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キャットファイト



「ちょっと達紀と一緒にいるからって調子乗りすぎじゃない?我儘放題の伏見くん」
「は?中学の三年間しか知らない癖にそっちこそなんなの。気持ち悪」
「どうせ体で引き止めてんでしょ、男のくせに」
「それのなにが悪いの」
「うっわ、開き直り。ありえねー」
「つーかしたかったらすれば?お前みたいなの、小野寺反応しないだろうけど」
「そうやって躾けてんのはあんただろ。あーあ、達紀可哀想、こんなのに捕まって」
「確かに可哀想だけど、お前といさせるよりはマシな自信はあるわ」
「は、うっざあ。マジ死んで」
「同じこと考えんなよ、気色悪い」
「被せられて不愉快なのはこっちなんですけどー」
「うわ、息すんな、空気が汚れる」
傍目からはにこにこ、さぞかし見目麗しく見えてる筈の俺たちの会話の内容なんて言ったらこんなもんだ。小野寺と二人で帰ってる途中、ばったり会ったこいつが重い荷物を抱えていて、親切な小野寺はすぐそこの駐輪場に置いてきた自転車を取りに行った。自転車置いてきたのだって、俺がただの気紛れでたまには二人で歩いて帰りたいっつったのを小野寺が了承してくれたからなのに、これのせいで台無しだ。二人で歩いて帰って、足が疲れたって小野寺んちで甘やかしてもらおうと思ってたのに、超気分悪い。
中学の同級生とか言って、完全に小野寺のこと狙ってるこのクソホモ野郎は、俺のことを邪魔者だと正確に理解している。顔だけなら可愛い系だし、小野寺好みの小ささだし、小野寺に対しても甘え上手の話し上手って感じの態度だし、そりゃ俺さえいなかったら籠絡できるのかもしれないけど、残念でした俺がいます。先約有りなんです、どうぞお引き取りください。ていうか小野寺は俺の我儘を聞くのが好きなんです、俺以外の我儘なんてただうざいだけに決まってるんです。だからお前も勿論脈無しなんです、どうぞ気にせずとっとと帰って一人で玩具遊びでもしてろブス、死ね。腸ぶち撒けてその可愛らしい顔歪ませて、出来るだけ汚らしく死ね。流石にそこまで道端で言う気にはなれないので、俺より少しだけ背が高い男と嫌味な笑顔の応酬を繰り広げる。
「体で引き止めてんの分かっててよくもまあその態度出来るね?尊敬するわ」
「体以外でも引き止められてるのが分かってるからこの態度なんだけど」
「冗談きついねー、あんたみたいな性悪本気で相手してもらえるわけないじゃん」
「あー、脳足りんには難しかったかな?人間の考えてることだもんね、ごめんごめん」
「ぶっ殺すよ」
「うわあ、こわ。ぶっさいく」
「あんた鏡って知ってる?自分のこと言ってる?」
「はあ?俺可愛いんですけど。目大丈夫?眼科行けば?」
うわ、瞳孔開いてんだけど、こいつマジやばい。割と勝ち目なのを確信してにっこりと笑ってやれば、一瞬ものすごい見下し顔で舌打ちして、すぐに化けの皮を被った。嫌に目を細める相手に、吐き気がするんでその顔やめてくれませんか、と本心を正直に告げれば無視された。人のことシカトするような奴に小野寺の相手が務まるわけねえだろ。あいつ一回無視しただけで、ねえねえ聞いてる伏見あのねあのね、ってうるさいししつこいし纏わり付いて来るんだからな。つーかこの俺のこと無視して勝手に喋り始めてんじゃねえよ、まずは泣き伏しながらごめんなさい死んで詫びますだろうが。
「あんたの本性、達紀には知れてるんでしょ?」
「短い付き合いのお前とは違うからね」
「今ここで達紀が帰ってきて俺がめそめそしてたら、あんたどうなると思う?」
「……………」
「あはっ、俺が完璧被害者じゃん?あんたが悪者だよ、どうすんの?」
俺の嫌味をこれまた無視してなにやら一人で楽しくなってるけれど、どうするもこうするも、どうもしない。呆れて返す言葉も思いつかないから黙ってるのに、こいつの目には俺が悔しくて言葉に詰まってるように見えてるらしく、楽しそうだ。
今ここに小野寺が帰ってきてこのクソホモ野郎がめそめそ泣いてたとしよう。小野寺はきっと、どうしたのって心配はするだろうし、俺のせいにされたらそれを信じるだろうけど、それだけだ。こいつの想像上の小野寺はきっと、それに怒って俺を捨てるとか、自分を守ってくれるとか、そういうかっこいいヒーローみたいに美化されてるようだけど、小野寺はそんな奴じゃない。俺が悪いってことになったら、こら伏見、いじめちゃだめでしょ、とかって俺に言うかもしれないけど、そんなもんだ。めそめそしてるこいつが立ち直りそうなタイミングで、じゃあ俺たち帰るね、ってちょっとしゅんとしてるふりの俺を連れて家に帰るわけだ。自分に傾きかけたと思って有頂天のこいつを放って、というかそんなことには気づきもせず。
「……お前って可哀想だね」
「はあ?可哀想なのはあんたでしょ」
哀れみを持って相手を見据えれば、完全に勝ち誇った顔で見下された。まあ、勝ったつもりでいるこいつが何も知らない小野寺にいきなり踵を返されて絶望顔浮かべるのも見てて面白そうだから、放っておこうかな。


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