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ハッピーエンドデストロイ



「は!?」
「あっ」
「……はあ!?」
「ぉ、おきた、起きっ、ぅ、うぅ」
「中原くんなに、っどうしたの、ああぇえ!?俺の羽根は!?角は!?でりゃー!おりゃっ、なんで俺魔法使えないの!?」
「お前人間になっちゃったんだよお」
「はあ!?」
一頻りべそべそしてから、落ち着いた中原くん曰く。「こうしたら良かった」と白い魔法少女が取った手段は、例のコンパクトで、俺を手懐けて言いなりにさせることだった。魔王様を隷属させられるんだから、1日1回の制限があるにせよ、とんでもない魔術器具だ。黒い魔法少女は、どうにかして白い魔法少女にそのコンパクトを使わせ、中原くんを手駒にして俺を甚振りたかったようだけれど、白い魔法少女はそんなことはしたくないと断言していた。じゃあ白い魔法少女は俺になにをさせたのかって、なにも、させなかった。
「……新城が、ぴかぴかしたやつのせいで、ぼーっとして動かなくなっちゃったから、俺かばったんだけど」
「庇ったの!?だめだよ!どう考えても逃げないとだめでしょ、特にあの黒い人相手で!」
「うん……なんかすごい痛いやつで縛られて痛かった……」
「怪我は!?」
「もふもふの人が全部治してくれた」
「おおふ……アフターサービスがしっかりしてる……でも一回しっかりちゃんと痛めつけられてる……」
中原くんは、黒い魔法少女によって、ちょっとでも動くとばりばりする痛いやつで縛られて、転がされていたらしい。筋肉の振動を感知して電流を流す、主に定置罠に使う魔法の応用だろう。えげつねえ。
コンパクトによって自由意志のなくなった俺は、その場に座らされて、無抵抗を命じられたそうだ。そして、白い魔法少女が、魔性浄化の聖剣で、俺を斬った。普通だったら死ぬ。浄化されて死ぬ。まともに食らったらそうなる。だって、あの剣はそういう風にできているんだから。けれど俺はこうして生きている。角も尻尾も羽根も、魔法を使う力もどこかに置いてきてしまったようだけれど。
「……どういうこと?」
「知んねえよ……お前が起きるまで面倒見ろって、白い人が言ってたから、面倒見てたけど」
「えっ!?中原くんってば俺のお世話してくれたの!?どのように!?どこをどのようにご奉仕したの!?」
「うるせえ!」
「だってぁいたたたた!背中めっちゃ痛い!」
「背中ばっさーって斬られてたもん」
「傷ある?」
「あるよ。塞がってるけど」
「……俺人間になっちゃったの?」
「なっちゃったんじゃないか」
「そっかー。残念」
「……そんなもん?」
「んー、力を取り戻せるならそうしたいけど。こうなっちゃったらしょうがないよ」
そっかあ、と中原くんが呟いて、目を伏せた。攫われた側の立場なのに、俺を庇うぐらい思ってくれる、優しい中原くん。人間同士になれたなら、ケッコンとかいうやつができるのかな。本で見た。魔族同士でも番は作って繁栄するけど、それとはまた違うんだもんね。ぎしぎしと痛む背中が良くなったら、人間の世界を見に行くのもいいかもしれない。そんなことを考えていると、こんこん、と扉が鳴った。
「……ああ、起きたのか」
「あ!白い魔法少女!」
「やめてくれ」
普通の格好の、白い魔法少女の人。この人は最低でも1日1回は様子を見に来てくれてる、と中原くんが彼を指した。良い人だ。
「無理矢理こんなことして悪かった」
「ううん。俺に何したの?」
「死なないように斬った。伏見が、あー、あの黒い方が、お前の残り魔力を見て、怪我の治癒だけぎりぎり追いつくぐらい残して」
「……あの黒い人、魔族だよね?それが出来るってもう人間じゃないよね?」
「練習したら出来たって言ってたぞ」
絶対嘘。まあいいけど。
俺の力を大半切り捨てた彼は、限りなく人間に近い状態まで弱体化させた俺に、城を捨てて人間として混じることを、城に仕える魔族たちの前で宣言させたらしい。反乱が起きないように予防線を張ったのだろう。中原くんのこともみんな知ってたから、邪魔しないでくれ、と頼む俺の言葉に、魔王様がそういうならまあ、とみんな納得してくれたんだとか。良い奴ばっかりだ。そして、人間の偉い人には、魔王はもういなくなって城の中には無害な魔族しかいないことや、攫われた人間も救い出そうとしたが一歩及ばずだったことなどなど、説明した。後者は中原くんを守るためだろう。そして、魔族全てを滅ぼすことが難しいなんて人間も分かっているらしく、魔王撃退をまずは喜んだそうだ。黒い魔法少女がよくその嘘に付き合ったなあ、と思っていたら、むしろ彼が積極的に嘘を公言して周りを扇動したのだと言う。俺のこと絶対殺したいのかと思ってた。
「それで、だからお前は、今はかなり人間に近くなってる。けど、怪我がちゃんと治って体力が戻れば、どんどん力は戻ってくると思う」
「え?そうなの?俺また魔王様になれる?」
「なれる、というか……ちゃんと殺してはいないから、なってしまうんじゃないか」
「やっぴー。次こそ中原くんにもお揃いの角生やすぞ」
「やだ」
「やじゃない」
「いやだ」
「いやじゃない」
「揉めるな」
「はい」
白い魔法少女の人は、俺が悪い魔王じゃないって知ってたんだって。何もしてない人間に害を為したことはなくて、自分のテリトリーに入ってきて攻撃を仕掛けてきた相手には仕返しをするけれど、それ以上のことはしなくて。俺の配下の魔族も、必要以上に人間にちょっかいを出すな、と俺が言いつけているから、無駄に襲ったりしない。ただ、魔王だから、魔族だから、という理由だけで、討伐作戦が何度もぶち上げられては、力の及ばない人間が殺されて、魔王に対しての憎しみだけが溜まって行く。仕掛けているのは、人間側なのに。
「……背中は、痛むと思うし、しばらくの間、かなり不自由に暮らしてもらうことになる。それに、力を取り戻してからも、隠れて暮らす羽目になるかもしれない」
「ううん、ありがと。君って良い人だね!」
「……そんなことないよ。自分勝手なだけだ」
「いやいや。この恩は必ず返す。君が困っていたら、この魔王様が持てる力全てを使って助けてあげるよ!」
「そりゃ心強いな」
この家は空き家だったから自由に使っていい、どうしても困ったらここに頼れ、口を利いてある、といくつか教えてくれた白い人は、もう来ないからと行ってしまった。マーキングしとこう、と微かに残っていた魔力全てを使って彼に印をつける。おかげで、無意識にかけていたらしい痛み止めの術が切れて破茶滅茶に背中が痛いけれど、彼が困った時には俺が助けてあげるのが義理だと思うのだ。魔法少女は時給制って言ってたし。大ピンチに過去の敵が駆けつけるってかっこいいじゃない。
「……新城」
「ん?」
「……俺にもなんか、魔法とか、教えろ」
「なんで?」
「……何もできないのは、やだ……」
「んー。お気持ちだけ」
「なんでだよ!」
「だってえ」
中原くん、戦う才能ないんだもん。乏しいとか少ないとかじゃなくて、皆無なんだもん。魔族には、相手のパラメーターが見える。こいつは体力が高いとか、魔法が得意とか。中原くんの戦闘におけるパラメーター見たい?悲しくなってくるよ。そんなことは知らない彼は、ただの意地悪だと思ってぷんすかしている。うん、でもまあ、久し振りのただの人間だし、力が戻るまでは楽しんでもいいよね。
「ねえ中原くん、魔法少女の服作ったら着てくれる?」
「着ねーよ、なんであんなトチ狂った服」


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