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うみ



有馬が海に行きたいのなんだのと騒ぎ出して、伏見がついてくることになって、自動的に小野寺もついてくることになって、予定では明日みんなで海に行くらしい。水着を買わされた。浮き輪も買わされた。俺の買い物なんだけど一緒にきた伏見もいろいろ買っていたので、水着持ってないの?となんとなく聞いたら、持ってないわけないじゃん、でも今シーズン着るやつはないから買うの、とよく分からない返事をされた。持ってんなら買わなくていいじゃん。
明日一日炎天下の中にずっといたら、乾涸びて死んでしまう気がする。すごく憂鬱。でもすっぽかすわけにもいかないので、行くしかないのだ。できるだけ日陰にいよう、パラソルの下とか。有馬に渡された、あしたいるもの、と平仮名で書かれたメモを見ながらのろのろ気の進まない準備をしていると、こんな時間なのにインターホンが鳴った。宅配かな。
「……………」
「やっぴー。来ちゃった」
「……………」
「……お引き取りください」
「わー!閉めないで!」
はい、っていうよりも早く、あっちから開けられた扉から、眼球に染み付くほど見た茶色頭が飛び込んできた。まさかこんな見間違いってあるかな?疲れてるのかな?と思って扉を閉めようとしたら、何故か頭を挟み込んで来たので嫌な音がした。ごりゅごりゅっつったけど骨大丈夫なの。友人の頭蓋が砕けるとこなんか見たくない。
お通夜かよってくらいの勢いで黙ってる航介と多分火星に行っても同じテンションが維持できる朔太郎の差が激しすぎる。高山病になる。来ちゃったってなに、どういうこと、どうして先に連絡してくれないの、こっちにも準備ってもんがある、ともたもた伝えれば、ぷすー、と鼻息を漏らした朔太郎が肩を竦めた。腹立つからアメリカナイズな態度やめろ。
「なんで当也逆に知らないの?俺、有馬くんに呼ばれたんだよ」
「……………」
「……えっ」
「海行かない?って。休みある?って。当也んとこ泊めてもらえばいいじゃん!って、有馬くんが言うから、話通ってるもんだと思った」
「……し、らないよ」
「えー、でも他に行くとこないよ」
どうすんだよ、と言われてもこっちだって普通に困る。荷物抱えてる辺り、もう今更断れないし。お通夜の航介もちゃっかり荷物持ってるから、お前他人面出来ないからね、なにしれっとしてんの、と腹が立った。てめえにも話があるというわけにもいかず、ただ朔太郎にはそっぽを向いて欲しくて、あっ、って何もない空を指さしてみたところ、単純につられて見上げた朔太郎が、なに?どれ?どうしたの?と身を乗り出して探し出したので、その隙に航介を蹴る。
「……これ、お前が止めないとどこまでも来るだろ」
「……家から追い出されたんだ……さちえとみわことやちよが組んでやがったんだ……」
「お引き取りください」
「宿無しなんだってほんと」
「帰って」
「なんにもないじゃん!当也ったら!」
「帰って……」
「おっじゃましまーす!ヒュー!当也くさい!今日の夜ご飯はなんだったのかなー!」
「……帰れない」
「あれ引き取って……」
「お邪魔します」
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