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☆すてらびーた☆



毎度恒例、振り返りターイム。司会進行はわたくし、かみさまだよー。
なんやかんやすったもんだあった末に、直前のピスケスとのやりとりの記憶と、あるについての一切の記憶を奪われたコリンカ。同じくピスケスについての記憶と、神話時代の思い出を奪われたある。犯人は恐らくピスケス、動機は神獣再臨のためとみられている。しかしながらそうと決まったわけでもなく、結局は本人に聞くまで分からないというような状況なわけだ。運のいいことにあるがコリンカにもちゃっかり手を出していたがために、魔力の同期が起こっていて、コリンカからあるへの不審はわりかし薄くなっているけれど、本当だったらそこで仲間割れを誘ってもっと時間稼ぎをしたかったと思われる。ちゃっかりしてるよね、さすがピスケス。スピカとポールが繋がり、以前のように二人きりの戦争ではなく、四対一の形はとれるようになったわけだけれど、スピカは過去のトラウマから抜け出せたわけでもないので、戦力外かも知れない。それ以前にスピカに実質的な戦闘能力はほぼ無いに等しいから、サポートに徹する形にはなるんだけどね。
果たしてスピカは、遥か昔、自分にとっての唯一の愛すべき相手だったお友達を、攻撃できるのか。あるやコリンカの記憶は無事返ってくるのか。正直ピスケスは本当に自分からそういうことを考案して実際に動いている黒幕なのか。ポールはまああんまり関係ないっちゃ関係ないけど、多分あるが怪我したらスピカと同じぐらいブチ切れるだろうから、そこでスピカとポールで揉めないでいてくれるのか。まあ不安事項はいろいろあるよね。とりあえずあの四人、ピスケスの星に向かうことに決めたらしい。直接面識があるの、コリンカくらいなんだけど、あの排他的な星に四人で向かって、受け入れてもらえるのかなあ。かみさま知ーらない。
セカンドステージ第二部、はっじまっるよー。



「ピスケスさんの星にも、人間が住んでいるんでしたっけ」
「うん。まあ、住んでるっていうか、管理されてるっていうか」
「?」
「……んー。あるクンは、レオくんの星を見てるんだろ?そしたら全然違うってことは分かるけど、スピカくんとポールくんには、あれが普通だと勘違いして欲しくは無いなあ。私、人間ってもっと、主体的で行動的で、向こう見ずに頑張れる生き物だと思うから」
「はい」
「えー、なんかよく分かんない。スピカ、どういうこと?」
「わたしも分かりませんけど」
「はいって言ったじゃんか!」
「だってえ」
「そこ!漫才しない!仲良くなるスピードが早いのはあるクンに引き摺られてるのかな!」
「え?なんですか?」
「はい本人は話聞いてなーい!覚えてないけど私きっと君のそういうとこ多分イライラしてたー!」
「えっ……そうなんですか……?」
「コリンカちゃん適当だから、真に受けない方がいいですよ」
「ねえー、どういうこと?人間はみんな一緒でしょ?すぐ死んじゃうって聞いたことはあるけど」
「もー、見れば分かる、見れば。ほら行くぞ」

コリンカさん曰く。
ピスケスさんの星に入るには、ゲートをくぐってすぐ、ピスケスさんと直接話して、星の中で自由にしていい許可をもらうことが必要なんだという。レオさんの星は魔術回路の影響で、他の星と繋がるゲートは一つのところに固まるようにできているけれど、ピスケスさんの星はそれとは正反対の「魔力に全くもって恵まれなかった星」だそうだ。だから、そこに暮らす人々は、魔法の代わりに科学を発展させて生きている。その弊害というか、その暮らしを妨げないためというか、建てられたゲートの目の前にピスケスさんは固有結界を張って、そこに現れたじぶんたちが何をしに自分の星に現れたのか見定めている、ということらしい。しかしながら基本的には、星の中への侵入は不許可なんだとか。今ある人々の暮らしを守り抜くことがピスケスさんにとっては第一で、それに水を差すような真似はやめてほしい、ということだろう。コリンカさんの言った、管理されている、は強ち間違いでもない。ピスケスさんの星に住む人は、ピスケスさんの管理下で、手のひらの上での自由を、それがそうであると気づかないままに謳歌しているのだ。
そんな話を聞いていたから。
「……?」
「……………」
「……コリンカさん、ピスケスさんですか?」
「どう見ても違うだろ」
「わー!もっふもふだー!」
ばいん、ともふもふふわふわの羊のような何かにポールさんが突進して抱きついても、誰も何も言えずに固まっていたのである。門番はピスケスさんなんじゃなかったのか。この羊もどきみたいなやつはなんだ。狐と羊と栗鼠の合いの子みたいな生き物ですね、とスピカさんが呟いた。わたしのところにはいません、だそうだ。そりゃまあ、ふわふわもふもふで、かわいらしいけど。もっふもふ!もふもふ!とポールさんはテンションだだ上がりである。これが何かは特に気にならないらしい。
「お離しください、ノーノー。愛玩動物ではないと心得てください」
「ん?喋った?」
「イエス。此れなるは、ピスケスの代理者。お気軽に、アバドーンとお呼びください」
「むー。ふわふわなのに名前はごっついね」
ポールさんに抱かれたまま、というかアバドーンさん結構大きいから、もふもふにポールさんが埋もれていくんだけど、淡々とアバドーンさんは話す。電子音っぽい、というか、女とも男とも取れない声。ここまでで分かったのは、ピスケスさんとは会えない、ということだ。しかしながら、アバドーンさんは会話に応じてくれるらしい。
「此処に訪れる他の星の者を、中に入れないようにと仰せつかっております」
「ピスケスくんはどこに行ったんだ?」
「降誕の儀を終え、体を休めておられます。ですので、星への侵入は不許可と申し上げます」
「降誕……お友達、神獣を、その身に降したってことですか?」
「イエス。リボンのお嬢さん、よくご存知で。このアバドーン、ピスケスに、皆様をここで差し止めるよう言われております故」
「そう言われても困るよ。そのピスケスくんにこっちは思い出取られちゃってるんだから」
「ハウエバー、申し訳ありません。このアバドーン、皆様をお通しすることは出来ません」
「ねえアバドーン、もふもふしてあげるから、おねがーい」
「ナイス、よいもふもふです、金髪の少年。しかしながら、ノーと申し上げます」
「アバドーンさん、質問してもいいですか」
「それはピスケスより止められておりません。イエス、宜しいでしょう」
「じぶん、ここに来たことがあるみたいなんです。その時に何があったかを、教えて欲しいんです」
「オーケー。ですが、アバドーン、その事象についての知識を持ち合わせておりません。ピスケスに問うておきましょう」
「私の記憶も返してほしいんだけど」
「ノー。それについては了承しかねます。奪ったものを返すつもりはないと、神獣は申しておりました」
「……ピスケスじゃなくて、神獣が?」
「二人は一つ、アバドーンも合わせれば、三つは一つなのです。意識の統合は未だ終えておりませんが、しばらくすれば概ね通じるようになります。そうなれば、ピスケスと直接話すことも叶うでしょう」
「よくわかんない」
「ポールくん、めんどくさくなってない?」
「難しいことは嫌いなんですー」
「繋がっているんですか?」
「ノー。リボンのお嬢さん、ノーノー。アバドーン、簡単に死にます。絞めてはなりません。アバドーンを痛めつけたところで、ピスケスにも神獣にもノーダメージ、リボンのお嬢さん」
「わー!スピカさん!」
「やめてスピカー!アバドーンが苦しそう!」
「あるさんを傷つけたピスケスちゃんにも、いなくなったお友達にも、私、話があります」
「アバドーン、死んでしまいます。リボンのお嬢さん、理性を取り戻して」
「スピカさん力強っ、離してくださあい!」
ピスケスさんにも神獣にも繋がる要素となるアバドーンさんを、こんなところで喪うわけにはいかない。一瞬で理性を蒸発させてアバドーンさんの首を締め上げにかかったスピカさんを3人がかりで止めて、もう一度アバドーンさんと向き合う。ぶつぶつ言ってるスピカさんが怖いけれど、黙っておく。目が据わってる。
「お話があります、お話が、ピスケスちゃんにはお返しを、私、あるさんのお返しをしなくちゃいけません、お友達ともお話を」
「……スピカくんはほっとこう」
「イエス。リボンのお嬢さんを皆さんで止めてください。ビコーズ、アバドーンが死んでしまいます」
「また来てもいいですか」
「オーケー。了承致します。このアバドーンの一存で」
「……待って?アバドーンくんの了承であってピスケスくんは許可しないかもしれないってこと?」
「イエス。そうなります」
「はーい。アバドーンに質問」
「金髪の少年、なんでしょう?」
「ピスケスと神獣とアバドーンが一緒になるのはいつ?」
「それは把握し兼ねます。よいもふもふを堪能出来なくなるのは残念ですが」
「えー。もふもふしてあげるから一緒にならないでよー」
「ナイスもふもふ。ナイス。アバドーン、掛け合ってみましょう」
ということで、ピスケスさんの星を離れた。取り敢えず、出来る限り間を空けずに訪れることにしよう、ということにして。そしたら、ピスケスさんともすぐにでも話ができるんじゃないと思ったんだけど、地味にポールさんがぐずっている。アバドーンさんをたいそう気に入ったらしい。だってぼくの星にはああいうかわいい子がいないんだもの、だそうで。
「スピカのところには、ふわふわのもふもふ、いっぱいいる?」
「いますよ。割と」
「今度スピカのところにも行こーっと」
「ええ。お待ちしています」
「……スピカさんが元に戻って良かった……」
「アバドーンくんのところにスピカくんは連れていかないようにしよう。怯えられてたから」


次の日。アバドーンさんのところに行く前に、レオさんのところに行ってみることにした。一応、巻き込むつもりはないけれど、話をしておくことは必要かと思って。あったかい外套を着て、猛吹雪の中を掻い潜って、星の人たちとお話ししながら進んで、子どもたちにも無事会えて、ようやく神殿についた。初めて出会った時にはきゃっきゃしていた子どもたちは、少し大人になっていた。やっぱり、人間の時間とじぶんたちの時間には、大きなズレがあるようだ。
角にいっぱい雪が積もってしまったので、神殿に入る前に叩いて落とした。神殿ってこう、聖なる場所なわけでしょ、だったら雪なんか付けたまま入っちゃ駄目でしょ。しんと静寂を保っている神殿の中に、呼びかける。響き渡る、自分の声。
「レオさーん」
「……………」
「こんにちは!遊びに来ました」
「……………」
すぐに出てきて、お辞儀してくれた。ちょっとだけ、接近した気がする。前にスピカさんに作り方を教えてもらったあったかいスープを、お土産に持って来たので、渡してみた。あったまりますよ、とカップを手渡せば、ふわふわと湯気を立てるそれを見たレオさんが、ちょっと眉を潜めて、手は出してくれなかった。怪しまれているのかもしれない。床はちょっと、と思って、大きな柱の飾りの一段上がってるところにカップを置いてみた。自分の分の器が無くなったので、かりかりと地面に魔法陣を描いて歪ながらもカップを一つ精製してみた。ポールさんのように上手くはいかないものだ。じぶんがスープを飲んでいるのを見て、そろそろ近寄ってきたレオさんが、カップを手に取って、一口舐めた。野生動物を手なずけている気分。
「レオさん、お話ししてもいいですか」
「……………」
こくん。了承の意である。ピスケスさんの話もアバドーンさんの話も、以前の神獣騒ぎも絡めながら、包み隠さずに話した。じぶんのお腹とかが千切れちゃった話は、まあさらっと終わりにした。ねちねち恨みを持っていると思われても嫌だし、スピカさんが治してくれたから全然気にしてないし。
「というわけなんです」
「……………」
「だから、あんまり、来られなくなってしまうかも知れなくて」
「……………」
「でも、レオさんとも会いたいですし、この星の人たちともまだまだお話しし足りないですから、また来ます!」
「……おいしかった」
「え?」
「……………」
「レオさん?」
「また、おいで」
「……はいっ!」

よく考えたら、スープに対しての「また、おいで」だったのかもしれない……じぶんも初めて物食べた時、すっごい美味しかったし、レオさんもスープを生まれて初めて食べたから、そう言っただけかもしれない……なんか落ち込んできた……
ずーんとしたまま、アバドーンさんのところに行ってみることにした。昨日よりちょっとふわふわしてる気がする。
「ウェルカム。なんといっても、このアバドーン、機嫌が良いのです。グッドなもふもふを堪能致しましたので」
「ポールさん、来てたんだ……」
「皆さんがここから立ち去ってすぐ、彼のみ舞い戻ってきて、アバドーンを先程までもふもふしておりました」
「アバドーンさん、昨日聞いたことなんですけど、ピスケスさんは何か言ってました?」
「ノー。ピスケスはずっと眠りこけておりまして、会話ができる状態にありませんでした」
「ちなみに、神獣さんは?」
「まだ同期が済んでいない故、神獣は会話が通用する状態にありません。既に縁が結ばれているピスケス伝いでないと」
「そう、ですか……」
「暇になってしまったでしょう。もふもふしても良いのですよ、このアバドーンを」
「あ、いえ」
「もふもふは良いものです。グッド。ベリーグッド。良いのですよ、角付きの少年」
「いえ」
「さあ!」
もふもふはしなかった。しかしながら、アバドーンさんの言う通り、暇になってしまったことは事実なので、スピカさんの星に行ってみることにした。ポールさんのところに行ってトールさんと出くわしても騒動になりそうだし、コリンカさんのところに行って「やっぱりあるクンのことは信用できないから、ぶん殴ることにしたよ!」とボコボコにされても困る。一番安全そうなところを選んだだけの話である。
「あるさん、もう痛いところはありませんか」
「はい。スピカさんが治してくれると、すぐ平気になります!」
「わたし、それくらいしか出来ないですから」
紅茶を出してくれたスピカさんは、じぶんの前に座って、にこにこしている。眺められると恥ずかしくて顔を背ければ、どうしてそんなことをするんです!って怒られた。前を向いて目を合わせれば、とっても上機嫌なスピカさん。
「……なんの時間ですか……」
「スピカの癒しタイムです。ふふ、あるさん、うふふ」
「恥ずかしいです」
「ご飯食べて行かれますか?」
「ごはん!はい!」
「ええ、では、そのように」

うっかり大きくなりました。仕方がないのでスピカさんに魔力供給しました。以上。
「あれ!?どうして!?」
「あるさん、怪我もしてないのにわたしの作ったものを食べるって言うのは、そういうことでしょう」
「違います!断じて!」
「またまた、うふふ」
「くそお!最近してなかったから油断してた!盛りましたね!?」
「愛の力です」
「怪しい薬の力です!」
もう痛いところはないかと聞かれたのも、いやに上機嫌だったのも、この伏線だったのか。毎度ながら乗ってしまうじぶんもじぶんだぞ、学習しなさい。好き好きって甘えてすりすりしてくるスピカさんはかわいいので許した。
「無理やり大人にしなくても、言ってくれたら考えるくらいしますよ」
「……んー、だって、恥ずかしいじゃないですか。愛を伝える予定を立てるだなんて」
「そうですか?」
「はい。わたし、あるさんのことは突然独り占めにしたくなるんです。わがまま、許してくださいますか?」
「いいですけど……」
ふにゃ、ってスピカさんが笑った。久し振りにその顔も見た気がする。アバドーンさんをいきなり絞め上げたのも、ピスケスさんに怒ってるのも、元を辿ればじぶんが傷つけられたからなんだよなあ。昔のお友達、今の神獣のなんだかんだになってから、スピカさんはずっと不安そうだったから、じぶんがちょっとでも安心させてあげられたらいい。さらさらの髪の毛を撫でれば、口をむにゃむにゃさせて、赤くなった。
「……あるさん、突然そんな、わたし、もっと好きになってしまいます……」
「髪の毛撫でられるの好きなんですか?」
「ええ。あるさんに触れてもらうことが、好きです」
「スピカさん、手出して」
「はい」
「ぎゅー」
「ふふ。あるさん、あったかい」
「じぶんが、守りますから。スピカさんがもう泣かないように、がんばります」
「……わたし、守ってもらって、いいんでしょうか」
「まかしてください!」
そして、一晩明けて。スピカさんの星に、ポールさんが遊びに来た。お話通りもふもふを楽しみに来たぞー、だそうで。スピカさんも嬉しそうだし、ここの二人が仲良くなってくれて嬉しい。ポールさんが、そういえば、と純粋な目で問いかけてきた。
「どうしてあるがスピカの家で寝てたの?」
「っぐ、たっ、楽しいパジャマパーティーを!ねっ!スピカさん!」
「愛し合っていたからです」
「スピカさん!」
「あー。ふむふむ。あるがスピカくさいし、スピカがあるくさい。なるほど」
「あるさん、誤魔化せると思う方が間違いですよ」
「あああ……顔から火が出そうです……」
「スピカの魔力はいい匂いだね」
「そうですか?」
「うん。あるの魔力は、……」
「えっ!?どうして黙るんです!?異臭!?くさいんですか!?」
「そういうわけじゃ……スピカ、分かる?」
「分かります。匂いとかじゃないです」
「そう、それ」
「わたしは好きです♡」
「ぼくだって嫌いとは言ってない!」
「え……え……?」
「自分じゃ自分のことは分からないもんだよ、ある」
「どういうことですか!?」
割とショックを受けたが、ポールさんとスピカさんが楽しそうに動物の世話を始めてしまったので、くさくないにしてもあんまりアレなじぶんは去ることにした。なんでさ!と二人に目を丸くされたけれど、気持ちがおさまりません。
アバドーンさんのところに行ったらコリンカさんがいたので、お邪魔しないように時間をずらすことにした。一旦じぶんの星に戻って、久し振りにゆっくり本でも読もうかなーって思ったけど、かみさまの本棚で本を選んでる途中でやめて、やっぱりレオさんのところに行くことにした。じぶんとは違う時間を生きる人間たちに会いたくて、行ける時に行っておきたいし、あとレオさんにまたスープを持って行ってあげようかなって思って。
「こんにちはー」
「……………」
「お邪魔します。レオさん、今日はトマトのスープなんですけど」
「……ある?」
「!っ、はい!」
「……………」
「な、なんでしょう!」
名前を呼ばれた。疑問形だったけど。なんだろう、なんだろう、ってそわそわしながら待っていると、少し不思議そうな顔をしたレオさんが口を開いた。
「……違う誰かの匂いがする」

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