＊ごあいさつ
「どうも、有馬はるかです、あけましておめでとうございます」
「伏見彰人れふ」
「何食ってんだよ！新年だぞ！」
「だって、弁当の作った栗きんとんが美味いから」
「どれ？」
「これ」
「俺にもちょうだい」
「俺も」
「自己紹介の終わってないやつは駄目ですう」
「小野寺！あけおめことよろ！はい！」
「それで許されると思ってんのか」
「……許される自己紹介と挨拶してるの有馬だけだよ」
「あっ待って、ごめんなさい持って行かないで」
「伏見、没収」
「俺食べてないのに！」
「ちゃんとしなさい」
「はい」
「すいませんでした」
「真面目にします」
「……年が明けたから、新年のご挨拶をします」
「誰に？」
「そういう細かいことはいいの」
「俺お年玉あげれないけど平気？」
「有馬の可哀想な財布を更に薄くしようなんて誰も思っちゃいないよ」
「伏見てめえ」
「あけましておめでとうございます」
「ねえ、いいの？弁当一人で始めてるけどいいの？」
「伏見なんかどうせ初詣の人混みに飲まれて迷子になるんだ」
「自分のこと言ってんの？かわいそ」
「昨年は大変お世話になり、ありがとうございました」
「ちげえよ！お前がチビだか」
「あ？」
「うわあ……どうしよ……俺挨拶なんて分からないけど、あの喧嘩には巻き込まれたくない……」
「本年も皆様方においては」
「痛い！痛い弁当助けて！あだだだ」
「栗きんとんの恨みだ」
「益々のご活躍を祈念しております」
「……ねえ弁当、なんでそんなすらすら挨拶できるの？」
「うう、ぐ、このっ」
「うわなに、ふっはははは！やめろ！」
「くすぐってやる！」
「皆様お元気で、えー、幸多き年となりますように」
「あっ、カンペ見てる！結構ずるい！」
「ぐぬぬ」
「や、め、ろっ」
「本年も何卒よろしくお願い致します。はい」
「よっ、よろしくお願いします！」
「小野寺の今年の目標は？」
「……今の弁当くらい落ち着いて過ごす……」
「あっそう。……お餅いくつ食べたい？」
「……嬉しそうだね」
「有馬と伏見はお餅も御節もなし」
「なんでえ！」
「こいつが絡んで来たから！」
「ていうか俺ちゃんと名前も挨拶も言ったじゃん！」
「喧嘩してた人にあげる正月料理はない。あと俺の目標は、それなりに慎ましく生きることです」
「俺お餅五つ」
「五つも食べたらお腹はち切れるよ」
「大丈夫だよお」
「なに仲睦まじく帰ってんだ！おい！俺らにも目標聞けよ！」
「黄な粉餅が食べたい！」
「うるさい」
「今年はもっと真面目になるから！馬鹿だと言われないよう過ごす！俺の目標！」
「じゃあ俺の目標、無駄に有馬に絡まない」
「俺のせいみたいにすんなよ！」

＊としこし
「年越す瞬間ってみんななにしてんの？」
「えー……弁当は実家でしょ」
「年末年始は帰ってるよ。普通に、蕎麦食べてテレビ見たりしてる」
「航介とか朔太郎とかと会ったりしないんだ」
「家族みんな関わりあるから大晦日にお裾分けとかご挨拶はするけど、それくらいかな」
「まあそうだよなあ」
「親戚なわけじゃないしね」
「でも、俺も航介も幼稚園児とかの時は結構ぎりぎりまで一緒に飲んだくれてたって聞いた」
「親が？」
「母同士が。あそこ仲良いんだ」
「へええ」
「俺と小野寺は弁当のお母さんしか見てないけど、伏見だけ航介母も知ってるよな」
「……どっちも会ったことあるけど、そうなんだ、って感じ」
「タイプ違うんだ」
「んー……俺はそう思うけど。弁当から見てどうなの？」
「……違うね」
「そもそも弁当と航介が真逆だしな」
「その母なんだから、そりゃそっかって感じ？」
「ていうか親しかいなかったらチャンネル争いしないで済むんだ、いいなあ」
「うちはいつも大体紅白かな……有馬は争うの？」
「かなたが見たいのと母が見たいのと俺が見たいのと父が見たいの、ばらっばらだから」
「有馬も家族といるのかあ」
「うん。だらだらしてる内にいつも年越すな」
「年越してから、二日とか三日とかに朔太郎んちでぶっ通しでガキ使見る」
「なにそれ、恒例行事？」
「そう。朔太郎の妹が楽しみにしてんの」
「年離れた妹いるんだよな」
「見てる俺と航介と朔太郎が笑ったら、友梨音ちゃん、あの、妹が叩きに来るから」
「リアルでやるんだ……」
「……想像したけど、それ誰か笑うの？」
「いや？全然」
「そうだろうよ！」
「基本誰一人ぴくりともしないんでしょ」
「うん。しない」
「怖え」
「楽しいの？それ」
「え、ガキ使おもしろいけど。いくら八個下の女の子でも叩かれたくないから笑わないだけで」
「その妹ちゃんは誰か叩けんの？六時間三人とも笑わないとかあり得る？」
「航介は堪えきれなかった時に笑うし、朔太郎は変なツボで笑うし、それ見て俺が笑う」
「……すげえシュール」
「その輪の中に俺入れる自信ないわ」
「有馬なんかぼっこぼこだよ、きっと」
「小野寺も人のこと言えないと思うんだけど……」
「俺と小野寺はいつも年越す瞬間外にいるから。テレビ見てないよな」
「うん。初詣行くのに、歩いてるね」
「行きも帰りも歩きでしょ？」
「寒くね？」
「寒いよ」
「しかも近場で伏見が知り合いに会うの嫌だからって、結構歩くよね」
「えっ、それを毎年？」
「そうだよ。大晦日の夜出発して、ちんたら歩いて一時間ちょっとくらいかな」
「マジか……伏見そんなに歩けんだ……」
「俺のことなんだと思ってんの？」
「チャリ二人乗りでもうちょっと遠くまで行ったこともあるよ」
「ただ寒くて凍り死ぬかと思ったから、もうしない」
「自転車はだめでしょ」
「だからいつも、年越したのが分かんないよね」
「そうだねえ」

＊ねんがじょう
「送る？」
「いや……」
「俺はちょっとだけ。晴臣さんとか、お世話になってる人には送るかな」
「ほら、外面がいいから」
「ああ」
「俺、弁当相手でも怒るときはあるよ」
「ごめん」
「許さないからね」
「伏見、京風のお雑煮って食べたことある？」
「作んの？」
「お椀スタンバイ早くね」
「全然怒ってねえじゃん」
「あいつ胃袋に忠実すぎだろ」
「そ、だね、ふっ」
「馬鹿二人うるさい、弁当も笑わないで」
「年賀状送ってたのなんて、小学生までとかくらいかも」
「俺、中学生の時は送ってたなあ」
「小野寺の年賀状は、家族写真って感じがする」
「そうかなあ。そうでもないよ」
「弁当の言うことちょっと分かる」
「でしょ」
「ねえ俺は？有馬家の年賀状は？」
「こう……ディズニーとか……そういうやつ」
「うわあ」
「うわあ」
「想像で引くのやめてくんね」
「有馬んちは母と妹が強いから、そういうやつなんじゃないのって」
「そ、……そうでもない」
「嘘だ」
「伏見は年賀状どういうの出すの？」
「別に普通。ロフトとかで買う」
「ていうか俺だって自分で買うからね！年賀状出すんだったら！」
「そんな金あんの？」
「別に家族写真でもいいじゃん。俺割とずっと兄ちゃんとのツーショットだったよ」
「家族写真と兄弟写真は違うだろうが！」
「お前も大概好きだけど、創さんも写真好きだよな」
「兄ちゃん前に一眼レフ買ったんだよ、今埃被ってるけど」
「なんて勿体無い」
「だから俺が時々借りてる」
「今度貸して」
「やだよ！伏見に貸したら二度と返ってこない！」
「壊したりしないよ」
「絶対そういう意味じゃないと思う……」

＊おとしだま
「あげるのと貰うの、境界線ってどこなんだろうな」
「うちは、働き出したら」
「俺んちも」
「弁当は金必要じゃん、一人でさみしく暮らしてるから」
「その言い方どうにかならないの」
「やだった？」
「余計な一言がついてる」
「……さみしく暮らしてるかぁいたっ」
「さみしくない」
「痛い、ごめんね」
「ふん」
「え？じゃあ有馬は？」
「甘やかされてんだよ、あいつ社会人になったらすぐ死ぬぜ」
「そうか……かわいそうに……」
「なに小声でぼそぼそ言ってんだよ」
「伏見は？お年玉ないの？」
「あるよ。大学生の間はあるって」
「えっ、俺ない」
「小野寺ないの？」
「うん。バイトで結構貰ってるから」
「へえ」
「働き出したらあげる側になんのかあ」
「相場とか分かんないけどな」
「グーグルで調べたらいいんじゃない」
「お年玉、いくら、検索」
「みんなやってそうなワード盛り込んできたね」
「貰った額あげればいいんじゃねえの？」
「じゃあここで暴露する？多分ばらばらだけど」
「……………」
「……うーん……」
「まず弁当は絶対結構貰ってるじゃん？」
「伏見」
「だってあんなでかい家」
「伏見さん」
「うん」
「そういう赤裸々はやめよう」
「いいよ」
「……冷や汗かいた」
「リアルで嫌だな……」
「だから貰ってきた額なんて参考にならないんじゃない？」