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ハッピーエンドデストロイ



ハロウィンだからなんでもありなのかと思って





ぼくの名前は中原新!ひょんなことから悪の大魔王に攫われてしまって、もうここに囚われの身になって何日が過ぎただろうか。悪の大魔王様はもうめっちゃ強くて、ぼくを助けに来た正義の味方を全部粉々に蹴散らしてしまって、でもぼくにだけは優しくて、あれ!?なんだかこれって恋!?ときめいちゃう!
「気色悪いモノローグをつけるな」
「大体あってるかと思ったんだけど」
「死ね」

死にません。
悪の大魔王様こと、新城出流くんです。隣にいるのは、りんごを山ほど買ったところ盛大にすっ転んで赤い身をそこら中にばら撒いた上ちょうど通りかかった馬車にりんごを大半踏み潰されて、自分の膝にはでかい擦り傷、せっかく買ったりんごはおしゃか、というコンボに我慢できなかった涙をぼろぼろ流していたところ魔王様の性癖の琴線にクリティカルヒットしてしまったがためにその辺の村からこの魔王城へ攫われてしまった中原新くん。最初こそ怯えていたものの、美味しいものを食べさせて、お風呂でぴかぴかに体を磨いて、一緒にゲームして一緒に寝て一緒にあれやこれやしたら、結構簡単に懐柔できた。魔王を足蹴にする人間、今まで見たことないよ。見て?この角。めっちゃ強いから角もおっきいんだよ?
「知らん。邪魔そう」
「中原くんもいつか人間やめてもらうからね!」
「やめない。帰りたい」
「嘘つけ!もう俺のこと大好きになっちゃった癖に!」
「なっちゃってない。眼医者行け」
「なにそれ?」
「人間の身体を治してくれるところ」
「俺人間じゃないよ」
「人間になれば?」
「えー。めんどくさあい」
できないわけじゃないけど。一応は囚われの身として、俺の言うことを聞かせるために枷の首輪がついているのだけれど、これを使わなくても言うことを聞くので、最早必要ない。魔王様には配下の魔族がたくさんいるから、そういう奴等に、この人間に手出ししたら殺す、という意を示せるのは便利でいいけれど。
前述したように、人間を一人攫っているので、魔王討伐のため、いろんな正義の味方がこの城には来る。お姫様でもなければ幼馴染的な立ち位置でもない、顔も知らない無力な男を助けに来るんだから、暇なんだかお人好しなんだか偽善者なんだか。勇者っぽい人たちが来たこともあるし、魔法少女的な人たちが来たこともあるし、異世界からやって来たらチートでした的な明らかに世界観が合ってない学生さんがやって来たこともある。ちなみに中原くんは、俺のために…!と感動するわけもなく、その人たちに必死で助けを求めるわけでもない。薄情者だ。しかしあちらからしたら、中原くんを救うことはミッションの一部らしく、魔王様を討伐して世界の平和を保つことが最優先事項なのだ。殺されちゃたまんない。だから殺した。みんな殺した。中原くんを、あっちでちょっと待っててね、と鍵をかけた部屋に押し込めて、ここに来た人間はみんな惨殺した。もう二度とこの場所に訪れようとなんて思わないように。だって、俺は人間に何かしようとなんか思ってない。中原くんが欲しかっただけなのに、人間に害を成そうとする魔王じゃないのに、殺される意味がわからない。
邪魔、どけ、と俺を椅子から退かした中原くんは、俺が座っていた魔王様のふかふかで豪華な椅子にどかりと埋もれて、暇だ、眠い、からあげが食べたい、と文句を言い始めた。いそいそと傍にあるテーブルから果物をとって皮を剥き始めると、ぱかりと口が開けられた。あーんをご所望でいらっしゃる!?中原くんが!?
「どうしたの!?熱があるの!?あっ、医者とかいうやつ呼ぶ!?」
「手が汚れるのが嫌だ」
「そお?そっかあ、でも、あーん♡」
壁が大破した。壁が。魔王城の壁が。ここ地上何メートルあると思ってるの。隕石でも落ちたの?中原くんにあーんする予定だった果物は土埃まみれになったし、口を開けて待ってた中原くんは口の中が土埃まみれになって、おええってなってる。どこから対処したらいいの。
「いてえ……」
「見て、服に土ついた。最悪」
「……お前ら、壁壊す時、二人して俺の後ろに隠れたろ……」
「知らない」
「被害妄想」
誰かいる。煙がもくもくしちゃってまだ誰か分からないけど。ふざけんじゃねえぞ、と吠える声は男だ。多分、三人ぐらい。口の中をぺっぺし終わったらしい中原くんが、また誰か来た、ここはほんとザル警備だな、と呆れている。ザルじゃないよ!ここに上がって来るまでに、何人魔族を配備してると思ってるの!結構強い子もいるんだよ!退勤前の報告で「今日三人組のパーティーが来たんで首切って魔王城の前に飾っといたっす」とか言うんだよ!そういうことすんな怖えから、っていうと不貞腐れられるんだよ!そう弁明していると、だんだん煙が晴れてきて、壁を突き破って無理やりここに到達した人影がはっきりと見えてきた。
「下の方には雑魚がたくさんいて、やっつけるのがめんどくさかったからここまで外から登ってきたんじゃん」
「……お前たちを引っ張って登ってきたのは誰だと思ってんだ」
「航介」
「ゴリラ」
「このマスコット殴っていいか?」
「暴力反対」
見えない方が良かったかもしれない。どうも、魔法少女です!と決めポーズをばっちり決めた黒い人間と、埃まみれで青筋を立てている白い人間。ふりふりひらひらてんこ盛りで、おっきいリボンと短いスカート。あと……あれ、なんだあれ?なんだあれは?マスコット、と白い人間が言っていたけれど、魔法少女が連れているマスコットっていうのは、もっと小さい気がする。三人のうち誰より背が高いその男は、もふもふの着ぐるみを着て、背中にはかわいい羽根が生えているけれど、どう見ても成人男性だ。ここで座って見てるからがんばって、と瓦礫に体操座りしていると、まあ確かにまふまふしててふわふわで、マスコットっぽいけど、どう見ても人間。
「魔王どっち?」
「角の方だろ」
「でも椅子座ってんじゃん。あれ魔王じゃね?死ね」
「ぅあっぶねえ!」
「……ひえ……」
黒い方の魔法少女、少女?よく見たら全員男じゃない?可愛い顔してるけど喋ったら声意外と低いし、この人男だよね?まあいいや。黒い方の魔法少女が、椅子に座ってる方、即ち中原くんに向けて、ノーモーションで魔法を放ってきた。ぎりぎり片手で止めた俺に、中原くんが真っ青になって、ずりずりと椅子から崩折れた。殺す気か!殺す気だよな。魔王討伐の魔法少女だもんな。
しかし、魔法少女とはいったものの、どう考えても男である。黒い方は、まあ、顔可愛いし、背も高くないし、魔法少女っぽい。俺がさっきぎりぎりで止めた魔法が、猛毒付与されたえぐい回転がかかった返し付きの矢で、絶対に殺すという意思しか感じなかったけれど、魔法少女っぽい。殺意に満ちすぎているけれど、魔法少女っぽい。隣よりは。だってめっちゃ筋肉質だもの。金髪だし、顔怖いし、どう見てもヤンキーじゃん。白くてひらひらでふりふりでかわいい衣装なのに、着てる人間がどう見てもゴツい男だ。スカートが短くてえぐい。さっきの話からするに、下から黒い魔法少女とマスコットを抱えて飛び上がり壁に穴を開けたのは、白い魔法少女っぽいし、黒い魔法少女が魔法特化だとしたら、こっちはどう見ても肉体格闘派だ。やだなあ、どうしようかな。どうやって殺そう。
「あれ人間だろ。あの、攫われたっていう」
「そんな人いたっけ」
「いたよ。助けろって言われたろ」
「覚えてない」
「当也、言われたよな」
「言われてたよ。連れて帰ってきたら魔族のことについて尋問して拷問するって」
「……連れて帰るの可哀想だな……」
「じゃあここで一緒に死んでもらおう。ねっ」
「ね、じゃない。魔王は倒すけど、人間の方は連れて帰って、保護するぞ」
「いっぺんにやっつけた方が楽なのに」
中原くんが、自分が連れ帰られた際の衝撃的な事実に多大なるショックを受けて、真っ青で涙目でぶるぶるしている。そんなこと俺がさせない。怪我しちゃうから、と中原くんをいつも通りに鍵のかかった部屋に避難させようとして、じいっとそれを見る黒い魔法少女の目に、やめた。絶対あの人鍵開ける。開けるし、中原くんを俺の目の前で甚振って、人質を助けたかったら代わりに死ねとか言い出す。そういう目をしている。やりますからね、とほっぺたに書いてある。魔王様は魔王様だから人間の心が分かるのだ。白い方の魔法少女が本心から「魔王は悪者だから倒さなくちゃ」「だけど囚われてる人間を連れかえっても尋問なんかさせない、絶対守る」と思っているのが、とても眩しい。黒と白、どうして服のカラーリングがそうなのかって、多分腹の中の色だ。
中原くんは、自分の手元に置いておくことにした。絶対壊れない盾の魔法をかけて、俺の後ろにいるように告げる。連れ帰られたら拷問、というワードがとても強く残ったらしい中原くんは、素直に言うことを聞いて俺の後ろに隠れた。待って痛い痛い、怖いからって尻尾握らないで、それ意外と痛いから。
「航介やっつけてきて」
「……俺疲れてんだけど。下からお前ら背負って上がってきて」
「えー。俺も疲れた」
「ちょっとは自力で戦えよ」
「んー。べんとお、あの、棒貸して。棒」
「棒?ああ、うん」
体育座りで傍観していたマスコットが、もそもそと着ぐるみのお腹のポケットをまさぐって、かわいいステッキを取り出した。ハートがついてて、ピンク色と金色で、羽根がぱたぱたしてて、魔法少女です!って感じ。よーし、とそれをバットのように構えた黒い魔法少女が、にい、と笑った。
「よっしゃ死ね!」
「!?」
「ちっ。だめか」
「ひっ……えっ……君本当に人間……!?」
横薙ぎに振られたステッキから轟いた咆哮と、地獄の業火。横一文字に飛んできたそれを無理やり弾き飛ばして、当たった先の天井と壁が、暗黒に飲み込まれて消し飛んだ。崩れるとかじゃなくて、ブラックホールが瞬間的に生まれて消えたみたいに、ばくりと食いつぶされて無くなった。あんなことできる人間、俺知らないんだけど。なにあれえ、と半泣きの中原くんの声がする。俺も半泣きになりたい。舌打ちした黒い魔法少女が、じゃあこっちだな、とステッキを床に突き立てる。彼を中心に大きな魔法陣が展開され、ごう、と巻き上がった風に、スカートがばっさばさはためきまくってるけど、特に気にならないらしい。気にしてよ!
「質がだめなら数だ。死ね!」
「おあああ!?」
魔法陣の輝きとともに、金色の光が辺りを包んで、槍やら矢やら剣やら斧やらが、切っ先をこっちに向けて召喚される。一斉に飛んできたそれらを、こっちも弾丸で消しとばして応戦するけれど、とにかく数が多い。どんな魔力量だ。人間の域を超えている。一応魔王だから魔族の中で一番強いはずの俺だって、こんなことしたら次の日までぐったりしちゃう。全く止まない剣戟の雨に、本体を叩くしか、と照準を合わせて、紅く揺らめいた彼の目に、中原くんを引き寄せる。
「潰れて死ね!」
「転移!」

危なかった。ものすごく危なかった。あのまま彼に向けて呪いの光線を放っていたならば、空間転移が間に合わなくて、溶岩弾に叩き潰されて、俺はともかく中原くんが死んでた。盾の魔法は傷からは守ってくれるけれど、熱さは話が別だ。焼け焦げる、を通り越して、骨も残さず溶けていたに違いない。咄嗟に魔王城の上空に転移した機転を褒めたい。中原くんは魔法なんて使えない、耐性の無いただの人間なので、負荷が大きすぎて目を回している。
いやしかし、やっべえな。今までで一番キツイのが来た。さっきまで居た場所を透視すると、轟々と燃え上がる炎の中に、黒い魔法少女がかわいいステッキを構えてにたにたしているのと目が合った。え?目が合った?
「うわお!?」
転移で追いかけて来たらしい高速の矢が、髪の毛をかすった。ちゅいん、と音がした辺りで速度を察してもらいたい。透視なのに目が合った時点で、居場所はとうに知れている。中原くんを抱いたまま、魔王城の俺の部屋まで落下すれば、ばさりと羽根をはためかせて傷一つない俺に、不愉快そうに顔を歪めた黒い魔法少女が口を開いた。
「しぶとい」
「……これでも魔王様なもんでねえ」
「早く帰りたいんだけど。すっきり殺されて終わってくんない?」
「いやいや。君、絶対嬲り殺しを楽しむタイプでしょ。そういう怖い人には近づくなって小さい頃から言われてるもんでさ」
「いやいやあ。俺そんなこと言われたことないから分かんねえわ」
「嘘だあ。魔族の幼子にはそう教える仕来りがあるんだよ。人間よりも絶対数が少ないから」
ねえ、と呼びかければ、なにそれえ?と可愛く首を傾げられた。あのレベルの魔法の行使は、人間には無理だ。魔族なら、出来ないことはない。家柄によっては、魔力量が莫大な家系もあるから。人間に見つかると、大体殺されちゃうけど。
人間は時々、魔族を殺してまわって、子どもだけを連れ去ることがある。実験とかなんとかいって。この黒い魔法少女は、その類のなにかで生まれた、多少なりとも魔族の血が混じっている人間なのだろう。引っ捕まえて、本来の姿を顕にする幻術解除の魔をかければ、彼にも角や牙や尻尾や羽根があるはずなのだけれど、今のところはどう見ても人間だ。やりにくい相手が出てきたなあ。
「……まあいいや。中原くんを怖がらせた罪は重いよ。三人とも仲良く並べて、魔王城の前に死体を磔にしてあげる」
「だってさ。うける」
「うけねーよ。熱かったよ」
「ああいうことやるなら言ってよ」
「ごめえん」
ほぼ空気だった後ろの二人がやいのやいのと文句を言っている。そうだよな。この部屋燃え盛ってるもん。なにも言わずにあんなことされたら、この二人も自分の周りの消火が大変だよ。かわいそうに。マスコットくんなんて、着ぐるみのふわふわの端っこがちょっとちりちりしてるもの。
仕方ない。俺も対抗させてもらうとしよう。ぞろりと影から生み出されたのは、触れるもの全てを溶かす蠱毒に満ちたスライム。中原くんに使った時は、スライムたちにさんざん、「服だけ溶かして「いやーんえっち!」って感じにするんだよ!」と言い聞かせたけれど、今回は容赦しなくていい。骨まで溶かして、逃げられないようにしてやれ。顔だけ残ってれば、誰を殺したのかはわかるから。どろり、どろりと、崩れ落ちた瓦礫すらも溶かしながら向かっていく粘液状の怪物に、良い子だからがんばって、と応援する。任せろとばかりに、ぷつりぷつりと融合して大きくなったスライムに、一歩下がって、またなんかされた時のために回避のスキルを使っておく。これで俺が気づかない何かをされたとしても、大概のことは避けられる。
「いっぱい来たぞ。伏見、がんばれ」
「なんかめんどくさい」
「……がんばってよ」
「数が多いと萎える。航介代わって」
「嫌だよ。どう見ても俺よりお前の方が向いてるだろ。さっきみたいに焼き払えよ」
「疲れてきちゃった」
「嘘つけ」
「こないだみたいにドラゴン召喚したりすればいいだろ」
「えー。航介がやって。あー、溶かされちゃーう、子どもたちにお見せできない感じになっちゃうー。えーん」
「ああもう!」
黒い魔法少女、ドラゴンの召喚とかできるの。怖。竜種の召喚自体なら、人間でも魔法に卓越しているならできるけれど、大型になってくると魔族でも出来なかったりする。大きく膨れ上がったスライムの集合体から、ぽたりと落ちた雫で、じゅう、ってふわふわしているリボンの隅っこを溶かされた黒い魔法少女が、泣き真似をしているので、白い魔法少女が引っ張った。どろどろと辺りを溶かしながら伸ばされたスライムの手に、白い魔法少女が飛びかかって、ぎぃん、と鈍い音がして、スライムが飲み込んで投げつけた瓦礫が叩き斬られる。なにも持っていなかったはずの手には、ぼんやりと輪郭のぼけた何かが構えられていた。召喚不足の聖剣だろうか。そんなもので斬られるほど弱いものを喚んではいないのだけれど。足場を組む程度の魔力はあるらしい、スライムには触れずに駆け上がった白い魔法少女が、宙でぐるりと回転して体制を変え、正面から斬りかかった。
「おらあああっ!」
「……浄化の聖剣か……!」
普通に切り捨てたら、あの粘液は辺りに散らばって、下にいるマスコットや黒い魔法少女に降り注いで、二人を溶かしていたはずだ。核を叩き切った途端にざあっと粒子化して消えたスライムに、魔族の天敵である天使由来の、魔性属性をまとめて浄化する曰く付きの剣を思い出した。俺にはぼやけて見えるのも当たり前だ。多分黒い魔法少女にもはっきり見えてないはず。基本的には魔法の使えない人間だからこそ使える、俺たちへの最終兵器。だん、と着地した白い魔法少女が、輪郭のぼけた剣を振るって、構え直した。
「……降伏してくれるなら、斬らない。その人間に何があるのかは分からないけど、手離したくないのはよく分かった」
「降伏?するわけないでしょ。甘くてゆるふわなのは服装だけにしてよ」
「……服は……俺だってこれが着たかったわけじゃ……」
「あっ、うん、ごめん、それは分かってんだけど、いや、あのね?煽りたかっただけで、そんなマジに落ち込まれるとちょっと悪い気がしてくるから、ごめんね?」
「……いや、こんな格好してる俺も悪い」
「……剣があるなら鎧とか着てくれば良かったのに」
「伏見が一緒じゃないと嫌だって駄々こねるから……」
「はやくころせー」
「物騒なヤジを飛ばすな」
わあー、と後ろから中指を立ててくる黒い魔法少女が、マスコットのもふもふに埋もれて休憩している。手抜きだ。深く深くため息をついた白い魔法少女が、剣を構えた。一対一で負けない自信があるんだろうか。すごい。けど俺は魔王様なので、一体多数で押し切って圧し潰す方を選びます。
「君、引っ込んだほうがいいよ。良い人っぽいし、君みたいな人がたくさんいたら、俺たち魔族ももっと暮らしやすかったと思う」
「……下っ端呼びやがって」
「この子たちはクローンだからね。土塊の人形みたいなもの、いくらでも呼び出せる」
2メートルを平均とした、ごついゴーレムを続々と呼び出す。ざっと100体もいれば、一人相手なら十分かな。途中から黒い魔法少女もなんかしてくるかもしれないけど、白い方をまず黙らせられればそれで十分。低く構えた白い魔法少女が、腕を振り上げたゴーレムに斬りかかった。数体突き飛ばして消滅させた彼が、怒鳴った。
「当也!なんかあのきらきらしたやつ!」
「……どこやったかな……」
「早くしろノロマ眼鏡!」
「……腹立つから助けたくない」
「ああ!もう!」
「弁当が探さないなら俺が探す、んーと」
「あっやめ、くすぐったい、やめて、わかった探す、探すから」
ばっさばっさとゴーレムを切り捨てて大立ち回りをしている白い魔法少女の後ろで、黒い魔法少女がマスコットのお腹に手を突っ込んで悪戯している。なんか空気感が違いすぎて調子狂うんだよな。マスコットがもそもそとお腹のポケットをまさぐって、きらきらしたコンパクトを取り出した。魔法少女の変身アイテムっぽい。はい、と普通に投げ渡されたそれを受け取った白い魔法少女が、吠えた。手の中で、コンパクトが光り輝く。
「お前ら座れ!」
「……嘘でしょ……」
「整列!」
「嘘でしょ!?」
俺のゴーレム!嘘だって言って!
握りつぶされそうな勢いのコンパクトがきらきらと輝いて、白い魔法少女の声にゴーレムが従う。ぴしりと整列した彼らに、襲うんだよ!がんばって!と声をかけたものの、全然聞いてくれなかった。なんで!?
「一日一回だけ使える、誰でも俺の言うことなんでも聞くマシーンだ」
「……誰が作ったの……?」
「朔太郎」
「誰だよ!」
「これくれたやつ」
「天使絡みか!くそ!」
「朔太郎は人間だぞ」
「嘘こけ!そこの黒いのと一緒で混じってるんだろ!」
「俺は普通の人間ですう」
ぴろぴろ〜、っておちょくってくる。すげー腹立つ。降伏してくれ、ともう一度言われて、どう逃げるかの算段をつける。しかし、白い方と真っ向からやり合って万が一斬られた時のダメージを考えるとやりたくないし、黒い方を相手取ってもどこまで逃げても恐らく追尾される。しかも中原くんを人質にとられたら終わりだ。どうしよう。
「……ぅゔ」
「あ。ほらー、それあの人間に使うはずだったのに」
「俺はそんなことしないって言ったぞ」
「航介しかそのコンパクト使えないんだから航介がやるしかないじゃん」
「卑怯な手は使いたくない」
「いいですう、じゃあ明日になったら俺が航介が寝てる間に航介の身体借りてそのコンパクトであの人間の頭操りにくるから」
「だからそういう卑怯なことするなって言ってるだろ!」
「……ぇ……え……?」
ちょうど目を覚ましたタイミングが最悪だった中原くんが、なにがなんだかよく分からないけどとにかく自分に何かされるらしいと言うことだけ受信して、怯えている。最高。ずっと中原くんを抱っこしっぱなしだった俺、すごい褒めたい。怯えて縋ってくる中原くんを抱き直しながら、とにかくそんなことはさせないし君達のことはぶち殺しちゃうぞ、と啖呵を切ろうとして、
「あ」
「……あー……」
「……?」
ぴろり、ぴろり、ぴろり。ポテトでも揚がったの?って音が、マスコットくんのお腹辺りから鳴って、あー、あーあ、みたいな空気が三人に流れる。コンパクトを掲げて、土に戻っていいぞ、と端的にゴーレムを土塊に戻した黒い魔法少女が、聖剣を手離して、居心地悪そうにぽりぽりと頰を掻いた。
「……帰るわ」
「は!?」
「俺ら時給制だから」
「時給!?」
「この格好じゃないと魔族と渡り合えないし、勤務時間終わったら戦闘解除されるから普通の人間になっちゃうの。無抵抗なただの人間をぶちころがす最低な魔王様にはそんなこと関係ないかもしれないけど」
「無抵抗な人間を殺したことなんかないよ!人聞き悪いな!」
「また来るな」
「もう来んな!帰れー!」

「……なんだったんだ?」
「……なんだったんだろうねえ……」





後日。
「よお」
「……また来た……また壁壊された……」
「陰気くさ。黴生えてる」
「生えてねーよ!」
黒い魔法少女が開口一番魔王城をディスってきた。中原くんは、こいつらはまずい、と学習したらしく、とっとと俺の後ろに隠れて、早く追っ払ってくれ、ってぷるぷるしている。かわいい。しかしまあ、俺としても早く追っぱらいたいのは山々だ。もふもふマスコットくんが、はいこれ、と白い魔法少女にコンパクトを手渡した。まだなにも召喚してないぞ。
「最初からこうしたら良かったんだよな」
「へ?」



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