まもりくんのおうち
「コロッケおいしかった」
「そうか」
「唐揚げもおいしかったって当也も言ってた」
「そうか」
「次は何が美味しいか航介調べてきて」
「嫌だ」
「なんで?」
「……俺はあの後輩とそんなに親しくないからだよ」
「でも真守くんは航介のこと割と好きだよ」
「名前も覚えてねえじゃねえか!」
「それはそれとして、行って来なよ」
「行かねえよ」
「両親にご挨拶をするのは早いほうがいいよ」
「なんの話だよ、行かねえったら行かねえってば」
「まあまあ」
「あのな」
「まあまあ」
「坂の上先輩までうちに来てくれるなんて……真守は泣きそうです……」
「行かねえっつってんだよ!耳ねえのか!?」
「でもさくちゃん先輩が、美園ヶ丘先輩が泣いて来たがったって」
「誰だよその先輩……」
「嬉しいです」
「お前んち乙供だろ?遠いよ、やだよ」
「じゃあ気絶させてでも連れて行きます」
「なにそれ怖、なに」
「こちらはパステル画に用いるパステルセットとその他色々なブラシやスプレーの入った重たいバッグです!これで錦ヶ浦先輩を今から殴ります!」
「危ねえやめろ!」
「てやー!」
「遠い」
「もうすぐですよ」
「痛い」
「避けないでくれてありがとうございます」
「もうお前ほんと嫌い」
「なんでそんなこと言うんですか!」
「振り返れよ、自分の行動を」
長浜浦先輩がうちに来てくれるなんて、本当に嬉しい。重たい鞄でぶったからかもしれないけど、でもとにかく結果オーライならいいのだ。貧乏揺すりしながら眉間に深い皺を寄せているので、笑顔が一番ですよ、と笑いかけたらアイアンクローされた。どうして。
「ただいまあ!」
「……おじゃまします……」
「おかえりまもちゃあん!」
「わぶっ」
「うわ」
「あれっ?またお友達?」
「……江野浦航介です」
「久保川先輩です!」
「違います、江野浦です」
飛びついてきたみり姉ちゃんに驚いて引いた吉川田先輩が、死んだ目で訂正した。また間違えちゃったかな。残念。
「えー?なにがはら先輩?」
「こーのうらです。おい、江野浦って言え」
「こ、こーのうら?でしたっけ?」
「もっかい言え、はい」
「こおのうら、先輩?」
「いい加減覚えろ」
「じゃあこーちゃん先輩だねー」
「こ……」
「こーちゃん先輩どうぞー、今日はみんないるからねー」
鍋倉浦先輩が固まっている。こーちゃん先輩って、さくちゃん先輩みたいな感じで覚えやすいけど、ちゃんと名前は呼ばないと失礼だよね。俺はちゃんと呼んであげよう。固まっている苫小牧先輩の背中を押して家に入った。
「ねえー、まもちゃんのお友達の、こーちゃん先輩が遊びに来たよー」
「ふわふわくんのお友達?」
「ふわふわくん?」
「こないだ来たんだよ、なあ、真守くん」
「うん、当也先輩のことかな」
「こないださくちゃん先輩も来たよねー」
てつた兄ちゃんが出てきて、君はこーちゃん先輩というのか、真守くんをよろしくね、と気仙沼先輩に挨拶していた。リビングには、たくみ兄ちゃんも、りつき兄ちゃんも、きよら姉ちゃんも、らんま姉ちゃんもいて、今にもいただきますされちゃうところだった。危ない、間に合ってよかった。きょろきょろしている狩場山先輩を隣に引っ張ってきて座ってもらう。
「丹野原先輩、ここどうぞ」
「違うよー、こーちゃん先輩だよー」
「あの、違います、江野浦です」
「こーちゃん先輩……?」
「かわいいねえ、こーちゃん先輩」
「餃子好きー?たくさん食べるー?」
「……食べます……」
「よし」
「巧くん取ってあげるの?気に入ったの?」
「珍しーい」
「え、あ、ありがとうございます」
「食え」
「ご飯食べ終わったら一緒に寝るー?」
「やめてよ清楽ちゃん、誰とでも寝ちゃだめなんだよ」
「じゃあ藍麻も一緒に寝るー?」
「だめだってば」
「こーちゃん先輩くん、泊まってく?」
「……はい?」
「いやあ、真守くんがこんなに高頻度でお友達連れて来るなんて無かったから、そろそろお泊まりとか、ねえ」
「えー!まだ早いよお!」
「でもこーちゃん先輩くんはいい人そうだし」
「ちょっとー、りっちゃん、どう思うー?早いよねー?」
「うるせデブ」
「美里デブじゃありませーん、りっちゃんのばかー」
「餃子もっと食え」
「あ、はい」
「巧くん、きっとこーちゃん先輩も自分のペースで食べるから、ほっといてあげなよ」
「藍麻の言うとおりだよお。ていうか巧、こーちゃん先輩のこと、随分お気に入りだねえ?」
「……ふわふわくんより、たくさん食べそうだからな」
「うるせえぞブス、出てけよ」
「美里ブスじゃないしー!りっちゃんなんなのー!?」
「ご飯の間に喧嘩しないでよお」
「美里ちゃん、律貴くん、表でやりなさい」
「えあ、あの、えっと、お、おねえさん」
「きよらだよお」
「きよらさん、あの、ちか、近いんですけど」
「こーちゃん先輩体おっきいねえ」
「ひえっ」
「どれ」
「……清楽ちゃんがやると普通なのに巧くんが触るとガチくさい……」
「うひ、っき、きぬた、砧助けて」
「こーちゃん先輩、みんな砧だよ」
「真守!真守の砧!お前の兄姉だろ!」
「榎木亭先輩、真守の名前覚えててくれたんですね……!」
「いいから助けろ!」
「航介昨日帰ってこなかったらしいんだよね」
「えっ!?」
「え?」
「でっ、だっ、昨日航介、真守くんのおうちに行ったんだよ!?」
「うん」
「うん!?当也、うん、じゃないでしょ!?」
「……なんでそんな朔太郎焦ってんの?」
「あの、あんなお姉さん達と、一晩を共に!?航介のくせに!くそ!」
「……は?」
「俺も次はお泊まりしてやる!絶対にだ!」
「……はあ?」