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おはなし



今日は何もしないで寝たいんだけど、と言われてよく意味が分からずに首を傾げれば更に正確に懇切丁寧に、俺が寝てる間とかに勝手に欲情しないでもらいたいわけだけど、と突然訴えてきた伏見の顔には、呆れました、とくっきりはっきり書いてあった。別にそんなんしてないしするつもりもないし被害妄想なんじゃないの、と嘯けば舌打ちと共に枕が飛んできて、ちょっとは悪びれるとか反省するとか焦るとかしてみろよ、なんてごもっともな言葉。俺から剥ぎ取った掛け布団を全部自分で巻き込んで使い、肘をつきながらこっちを睨みつける目に、じりじりと追い詰められて視線を逸らした。
だって、しかたないじゃないか。よくあるいつもの事とは言え、疲れやら何やらでいろんな物事の制御が緩くなってると自分でも思うような、そんなとこにいきなり押し掛けて来て、今にも寝ようとしてる部屋の主の服を勝手に持ってって我が物顔で風呂入ったのはそっちだ。日曜の夜遅くなんてバイトで疲れまくってるし、そしたら割と本気で我慢がきかないから、だから来るなって言ってあったのに。ぶかついたシャツと緩いハーパンに、機嫌良さげな笑顔と風呂上がりの火照った肌見せつけられて、挙げ句の果てには布団の中に潜り込まれて、一緒に寝よ、なんてにっこにこしながら言われて、何とも思わない方がどうかしてる。いいのかな?って思うじゃん、ていうかいつもだったら流されてくれるじゃん。なんで今日だけダメなんだ、答えによってはちょっと怒っちゃうからな。
「明日弁当と一限一緒に受ける約束してて、わかんないとこあるから」
「ふむ」
「だから今日はお前に構ってらんないの、やめろ、手引っ込めろ」
「じゃあなんで来たの?」
「寝に来ちゃいけないのかよ」
「家で寝りゃいいだろうがよ!」
「やだよ、家嫌いだもん」
「そりゃ、そん、っなの、知ってるけどさあ……」
当たり前のように言い放たれて出鼻を挫かれ、がっくりと肩を落とす。布団の中にもぞもぞと潜り込みながら、溜まってんなら自分でなんとかしたら、とそっけなく切り捨てられて布団を剥いだ。てめえ、こないだ俺が疲れて寝てる時にはいっくら俺が同じようなこと言ったって乗っかってきて、いいから付き合えほら脱げやるぞってうるさかったじゃねえか、この野郎。腹立つ、あんま我儘言ってると痛い目見るんだからな。
「なにすんだよ!俺寝るから!」
「ふざけんな!誘ってねえならそんな格好すんな!」
「お前が勝手に興奮してるだけだろうが!」
「させてんのは誰だよ!このやろっ、脱げ!布団からも出てけ!」
「お前っ、やめろなにすんだ死ねっ、やだ、馬鹿!返せ!返せよ!」
「返せはこっちの台詞だよ!これ俺のだから!」
「パンツは俺のだ!」
「うるせえ!伏見のばーか!」
ごろごろと布団を剥ぎ取って投げ捨て、ズボンもパンツも一緒くたに奪えば、寒いよもうやだよクソ馬鹿ぶっ殺すぞ、と丸まっていた。口が悪い、下半身の衣類を剥がれた奴の台詞だとは思えない。首根っこ掴んで引っ張り起こせば、じたじたと暴れながらついてきた。やめろやめろってうるさくきゃんきゃん言いながら握り拳を振り回してくるので、痛いからお前こそやめろと両手を掴めば、咄嗟にまずいと思ったのか慎ましやかに大人しく閉じてた足を脇腹にぶち込まれる。一瞬本気で息が止まって黙った俺を見てふと気が抜けたらしい伏見の腕を素早く後ろ手に回して抑えつけ、これ以上蹴る殴るの暴行を出来ないようにすれば、てめえ騙しやがったなと睨まれた。騙したつもりはない、蹴られたの普通に痛かったし。
「やめろー!やめろよー!離せー!」
「しーっ!伏見声でかい!夜だから!静かにして!」
「んぐー!んー!」
うるさい口を塞ぐ手段が無かったので、顔をベッドに押し付けて黙らせる。ばたばた暴れる足を避けながら、脱がせたズボンで手首を一纏めに縛った頃には、息が出来なかったせいか相当抵抗が薄くなっていた。ぜえぜえ言いながら顔を上げた伏見が、無理矢理なんて犯罪だ、俺お前よりか弱いのに、とか何とかまだ減らず口を叩くので、またちょっとむかついてきた。お前が暴れるから大人しくさせるために縛ってるんだ、自分勝手の我儘ばっか言うし、そもそもか弱くなんかないだろうが。
「性犯罪者だ……強姦魔……」
「別に無理矢理犯そうとしてるわけじゃないじゃん……未遂じゃん……」
「嘘だ、どうせお前、抵抗されると燃えるんだよね、とか言うんだろ」
「いつ言ったよそんなん」
「小野寺いつも俺が嫌がることばっかするもん……俺すごく可哀想……」
「だからそんなこといつしたよ!おい!答えろ!でたらめ言うな!」
「こういうぶかぶかの格好も好きだし……変態だし遅漏だし……」
「自分で着たんだろうが!」
「あいたっ」
ぶつぶつ言ってる伏見の頭を叩けば、こうやって暴力に訴えて俺のことを好きにしたがるんだ、ドメスティックバイオレンスだ、とかまた言い出して、ぶちんって何かが切れた音がした。ぐずぐず言われるのが一番苦手だ、こいつそんなの知ってるはずなのにわざわざ俺のこと苛々させてるだろ、もう怒ったから、ほんとに。
俺の反応を見て恐らく半ば楽しんでいただろう伏見が唯一身につけていたシャツのボタンを上からぶちぶちと外せば、おいこら今日はしないって言ってんだろ馬鹿小野寺、と騒ぎ出した。今更焦りやがって、そんなんなるくらいなら最初から煽らなければいいのに、馬鹿はどっちだ。俺だってたまには伏見の言うことを聞きたくない時だってあるんだ、例えば今とか。
「分かってるよ、明日一限弁当と受けたいから俺には構えないんでしょ」
「そうだっつってんだろ、なんで脱がすんだよ。手解くかボタン嵌めろよ」
「そのまま座ってて」
「は?」
「俺自分でするから。一人でするから、おかずになって」
「……はあ?」
意味が分かりません、とでも言いたげな顔に、いいからそのまま動かずに大人しく座ってろ、と告げてベルトを緩める。訝しげな目を向けられて、どうやらこいつはてっきり自分は無理矢理やられるもんだと思っていたらしい。だから本気で嫌がるとこ無理矢理なんてほとんどしたことないだろ、なんでそんなに信用無いんだ。
触ったりしないから安心して、と脱ぎながら喋れば、後ろ手に縛られたのを何とか解こうともそもそ変な動きをしながら、頭の上にはてなをたくさん浮かべていた。どうも脳が追いついていないらしい、まあこんなことしたことないし、ていうか自分でするの久しぶりだな。
「えっ、なに、お前オナんの?ここで?」
「うん」
「俺がいるのに?」
「お前を見ながらするんだよ」
「俺を使って?」
「なに、使ってほしいの?」
ぶんぶんと首を横に振られて、じゃあ黙って見てろと目線を外す。途中までズボン下げたところで無言の伏見を訝しんで顔を戻せば、妙な動きをしたせいか肩からシャツをずり落としたまま途方に暮れていた。こっちを見ていいのかそっぽ向いてるべきなのか分からないらしく、珍しくおろおろ戸惑ってこちらに助けを求めている視線を放って自分の下半身に手を伸ばす。
俺の手の動きにこっち見て、ちょっとねえ小野寺これやだよやめてよ、とぼそぼそ零したものの視線は外そうとしなくて、しばらくして自分がガン見してることに気づいて顔を上げ、俺と目が合うと逸らして、一度体ごと後ろ向こうとしてみたりして。伏見がそわそわと落ち着きなく動く度にシャツが捲れ上がっていくことには、本人は恐らく気づいていない。こっち見ないで、なんてしおらしく口では吐きながら、耳まで真っ赤になって物欲しげな顔してるんじゃ駄目じゃないか、しょうがない奴。お腹空いた時の顔になってるぞ、やだやめてって言うならちゃんと煽られないで拒否しきってみろよ、この変態。
ぼーっと伏見眺めながら右手を動かしていると、もごもごと口ごもりながら大人しくなっていった。結局こっちを見てはいられなくなったのか俯き気味だった伏見の名前を呼べば、ぱっと顔を上げたところまではいいものの、大丈夫かとふと心配になる。だって耳どころか首から真っ赤だし、恍惚としたいんだか嫌がりたいんだかどっちとも取れない表情を浮かべている。口閉じればいいのに、涎垂らしそうな顔すんなよ、だらしないなあ。何とか取り繕っているらしい体で睨みつけられて、ちょっと笑った。
「ほっとかれんのやだ?」
「……別に」
「舐めさしてあげてもいいよ」
「誰がそんなもん舐めるかよ」
そっちじゃなくて、と右手を差し出せば、ざっと顔色が変わった。察しが良くて大変助かる。ほんの五秒前まで自分のもの弄ってた手を見せつけるように開いて、選択を迫る。俺からは触らないって言っただろ、ちゃんと選ばせてあげるから。
「これ舐めたら、いいよってことで」
「……だから、俺明日」
「知ってるって。ほんとにしたくないんならそっぽ向いてくれていいし」
「……………」
「そしたら俺、最初の予定通りお前のことおかずにして抜いて終わるし」
「……嘘だ」
「ほんとだよ。そんなに言うなら締め切っちゃおっかな」
「あっ、待っ、あの」
「うん?」
俺の手見ながら何考えてんだか知らないけど、だんだん息荒くして眉下げて、泣きそうで切なそうなくせに頭の中いやらしいことでいっぱいの顔。待って、の言葉通りに黙ってしばらく手を突き出していれば、おずおずと舌が伸びてきた。あーあ、ばかだなあ、伏見は。
「明日一限弁当と受けたいんじゃなかったんだ?」
「っそ、れは、……」
「俺はいいけどね、どっちでも」
「……お前、性格悪いぞ」
「誰のせいだと思ってんだ」
確認がてらちょろっと虐めれば愕然とした目を向けられて、少し面白かった。明日の一限、の言葉に一瞬頭が冷めたのか躊躇したように体を止めて、それでも汚い指先にベロ出してくるんだから、こいつ最低だ。でも結局そんなとこ引っ張り出して大歓喜してる俺も最悪だから、安心して欲しい。
俺の指に舌を這わせて、恐らく美味しくはないんだろう、若干嫌そうな顔をした伏見が諦めたように目を閉じて、体ごともそもそと寄ってくる。指先どころか手のひらまで舐めとろうとする舌にちょっと焦って、もういいとばかりに掴めば、涎がだらだら出てきた。口の端伝ってぱたぱた垂れて、シャツがずり上がった太腿に雫が落ちる。口が閉じられずにはあはあと息を吐く伏見は苦しそうだけど、でもほっぺ赤いしなんかちょっと嬉しそうだから、まあいいか。どっかでマゾのスイッチでも入ったんだろうか、最初は伏見が優位だったのに今となっては真逆な辺りそうだとしか思えない。
「えう……」
「なに、どうしたい?まだ舐めたい?」
「ん」
「あはは、頷くなよ」
口から指を抜けば、伏見の涎と俺の体液が混ざったやつが糸を引いた。ぼーっとした顔でそれを眺めた伏見が、ふとこっちを向いて、口を開く。
「……早くしろ」
「偉そうだなあ」
早く、の後にもう数言付けたせてたら、立派な誘い文句になってたのに。王様みたいに言い放ったくせしてもっともっとって訴えてくる顔に、手を伸ばした。


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