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不思議の国のアリス



「ぶわっ」
ぜはー、と大きく息を吐いて飛び起きたこーちゃんは、ちょうど出っ張っていた木の根元に強かに頭をぶつけました。痛そうな音がして、隣にいた都築くんが目を丸くしています。大丈夫ではない音がした上に、当のこーちゃんが嫌にぼけっと惚けているので、ついに壊れた!頑丈なことが取り柄だったのに!と都築くんは顔を覆いました。
「……失礼だろ」
「航介!これ何本!?俺は誰!?お前は誰でここはどこ!?」
「うるせえな」
「だってちょっと押しただけなのに急に変な穴に落っこちて倒れるからあ!」
「お前が押したせいでこっちは大変な目にあったんだからな!?」
「穴から引っ張り出したのは俺だぞ!?がんばったんですけど!?」
一頻り大声で喧嘩をした二人は、ぜえぜえ息を吐きながら、一時休戦することにしました。ぎゅうっとこーちゃんの手に握られていた一輪の花に、都築くんが目を止めます。どうしたの、それ、なんて当たり前の問いかけを受けてようやく、こーちゃんは手の中の花に気づいたようでした。
「もらった」
「誰に」
「……朔太郎?」
「なんで疑問系よ」
「多分……」
「それ何の花?」
「鷺草、だっけ」
「綺麗な花だね。あんまり見たことない」
「おー……」
「まだ元気だし、ちゃんと手入れしたら保つんじゃない?」
「なにそれ。どこでもらったの」
「ぎゃっ」
「うわあ」
「俺育てたことないよ」
「……心臓に悪い……」
いつのまにそこにいたのか、木の後ろからにゅっと生えてきたのは、頭に耳も付いていなければ時計も持っていない、ただの幼馴染でした。じろじろと眺め回してそれを確認したこーちゃんは、どうにかしてくれ、と鷺草をさくちゃんに渡します。受け取ったさくちゃんは、不思議そうに首を傾げました。
「鷺草の花言葉って知ってる?」
「いや?」
「夢でも貴方を想う。航介のくせに、随分ロマンチックな花もらったね?」
「……………」
「ん?」
お前が寄越したんだろう、とは言いませんでした。だってこーちゃんには、『貴方』が自分なのか、それとも自分から見た相手なのか、分からなかったのですから。
その日の夜、お風呂に入ろうと服を脱いだこーちゃんは、それが妙に土にまみれた上に少し湿っていることに今更気づいて、果たしてあれが本当に夢だったのかどうか、不安になりましたとさ。おしまい。

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