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おはなし



女の子に一枚だけ服を着せるとしたら?なんて、俺が言い出したわけじゃなくてテレビでやってたものの丸パクリだ。それでも侮るなかれ、結構性格が出るようで。真面目そうなアナウンサーがこんなマニアックな!みたいな面はもちろん、遊んでそうな見た目の俳優がきっちり着せたい派だったりとかもして、見てて結構面白かった。
ちなみに試しにかなたに聞いてみれば、なんで実の妹にそういうこと聞くの?そもそも女の子に聞いて意味があるの?お兄ちゃんは馬鹿なの?むしろなんで一枚しか服を着せてくれないの?女の子は可愛い服着て彼氏に褒められると嬉しいもんなんだけど?二十年も生きてて何してたの?彼女いたことないの?と散々くどくど叱られて、大変な目にあった。どうもこの話題は女の子には聞いてはいけないらしい。
「というわけなんだけど、小野寺お前、なに着せたい?」
「えー……なんだろうなあ……」
俺も彼女とかあんまいたことないしなあ、と視線を彷徨わせている小野寺に、有馬だったらなにを着せるの、と聞かれて、ほぼ即答。かなたに同じこと聞かれた時には本気でどん引かれたけど、男の小野寺ならそんなに引きやしないだろう。もしかしたら同意してくれるかもしれない。
「エプロン」
「ぶ、っははは!」
「笑うなよ!なんだよ!」
「っふ、だって、はははっ、それ服?エプロンって、お前」
「裸エプロンだぞ!そりゃ一枚だけったら見てみたいだろ!」
「まあ、そっか、一枚だけだもんなあ、一枚ねえ」
一枚だけ、っていうのが案外ネックだ。俺はそんなに見た目にはこだわらないけど、相手に色んなもの着せて剥ぎ取るのが楽しいみたいな人も世の中には存在するわけで。企画物のAVとかにありそうじゃん、痴漢とかコスプレとか、そんなん。
しばらくうんうん唸って考えてた小野寺が、思いついたとばかりにぱっと顔を上げて言った。
「ガーターベルト」
「そっか、ガーター、はあっ!?」
「ん?いやあの、こうさあ、こことここのを留めるやつで」
「いや知ってる!知ってるよそれは!え?お前、なに、えっ?小野寺?」
「なに?」
「……体調良くねえの?」
「えっ……あっ、もしかして今のあんまり良くない?」
「そうだな……お前きっと、なんかと勘違いしてるんだよ……馬鹿だもん……」
「じゃあねえ、ベビードール」
「もう小野寺のことなんて信じない」
「ええっ!?」
とんだど変態だった。意味を正確に理解して言っているらしい辺り、またえぐい。小野寺相手ならどうせ勘違いしてるんだろって流してやれたのに、なんて残酷な世の中だろう。
あれ?こいつこんな奴だったかな?何かおかしなものが乗り移ってるんじゃないかな?なんて疑いたくなるくらいに予想の斜め上を飛んでった返答に、もうこの話は終わりにしようと首を振れば、怪訝そうな顔をされた。その顔俺がしたいやつだから、お前の数百倍はしたいやつだから。
「可愛いんだよお、ベビードール」
「いやベビードールがどんなもんかは知ってるよ……」
「ふわふわのひらひらで、防御力低そうなとことか」
「えっ?ゲームかなんかの話?」
「あっ、ガーターベルト単品でもいいけど、ちゃんと可愛いパンツも履いて欲しい」
「一枚っつったべや」
「可愛いのパンツとお揃いのブラもつけて欲しい」
「大幅オーバーじゃねえか」
「でも捨てがたいなあ……んん……」
「……あの、小野寺。もしも話しだって分かってるよな?」
「ガーターベルトっていくらだと思う?」
「誰に着せるんだよ!ていうかお前相手いんの!?えっ!?」
「えっ、ああ、いや、いない、いないいない」
「嘘だ!絶対嘘だ!いるんだろ!いつの間に作りやがった!」
「いないってば!いな、あ!そう!自分で着るの!自分で!」
「え、えっ……気持ち悪っ……」
「……ごめん……」

「っていう話をな」
「小野寺気色悪いね」
「それ本人に言ってやれよ」
「やだよ、変態には関わりたくないもん」
学校側から呼び出しを受けた弁当を待っている間、ばったり伏見に会ったのでさっき小野寺とした話をしてみた。なかなか戻ってこないところを見ると、弁当は恐らく一人暮らし関係の話をされているんだろう。俺と同じく次の時間は休講になった伏見は、暇そうに携帯弄くりながらくしゃみしてた。俺の話は多分ほとんど耳を通り抜けてる、別にいいよ、お前がそういう奴だなんて知ってるよ。なにしてるのって一応聞いたら、大事なメールしてんの、なんて真面目な声が返ってきたけど、見えてるから。お前が今やってるそのゲーム、俺もやってるから。
ふわふわ欠伸しながら伸びをした伏見が、一枚だけねえ、なんてぼやいた。そういえばこいつのもちょっと気になる、意外と小野寺のこと馬鹿にできなかったりして。答えてくれるかわかんないけど、後で弁当にも聞いてみようかな。
「お前だったらなにするよ」
「んー……あー、ちょっと迷うな」
「迷うんだ」
「うん。あ、でも」
「伏見せんぱーい!」
聞き覚えのある声に振り向けば、階段をぱたぱたと渚が降りてきているところだった。こないだ参考書ありがとうございました、と伏見に向かってにこにこしながらお辞儀して、こいつ俺のこと見えてないな。さっきまでの暇そうな面はどこに消えたのか、猫被り顔全開で話してる伏見も伏見だけど、渚も渚だ。おいこらここにも有馬先輩がいるぞ、と声を掛ければ、一瞬本気できょとんとした表情を浮かべて振り向き、嫌悪丸出しのしかめっ面を披露してくれやがった。
「いたんすか」
「ずっとな!お前、俺の横通って今そこに立ってるんだからな!」
「俺急いでるんですよ、先輩と話したら帰りたいんでほっといてください」
「あっごめん、急いでるとこわざわざ」
「いえ、先輩は良いんすよ。こいつとは話したくないんです」
「なんで伏見だけいいんだよ、俺とも無駄話しろよ」
「なにか用事あるの?」
「はい、タイムサービスが」
「無視か」
「タイムサービス?」
途中から思いっきり背中向けられて話を聞かない体勢に入られたので、わざとにじにじと伏見と渚の隙間に体をねじ込む。嫌そうな顔で俺を退かしにかかる渚の方が伏見より当然背が高いわけだが、そのせいで出来た死角に伏見の蹴りががっつり当たって、思わず悲鳴を上げた。どうかしたの?なんて白々しく心配そうな顔しやがって馬鹿、今しがたお前が蹴った脛が痛いんだ。
引いてるのを隠しもしない渚に、こいつほんとやなやつだから気をつけた方がいいぞ、と忠告すれば何馬鹿なこと言ってんだと冷たく突っぱねられてしまった。聞いても良いかな、と遠慮がちな体を装い手を上げた伏見の方を向いた渚はにっこにこで、はいなんですか先輩、だって。伏見のようにとは言わないけど、あまりに自分に正直な渚には、もう少し偽りの優しさが必要だと思う。
「渚、一人暮らしなの?実家近いでしょ」
「ああ、和葉とルームシェアなんです。そんで、今日彼女呼んで飯食うんで」
「彼女!?」
「あ?んだよ、俺に彼女がいちゃ悪いのかよ」
「渚彼女いるんだ、俺も知らなかったなあ」
「はい、同じ高校の奴です。永野って知ってます?吹奏楽部だったんですけど」
「んー……写真とかある?見覚えあるかもしれないや」
伏見には従順な渚が、待ってくださいね、と携帯を弄り出したのを見て、伏見の様子をこっそり窺ってみる。こいつ、永野さん?って人のこと、絶対知ってるだろ。写真があるか聞く前ちょっと考えたのは、思い出すためでも何でもなく、誤魔化すためだ。渚に見えてないと思って白けた顔してるからよく分かる。可愛い後輩の彼女まで毒牙にかけやがったのかこの悪魔、と伏見を見下ろしていれば、ばちりと目が合って嫌味なくらいの笑顔を向けられた。うええ、こいつよく今まで後ろから刺されずに生きてきたな。
「あっこれです。こっちの、髪が長い方」
「うーん……見たこと、あるようなないような」
「こっちの子は?」
「幼馴染の方の彼女っすよ。そんでこれが和葉、ルームシェアしてるっつったろ」
「あの、渚?何度も言うけど俺も一応伏見側の立場なんだけど?」
「はあ?」
「あ、いえ」
「仁ノ上にも彼女いるんだあ、優しそうな子だね」
「坂川に和葉はもったいないです」
「そっかそっ、ん?あ、ううん、いいや」
今なんかおかしかったな、俺だって分かった。一瞬怪訝そうに固まった伏見は何事もなかったかのように話を続けているから、聞かなかったことにすると決めたようだった。どうやら幼馴染の彼女とこいつはあんまり仲がよろしくないらしい。良くも悪くも素直すぎる節があるよな、こいつ。
今日は金曜なんで四人で飯なんです、と嬉しそうに言う渚に、そういえばと思いさっき小野寺と話していた話題を振ってみる。女の子に服を一枚着せるとしたら、さあ彼女持ちはなんて答えてくれやがるんだ。
「え?一枚?なんすか、それ」
「テレビでやってた。面白いから色んな奴に聞いてみてんの」
「はあ……でも脱がせる過程で一枚になるのに、それじゃダメなんですか?」
「ぎゃあー!」
すごい正論だった、クリティカルヒットだった。それもそうだ、わざわざ一枚着せなくても、脱がせる行程が入ると一枚になる瞬間は必ず来る。なにがおかしいのか分からないと言わんばかりにきょとんとしている渚が急に上の存在に見えて、ふらふらと伏見の背中に隠れる。ちっちゃい背中に中腰で身を隠しながら、俺が汚れてました、と小声で告げれば、けらけら笑った伏見が渚にそのまま伝えてくれた。
「ええ……?」
「一枚だけ着せて、見るとしたら?って考えたらいいんじゃないかな」
「伏見先輩だったらどうします?」
「んー、水着なら一枚だけでもおかしくないよね。可愛いのたくさんあるし」
「うぎゃあー!」
やめてくれ。エプロンとかベビードールとか、ましてや枚数オーバーなのにガーターベルト推したりとか、そんなこんながみんなものすごく汚れたものに思えて来る。そうだ、水着っていう手があったか。上下繋がってるやつなら、それ以外身につけないことが普通のはずだ。伏見からもふらふら離れて壁際で蹲っていると、あんたは一体何考えてたんすか、と渚の引いた声が聞こえて、大分落ち込んだ。そうです、俺が悪いんです、すいませんでした。
そろそろ行かないと本気で肉が買えない、と弁当みたいなこと言った渚が来た時と同じようにぱたぱたと走って行って、笑顔で手を振っていた伏見がこっちを向いた。その嘲笑やめろ、無駄に傷付く。
「何考えてたんすか、有馬先輩」
「やめろ、やめてください……俺が間違ってた……」
「まあ水着なんか着せたってつまんないけどね」
「……お前、ほんとだったらなに着せるって言おうとしてたの?」
「ん?裸ジーパンとか」
「上半身が丸出しじゃねえか」
「下半身は守られてるだろ、上なんか手で隠せよ」
「うわ……それは渚には言えねえわ、あいつ固まっちゃうよ」
「あとは裸に学ランとか?見てみたいかも」
「なに?着込ませたいタイプ?」
「割と」
露出過多よりは一枚分厚いの着てる癖に他の所は全部出てるのが好き、なんてさらりと言い放たれて勢いに押されるがままに頷いた。いいのか、こんなとこで性癖全開にして。
そういえば、と気になっていたさっきの渚の彼女について聞いてみることにした。すると、案の定知り合いで、というかとんでもない爆弾が出てきた。俺はてっきり伏見が自分から色んな奴にちょっかいかけてつまんでるんだと今まで思っていたけど、優しくて誰とでも楽しく話せる外面を被りまくってるこいつが、自分から餌を拾いに行くわけがなかったのだ。よく考えたら伏見が企画して友達集めて、なんて聞いたことないしな。こいついっつも誘われてばっかりで、その癖あちらこちらに引っ張りだこだ。人気者かこの野郎。
「永野、だっけ?俺あいつに告られてる」
「はあ?」
「高校生の時な。目立ってたわけじゃないけど、割とそういうことはあったし」
「えっ、伏見もてもて?」
「もてもて。ほっとんど誰とも付き合わなかったけど」
「なんでさ!」
「だって、みんな俺より可愛くないんだもん」
「クソナルシ……!」
最後の最後に、だもん、と同時にピースで一番可愛い顔決めてくれやがった伏見は、俺もそろそろ行くね、と片手を上げて歩いて行ってしまった。入れ替わりに後ろからとんとんと肩を叩かれて振り返れば、走って来たのかぜはぜは言ってる弁当がいた。だからなんでお前はそんな無茶をするんだ、ただでさえ体力無いんだから無駄に使うな。
伏見行っちゃったの、と息切れ混じりに聞かれて、用があったのかと返せばそんなことはないらしい。一緒に待っててくれたみたいなのにお礼も言えなかった、なんてしょんぼりしながら口に出す弁当を見て、あの悪魔にお礼なんて勿体無いよ、とぼそりと零した。弁当のありがとうで伏見が浄化されるならまだしも、下手したら伏見の瘴気が弁当に移る。そんなことあったら最悪だ。
「あ、明日の課題終わってない」
「……なんで」
「やってないから」
「やりなよ」
「やり方わかんない」
「見てやるから、自分でやるんだよ」
「どこで?図書館さっき閉まってたよ」
「……俺、今お金ないから、どっか入るとかあんまり」
「お前が良ければ弁当んちにしたいけど」
「いいよ」
「今日晩飯なに?」
「和風オムレツ」
「ふわふわにしてね」
「……食うの?」
「今日帰り買い物しないの?」
「するけど」
「その分全部俺が持つよ、課題と晩飯の代わりに」
「えっ」
「今日みんないないからさあ、かなたも土日にかけて親戚ん家行くし」
「そう、なんだ。じゃあいいよ、飯くらい」
「やりい」

「だから、次帰るの夏だって」
『骨折れてんだぞ!見舞いくらい来いや!』
「遠いんだよ。つかあいつ免許取ってすぐのが運転うまかったんじゃないの」
『ん?』
「いっくら転んでも怪我なんかしなかったじゃん、原付だけ電柱にぶつかって」
『あー……じゃあ事故って折れたんじゃないのかもな』
「はあ?他人に教える前にちゃんと事実関係把握しとけよ」
『仕方ねえだろ!あいつ世間話の流れで骨折れた話してすぐ切りやがったんだ!』
「なんで突っ込んで聞かないんだよ」
『てめえで聞けよ』
「いきなり連絡して、なんで骨折れたの?って聞いたらおかしいじゃん」
『とにかく、気になるならてめえで聞いてください』
「夏帰った時にまだ折れてたら見舞い行くよ」
『治ってるよ!』
有馬を連れて買い物行って飯食って課題一通り見て、なんてしてる内にいつも通りうだうだと管を巻き始めたので、とっとと帰れと蹴り出した。別に予定があるわけでもないから泊めても良かったんだけど、居座り癖がついたら困る。ゲームがあって飯食えて寝れる、なんて理由つけて伏見もこのところちょこちょこ来るようになったし、うちを都合のいい溜まり場として認識するの、ほんとにやめてほしい。
とにかく有馬を帰して風呂入ってだらだらしていると、航介から珍しく電話がかかってきた。用事も特にない単なる暇潰しだったんだけど、さくたろが骨折ったの知ってる?なんて投げかけられた質問に、素っ頓狂な声が出た。大怪我ではないみたいだけど肋骨のどっかだって、なんて曖昧な情報を航介から得たものの、まあ気軽に帰れる距離感でもないし、朔太郎のことだから周りの心配を他所にへらへらしてるんだろう。安静にって言われた五秒後に野良猫追っかけて走り出してても驚かない、奴はそういう人間だ。
「そういやお前さあ、俺のゲームまだ持ってるだろ」
『どれ?』
「ゴールデンアイ。実家にもうちにもないから」
『うち64もう無いけど』
「どこやったんだよ、ソフト」
『売ったかなー……それかこっち、に、しまってっ』
がたがたと電話口がうるさい。航介はああいう自分視点のシューティングゲーム好きだから、手放してはいないと思うんだけど。間違って売ったとか捨てたとか言おうものなら、買い戻してもらおう。この前ない事に気づいて買い直そうかと調べた時、プレミアついててすっごく高かったんだ。
がさごそうるさい電話先からの応答が無くてつまらないけど恐らく切ったら怒られるので、適当な話をしながら間でも繋ぐかと口を開く。ぼおっと眺めていたテレビでは最近よく見る俳優が大真面目に女の子の服のことを語っていて、ふとさっき有馬が零した話題を思い出した。
「航介さあ、女の子に服一枚だけ着せるとしたら、なにする」
『んぶっふ、はあ!?お前どうした!?』
「そんな話したんだよ、友達と。結構個性出て面白いんだって」
『当也はなんて答えたんだよ』
「考えてる途中で、やっぱりお前のは聞きたくないから言うなって終わりにされた」
『なんだそれ。変な奴』
「ああ、なんか今テレビでもやってるや。浴衣?この人は浴衣だって」
『着物は下着付けないって聞いたことあるわ。他にはなにがあんの?』
「なんて言ってたかな、エプロンとか、水着とか、ジーパンとか、下着とか」
『……まず何より、お前も友達とそんな話をするんだってことに驚きだな』
「そうかなあ」
『で?お前だったらなにすんの』
「よくわかんないんだって。先に航介教えてよ」
『そんなん知らねえよ、シャツとかでいいんじゃねえの』
「はあ、じゃあそれで」
『お前ずりいぞ!それはなあ!』
「一枚なんて寒いし、体冷えるよ。その上から布団被せてあげないと」
『あっ、あった!これだろ、ゴールデンアイ!』
「おー、やっぱそっちにあったか」
送った方がいいのかと聞かれて、別に今すぐやりたいわけでは、と答えれば深い深い溜息が返ってきた。そんなことなら最初から言うなって、元々探せなんて言ってないじゃないか。どこにあるかが分かれば満足だったのに。
「今度もらう」
『……近々そっち行くから、そん時寄るわ』
「お前、前に来た時散々迷って、もう二度と来るかって言ってたじゃん」
『用が出来たから、お前の家なんてついでに行くだけなんだけど』
「いや別に来なくて良いんだけど」
『じゃあ行かねえよ!なんだよ!ちょっとは受け入れろよ!』
「そんなに来たいなら来ても良いよ」
『あああ腹立つ!行かねえよ!お前に用があるわけじゃねえから!』
「また迷わないように改札まで行ってあげようか」
『いらねえっつの!』

「っていう話を当也としたんだけど、さくたろだったら何着せる?」
『ん?靴下』
「靴下?」
『靴下』
「聞き間違い?」
『一枚だけ着せるんでしょ?靴下一択だよ』
「………………」
『こーすけ?こーうすけー』
「……お前なんで骨折ったの?」
『あっそうだよ、聞いてよ。ベランダから落ちちゃってさあ、着地したのに肋骨が』
「着地!?」
『足は無事だし、意味わかんないよねー』
「お前は……なんか、お前、もう、人やめた方がいいよ」
『安静とか言われたけど、血出てないから平気だと思うんだ』
「血が出てたら駄目だろ?おい、肋骨折れてんだろ?」
『休みもらって暇だから明日は大掃除と模様替えするつもりでね』
「寝てろ!馬鹿!」
『大丈夫だよ、静かに箪笥動かすし』
「やめろ!やめろー!」


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