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おはなし



…高校生
珍しく瀧川が真面目な顔で考え込んでいる。机に肘をついて顎に手を当てているんだけど、隣を通った羽柴があまりの似合わなさにドン引きの顔をしていたことは、瀧川に伝えない方がいいだろう。
「どしたん」
「……都築……」
「なに?」
「……俺、朝から考えてたんだけど……」
「うん」
「……いや、いいわ。お前にはきっと分からない」
「えっ」
なに、すげえ真面目な話的な感じ。深く息を吐いて教室の天井を仰ぎ見た瀧川に、もしかしてなんか深刻な話?と一応小声で切り出せば、ああとかまあとか曖昧な返事をされて、思わずテンション上がった。ほお!そうですか!みたいな俺の返しに視線だけこっちに向けた瀧川が、そんなに重大でもねえんだけど、とまた目を伏せたので、いやそれ絶対重大でもなくないやつじゃん、随分と深刻そうじゃん、なんて内心で拍手喝采する。別に瀧川が悩んでることが楽しいんじゃない、それじゃ俺ただの嫌な奴じゃん。そうじゃなくて、なんていうかこういう、友達からの深刻な相談とかそんな感じのやつにテンションが上がっているわけで。
「なに?どうしたの、俺になんとかできること?」
「出来ねえよ……」
「差し支えなければ聞かせていただけないでしょうか?」
「……んー」
ぼそぼそと小声で告げれば、椅子の背もたれに体を預けて反っていた瀧川が難しい顔で戻ってきた。別に本当にそんな大した話じゃないんだ、と前置かれてこくこく頷く。なんだろう、好きな子がいるとか、実は長年付き合ってた彼女がいたんだけどとかだったらきゃっきゃしながら聞けるし協力もしてやりたいけど、もしかしたら家族になにかあったとかかも。引っ越しとかだったら突っ込んで聞きたくないな。あっでも、俺実は男も行けるんだ、とかだったらどうしよう、俺はその場合一体どうしたらいいんだろう、筆下ろしとか荷が重いんですけど。
一人で悶々と考えていると、瀧川が意を決したように口を開いた。いつになく真剣な顔に、こちらも改まって聞く。
「かぐや姫ってさあ」
「……うん」
「わざわざ月から来といてさあ」
「うん」
「結局やることやらないで月に帰ったのかな、って……」
「……うん?」
「だから」
「待って」
「なんだよ」
「それ本題?」
「そうだよ」
かぐや姫は月から来といて周りの男に散々無理難題押し付けて帝といい感じになったものの結局月に帰るじゃん?でも帝とも文通くらいしかしてないじゃん?結婚してないじゃん?とぶつくさ言い始めた瀧川にもう一度、それがお前の朝から考えてたことで間違いないんでしょうか、と聞けば頷かれた。当たり前だろって顔だった。
そうか、よし、分かったぞ。
「瀧川は馬鹿だと思う」
「なんでだよ。俺真剣に考えてんのに」
「やることやってないわけないじゃんか、帝どころか求婚してきた男みんなつまみ食いだよ」
「うわあ……やめろよ生々しい……」
「あんだけレア物欲しがる我儘女なのにそっちが大人しいわけないでしょ」
「着物の中は大暴れなわけ?」
「でしょうよ」
「爺さん泣くわな」
「爺さんもかぐや姫の手中かもしれない」
「うわー!おばあさーん!」
泣き伏す瀧川を見下ろして、世知辛い世の中だよ、と頷く。するとばっと顔を上げた瀧川が、まだ純情な女の子の線も残ってるだろうが、と噛み付いてきたので、議論がヒートアップした。とりあえず、こんなクソくだらない内容で良かったと思う。

「だから人魚姫はそもそも種族が違うからそこまで行き着けないって!」
「かぐや姫だって人じゃないだろ!」
「月に住んでる人じゃないのかよ!」
「……なにしてんの」
「あっ航介!」
「いいとこに来た!聞いて!」
「なんの話?ゲーム?」
「童話の主人公達の性生活についてだ!」
「はは」
「いってえ!」
「あだっ」
「真っ昼間からなに考えてんだよ」
「鞄で殴る奴があるか!痛えよ!」
「もう一発いくか」
「ごめんなさい」
「もうしません」


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