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台詞



「……………」
「どしたの」
「……はい」
「なに?」
なんかどらちゃんから細かい字がいっぱい書いてある紙を渡された。全く読む気もしなかったし読める気もしなかったから、とりあえず受け取ってそのまま突き返せば、目を通せよ…と嫌そうな顔をされた。いや無理でしょ。俺にこんなの読めるわけないじゃん。
「努力くらいしろよ」
「なんか急にいっぱい字見たから眠たくなっちゃった……」
「脳どうなってんの?」
「日本語?」
「日本語」
「なに書いてあった?」
「次のライブのグッズの……」
「なに書いてるの?」
「うん」
喋ってる途中から、どらちゃんが紙の裏に何か書き始めた。よく喋りながら違うこと書けるなあ。俺無理だよ。喋ってることにつられて書くか、書いてることにつられて喋る。つらつらと書かれた漢字がいっぱいのそれを渡されて、受け取って返せば、また渡された。
「一回受け取るの何」
「だって渡してくれるから。もらってあげないと悲しいでしょ」
「良い奴かよ、ありがとう。受け取れ」
「なに?」
「漢字テスト」
「えっ」
「読み。多分小学生編」
「……自信なあい……」
「ギターくんは多分無理」
「じゃあ俺も無理だよ」
「ヒントあり。頑張って」
「ご褒美は?」
「……最後まで出来なかったら罰を与える」
「ご褒美っつってんのに」
「じゃあ全部解けたら俺のこと好きにして良いよ」
「それ女の子に言うやつじゃないの?」
どらちゃんの、綺麗とは言い難い字に目を落とす。読めそうで読めねえ。あ、字が汚いからって意味じゃなくて。使ってある字は簡単なんだけどな、でもヒントありって言ってたし頑張ってみるか。いくら自他共に認める馬鹿とはいえ、小学生の漢字が読めないって言うのも問題だと思うし。どらちゃんをちらちら見ながら声に出してみる。
「いちにち、せん……?」
「最後だけヒントちょうだいみたいな顔してるとこ悪いけど、最初から違うから」
「えっ!?ワン!?」
「漢字に英語の読みがつくわけないだろうが!」
「怒ったあ!」
「これは俺が正しい。誰が何と言おうとも」
「いちじゃなければなに?」
「いちは合ってる。あー、うーん、最初からって言ったからか……ここが違う」
「にち」
「にちじゃない」
「ひ」
「ひじゃない」
「わかんない」
「……………」
残念ながら、可哀想なものを見る目は慣れている。兄に勉強を教えてもらっている時も、妹に勉強を教えてもらっている時も、その顔をされたからだ。後者がおかしいことには突っ込まないでほしい。
どこが難しい?と聞かれたので、指をチョキにして二番目と四番目の文字を指さしたら、その示し方がもう…って言われた。なんでや。二つあるんだから二ついっぺんの方が分かりやすいじゃん。
「いちじつせんしゅう。一日を千年のような長さに感じるほど待ち望んでいること」
「ああー!しゅうは分かった!」
「じつは?」
「意味わかんない」
「じゃあ次」
「これはねえ、読めるよ。いっきとうせん」
「なんで分かんの」
「マンガで読んだ」
「意味は?」
「はえ?」
「意味」
「……めーちゃ強い……」
「惜しい」
「惜しいんだ!?」
「あと一歩」
「めっちゃ強くてすごい!」
「微妙。漢字をもう少し見て考えて」
「……?」
「なんかごめん」
謝られた。いいけどさ。ちなみに「一人なのに千人分の力があること」だって。ほぼ正解じゃん俺。それは丸にしてくれてもいくない?臨機応変にしてほしい。
「次」
「りゅう」
「はい」
「あたま」
「違う」
「へび」
「違う」
「しっぽ」
「違う」
「四分の一合ってたらもう正解ってことにしない?」
「まずこれはしっぽとは読まない」
「ええ?」
とんとん、と最後の文字を指さされて、でもしっぽって意味じゃん…って悪足掻きしておいた。尻尾はこう書く、と横に書き足されたけれど、同じ漢字入ってるからいいじゃんか。
「あたま」はこれ以外の読み方がある気がしない。「へび」も。しっぽのやつはあれだな、「お」みたいな読み方あったよね。そう少しずつ詰めていったのにどらちゃんから返ってきたのは「ある。違うけど」だったからもうやる気が無くなった。
「俺髪の毛切りたくってえ」
「違う話するな」
「短くしたい。バリカンでやってもらうくらい」
「これは、りゅうとうだび。竜のような勢いが失速して蛇のように尻すぼみになることを言う。今の飽きてサボろうとしてるボーカルくんのことを指す」
「俺最初から乗り気じゃなかったよね」
「うるさい」
「はい」

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