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台詞



「そいえば朔太郎なんか話あるって言ってなかった?」
「ん?」
「マジカルバナナしようぜ」
「バナナといったらおさるさん」
「猿と言ったら瀧川」
「俺と言ったらイケメン!」
「イケメンといったらさくちゃん」
「おい朔太郎お前、俺のイケメン取るなよ」
「瀧川イコールおさるさんなんだからイケメンとは結びつかないでしょうが」
「イケメンの猿だっているだろうが!」
「あー、ちょっと前にいたかも。イケメンゴリラとかって」
「ほらな」
「いいの?猿基準のイケメンで」
「猿だって大きく分けりゃ人間だろ」
違う。そう突っ込むのも面倒で、目の前にあったきゅうりの梅おかか和えをつまむ。瀧川よりは朔太郎の方が世間的に見て「イケメン」なんだろうし、朔太郎より都築の方がそうなんだろうが、ここで首を突っ込むと長いし面倒臭い。ぱり、と噛み砕いて飲み込むと、何か食べる?と都築からメニューを渡された。
「いい」
「お腹空いてんじゃないの」
「……いい」
「あ!あのねえ都築聞いてよ、航介太ったんだよお」
「えー?筋肉でしょ」
「ぷーぷぷ、ダイエットしてるんだって、食べる量減らすんだってさ」
「航介食べる量減らすのはやめなー。動けなくなったら仕事できなくて困んの自分でしょ」
「別に減らしてない」
「そー?そんじゃ食べてくれるよね」
サービスのお茶漬けおにぎりです、と突き出された茶碗には結構でかめのおにぎりが入っていて、急須もたっぷたぷだった。中身は何だろうか、と割ってみれば鮭で、ちょっと得した気分になる。さっき梅食べてたから、梅干しよりは鮭がいい。お茶が入っていると思って傾けた急須からは、なんだろう、だし汁?が出てきたので、また得した気分になった。食べる寸前、瀧川と喋っている都築が手を止めないまま、俺の茶碗にぱっぱと生姜の千切りを入れた。何で今日こんなサービスいいんだ。怖い。朔太郎がぼそぼそと「太らせて食べるつもりなんだよ」と訳の分からないことをほざいているので無視した。無視されたのが納得いかなかったらしい朔太郎が、ばしばし俺の背中を叩きながら言う。
「あーあ。4歳の航介なら今ので大泣きだったのになーあ。かっわいくなあい」
「……………」
「すげえ。人間の顔ってあんなに「イラついてます」って分かることあるんだ」
「態度に出てないからね。顔だけだから」
「俺航介は時代が違ったら絶対典型的なヤンキーだったと思うんだよ」
「短ラン着るとか」
「そう。なんかあの不思議な形のズボン履くとか」
「わはは」
「……………」
「……………」
「……怒ってなあい?」
「……聞くなら言うなよ……」
呆れてものも言えない。都築が、そういえば朔太郎なんか話あるって、と目を向けた時には朔太郎はもぬけの殻だったし、当人は座敷席の方でカラオケやってるおっさんたちに混じってた。なんで瞬時に馴染むかな。じとりとその様子を睨んだ都築が、目を離さないまま言った。
「……航介なんか歌ってよ」
「嫌だ」
「なんで。俺の言うこと聞いてよ」
「嫌だ」
「俺誕生日なのに?」
「え?都築誕生日なの?ァハッピバースデ〜」
「うざいうざい瀧川下手くそ」
「ディ〜ア、た〜ちゃ〜あんん」
「うるさい!」
「お前誕生日じゃないだろ」
「そうだよ!えっ?航介俺の誕生日知ってくれてるの……?」
「正確には覚えてない。今日じゃないことは知ってる」
「チッ」
「じゃあ俺は?俺の誕生日は?航介、俺」
「……………」
「今思い出し中?ヒント、瀧川」
「苗字のどこがヒントになるのさ、瀧川家全員誕生日一緒なの?」
「んなわけねーだろどんな奇跡だよ」
「いい汗かいた……」
「あ。朔太郎、ねえ話って何?」
朔太郎が帰ってきた。見る限りでは、おっさんたちからマイクを奪って歌い、奪い返されて飛びつき、また奪い、最終的には歌うどころではなさそうだった。この場合に指すいい汗というのは、歌うことに対してではなく取っ組み合いに対してなのかもしれない。
「ポテト食べたい」
「もおおー……」
「ここいっつも言ったもんなんでも出てくるけど異常だよな」
「なんでも出てくるの?」
「なんでもは無理かなあ……ポテトは出せるけど」
「俺あれ食べたい。えーとね、えーと、マーラーカオ」
「なんそれ」
「なんかこないだ出張で、職場のみんなでご飯行った時食べてー、おいしかったの。ふあふあのやつ」
「甘いの?しょっぱい?」
「大半は甘い」
「形は?」
「俺が食べたのは四角かったけど、お土産のとこにあったのはちっちゃい丸だった」
「大きさは?」
「こんぐらい」
「色は?」
「茶色かったー」
「調べりゃいいのに。アキネイターかよ」
むむむ…と頭を抱えて考えている都築には悪いが、瀧川の言う通り、確かにそう思う。なのでこっちは調べた。へーえ中華蒸しパンだってうまそう、と横から覗き込んできた瀧川が声を上げる。朔太郎の言う特徴には合ってる。茶色くて丸くてふわふわ。
「俺チーズケーキの蒸しパンが好き。北海道が書いてあるやつ」
「あー。うまい。分かる」
「女の子の気持ちになって食べるんだ」
「気持ち悪」
「は!?分かれよ!」
「分かるかよ……」
「ねえ航介助けて!朔太郎が言う料理いくら想像しても最後ばっちくなっちゃう!」
「さっき答え合わせしてたの聞いてなかったのか」
「都築の想像力がダメなだけだよ」
「いいのか?そんなこと言って。ポテトをあげないぞ」
「都築様」
「愚鈍な我々にお恵みを」
「ケチャップは?」
「いる」
「いらない」
「喧嘩だな」
「よし。目潰し金的ありルールで行こう」
「んなわけねえだろしっかりしろ」

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