このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

おはなし



「揃ってなかったりして」
「揃ってるよ!」
「ジョーカーの角折っとこ」
「やめろ!」
せっかく家まで来てやったのにゲーム出来ないって言うから、仕方なくトランプで妥協してやった。コードどっかやっちゃったんだって、んなこと言う前に早く探せ、見つけろ。なにするか決まってないけどとりあえずカード切ってる航介に朔太郎がちょっかい出してるの見ながら、ふわふわと欠伸を漏らす。そのまま一眠りしようと横になれば、航介の足が背中にごすごすと当たった。痛え、ふざけんな。
「なに寝てんだ」
「昨日夜更かしした」
「知らねえよ、二人じゃババ抜きも出来ないだろ」
「当也はなにしたい?」
「寝たい」
「寝んな」
「二人でスピードでもやってなよ」
「えー、なら航介一人でピラミッド作ってなよ」
「そんなに嫌なら出てけ」
「だってさ、帰ろ」
「当也んち行こう、隣だし」
「ばーか!」
あんまりからかうと後が面倒なのでこの辺にしておく。喋ってる間ずっとちまちまシャッフルしてたらしいトランプを配られて、結局やるのはババ抜き。ぽいぽいと数字の揃ったカードを真ん中に投げながら、何故か難しい顔をしている朔太郎に声をかけた。
「どうしたの」
「全然揃わないー」
「ほんとに揃ってんの?このトランプ」
「ほっとんど使ってねえから揃ってるはずなんだけどな」
「航介意地悪だ、俺のこと上がらせないようにイカサマした」
「してねえ」
流石にそんな上手いことイカサマできないと思うからそれは邪推だろうけど、本当に朔太郎の手札だけ妙な多さだ。その代わりなのかなんなのか、俺と航介の手札はどっこいどっこいの枚数で、こんな変な分かれ方あるんだな。
ぽりぽりとお菓子を齧りながらじゃんけんして、誰から始めるかを決める。最初に引いた一枚で揃ったペアを捨てた朔太郎に、元々持ってる枚数が多いとどれ引いても捨てられる確率が上がるのか、なんてぼんやり思った。俺の手札にはジョーカーがない、だから二人のどっちかだろうけど、顔見ただけじゃ全然わかんないな。航介はババ持ってたら手札見た時点で若干嫌な顔してただろうから、今持ってるのは朔太郎かな。
「揃わねえや」
「航介ババ持ってるから揃わないんだろ」
「持ってねえ」
「だってさ、当也持ってる?」
「ううん」
「えー、でも俺も違うもん。航介ちゃんとジョーカー入れた?」
「入れた、つーかはい持ってますなんで言うわけねえだろ」
「あっ航介持ってんだ!持ってるからそういうこと言うんだ!」
「ちげえ!」
完全に朔太郎がババ持ちだ。朔太郎は自分が不利になるとよく喋る癖があることに気づいたのはいつ頃だったっけ。ゲームやってて一人だけ死にそうな時とかずっと喋ってる、助けて死んじゃう助けて治して回復ちょうだい助けて、って。逆に有利な時ほど黙るんだよな、勝ち誇れるから。
何周かして、そろそろ全員手札も減ってきた頃。俺のところにも一回ババが回ってきたけどすぐ朔太郎が持ってった、多分あれで一周だ。航介じゃないけど、あまり数字が揃わなくなってきた。
「俺トイレ」
「うん」
「お菓子」
「おー」
自分の手札を置いてトイレに行ってしまった航介を見送った朔太郎が、俺も行こっと、とついて行ってしまった。トイレがそんなにたくさんあるわけじゃないのに、と思いながら一人残されて待っていれば、廊下の方からばんばん扉を叩く音と朔太郎の声が聞こえてきた。なんだ、邪魔しに行ったのか。
「早く早く早く漏れちゃう漏れちゃう」
「うるっせえな!なんだよ!」
「航介遅いよ!どうすんの!俺が今ここで漏らしたら!高校生にもなって!」
「引くわ!普通にどん引くよ!」
「あーダメ出ちゃう、漏れちゃう早くして」
「待ってろ!なんでそんなに切羽詰まってんだよ!」
「全然行きたくないからだよ」
「行きたくねえなら黙ってろよ!トイレくらい自由にさせろ!」
「全然トイレ行く気分じゃないけど漏らす、全身の水分を使って」
「隣んち行ってこい!」
なかなか帰ってこなさそうなので、二人が置いて行ったトランプを覗いてみる。やっぱり朔太郎がジョーカー持ってるじゃん、航介のとこにずらしといてやろう。あと適当に揃えて捨てて残ったのを俺と朔太郎のとこから移動して、航介の手札だけ増やしとこう。すぐ終わるようにしないとな、俺飽きたし。
「おいてめえ!朔太郎ちゃんと捕まえとけ!」
「知らないよ」
「ひどい、人のことペットみたいに」
「わんわん」
「きゃんきゃん」
「やかましい、犬とは言ってねえ」
「じゃあなんなの」
「こいつ俺がトイレ入ってる間ずっと外でうるせえんだ」
「いや、それは聞こえてたけど」
「なら止めに来いよ」
「嫁に来い?」
「止めに!」
「突然のプロポーズでしたが、どうですか当也さん」
「気色悪いですね、ハゲろ」
「勝手に聞き間違えたのお前だろ、この眼鏡」
「どっち?」
「どっちだろ」
「俺かな、なんにもしてないけど」
「どっちもだよ!」
どすりと腰を下ろした航介が、自分の手札を見て首を傾げて、こっちを見てでかい声を上げた。こらなにしやがった、って言われてももう俺上がりだし、朔太郎もとっとと勝手にいえーい上がりーとかやってるし。手札もなくなったので一眠りするかと横になれば、航介が頭をひっぱたいてきた。ああもう今ので脳の細胞が死んだ、この野郎、返せないものを奪うな。
「イカサマはどっちだ!」
「負け犬が口をきくな」
「だっ、から、寝んなってば!」
「航介まだここにいやらしい本隠してんの?」
「なに勝手に人の部屋、っおいこらやめろ!ねえよ!そこには!」
「ほんとだ、ないや」
「朔太郎、枕元の敷布団の下」
「やめろっつってんだろ!なに助言してんだ!」
「なんにもないよー」
「おかしいな、昔は頭の下にいろんなもん詰め込んでたのに」
「漁るなー!やめろー!」
「あ、宿題やんなきゃ」
「そうだ、俺も。航介ないの?」
「ねえよ」
「じゃあ帰ろう」
「そうだねー、お邪魔しました」
「……おー」
「……………」
「……なに」
「いや、ここで宿題やってほしいのかなって」
「ほしくねえ、帰れ」
「えー、やだー、航介恥ずかしい」
「おい、誰がいつ、ここで宿題をしてほしいって言ったんだ」
「そういえば朔太郎にシャーペン借りたままだった、返す」
「そうだっけ?覚えてないや」
「それ俺のだよ!無くなったと思ってたらお前が持ってたのかよ!」
「うるせ、声がでかい」


2/69ページ