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おはなし




「……誰、うるせ……」
「有馬アラーム、ごめんかけっぱだった」
 鳴り響く音に体を起こせば、もそもそと手を伸ばした有馬が携帯を弄ってアラームを止めたところだった。座り込んで欠伸を一つ、辺りを見回す。ああ、もう、頭が痛い。
 テレビの前に丸くなって横たわっているでかいのが小野寺で、狭っ苦しそうに机の下に半身突っ込んで縮こまってんのが弁当で、じゃあ俺と有馬はどうだったのかといえば、二人よりは比較的悠々と眠れていたようだった。寝返り打てたし、特に狭くもなかったし。
「お前らいつ寝たの」
「覚えてない……」
「弁当ぐずんなかった?」
「は?」
「寝ながら泣きぐずるんだ、こいつ」
 やっぱ一人暮らしって寂しいのかな、なんて零しながら寄って来る有馬に道を開けながら、確実にお前のせいだと内心で思う。誰のためにもならないので俺からは特に何も言いはしないけど、弁当の眼鏡をかけて一人で何やらばたばたしてる有馬を見てると、なんというかもう、いっそ悲しくなってくる。千晶ちゃんといい弁当といい、普段つるむだけにしたってもうちょっとましな奴がいるだろうに。
小野寺は二三発引っ叩けば起きるけど、弁当は寝起きがあまり良くないので、というか一回寝たらなかなか起きないので、ちょっと声かけてほっとくことになった。幸いつまみみたいなもので良ければ食べ物はあるし、飲み物も何とかならなくもないし。
「伏見、弁当起こして」
「寝かせてやれよ、昨日散々迷惑かけたろ」
「いいから起こしてみろって」
「……なんで。やだ」
 拾った眼鏡を弄りながらにやにやとこっちを見る顔面に空き缶投げて、もう一度横になる。普通に頭痛いし、ていうかなんでこいつこんなテンション高いの、俺まだ全然眠いんだけど。
 でもまあ眠いとはいえ一回目が覚めちゃったら眠れるわけもなく、暇なので取り合えずテレビを付ければそれに反応して小野寺が目を覚ました。もぞもぞと頭を掻く小野寺が邪魔だったので、ちょっとは広い場所へ移動してやろうと思って部屋の出口へと引っ張る。すると案外従順についてきたかと思えば、台所と廊下の隙間の細い通り道に上手く挟まってもう一度寝やがった。そんなつもりでそっちに追いやったんじゃないし、そこにいられると外に出れないんだけど、と吐きながら襟首を引っ掴んで揺さぶれば、這うようにして戻ってきたけれど。
「さっきの、起こしてってなんだったの」
「ん?ああ、前髪」
「……………」
「伏見じゃなくて、弁当寝起き悪いから」
 起き抜けは眼鏡もかけてないから何も見えてないし本人も何したか覚えてすらいないから面白い、と笑う様子に、何となく気になって小野寺をけしかけてみることにした。もごもご何やら言ってる小野寺に、弁当起こして、とだけ告げれば眠たげな眼のまま頷いて。
「べんと、起きろって、伏見が」
「……………」
「おい、なあ、朝だってば、起きろよ」
「……ん」
「起きたー」
「えっ!?前髪引っ張んのやんねえの!?」
「……なんで有馬弁当の眼鏡かけてんの?」
 欠伸混じりに零した小野寺につられて、そういえば眼鏡返してやれば、と有馬に告げる。のろのろと体を起こす弁当を横目に、でも眼鏡かっこいいから、とかなんとか言ってる有馬を蹴る。なんも見えないってさっき自分も言ってたじゃないか、返してやれよ。
 辺りを見回している弁当に、有馬の頭を引っ掴んで眼鏡はここだと差し出してやると、分かっているのかいないのか、がっつりアイアンクローをきめてから眼鏡を取って、また机に突っ伏した。見えていない、分かっていない、ってこういうことか。
「……弁当握力そんなにあんの?有馬痛がってるけど」
「成人した男の平均位はあるだろ……」
「いてえよ!なんならやられてみりゃいいだろ!」
「俺も握力あるよ、左のが強い」
「なに、なんで?な、いだだだだ」
「伏見のそれは弓持つからじゃん、俺もやらして」
「お前ずるい、身長も筋肉もあって」
「なんでお前ら俺で試すんだよ!もう真っ赤だよ!」
「血が通ってる証拠だ」
「やったね有馬」
「起きろよ弁当!お前しか味方いねえんだけど!」
「そっとしとけよ、また締め上げられんぞ」
「マゾだから」
「ああ……」
「ああ!?」
「もう有馬うるさい、弁当起きちゃう」
「昨日早々に一人だけ寝やがったから元気なんだろ」
「弁当起きて!俺をここに一人にしないで!」
「なんか嫌われてるみたいだよ俺達」
「酷いなあ、今まで仲良くできてたと思ってたのにな」
「もうやだ起きてほんとお願い起きて」



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