に、内側から全てを無かったことにするために。そう言った意味では、名前もぴったりなわけで。
「かみさまの意識はアバドーンさんには無かったみたいですけど」
「そうだねえ、今だってもふもふでかわいいだけの存在なわけだし。ポールのことはアバドーンも好きみたいだよ」
「わはー、うれしー!」
「きみたちにあげちゃう。もうお喋りはできないけど、可愛がってやってね」
「ありがとー!」
「さて、あとは、答え合わせとして、君の自己紹介かな」
「……あはは、僕かあ……あのまま消えちゃいたかったくらいなんだけど、僕はこうして遺されたわけだから、ちゃんと生きていかなきゃいけないのか……」
一歩前に出て振り返り、片膝をついて頭を下げた彼は、目を閉じて、深く息を吐いた。顔を上げて、胸に手を当てる。忠誠を示す、騎士としての礼。凛とした声が、辺りに響いた。
「僕の名前は、サジタリウス。射手座を仰せ仕り、在った者だ。遥か昔に、己が我儘で力を求め、神獣に食われて存在を失った。今世では、最高の友人の力添えで、再び現界を果たすことが出来た。罵ってくれて構わない。嫌ってくれて構わない。僕は、それに値することを君たちにしたんだから」
「……神獣の、中身、か……」
「ぼくらのことは覚えてる?」
「覚えてる。力に呑まれて暴走した僕を止めてくれたこと、本当に感謝しているんだ」
「そっか。ま、終わったことだし、ごめんねが言えたらもっと良いかな」
「ごめんなさい!」
「潔し!許す!私は山羊座のコリンカ、よろしくね」
「あ、えっ、よ、よろしく、怒らないの?」
「ぼく、ポール!こっちは牡牛座のある!」
「あるです」
「サジタリウスくんを責めたところで、今更何があるわけでもないだろ?君は反省して、奇跡的にこの世界に帰ってきた。それをまず喜ぼうよ」
「……あり、がとう」
憎まれ罵られることを予想していた彼は、自分を受け入れる手に、戸惑って、目を泳がせて、それでも笑顔で頷いた。ところで君と私はどっちが年上でお姉さんなんだい、と詰め寄るコリンカさんに苦笑いしていたけれど。ていうか、ううん?
「お姉さんじゃないですよね、サジタリウスさん」
「え?うん。僕、男。可愛い格好が好きなだけだよ」
「えー、そうなの?まあどっちでもいいか、私もどっちつかずみたいなもんだし」
「えー!分かんなかった!ねえ、なんで女の子の格好なの?趣味?実益?」
「僕のは完全に趣味」
「……あなた、おとっ、男、だったんですか……!?」
「うん」
がーん、と顔に書いてあるピスケスさんが、わっと顔を手で覆った。コリンカさんのこそこそした耳打ちによれば、「ピスケスは基本的に男が嫌いなんだよ、私たちのうちで純正の女の子なんて滅多にいないくせにね」だそうで。サジタリウスさんが、ごめんね、知らなかった?と頰を掻いている。じぶんにはぱっと見で分かったけど、ポールさんにもコリンカさんにも分からなかったみたい。それだけ女の子っぽいってことだ。むしろ男の子だと頭から決めつけていたじぶんがずれてる。
「いやいや。どちらかと言うと、あるがアップデートされたんだよ。かみさまの本棚で、魔法についていろいろ流し読みしただろ?そのおかげで、魔力分解のスキルが格段に上がった。君にはもう、幻覚や見せかけは殆ど通じない」
「そう、なんですか?」
「うん。他には、傷の回復速度が格段に上がった。今までは治してもらってただろうけど、あるの身体の中にもう既に、かなり強固な治癒魔術が埋まってる。多分腕一本くらいならもげてもすぐ生えてくるよ」
「ほんと?おりゃ」
「あー!すっごい痛い!なにするんですかコリンカさん!」
「腕もいだ」
「ほんとだ。生えてる」
「……ほ、ほんとだ……怖……」
「ね?あとは、コリンカよりも強度な対魔力を持ってる。ピスケスの記憶操作、もうあるには効かないだろうねえ」
「……わたし、まだ、あなたのこと大嫌いですから……」
「……じぶんが、ピスケスさんの邪魔をしたのは事実です。だから、それはもう、しょうがないっていうか」
「チッ」
「はーい、喧嘩しない。ていうかピスケス、これからあるに頼りきりになるのに、そういうこと言ってていいの?」
「は?」
「罪には罰を。みんなにあれだけ迷惑を掛けたんだ、謝罪の言葉じゃ足りないだろ?」
はい、とかみさまからじぶんへ、小さな金属が手渡された。薇の持ち手。なんですか、と問い掛ければ、ピスケスの動力だよ、とざっくり答えられた。なんでも、この薇を巻かないでいると、一定時間の経過でピスケスさんは動けなくなるらしい。もしくは、なにかあった時にピスケスさんを緊急動作停止するストッパーとしても使える、と。こうするんだよ、とかみさまがじぶんの手を取って、こっちおいで、とピスケスさんに呼びかける。ははん、と完全に信じずに馬鹿にして鼻で笑ったピスケスさんが、かつこつと靴音を立ててこっちに歩いてくる。顔が真っ青だ。
「という感じで、これを持ってるとピスケスが言うことを聞く。薇の差込口はここ、ピスケスちょっと服の背中まくって」
「嫌です!嫌!誰か!誰か助けて!変態!最低!大っ嫌い!」
「私、前々から思ってたけど、かみさまって低俗だよな」
「人に嫌がられることするの好きだよね」
「そ、そうなのかい?僕、あんまりかみさまと話した思い出ないからな……」
「そこ!コリンカとポール!かみさまの悪口を吹き込むんじゃありません!」
「殺して……いっそ殺してえ……」
「こっち向きに回すと魔力供給、反対に回すと強制ストップで動作停止だ。ちょっとおきに巻いてやるといい。自分の星にいたら神獣から流した魔力で多少楽かもしれないけど、それでもいずれ動けなくなるから」
「はい」
「あるクンが淡々としている」
「生肌見慣れたんじゃない?」
「……………」
「かみさま、レオくんが寝てまーす」
「……は」
それでこの人は誰だっけ、とサジタリウスさんを見上げたレオさんに、あとで説明することを約束した。そういえば、かみさまがレオさんを呼んでくれたんだっけ。改めてお礼を言うと、しばらく考えたレオさんは、ぽつりと口を開いた。
「……星を壊されるのは困る。……あと、あるがいなくなると星のみんなが心配する。困る。……あとは、……うん。きみの、力になりたかった」
「……レオさん」
「助けになれて良かった。また、神殿で待ってる」
「はい!また行きます、スープを持って行きます!」
「それはもういい、普通に来ればいい」
「!」
「なに?あるクン、レオくんのところに通い妻してたの?」
「いいなあ、スープ。スピカのところで食べたの、美味しかった!」
「……そうだね。また食べられたらいいのに」
コリンカさんの言葉に、全員が黙る。じぶんの星から、スピカさんの星へ繋がるゲートは、無くなっていた。コリンカさんのところからも、ポールさんのところからも。つまり、スピカさんの星は無くなってしまった、ということなのだ。彼女は、女神に祈って、全てを守って、その代償として、いなくなってしまった。召し上げられてしまった、と言ったら正しいのだろうか。神獣に取り込まれて、名残だけ残っていたサジタリウスさんとは、話が違う。遺されたものはほんの一欠片、赤いリボンだけ。ポケットからそれを取り出して、かみさまに渡す。
「……お願いがあります。スピカさんを、返してください」
「返すもなにも、スピカは自分でアストライアーのところへ行ったんだ。身体も思いも全部捨てて、あるの身体にかなり高等な治癒魔術と対魔力の付与、サジタリウスの再現界、ピスケスが消したポールとコリンカの記憶、あとそのリボン。それだけ遺せば充分だろ?」
「嫌です。じゃあ、じぶんのアップデートを帳消しにして、スピカさんを返してください」
「でもそうなると、サジタリウスはまたいなくなるし、ポールもコリンカも二度と目覚めなくなるんだよ。ある、分かってる?」
「……それも嫌です……」
「やだやだちゃんだなあ。かみさまのこと何だと思ってるのさ」
「何でもできると思ってます……」
「ふむ。それはそうなんだけどね」
「……じぶんにできることなら、何でもするので、お願いします……」
「え?なに?もっかい」
「え?」
「もっかい」
「……じぶんにできることなら、何でもするので……?」
「ふむふむ?」
「お、お願いします……?」
「全員抱けるな?」
「……………」
「何でもするんじゃなかったのかオラ」
「……な、なんでもしますう……」
「あるがかみさまに脅されてる」
「泣いてる」
「かわいそう」
「うるさいうるさーい!特別大サービスなんだから!かみさま、がんばったやつにはご褒美あげる主義なんだぞう!」
語尾に星がついていそうなうきうき加減で、何でもするって言ったもんなァ!と念押しでドスを効かせられて、がくがく頷く。そうだった。忘れてた。最初からかみさまの望みは、「みんなと仲良くすること(意味深)」でしかないのである。だったら、みんなの中の一人が失われることを、良しとするはずもない。じぶんの手からリボンを取ったかみさまが、聖人のように柔らかく笑った。思いっきり抱きしめて好きなだけ泣かせてやりなさい、と。
「……………」
「……………」
「……ぁ、ある、さん……?」
「……………」
「ぇ、えっ、あ、あの、えっと、わたし」
「……………」
「ひええ……」
金色の髪。赤いリボン。白いスカートと、長い袖。困ったように下がる眉。じぶんを見ると赤くなる頰。少し背の高い身体に、縋るように抱きついた。ぎゅっとしたら、燃え上がりそうなくらい熱かった。生きてる。ここにいる。触れる。話せる。一緒に過ごせる。
「……うあああ……」
「あっ、あるさん!?ど、どうして泣くんですか、痛いんですか、治しますか!?」
「あはは、ある。泣かせてやりなさいって言ったんだよ、きみが泣いてどうする」
「ズビガざんんん」
「は、はいっ」
「おっ、おかえっ、なさ、っ、おかえりなさいっ……」
「……っはい、ただいま、」

「ヒュー。熱烈。おかえりのチューじゃん、あるクンやるー」
「うええええん」
「うるさいです、片割れ……耳に刺さる……」
「……見てちゃ、いけないんじゃない」
「そ、そうかな!?でもスピカが、あのスピカがあんなに、あわわ……仲良くしてた身としては、複雑だよ……!?」
「まあまあ、サジタリウスくん。ほら、ポールくんも涙拭いて。みんなでスピカくんをぎゅっとしてやろうぜ」
「……コリンカさん。どうして私の手を握ってるんですか」
「ピスケスくんも来るから」
「……コリンカ。私は行かない」
「レオくんも行くの!あるクンも一緒くたにぎゅーだぞ、せーのでみんなで、」
「うわああああんスピカああああ」
「あっ、行っちゃった」
「あの野郎全然話聞かねえ!トールくんに似てきたな!」



あれからしばらく経って、後日談。
「牡牛座」
「うわあ!はっ、はい!え、あれ、ピスケスさん……?」
「ご足労頂き有難うございましたとかそういう感謝は述べられないんですか?」
「あ、ありがとうございます……」
「ふん」
突然ピスケスさんがじぶんの星にやってきた。彼女は基本的に、魔力回路が突然出来てしまった自分の星の管理に追われていて、こっちに来ることはない。しかしながら、コリンカさんが言っていた通り人間は案外図太くて、じぶんが作った魔力回路のせいで、ちょっとした不思議なことがしょっちゅう起こるようになっても、結構平気で生活を続けているらしいけれど。
木陰で本を読んでいたところに急に話しかけられたので、飛び上がって驚いてしまった。ピスケスさんの機嫌が良くなさそうなのは、じぶんがいる時のデフォルトなので、まあそれは置いといていい。じぶんが薇を巻かないと動けなくなってしまう事実を認めたくないピスケスさんは、どうにか上に立とうと上から目線で意地悪をしてくる。記憶操作も効かない相手だし、そもそもにして嫌いだったわけだし、気持ちは分からなくもない。しかしながら、昨日、薇を巻いてあげたところなのに、どうしたんだろう。
「不備が起きました。元に戻しなさい」
「え?どうしたんですか」
「……なんでもいいから、昨日の私に戻してください。薇を巻き直すんでも、一回強制停止して再起動してみるんでもいいですから、早く」
「そ、そんなこと言われても」
「早くしなさい!」
「ひええ」
「やっぴー、あるクン。あれ?ピスケスくんじゃん、なにしてんの?」
「……チッ……」
がくがく揺さぶられていると、丁度コリンカさんが遊びに来た。今日は、レオさんの星に二人で遊びに行く約束をしていたから。ものすごい低音で舌打ちをかましたピスケスさんが、もういいです、使えない駄牛が、と暴言を吐き捨てて手を離した。でも、不備って言ってたし。あの一件から、読み解いて理解することに関してとんでもなく良くなってしまった目の、リミッターを外す。普段は制御を掛けてないと、生活に支障が出るのだ。自分で建てたはずの家の魔法陣とその分解の方法、それにかかる魔力量と時間まで、勝手に目が読み解いてくれちゃうもんだから。
「……あれ?ピスケスさん?」
「帰ります」
「待って、不備って」
「用が済んだら私の星に来なさい」
「でも、あの、混ざってますよ!?」
「……………」
「は?混ざってる?なにが?」
「あの、コリンカさん。ピスケスさんの体、女の子と男の子が混ざって」
「わあああああ!」
絶叫の後にビンタされた。コリンカさんはのたうちまわるほど大笑いしている。爆速で治るようになったとはいえ、普通に痛い。ピスケスさんが殺意を持った目でこっちを睨んでいるのも怖い。
「……治しなさい……」
「あっははは、ひー、なに、あるクン、ピスケスくんとも魔力の混ぜっこしたの?いっひひ」
「してません!ていうか、多分、サジタリウスさんの匂いがするような……」
「はは、あー、じゃあピスケスくん、サジタリウスくんとやったの」
「そんなことはしていません!」
「あー、うける。混ざってるってどんなん?見して」
「見せません!やだっつってんでしょ、あ、クソ、馬鹿力!」
「おー、おーおー、ほんとだ。全部盛りだ」
「ぶち殺す!いつか絶対殺しますから!覚えとけよ山羊座!」
「あの、喧嘩しないでください……」
コリンカさんがピスケスさんの服を、紛れもない馬鹿力で、ずたずたに引き裂いてしまったので、じぶんの服を貸した。コリンカさんがにやにやしてる。ピスケスさんはぶすくれている。早く治しなさい、と吐き捨てられて、首を傾げた。
「治す方法なんて、分かりません」
「なんのためにその目はついているんですか。分解しなさい。早く」
「でも、ピスケスさんの身体がそうなったのって多分、神獣と同期したからで……神獣っていうか、その元になったサジタリウスさんと、って言った方がいいかもしれません」
「あー。サジタリウスくんは男の子だもんね」
「神獣の力とピスケスさんは剥がし切りましたけど、サジタリウスさんは現界してる以上、これ以上分解して、なにか影響が出ても困りますし……」
「かみさまに聞いてみる?」
「もう聞きました!そしたら、かみさまはなんにもしないからあるんとこ行きなよお、って」
「今のかみさまの物真似?クソ下手」
ピスケスさんがコリンカさんに掴みかかって、また取っ組み合いの喧嘩が始まった。ポールさんがいつか、またピスケスと喧嘩?ってコリンカさんに聞いてた気がする。この二人、仲悪いんだ。特権が相性悪いとかそういう問題じゃなく、煽り合いと貶し合いの結果だと思う。だんだんエスカレートして、積んであった本がばらばらと飛んできた。じぶんの星なんだから、やめてください。
「ねえ!ある!大変なんだ!僕、半分女の子になっちゃった!」
「……ああ……そっちも……」
「かみさまのところに行ったらあるのところに行けって、ねえ、どうしたらいいかな?もっと可愛い格好が似合うようになっちゃう!」
困ってるのか喜んでるのか微妙なサジタリウスさんが飛び込んできて、二人の喧嘩で吹き荒れる暴風と飛び散る石飛礫も物ともせず、どうしよー!と目をばってんにしている。とりあえず全員落ち着いてほしい。じぶんにはみんなを力づくで黙らせることが可能なだけの力があると分かってから、やりたい放題されてる。どがしゃん、とすっ飛んできたじぶんの家だったものに、頭が痛くなった。
「……なんでもするとか、言わなきゃ良かった……」



「さてさて。ハッピーエンドなんじゃない?」
「疲れました」
「次回!学パロ編!イエーイ!」
「えっ?」
「乞うご期待!」
「……えっ?」


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