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みじかいまとめ



「なんにしよっかなあ」
「肉が2枚入ってるやつのセットのポテトがでっかいやつ」
「はやあ」
「ボーカルくんなんにすんの」
「ぎたちゃんポテトちょっとちょうだいよ」
「えー……ボーカルくんのちょっとあんまちょっとじゃないんだもん……」
「ナゲットあげるから」
「いいよ」
「俺チキンのやつにしよー」
ぎたちゃんと二人でお昼ご飯食べに来た。どらちゃんが曲作ってくれたからスタジオとってある時間より少し早めに集まって話してて、お昼ご飯食べてからスタジオ行こーってなったのに、どらちゃんは突然どっか消えたし、べーやんはお腹痛いからご飯いらないって。だから二人でハンバーガー屋さんだ。なににしよっかーって歩きながら話したんだけど、定食屋?あんま気分じゃない、カレー?昨日食べた、パン?腹にたまんない、ラーメン?いっつもそれじゃん、みたいな感じで珍しく全然決まんなくて、そんで駅まで戻ってきちゃったからハンバーガーになった。昔に比べたら高くなったなあ、とぼんやり思いながら注文する。それなりに人のいる店の中で適当な空いてる席を見つけて、ストローの袋を千切りながら話す。ぎたたゃんはもう食べ始めてた。早えよ。
「そいえばこないだべーやんとさあ、電車で座れないって話してて」
「んむ」
「ぎたちゃん座る?」
「えー。つかれてたら」
「だよねえ。俺もそうなんだけど、それかめーっちゃ席ガラガラだったら座る」
「ナゲットちょうだい」
「いいよ。そんでさあ、べーやんは空いてても座れないんだって。なんか座って怒られたらどうしようって思うってゆってたけど、誰が怒んの?」
「……車掌さんとか」
「車掌さんて怒んの?」
「間違えたイスに座ってたら違うよって言うでしょ」
「それは指定席のときじゃないの。ほら、新幹線とか」
「あー。じゃあわかんない」
「でも譲ったげよって声かけたらフツーに断られることとかもあっからべーやんはそれが嫌なのかもしれん」
「いやかなあ」
「やなんじゃない?俺もちょっとはやだよ」
「ラッキーじゃん」
「……確かに」
「んね」
「ねえポテトどんぐらいもらっていい?」
「んーとね」
「いや少な。ケチ」
「んははは」
ちびっちゃいの二本しかポテトくれなかった。一口で食べ終わっちゃうじゃん。笑ってるぎたちゃんが、もうちょいね、とがさがさ紙の上に増やしてくれた。あんがと。
時間帯のせいなのか、場所のせいなのか、学生が多い。ハンバーガー食べながら、俺も高校生の時はああやってさあ…と懐かしんでいたら、にこにこしてるぎたちゃんに「えー。じじくさ」ってバッサリ言われた。そんな酷いこと言わなくてもいくない?ていうかそもそも俺もぎたちゃんもそんな変わんなくない?
「え?ちがうしょ」
「じゃあもっと若々しいこと言うけど俺がもし女子高校生だったらさあ!」
「んはははは、もっとダメ」
「うるさい!女子高に通ってたとしたらだよ!」
「ボーカルくん女の子だったの?」
「そうだよ!」
「あっはははは」
ばしんばしん机を叩きながらぎたちゃんが突っ伏して大笑いし出したので、それに負けないように声を出す。全然真剣に聞いてくんないじゃん。こっちは真面目に話してんのに!
「そしたら俺は他校の彼氏と制服デートするし、アイス二人で分けっこしながら食べたりするし、ポテトも彼氏のから勝手につまんで食べたりするし、それでも彼氏は怒らないのだって俺のこと大好きだから!」
「あはっ、あー、んん、ふ、ははっ、し、しぬ」
「ハンバーガー食べながらノート広げてテストだるいよねとか言うの!」
「んんふふふ……」
「ぎたちゃん時もそうだったでしょお!?」
「ふは、っんぇ、えー……ふふ……ど……っふは、ははっ」
「笑ってないでさあ!」
「ど、……ふふ、どうだった、かなあ……」
まだぷるぷるしてやがる。テストだるいよね的なのはあったかなあ、と笑い声のまま零されて、そういうことをしたいんだよ俺は!と叫んだ。今はもうできないでしょ。だって学生じゃないし。もっと言ったら女子高生じゃないからね、俺。同学年のサッカー部とかの彼氏いないから。
「ぎたちゃん高校生の時彼氏いた?」
「いないかな」
「あっちげえわ、彼女いた?」
「いた」
「どんな子だった?」
「どんなて、普通の……女の子だった」
「えーいいじゃん」
「バイト先の人とか」
「えー!いいじゃん!」
「ボーカルくんこおゆう話好きだよね……」
若干呆れを含んだ、ちょっと笑う声で言われた。好きだよ。何が悪いんだ、こういう話みんな好きでしょ。どらちゃんだって俺がフラれる話めちゃくちゃ好きじゃん。俺が傷ついてるからウケてるんだとは多少察しはじめているけれど、俺はどらちゃんも恋バナが好きだから楽しんでくれてるんだと思い込むことにしてるよ。頬杖をついてちゃんと話す体勢をとれば、ぎたちゃんはもう食べ終わったゴミをまとめていた。いやちゃんと聞いてよ。
「チューした?」
「うん」
「うふふ」
「あんねボーカルくん。気持ち悪いよ」
「うん……でも俺は楽しい……」
「シェイク飲みたいから買ってきていい?」
「俺も飲みたあい」
「なにあじ、あ!」
「ん?」
「来週からポテト割引になってる……全部のサイズが……来週から……!」
「来週もまた来たら?」
「今週はシェイク!」
スマホを見ながらめちゃくちゃショックを受けたぎたちゃんがレジに走って行った。いやまだ俺何味のシェイクがいいか言ってないんだけど。まあいっか。チョコかバニラかいちごとかでしょ。どれでもおいしいからまあいっかなーってスマホいじりながら待ってたら、隣に誰か立った。ぎたちゃんかな?
「あっ、あ、あの!」
「……はい?」
超女子高生じゃん。どっからどう見ても女子高生だ。リュックを背負っている。返事しちゃったけど俺じゃなくて間違いだろうなと思って周りを見回したけど、まっすぐこっちを見られてるしどう見ても俺だった。なんで。普通に困ってレジの方向を振り向いたんだけど、シェイクを買ってるはずのぎたちゃんは見えない。えー、俺じゃありませんように。どらちゃんにはなりたくない。
「あのっ、あ、我妻諒太、さんですよねっ」
「はい!えっ?なんで?」
「……わああ……っ」
嬉しそうに両手を口の前で合わせた女子高生に、どうしていいか分からず中途半端に立ち上がったまま手を宙にうろうろする。なんで俺の名前知ってるの。なんでなんか、感動した〜!みたいな感じなの。俺もしかして有名人?
「あの!おにっ、兄がファンで、あの、私も好きです!えあ、ライブはまだ行っちゃダメってお母さんが言うんですけど、あの」
「……あ!ありがとう!」
「いつか絶対行きます!」
俺有名人だったわ。恥ずかしそうにぺこぺこと頭を下げながら、制服のスカートで拭いた手を差し出されて、握手した。嬉しそうににこにこしながら早足で立ち去った先には多分お友達なんだろうなって子が待ってて、二人でじゃれあいながら店を出て行った。握手求められちゃった。女子高生に。固定のファンもついたし、ある程度認知されてるとは思ってたけど、目の前でああやってされると嬉しいな。繋いだ手を見ていると、ぎたちゃんが戻ってきた。
「どしたん」
「……女子高生に握手された」
「なんで」
「バンドのファンだって」
「えー、すげ。うれし」
「ね!」
「はいシェイク。バニラでいかった?」
「あんがとー。え?でかくない?」
「だって全部のサイズで安いから」
でっかい方がお得でしょ、と手渡されたLサイズの紙コップに、まあそうだけどね?と返した。

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