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おはなし


俺は、双子の兄のように、女の子としょっちゅう遊んだり、くだらないことを話したり、したことない。告白なんてもってのほかだ。けど、俺だって、努力はしている。
「有馬」
「あっ、唯山くん」
「ごめん、遅くなって」
「ううん。あたしも部活遅れるって言ってきたとこだから、今先生呼んだとこ」
「そっか」
同じクラスで、文化祭委員を一緒にやってる、有馬かなた。一年の時も同じクラスだった。どこかで小耳に挟んだ、お兄ちゃんと同じ高校に行きたくなかったから頑張ってここに入った、って話が自分と被って、最初に気になり始めたきっかけはそこだった。部活に一生懸命で、勉強も頑張っていて、みんなが眠くなるような授業でも真面目にノートを取っていたところが印象的だった。確かに頭が良い方ではないかもしれなかったけれど、中の上、それなり、って感じ。それから一年間ぼんやりと見つめ続けて、四月の委員決めで衝動的に同じ文化祭委員に立候補してしまって、一緒に過ごす時間が増えたり、話す機会があったり、して。それで、今ではまんまと、このざまだ。大きな鞄を肩から下げて、短めの髪を花のピンで留めた彼女を、可愛いと思う。出来ることなら独り占めしたいとさえ、思う。
「アンケートの集計かあ、めんどくさいね」
「……文化祭委員は楽しかったのにな」
笑いながら言った有馬が、そうだねえ、あの間は良かったのにね、とこっちを見た。俺もそんなに大きいほうじゃないけど、それより更に低い身長に、女の子を思い知らされるようで、目を逸らした。こういうことするから、素っ気ないと思われるんだろうな。
「そういえばさ、ほんとに双子なんだね、唯山くん」
「……見たの?」
「見たよ。お兄ちゃんと同じ制服だった」
「そうなんだ」
「うん」
あ、会話終わる。もっとなにか、例えばそのピン留めを褒めるとか、部活のことを聞くとか、なんかねえのかよ、助けてよ直。俺の適当な返事に、こくんと頷いて黙ってしまった有馬と何か一つ話したくて、裏返りかけた声をなんとか絞り出す。こういう時ばかりは、あのちゃらついて不真面目な双子の兄を羨ましく思う。あいつなら容易く、会話の弾む話題を口から滑り落とすことができるだろうから。先生が来るより早く、何かもうひとつくらい、話したくて。
「有馬の、さあ」
「ん?」
「あり、ぁ、あの、……有馬のお兄さんって、今いくつなの」
「いくつだっけなー。大学生」
「ふうん……」
「なあに」
「や、別に……直が、あ、双子が、知ってるかなって思って」
「ほんと?そしたら面白いねー」
不意に向けられた笑顔に、言葉が詰まった。職員室の扉が開いて、じゃあこれの集計今週中によろしくな、と先生に紙束を渡されて、有馬は部活があるからと行ってしまった。
同じクラスだから、明日も会える。明日も会えるけど、話せはしないかもしれない。そう思うと、こんな紙束でも、チャンスにしなくちゃならないと思うのだ。意気地なしの俺からはまだ、好きだとは言えないけれど、その気持ちを悟らせることすらできないけれど、いつか彼女を俺が笑わせてみたい。恋は下心だなんて、そんなの嘘だ。俺の恋は一昔前の少女漫画よろしく、満開のお花畑とそこに吹き抜ける風みたいなもんなのである。爽やか100%。
「でも有馬さんが水着で歩いてたらじーっと見るでしょ?」
「直の馬鹿!」
「あいたー」
俺がせっかく真摯に相談しているというのに、話の途中で人の携帯を奪った直は、抵抗できないよう俺の上に座り込んで悠々と中身を見ている。かわいーじゃん、じゃねえ、やめろ、見るな、俺が死ぬほどの思いで一緒に撮った記念写真だぞ。そう吠えれば、でもこの写真お前と有馬さん以外に八人も一緒に写ってんじゃん、集合写真じゃん、と呆れられた。それでも嬉しかったんだ、馬鹿。
「俺さー、多分有馬先輩知ってるよ」
「ほんとかっ」
「んー……でも、なんつーか……」
「な、なんだよ」
「……幹にとっては、運が悪かったなあって思うなあ……」
「へっ」
「いや別に、今のところは何一つ関係ないんだけど」
「な、なに、なんなの」
「なんでもなあい」


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