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台詞


「なんかさあ、昔のお笑い芸人さんって美味しくないもの食べさせられたり痛いことされたりしてたけど、最近はしないよね」
「みちぴー、辛いこれ食べてえ」
「今町田くんと喋ってるから育くん静かにして」
「ひど!差別!」
横峯くんにでも食べてもらってくれ。今日のパン米会は、横峯くん育くん町田くん星川くん俺でお送りします。星川くんは町田くんがいない時あんま来ないからなあ。ストレートに忙しいってのもあるだろうけど、「あんまり邪魔しちゃいけないと思って」と言ってるのも聞いた。いやいや。星川淀で邪魔になるなら俺はなんなんだ。いまだに我に帰るとこの場にいるのがどう考えても身分違いで恥ずかしくなるんだからやめてほしい。
「ね。今のお笑い芸人さんと昔のお笑い芸人さんって違うよね」
「んー、コンプラとか厳しくなったし……そもそも、みんながそれを面白がらなくなったからじゃないかな」
「かわいそう感が強いのかなあ。俺実際いた芸人さんの映画やるの。それは時代が古いから、なんか違うなーって思った」
「ていうか痛いのはこっちも嫌だし」
「そりゃそう。なんで昔はオッケーだったんだろね」
時代ですかね、と頬杖をついて考えている町田くんの向こう側に、こくこくと船を漕ぎ出した星川くんが見える。かわいい。小動物みたい。
町田くんがそんな話題を切り出してきたのはやっぱり役作りのためみたいで、舞台に立ってる時はなに考えてる?とか、一番主軸に置くべきものはなんなの?とか、いろいろ聞かれた。人それぞれだと思うけど、と前置きして答えたけれど、真剣な顔で聞いてくれるからこっちも熱が入ってしまった。
「……………」
「……………」
「続けて」
「……………」
「……………」
「ねえ。続けてよお」
結果、好奇心旺盛な子どもの興味を惹いてしまい、遊びの場で真面目に話していた自分が恥ずかしくなっている大人が二人出来上がった。頬杖をついたままこっちを見てくる育くんに、もう話は終わったよ…と小さく町田くんが言っているのだが、え!?とでかい声で聞き返されている。町田侑哉の恥ずかしがってるとこ超見たいんだけど俺も恥ずかしいからそっちを見れない。
「俺も混ぜてよお!」
「無理」
「それは嫌」
「なあんで!俺も演技の話とかしたい!難しい話したい!」
「育くん難しい話したら眠くなるでしょ」
「なんない!」
「いっぱいの数字苦手じゃん」
「そ……それは確かに苦手だけどさあ……!」
「お肉食べてな」
「でもゆーやくんも勉強はできないよね!ねえ!?」
「で、でっかい声でそういうこと言わないで」
「育くんよりはできるよ」
「そんなことない!」
「い、育よりはできるよ」
「声震えてるよ!」
俺は一応自分で言うのもなんだが、コンビ結成して割と初期の頃、石田に「は!?お前クソ真面目なのに大学出てないの!?ハアーッ使えねえ!」と吐き捨てられたのに結構ショックを受けて、いろんな検定を受けまくった時期があったので、知識ならある。TOEICとか。数検英検漢検とか。一度インストールしておくと、まあ便利ではある。それがコンビでなく一人で回す時の今の仕事にも有利に働いているところはあるんだし。
で、だ。育くんはまあ典型的な勉強できないタイプ。漢字がダメな相方に比べると、日常生活で困ることはなさそうだが、30%オフのシールが貼られてると難しい顔になる。とにかく数字に弱い。難しい割り算は無理。町田くんはテレビで見る限り、一般的な常識や知識は備わっているのだろうが、変なところで抜けているタイプ。多分筆記試験だったらケアレスミスが多いんだろう。残念と言うか、惜しいというか。星川くんは分からん。でも作詞とかするんだから語彙力はあるんだろうな。英語も多少できないと難しいんじゃなかろうか。ちなみに今は、うとうとしてたのが町田くんに叩き起こされて、眉根を寄せている。そんで多分この中で一番学力面がヤバい人が全くこっちの話を聞かずにスマホ弄りながらパン食べてる。なに見てるの?
「ん。ねこ」
「あー今流行ってるやつ」
「知ってる?ゆうやけくん。ねこを見ると、いやされる」
「なにを鼻高々言ってるの?」
「なぜならねこはかわいいから」
「人間二年目?」
横峯くん九九やばいんだよな……突然言うと二秒ぐらい固まってから、一応正解は提出してくれる。秋さんが雑誌かなんかで言ってたのを石田が発見してバカ笑いしながら教えてくれた。なんだろう。脳の切り替えに時間を要するのだろうか。ちなみにお金の計算はめっちゃ早い。バイト歴が長かったからだ、とは本人談だ。そして漢字も読めないし英語も読めない。我妻くんもやばかったけど、これも大概だと思う。ちゃんと大人やってるところも含めて。
「横峯くん。7×4」
「ななのだん……」
「嫌そうな顔しない」
「え?悠頭悪いの?」
「悪いよ。えーと、35から7引けばいいんでしょ」
「なにそのややこしいやり方」
「7の段は苦手だから、他の段から連れてくることにしてる」
「ねえ悠絶対俺より頭悪いよ!」
「……でも横峯さんのほうがたまより人として優れている」
「は?淀なんでそういうこと言うかな。歯折るよ」
「環生は高校の時テストで赤点取って補習でも合格できなくて単位を落としたことがありますよ」
「赤点って何点?」
「……………」
「……………」
恐らくは横峯くんを上げて町田くんを落としたかったのだろう星川くんの複雑そうな顔と目が合ってしまった。うん。俺も今ちょっとゾッとしたよ。

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