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観察日記



ポチを飼い始めてから一ヶ月が過ぎ去った。記念日ってわけじゃないけど、気づいたら過ぎちゃってたのは少しショックだった。
今日は、機嫌が悪かったからか、その後の電気びりびりを想定してか、お風呂に入れようとしたら暴れて叫んで嫌がったから、たくさん殴ったり蹴ったりした。腹に当てるとポチは吐くのでそれを避けていたら、当たり所が悪かったのかうっかり額を切ってしまって、血がぱたぱたと滴った。しょうがないから包帯を巻いて処理してやって、その間もポチはびくびくし続けていたので、手当てしてやってるのに怯えるなんて、と腹が立って蹴っ飛ばしたら、またもや当たり所が良くなかったらしく、それからずっと意識が朦朧としている。多分今日のポチの運勢は大凶だ。ご飯を目の前に出してあげても食べようとしない、というか恐らく視界に入ってすらいない。拗ねているというより頭の中が飛んじゃってるポチは、有らぬ処に視線を彷徨わせて、涎垂らしてぼーっとしている。壊れちゃったかな。そんなに手荒くしてないのに。
「……………」
手足を投げ出して、取り敢えず呼吸だけしてます、といった様子のポチは、服まで点々と血が染みている。流血沙汰の間はお風呂なんて入れられないので、取り敢えず身体を拭いて着替えさせることにしよう。今なら突然逃げ出したりしないだろうから、枷を外してしまっても平気そうだし。
鍵を外して枷を取ると、脱力しきった身体は死体みたいだった。濡らしたタオルで身体を拭いながら、ポチを俯せにする。背骨を指先で辿って、そう言えばしばらく前に消えない痕が欲しいと思ったんだよな、と思い出す。腰元にピアスを開けてやる、スパイナルはどうだろう。ポチの手が届き易い場所だと、引っ掻いて千切ってしまうかもしれないから。もっと慣れたら耳でも舌でも良い。センタータンとかかっこいいから、金髪がお気に入りのポチも気にいるかもしれないし。軟骨二箇所開けてインダストリアルとか。自分じゃ出来ないから、知り合いの伝手を使って、ここに来てもらって穴を作る形にはなる。ポチにも希望を聞いてみようかな。自分の身体だし、自分で決めたいよね。
「……ぅ」
ぴくん、と指先が動いた。このままほっといたらどうなるのかな、と思って、服だけ着せてしばらく見てみることにする。ようやく意識が現実に帰ってきたらしいポチは、拘束されている時の癖で、肩を使って這おうとして、手が自由なことに気づいて、足が自由なことにも気づいて、跳ね起きた。手を突っ張って立ち上がろうとしたけれど、結構な長期間折り曲げたままにされていた足はすっかり言うことを聞かなくなっているらしく、ポチは呆気なくべしゃりと転んだ。ごちん、と頭を床にぶつけた音もした。痛そう。
「ぇ、えっ、なん、っなんで」
気分だよ、と答えると、思うように行かない足を引きずって、こっちをあからさまに警戒しながらずりずりと移動し始めた。鎖が付いていた時には行けなかった反対側の壁際まで行って、壁伝いに膝をがくがくさせながら立ち上がったので、近づいて膝かっくんしてやったら、悲鳴をあげて崩折れた。おもしろい。ポチは忌々しげにこっちを見ている。ご飯の時間まで枷を外してあげる、と言い残して壁に凭れ掛かると、ポチはふにゃふにゃの足をなんとか動かして、歩いて逃げ道を探し回っているようだった。だから、無いってば、出口。まあ後期高齢者のような速度で移動するポチが面白いから放っておくけど、多分這った方が早い。何故それに気がつかないんだ。
ご飯の時間になったので枷を嵌めると、案外大人しく言うことを聞いてくれた。ずっと使わないと足も衰えるってことが分かったし、これからは一ヶ月に一回くらい、枷を外して自由な時間を作ってあげようか。そう提案すると、ポチは目を輝かせて、ご飯粒まみれの顔のまま首がもげるんじゃないかってくらい頷くので、そうすることにした。その代わりに、と交換条件を幾つか出して、後日ポチの身体にはいくつもの穴が空いた。似合ってるよ、ポチ。


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