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おはなし



有馬と千晶ちゃん・弁当と芽衣子さん
それぞれの子どもの話



僕には、二人のお友達がいます。年上の女の子の方が、りんちゃん。年下の男の子の方が、けんくん。僕の名前は、はるきと言います。
「はるき、おっそーい」
「ま、まって、まってよ」
「はるきー!」
二人は、僕の名前をたくさん呼んでくれます。走るのが遅くって他のみんなよりとろくさくて日焼けすると真っ赤っかになる僕と、高いところから飛び降りるのなんてへっちゃらで夏になると真っ黒くろすけになる二人は、いつも一緒に遊んでくれます。僕らは絶対に同じクラスになることはなくって、それは学年がばらばらだからで、それぞれクラスにお友達はもちろんいるのだけれど、家に帰ってランドセルを置いてから遊ぶ相手は小さい頃から決まって変わりませんでした。大きなアスレチックのてっぺんまでのぼって、まだ下の方にいる僕のことを見下ろして、二人は笑います。僕は二人のことが大好きでした。
「りんのお父さんね、はるかって言うんだよ。はるきと似てるね」
「……そうなんだあ……」
手を貸してもらってよじ登ったアスレチックのてっぺんで、そんな話をりんちゃんから聞きました。りんちゃんとけんくんのお父さんは、二人と同じようにいつもにこにこしていてお日さまみたいです。僕もそんな風になれるのでしょうか。
下からお母さんの声がして、りんちゃんが手を振ります。そろそろ帰るって、と言われてみんなで歩き出します。アスレチックのてっぺんから下までは、急降下の長い滑り台です。下を見るから怖いんだ、とけんくんに教えてもらった僕は、ぎゅうっと目を瞑ることにしています。けれど今日は、背中に引っ付いてきたけんくんが言いました。
「おれがすべったげるから、目ぇ閉じんなよ」
「えっ」
「りん行くよー」
「んー」
「けっ、けんくん、怖いからやだよ、けんくん」
「へーきだよ」
「ひえ……」
どすりとけんくんに座らされて、下で笑顔を浮かべているお母さんが見えました。もしも横の柵が突然取れたら?勢いづきすぎて飛び出してしまったら?こんな高さから落ちたら僕はどうなってしまうんだろう?そんな心配が頭を回りだすと止まりません。後ろから抱きついているけんくんが、僕のお腹でぎゅっと手を組みました。せえの、と聞こえた声に目を閉じます。
「ばかはるき!目ぇ開けろ!」
「う、うう、う」
「ほら!夕日!ほらあ!」
体が振られる感覚に耐えながら、恐々目を開きます。すると、木の向こう側に綺麗な夕日が見えました。けんくんの嬉しそうな声が後ろから聞こえます。僕も嬉しくなりました。お腹で組まれていた手を外して指をさしたけんくんが、手を離された途端にずるんと体勢を崩した僕を、けらけら笑いました。先に降りたりんちゃんの笑い声も聞こえます。僕も笑って、笑いながら思い切り滑り台から落ちました。
「はるきー!」
「う、ぅ、ぃた、あ」
降り口ではちゃんと着地しないとお尻から落っこちるなんてこと、知っていながら忘れていました。僕が落ちたせいで、けんくんまでバランスを崩して転んでしまいました。ふらふらしながら立ち上がれば、けんくんを助け起こしたりんちゃんが服の砂を払ったり手を引いてくれたりと、甲斐甲斐しくお世話をしてくれました。僕はそれがちょっぴり恥ずかしくて、でも嬉しかったのです。
お家に帰って、お父さんに今日あったことを話しました。けんくんと一緒に目を開けて滑り台を滑ったこと。初めてアスレチックから夕日を見たこと。落っこちたけどりんちゃんに優しくしてもらって嬉しかったこと。全部全部話しました。お父さんは笑って聞いてくれました。
「それでね、りんちゃんとけんくんのお父さんはね、はるかって言うんだって。僕ははるきでしょう、そっくりなんだね」
そう、最後に僕が行った時のお父さんの言葉の意味は、よく分かりませんでしたけれど。

(そうだね、そっくりだね。だってはるきは、はるかの次に俺が愛せるように、はるきって名前になったんだから)


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