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凍て解け


「さむい」
「どうぞ」
寒いと布団に潜り込んでくるところとか、猫みたいだ。冬の俺は、伏見の湯たんぽ代わりになる。伏見よりも俺の方があったかくて、ちょうどいいんだって。自分で体温調節をするのが下手くそな伏見は、寒い時期はお風呂が長くなるか、めちゃくちゃに着込むか、俺で暖をとる。勝手に熱くなったり冷えたりするお前の体が異常なんだ、ってよく言われるけど、みんなそんなもんなんじゃないの。
「いつまで寒いんだろうねえ」
「うるさい眠い」
「はい」
まあ、湯たんぽなので、喋ると怒られる。そんな簡単に寝ないくせして。俺のが寝つき早いんだぞ。俺が寝ると、てめえなに先に寝てやがるって怒るし。
そして当然ながら、今日も今日とて先に寝た。目が覚めた時には大概の場合、伏見は外気から逃げて布団の中に埋もれていて、俺の体温を自分に移すかのように寄り添っている。布団を剥がすと眩しさで唸って、足か手で俺に痛いことをしてくる。足の指でやらかいとこ挟んでくるとか、完全に予想外だから。
次の日。いきなりの夏日とか言って、お昼の間は汗をかくぐらい暑かった。急にこんなに季節が変わるなんて、って弁当とかとも話した。アイスも食べちゃった。まだ春なのに。美味しかった。お風呂上がって、伏見が大欠伸をしてベッドに乗っかって、俺もそれに同じく、
「ぎゃんっ」
「邪魔」
「えっ、え!?なに!?」
「暑い」
「……あ、あつい……?」
「あ、つ、い。一緒に寝ていいなんて言ってない」
ベッドから蹴落とされた。ッチ、と舌打ちまで付け加えて、眉根を寄せて、あからさまに不快感を表してくださった伏見は、分厚い掛け布団をベッドの下に落として、おやすみも言わずに電気を消した。残された可哀想な俺と、ふかふかの掛け布団。なにこれ。ここ俺んちだよね?昨晩までは伏見を抱き枕にして最高にいい気分で寝てたのに、今日はなに?もしかしてここが地獄?
しょうがないから掛け布団にくるまって寝た。せめてもの優しさとしてふかふかの掛け布団を落としてくれたんだと思いたい。起きたら伏見は丸くなってた。もしかして寒いのではなかろうか。確かに昨日は暑かったけれど、今朝は涼しいくらいだし。いつも通りに、うーん、って唸った伏見のことを温めてあげようと、飛びかかった。
「おはよっ、ふーしみっ」
「うざ」
「ぶやっ、目は駄目!目は!」
「死んで」
「起きてるなら言ってよお!」
さらにその日の夜。朝冷え込んだ分なのか、日中もそんなに暑くならなかった。お天気お姉さんも、昨日の暑さが嘘のよう、って言ってた。その通りだった。有馬なんか半袖着てたのに。
「なにしてんの」
「なにって、下からお布団借りて来たんだよ」
「なんで?」
「ベッド使えないから」
「は?なんで?」
「だって伏見が寝るでしょ?」
「今日寒いじゃん」
「うん」
「寒い」
「そうだね」
「鈍い!」
「ぎゃー!痛い!爪が剥がれる!」
一緒に寝た。強制だった。今日は天国かよ。足の指の爪を持っていかれかけたけど。気分屋にも程がある。
それから俺は、お天気お姉さんに釘付けになった。今日は昨日より暑いのか寒いのか、この先はどうなのか、毎晩お天気お姉さんに教えてもらった。何人かのお天気お姉さんを掛け持ちした。時々お天気お兄さんだったりお天気おじさんだったりもしたけれど、とにかく天気が気になりまくった。一心不乱だった。なんと、天気予報で「今日は昨日より暑いでしょう」って言うと、伏見は一緒に寝てくれないのだ。素晴らしい発見だった。だって、ベッドに入る前に今日は天国か地獄か分かる。最高。
「んなわけねえだろ!」
「うるさ」
「暑くても一緒に寝ようよお!」
「死んで」
「伏見最近単語でしか俺と話してくれない!」
「機嫌悪いから」
「いつもすぎてわっかんないよ!」
「唾飛んだ」
俺なんかしたかなあ。不安になって来た。しばらくすると、伏見の機嫌は良くなった。何がきっかけか全然分からん。季節とか関係ないからな。


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