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台詞


「新城さんて付き合い悪いじゃないですか」
「まあね」
「認めるところがタチ悪いですよね……」
素直に頷いた相手にこちらも素直に言えば、なぜか照れられた。褒めてない。
新城さんに呼ばれたから来たら、中原さんが台所に立ってた。どうやらカレーを作っているらしい。せっかくだから食べさせてあげようと思って呼んだんだよ、と肩にかかった手の圧が強かったので、ああ多分新城さんは全然俺のこととか呼びたくなくて一人で全部平らげるつもりだったのに中原さんがなんか余計な、量が多くできちゃうから町田も呼んでみんなで食べたらいいとか、そういうこと言ったんだろうな…と思った。おそらく当たっている。
「中原さんて家事するんですね」
「元々できるよ。生活能力あるもん、俺が退化させただけで」
「なんでカレー?」
「さあ。テレビでレシピ見たって言ってた。やりたくなったんじゃない?」
「あ!だから、付き合い悪いじゃないですか、新城さん。好きだって言ったもののお店に打ち上げとか誘っても来てくんないって俺にクレーム来たんですけど」
「でも俺好きなものとかないし」
「当たり障りなく好きなもの言うじゃないですか!適当に!」
「あー。相手に合わせては言うけど……そんなの忘れちゃうよ」
「あんたと距離詰めたい相手は覚えてるんですよ。適当言わないで正直に、好きな食べ物は無いし外食はしないって断ってください」
「好きな食べ物あるよ。中原くんのカレー♡」
「……………」
「ガン無視じゃないすか」
「聞こえてないだけだよ」
絶対聞こえてるけど無視されている。ちゃんと手でハートマークまで作ってウインクしてるのがオール無視だとちょっとウケる。絶対聞こえてんのに。ていうか中原さんのカレーほんとに美味しいのかな。料理作れるって話は聞いたことあるけど、失敗したとも聞いたことある。まあ新城さんがいるからうまくリカバリーしてくれるんだろうな。多分。
「そういや町田くん痩せた?」
「はい。えっ?なんで分かるんすか?キモ」
「見りゃ分かるよ……」
「誰にも言われたことないのに……」
「えー?言わないだけでしょ?」
「見た目変わったら言われますよ!すぐ!そもそも見た目変わんないように体重落としてんのに!」
「見た目変わってるんだもん……ほら、星川くんとかに言われないの?仲良しでしょ」
「淀は太ったのはすぐ言うけど痩せたのは言わないんですよ。性格が悪いから」
「なんで体重?」
「あー、最初に主演やった戦隊シリーズのアニバーサリードラマやることになってて」
「へえ。君が出るってなったら盛り上がったでしょ」
「俺だけじゃないすよ。みんな集まってくれたから、有難い話ですし」
「それで痩せようって?」
「んー。ちょっとでも見た目近い方がいいかなってのと、アクションあるんで肉落としたいのと」
「顔大人びちゃったからなー、この数年で。数年後の話に脚本家さんがしてくれたりするんじゃない」
「え?俺大人びました?」
「最初にうち来た時よりは確実に。ねえ?中原くん」
「中原さん俺大人になりましたあ?」
ガン無視だった。どんだけ集中してるんだよ。ねええ?と覗きに行った新城さんがすぐ帰ってきて、たまねぎと戦っていた…と真剣な顔で教えてくれた。そうですか。
「新城さんテレビつけて」
「俺と楽しいおしゃべりをしようっていう気持ちはないわけ?」
「暇だからつけて」
「俺がいるのに?」
「つけて!」
「はいはい」
「あー、うまそー」
ちょうどやってた夕方時のニュースを流し見する。報道番組って言うけど、うまいメシのことは報道となんにも関係ないよな。でもかわいい動物のニュースとかは見る。癒されるので。
でっかいカツ丼、うまそーっつった俺とは違って新城さんは「もうこれ食べれるほど若くないわ…」と苦い顔をしていた。可哀想に。中原さんは食べれそうだけど。揚げ物好きだしお肉好きだから。
「中原くんはさー、食生活に気を遣わなくてもいいから」
「同い年でしょ」
「でも俺が管理してるもん」
「束縛癖」
「違います。管理栄養士です」
「資格持ってんすか?」
「資格は持ってない。めんどかったから、勉強して終わった」
「勉強した時点で束縛とかいうレベルじゃないんだよなあ……」
「自分のためにもなるしさー。おいしくて栄養価も高くて健康になるならそれがいくない?」
「いい」
「だからコンビニ飯は程々にした方がいいと思う。カロリーとか栄養価とか……考えてないでしょ?それで痩せれるのって正直摂取してる量と動いて消費してる量の比率を弄ってるだけだよね。健康的な体の作り方っていうのは」
「え?説教すか?ウザ」
「町田くん最近ちょっと思春期の女の子みたいだよね」
「可愛いでしょ」
「ううん。イラつく」
「わはは」
せめて笑って言えよ。真顔で言うと怖いだろうが。新城さんはそもそもなに考えてるかわかんなくて怖いんだから、それを自覚して振る舞ってほしい。
とか思ってたら、エンタメコーナーにテレビが移った。完成披露試写会、と切り替わった画面に、隣に座ってる人が大写しで出てきたので、笑いながら肩を叩いてしまった。
「うわははは」
「え?俺顔死んでない?」
「メディアの前だとあんたいつもこうですよ」
「カメラマンが全員中原くんだったらもっと笑顔になれるのに……」
「そんな顔放送できるわけないでしょうが」
「そーお?」
世界一イケメンの自信がある…と新城さんは顎の下に手を当てて考え込んでいるけれど、中原さんに向いている時のでれんでれんの顔を自分で鏡でよーく見てほしい。ヤバいから。
新城さんがやる役は、なんていうか、一歩猟奇的な面を秘めているものが多い。一筋縄で行かなさそうというか。真っ暗な道で街灯にぽつんと照らされた地面。車の音もしない深夜に誰かが何かを引きずる音。日の出ている内よりは月が出ている内。そういう感じだ。今回のもそうで、今も予告編が流れているけれど、一番最後のカットは頭を鈍器でぶん殴られて首が傾いでいる新城さんが髪の隙間から真っ暗な目を向けながら、「あのこにさわるな」と唇も動かさず吐くシーンだ。刺さる人には絶対に刺さるし、逆に言えば見ない人は死んでも見ないだろう。それでも売れるし、新城出流でないとダメだって作品が軒並み連ねているのだから、役者としてはすごいと思う。今はあんまりすごくない。俺が黙っているのを良いことに布面積が少ない下着の話をべらべらしないで欲しい。好き放題やるなよ、大人だろ。
「だからね履かせるならやっぱり質感っていうか着心地みたいなものにも気を使うべきだと思うの俺は。自分だったらどうかなって考えて買わなきゃいけないし作る側もこれ自分が履いたらどうかなって思うべきだと思うの」
「新城さんって女性用下着がデイリーユースなんですか?」
「中原くんじゃないんだから何言ってんのそんなわけないじゃん、紐のほどきやすさも素材次第で弄れると思うんだよね、いや絡まっちゃって脱げなくてもそれはそれで結構いいんだけど」
「怖。止まんないのかよ」
テレビの中の新城さんは、この役を任せていただけたことが光栄です、新しい引き出しができました、と薄く笑いながらマイクを握っているが、どうせ中原さんのことを考えながら演じているんだろう。目がキマっちゃってるときはいつもそうだから。
「イかれてますね」
「町田くん程では」
「いやいや」
「いやいやいや」

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