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おはなし



さくちゃんは暇である。暇を持て余しに持て余しているので、同じくだらけていた有馬くんをゲームに誘ってみた。
「有馬くん、カタカナ禁止ゲームしよう」
「なにそれ?」
「カタカナの言葉言っちゃいけないの」
「パソコンとか?」
「そう」
「カレーとか?」
「そうね」
「よーし!」
有馬くんは単純でノリがいいので助かる。右手を突き上げて参戦してくれた。負ける気がしないのだけれど、どうだろうか。
ルールは簡単、普通に喋ってればいいのだ。その中で、カタカナの言葉、所謂外来語を喋ったら負け。合コンでよくやるとか聞いたことあるけど、俺はこのゲームで当也父、もとい、きょうやさんに弄ばれ続けてきたので、有馬くんには負けたくない。まあそもそも、あの人に言葉遊びを挑んで勝てるわけがないのだけれど。いっそ職業病だ。
「じゃあー、よーい、スタート」
「今のはありなの?」
「……えっ?」
「開始じゃなくていいの?」
「……ぃ、いいんだよ……」
「そっかー」
あ、あれ、俺有馬くんに勝てるかな。なんかこの人意外と手強い気がしてきた。小野寺くんに挑んでおけばよかった。
それからはまあ、他愛の無い話。昨日の晩飯がどうたら、番組に出てた俳優がこうたら、なんたらかんたら。会話が止まったらこのゲームはつまんないので、話を回していかなければならないのだ。有馬くん早くボロ出さないかなー、意外と持ちこたえるなー、とか思ってるうちに当也が部屋に入ってきた。不思議そうな顔で俺たちを見て、テレビをつけた当也に、今俺たち外来語禁止試合中だから!と有馬くんが教えていた。ていうか、外来語禁止試合、ってよく出たな。カタカナ禁止ゲームって俺だったら言っちゃうよ。
「なにそれ」
「外来語を使っちゃいけないんだよ」
「カステラとか?」
「そう」
「ふうん。大変そう」
「弁当もやる?」
「ううん。テレビ見る」
「えー」
「いつものやつ?」
「……いつものやつ」
「弁当得意じゃん、こういうの」
「やらないの。ドラマいいとこだから」
「やろうよー」
「じゃあ、テレビって日本語でなんていうの。これも外来語でしょ?」
「……………」
「……………」
「二人とも分かんないの……」
残念そうな顔をされても困る。分からないのである。ちなみに後から調べたら、電波を利用して静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を送り、又は受けるための通信設備、とか出てきたけど、そんなんぱっと出てこない。伏見くんじゃないんだから。
「他になんか、これならわかる!っていうのないの」
「あのね、当也、そういう遊びじゃない」
「もうそのゲーム終わりでいいから」
「当也さん!?」
「俺ね、あれは知ってる。カップラーメン」
「有馬くん!」
「なんて言うの?」
「即席麺類のうち、食器として使用できる耐熱耐水容器等に入れ、具材を添付したもの」
「有馬すごい」
「伏見が言ってたから覚えた」
「ねえ!俺とのゲームは!」
「もうおしまいにしよう。ね、朔太郎」
「んぐうぅう……」
当也にそう言われるとおしまいにせざるを得ない。すごい優しい笑顔向けられたし。俺と二人で話してる時そんな顔しないよね?下手したら俺の話聞いてないぐらいなのにね?有馬くんと話すのはそんなに楽しいか!これこそ負けた気分だよ!
「弁当言葉遊び好きなの」
「……好きとか嫌いとかある?」
「当也のお父さんが好きなんだよ」
「そうなんだ」
「つみあげうたとか」
「なにそれ?」
「ええと……」
「やってみればいいんじゃない。これは当也のみかんです」
「……これは当也のみかんを食べた有馬です」
「これは、当也のみかんを食べた有馬の携帯です」
「これは当也のみかんを食べた有馬の携帯のストラップです」
「これは、当也のみかんを食べた有馬の、携帯のストラップを壊したさくちゃんでーす!」
「こういう感じ」
「どんどん長くしていくんだよ。間違えちゃった方が負け」
「はあ、俺にはできない」
「でしょうな!」
ちなみに俺たちのはまだまだ全然マシな方だけど、航介と当也とでやってるつみあげうたが一番えぐい。元々はマザーグースのうたらしいんだけど、それは暗記しちゃえばできるので、言葉を変えてやるのが楽しいのだ。伏見くんは頭が回るから、こういうの好きそうだし、意地悪するやり方もすぐ分かりそう。このゲームでどうやって意地悪するかというと、似ていて同じような言葉回しで、覚えにくい単語を並べればいいのだ。それができるかどうかは自分の頭次第である。有馬くんには無理だな。
「他にはあるの?言葉遊び」
「……マジカルバナナとか?」
「あー!それは知ってる!バナナと言ったら長い!」
「……ん、えっ、黄色……?」
「それそれ、黄色!」
今ので、有馬くんは連想ゲームの最中セーフかアウトか微妙なことを連想して、周りから突っ込まれのだろうな、っていう姿が容易に想像できてしまった。長い、いや確かに長いかもしれないけど、普通黄色いよね。それとも有馬くんは緑のバナナをよく食べるのだろうか。戸惑った当也が可哀想だ。
もっと!もっと!と有馬くんが欲しがるので、無理問答ゲームを教えてあげた。無理問答ゲームのルールは簡単、会話を成立させてはいけない、それに尽きる。俺と当也の会話によくあるやつ。わはは。笑えねえよ。
「やってみて」
「うーん、当也、お茶取って」
「昨日の夕飯ってなんだっけ?」
「靴下の毛玉ってどうして出来るんだろうね」
「血が出るまで殴っちゃダメだよ」
「一千万円貰ったとしたらさあ」
「だめだよ、野球なんてしたことないから」
「そしたらリボン結びが上手くできないんじゃない?」
「今何時?」
「そうそう、スーツ作りたいんだよねー」
「……とかいう」
「うわー!気持ち悪い!噛み合わない!すっげえ気持ち悪い!」
「そうでしょ」
「それなら俺もできそう!」
「やってみる?」
「うん、弁当、今何時」
「氷砂糖を入れたらいいよ」
「え?なにに?」
「……………」
「……あの、有馬」
「あっ待って、もっかい」
「多分何回やっても同じだよ……」
「もっかい!」
「……明日の天気ってなんだろうね?」
「みかんがおいしいな!」
「そうそう、傘なら黒いの持って行ってね」
「……りんごもおいしいな!」
有馬くんは言葉遊びに向いていない。

お風呂入らしてもらって、リビング通りかかったら、有馬くんと小野寺くんがこたつに埋もれて転がっていた。伏見くんがまるで小野寺くんの肘置きのように丸くなって動かない。寝てるのかな。そおっとしてあげよう。
「小野寺、ゲームしよ」
「んー?」
「無理問答ゲーム」
「なにそれ?」
「会話しちゃいけないんだって」
「え?なにそれ?どういうこと?」
「えっとね」
この二人でゲーム成立するんだろうか。しない気がするけど。
リビングの扉の隙間から窺ってたら、後ろからいつの間にか近づいて来てた航介に「なにしてんの?」とかでかい声で言われて、飛び上がった。びっくりさせんな。



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