このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

おやすみなさい



都築が寝ている。授業中、頭がぐらぐらしているなあ、とは思ったけど、居眠りなんてあんまりしないのに、珍しい。教科書を借りに来たらしい瀧川も不思議そうにしている。でも、起こすには忍びないしな。
「疲れてんのか」
「都築って疲れんの?」
「……人間だし、疲れるんじゃね」
「あんま疲れとか知らなそう」
「朔太郎じゃあるまいし……」
机を二人で見下ろしてぼそぼそ話していると、びくんと都築の体が飛び跳ねて、起きた。タイミングは良かったが、今までマジで寝てたのはよく分かる。だって、意識がはっきりしてる俺たちも飛び跳ねる程の音で、前の教卓が倒れたから。ふざけててよろけてぶつかったらしいクラスメイトが、やべー!ごめんな!と周りに誤っている。怪我人がいなくて良かった。
「はああ……怖い夢見た……」
「おはよ」
「なんの夢?」
「……んや……」
「怖い夢なんだろ?」
「んん……」
言い澱みまくり。困り顔でもごもごと口を開けなくなった都築に、疲れてるのかと問いかければ、昨日は夜が遅かったし肉体労働をした、と予想通りの答えが返って来た。昨日日曜日なんだけどな。家の手伝いでもしたんだろうか。寝覚めが悪いと再び机に突っ伏した都築に、瀧川が言った。
「悪い夢は誰かに言った方がいいって言うじゃんか。口に出した夢は叶わないって」
「うーん……」
「それともなに?グロい系?」
「いやあ、そういうわけじゃないけど」
言ってみろよー、と瀧川が都築の髪の毛を掴んで顔をあげさせている。痛くねえのかな、と思ってたら、しばらく為すがままにうんうん唸っていたけれど、痛えよ!なにしてんだ!と突然キレだした。気づかなかったんだとしたら、神経死んでる。瀧川がそういうことするから、ちょうど廊下を通りかかった見知らぬ後輩女子がこっちをはっきり見て、なにやらぼそぼそ言われている。多分「都築先輩可哀想」「あんなことするとかあの先輩最低だね」とかそういうことだ。脳みそが緩い割に情報がわらわら集まってくる砧が、こないだこんなこと言われてましたよ!って聞かなくても教えてくれる。俺が関係ないことは教えなくてもいいのだが、何故か教えてくれるので、逆に困っている。そこから得た情報では、超絶かっこよくてみんなの憧れであるところの都築先輩とよくいる特筆すべき点のない男は都築先輩を乱暴に扱うので一部女子から憎まれている、ということらしい。ちなみに瀧川本人はそのことは知らない。
「なんだよー、言えよ」
「えー」
「口に出すのも嫌な感じ?」
「そこまでじゃないんだけど……瀧川が傷つくと思って……」
「えっ?俺が酷い目に遭うの?怖い」
「酷い目っていうか……」
「でもそれなら尚更口に出せよ、現実になったら困るじゃんか」
「……怒らない?」
「怒らない怒らない」
「本当?誓える?」
「誓う誓う。神様に誓う」
「じゃあ」
「なに?」
「瀧川に彼女ができて、幸せに暮らす夢を見たんだ」
「てめえふざけんなよ!」
「怒らないって言った」
「ぐう……!」
「神様にも誓ってた」
「……航介!」
「俺を巻き込まないでくれ」
「それが悪い夢だって言うなら、お前相当根性曲がってるぞ!」
「悪い夢じゃん。俺のことを差し置いてなに可愛い彼女と幸せ築いちゃってんの?」
「予想以上に性格悪いな、こいつ……」
まあそんなこったろうとは思ったけどさ。


3/8ページ