「伏見くん、伏見くん、ねえ伏見くん、伏見くん」
「もっと早く」
「も、もお、疲れた、無理、足疲れた、伏見」
「早く」
「うふふ、追いかけっこ、伏見くん、楽しいねっ」
「早く小野寺」
「はあっ、ボール捨てて、ふつ、っ普通に、泳いだほうが、絶対早いよ！」
「そしたら俺が振り落とされるだろ！お前はボールと俺を抱えて水中を素早く走るの！どっちも振り落とさないように細心の注意を払いながら！」
「伏見くんのその格好さっき見かけたカップルの女の子がやってたのと同じ格好だねっ、伏見くんっ」
「黙れコツメカワウソ」
「ぷぎゃっ」
「このっ、このっ、あっち行けっ」
「えへへ、伏見くんが足で水をかけてくる、幸せ」
「首に縋り付かないでよお、苦しいよお」
「いいから早くあの両生類を撒けよ！なんで航介と弁当は俺を置いてったんだよ！」
「朔太郎がいると弁当が浮き輪取れないからだって、さっき言ってた！」
「あいつ俺のこと囮にしやがったな！？」
「ふっしみくんっ、俺イルカみたいに泳ぐから俺に掴まってもいいんだよっ、がんばるよっ」
「海の豚だぞイルカって、豚眼鏡」
「ひゅー！伏見くんが俺を罵る！興奮する！」
「もうやだこの人、ほんとやだ！小野寺もっと早く逃げてよ！」
「これでもがんばってるよ！？でももう限界だよ！足が！」
「なんのためにその筋肉はあるんだよ、つっかえねえなあ！」
「こんなことのためじゃない！」
「いいこと思いついた！小野寺くんを捕まえたら伏見くんも俺の手の内じゃん！」
「ねえ！最悪の手段思いついてるよあの超高速犬掻き男！もっとスピード出してよ！」
「もう朔太郎に伏見を渡して楽になりたい」
「裏切り者！もうお前の前では二度と脱がない！」
「えっ待ってなにそれ」
「ボール貸せ！自分で逃げる！」
「あーん！伏見くん早っ、えっ、人の間縫うのめっちゃ上手い」
「……………」
「小野寺くんなんで死にそうになってんの？」
「……朔太郎のせいだ」
「おや？どうしてここに溝が生まれているのかな？」