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おはなし



当也の家に行ったら、当也母がテレビを見ていた。ちらっと挨拶だけして部屋まで直行するつもりだったんだけど、覗き見えた画面にはよちよちしてる当也がいて。
「なあにこれ」
「あらー、いらっしゃい」
「やちよ若いじゃん」
「やだあ!もう!さくちゃんったら!」
ばちんばちんと背中に手のひらで羽根生やされて、すっげえ痛いんですけど。現金に上機嫌になったらしいやちよ、もとい当也母が、あの子なら上にいるけどとりあえずお茶でも飲みなさいよ、と紅茶を出してくれたのでありがたくいただいて、テレビに向き直る。映っているのはここんちのリビングで、昔はあの棚窓の横に置いてあったんだな、なんて思いながら画面を見つめていると、さっき出てきてからずっと画面端でししまるに凭れて電車のおもちゃを床に走らせてたちっちゃい当也が、ぱっとこっちを向いた。とーちゃん、と呼んだのは声的に航介の母だろうか。
「あれ?みわこ?航介は?」
「こーちゃんはねえ、どこにいたかしらね」
「母だけいて航介がいないってことはないでしょ」
「これさっき掃除してたら出てきたやつだから細かいこととか覚えてないのよ」
お菓子ぱりぱり食べながら適当ぶっこいてるやちよは通常運転なのでほっといて、もう一度テレビに目を凝らす。当也も航介も、前にアルバムとか見た限りじゃ今とほとんど変わりないみたいだったけど、航介は丸っこかった時期があるからな。面白すぎるだろ、ぜひもう一度見たい。
『あっ、とーちゃん!こーちゃんのおもちゃ取っちゃダメって言ったでしょ!』
『……………』
「これ航介のなんだ」
「あの子こーちゃんが新しいおもちゃ買ってもらうとすぐそれで遊びたがって」
カメラはどうやらテーブルに置いてあるらしい。やちよに怒られて若干拗ねた顔でぶんぶんと首を横に振った当也が、ししまるごとおもちゃを抱え込んで丸くなっていた。それに近寄るやちよと、見てるみわこ。それにしても当の航介はどこに消えたんだろう。
『こーちゃんに返しておいで』
『……や』
『こら』
『ししまるがくれた』
『ししまるのせいにしないの』
『くれたの』
『こーちゃん奥のお部屋で泣いてるのよ』
『……………』
「こーちゃん奥のお部屋で泣いてたんだ……」
「当也からは無理矢理おもちゃ取られるけど、乱暴して奪い返したりはしなかったのよ」
そうか、それっぽいな、航介。今でこそ口は悪いしすぐ手は出るけど。また黙り込んでころころと床に電車を走らせていた当也が重かったのか空気を読んだのか、寄りかかられていたししまるが下から抜け出して画面の外へと出て行ってしまった。それを目で追ったやちよが、ほらあ、ししまるもこーちゃんとこ行っちゃったのよ、とか上手いこと言って、ししまるがいなくなったせいで床に直で横たわっていた当也を起き上がらせる。ものすごく嫌そうな顔で体を起こした当也が、のたのたと動き出して隣の部屋の方へと歩いて行って、フレームアウト。
「カメラ動かないね」
「そもそも誰が撮り始めたのかしらねえ」
そこは覚えとけよ、と言いたくなったけど我慢した。この人案外適当だからな、その結果当也がああ育ったのかもしれないけど。
当也は航介におもちゃを返しに行ったんだろうか、と思いつつ画面を見ていれば、隣の部屋の方を見ていた母親二人ががたがたと急に立ち上がって、べちんって痛そうな音が微かに聞こえてきた。おう、なんだ、喧嘩か。
『よわむしっ』
『なにすんだよ!うあああ』
『すぐなく!いたいっ、ばか!』
『やだー!すぐ喧嘩するんだから!やめなさいってば!』
ぎゃんぎゃん泣きながら言い合う声と、どたばたと暴れる音がして、やちよとみわこも画面外へ出て行ってしまった。それからしばらくして引き剥がされたらしい航介と当也が、ぐずぐずの顔で相手を睨み合いながら戻ってくる。さっきまで当也の手にあったおもちゃは航介の手に移っていた。
『ごめんなさいは?』
『や』
「首千切れそう」
「すぐ黙ってぶんぶん首降ってね、昔から無口な子だったわ」
『当也』
『あれぼくの』
『ちがうもん!こーちゃんのだもんっ』
「こーちゃっ、ぶふ、っははは!あっはははは!」
「あらー、こーちゃんに見られたら怒られちゃうわ」
『あっ』
『ふん』
『かえせー!』
『やだ、はなせ、はなせよ』
「ふはは、はあ。当也横暴だね」
「こーちゃん相手だとしょっちゅう喧嘩してたのよね、何でか知らないけど」
「外出ない子だったんでしょ」
「そうそう。だから白くて弱っちそうで、お母さん心配だったわよ」
「弱っちそうって」
「今もそうでしょ」
「……失礼なんだけど……」
「おっ、とーちゃんじゃないすか」
「やめろ」
いつの間にか後ろに立っていた当也にチョップされて、ビデオを止められる。二人でぶーぶー文句を言ったんだけど、こんなの航介に見つかったら頭かち割られるよ、とごもっともな意見を貰って納得した。じゃあ貸してよ、さちえと見るから。
「やだよ」
「ねえとーちゃん」
「やめろっつってんだろ」

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