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おはなし



*高校生
今日が服装検査の日だったなんて、学校来てから知った。妙にちゃんと制服着てる奴が多いと思ったんだ。珍しく遅刻ぎりぎりじゃなく来れたのに、指定カーディガンもブレザーもネクタイも持ってねえよ。なんなら校章も付けてないし、ベルトも髪色も校則違反だ。ちゃっかり学校来てから中に着てた違反の市販カーディガン脱いでブレザー着てネクタイまできっちり締めた行原にげらげら笑われながらすっからかんの鞄の中を漁る。絶対無いことなんか知ってるけど奇跡ってあるじゃん、もしかしたらいつもはすっからかんの俺の鞄の中にブレザーとネクタイが舞い降りるかもしれないじゃん。もちろん今日もすっからかんだけど、もしかしたらもしかしてがあるじゃん。
「はるくん、ばってん付けられても何かの点が引かれるわけじゃないんだから平気だよ」
「うるせえ!指定カーディガンは黙ってろ!」
「祭お前、そのピンク頭どうにかしねえの」
「んー?これってなにがいけないの?」
「色と長さ」
「かわいいでしょお」
「……うん……」
「若泉!どれか一個交換しよう!お前どうせいっつも校則守りまくりだろ!」
「は?」
「すいませんでした!」
絶対零度の声で切り捨てられたので諦めた。若泉なんか、髪も染めてないし普段からきっちりネクタイにブレザー着てるし、頭のてっぺんから足の先っちょまで学校のお手本みたいな格好してるんだから、一日くらい俺に貸してくれたっていいじゃんか。けちくせ。ブレザー堅苦しくてやだから指定カーディガンにしちゃった、これでもいいんだもんね、とへらへらしてる叶橋から剥がし取ろうかと思ったけど、こいつでかいからダメだ、ぶかぶかになる。迫り来る検査の時間に慌てていると、若泉が行原を顎で指して言った。
「行原の借りりゃいいだろ。背丈同じくらいなんだし」
「……ゆくはら……」
「やだよバカ。俺わざわざこれ従兄に借りてきたんだからな」
「ゆうちゃん指定どこやっちゃったの?」
「お前が汚したんだろうが」
「そうだったあ」
「寄越せよ!ネクタイかカーディガンどっちかでいいから!」
「そんな必死になんなくても、違反してたってなんもねえよ!」
「俺だけ浮くだろ!検査の後全校集会じゃんか!」
「そんなの出なければいいだけじゃねえの」
「……………」
「はるくん、いずみくん今悪いこと言ったんだよ?ねえ、分かってる?」
「サボリ魔」
「お前だってよくいなくなる癖に」
「うっせ。束佐も人のこと言えないんだからな」
「お前に付き合ってやってるんだろうが」
「あ?」
「喧嘩しないの!こら!ゆうちゃんも勝ち目がないんだからやめなさい!」
「……………」
「はるくんはいつまで固まってるの!もう!」
もういっそサボる、という突然舞い降りた案に頭も体も固まってしまった。なんて名案だと若泉の肩をばしばし叩けば、すっごい溜めた舌打ちされたけど。じゃあ今日は、ぎりぎり全校集会には間に合わないくらいに朝から体の調子が悪かった、ということにしようと決めて、相も変わらず軽い鞄を手に取った。
「いけないんだあ」
「朝出ないんなら昼飯買ってこいよ。ロッテリアのチーズバーガー」
「先にお金ちょうだい、俺今財布に百円とちょっとしか入ってないの」
「馬鹿じゃねえの」
哀れなものを見る目をしながらも五百円玉を出した若泉からそれを受け取って、これだけ紛れ込ましといてよ、と先週宿題で出たプリントを引き換えに預けた。いけないんだいけないんだってぶーぶー言ってる叶橋は無視しておく。だってお前もこないだの服装検査忘れてて午前中いっぱいずっと理科準備室で寝てたんだもん、俺知ってるんだからな。先生に見つかる前に行こうと踵を返せば、俺にもファミチキ、と行原が小銭を弾き渡してきた。くそ、ロッテリアとファミマ遠いじゃんか、せめてローソンのがまだ近い。分かってて言ってるんだろうけど。サボりを黙っててくれる交換条件に体良く使われてることは充分分かってるから、反論出来ずに小銭を受け取る。
「おい馬鹿、しっかりおつかいしてこいよ」
「うるせえ!今度俺もお前らのことパシリにしてやるからな!」
「つーか有馬お前、こないだのカラオケ代返せよ」
「今度!」


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