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おはなし




当也は変だ。って言っても、航介ぐらいしか賛同してくれないんだけど。大体返ってくるのは「お前のほうが変だろ」なので、そりゃ俺も変かもしれないけど当也も大概おかしいんだよ!と弁解することになり、結局のところ俺が変ということで話が終わる。俺のことはいいんですけど。弁財天当也は結構変なところで変だって話をしたいんですけど。聞いてくれます?
中学生。俺がこっちに引っ越してきて、いろいろあった時。当也は別になんにも言わなかったし、俺が当也の部屋に四六時中いても気にもしなかったし、時々口出してくるかと思ったら「それ俺のおやつなんだけど」とかなので、まあ一緒にいて気は楽だった。航介はやいやい言うからな。そんで高校生になって、細かくどの話がいつ起きたこととか覚えてないんだけど、とりあえず全体的に大人よりもキュートなサイズ感のさくちゃんの頃だったと思っていただきたい。今でもキュートなんだけどね。困っちゃう。とどまるところを知らない。ちなみによく自己肯定感高いとか言われるけどふざけて言ってるだけで当然ながら別にそこまで本気で思ってないからね。伏見くんじゃないんだから。伏見くんみたいな顔だったらそりゃ自分が可愛いのは当たり前だしそもそも伏見くんは可愛いんだからしょうがないよ。ねえ?話が脱線してるよね。戻る。

『あいたた……困ったなあ……』
『おい!なにしてんだよ?』
『きゃっ!な、なんでもない!』
暇そうにテレビを見ていたやちよの前に座ったらお菓子が出てきたので、同じく暇を持て余していた身としてはありがたくいただき、一緒にテレビを見ていたのだ。なんか多分、小学生向けのアニメとかなんだと思う。部活っぽいのをやってた主人公っぽい女の子が足を捻って、そこに主人公の好きな人っぽい男の子がタイミングよく現れたところ。確証はない。だって今初めて見たし。どうも学校の外周を走っているみたいで、周りに人はいない。なぜそんなことをしているのだろうか。そしてこの人はなんの部活に入っているのだろうか。普通にそっちが気になってしまったけれど、その説明はされないまま話が進んだ。
『転んだのか?』
『だ、大丈夫、このくらい……』
『ほら。手』
『〜〜〜っ!』
優しく手を差し伸べた男の子に、真っ赤になった女の子が首を横に振っている。いや立たせてもらえばいいじゃない。顧問の先生を呼んだほうがいいよ。心の底からそう思ったので、先生を呼んだほうが良いよねえ?とやちよに問いかけたのだが、さくちゃんはロマンスが分かっていない…と指でちっちってされた。だって怪我してるんだよ。危ないよ。俺だったらでっかい声で先生を呼ぶ。もうでっかいでっかい声を出す。耳キーンするぐらい。とか一人で思っていたら、画面の中では男の子が女の子をお姫様抱っこしていた。
『きゃあ!なにするのよ!』
『じっとしてろ。保健室まで運んでやるから』
「ええー!?これは違うでしょお!できないでしょ!」
「もう!さくちゃん静かに!ドキドキするシーンなんだから!」
「無理だよ!お姫様抱っこだよ!?無理無理無理」
「やっちゃんもお姫様抱っこで足挫いちゃったところ助けてもらいたい青春だった……」
「こんなことあるわけないんだって!そもそもお姫様抱っこができないんだから!」
「ねえ」
「うわあびっくりしたあ!」
「氷ない」
「ええー?」
「もおー!突然出てこないでよ!」
「さっきからいたよ……」
当也が、ぬ…って後ろから出てきたからものすごくびっくりした。やちよは普通の顔してるけど、それはやちよが図太いだけだと思う。コップを片手に不可解そうな顔をされたので、なんかあんまり怒れなかった。逆にごめん。
それから数日。そんなことは忘れて、夜ご飯当也んちで食べて、お風呂どっちが先に入るかって航介とぐだぐだ喋ってた。先に入るのも面倒だけど、後は嫌なんだよな。これをやちよに聞かれると、じゃあもう一緒に入れば良いじゃないの!って脱衣所に二人いっぺんに詰め込まれる。なのでぼそぼそ喋っているのだ。流石に一緒は嫌だ。狭いし。
「じゃんけんで決めようよ」
「お前チョキ出せ」
「じゃあ航介グーね」
「俺勝つけど」
「勝ったほうが外」
「せめて先か後にしろよ……」
「じゃあ勝ったらどっちが良い?」
「……先……?」
「勝ったほうが今すぐお風呂に入るってこと?勝ったのになんで急かされなきゃなんないの」
「じゃあ後」
「えー、新しいお湯がいい」
「もううるせえな!わがまま言うな!」
「待って。当也もいるから先か真ん中か後の三択だよ」
「あいつどこ行った」
「わからん。ししまるんとこ?」
「ここにいるよ」
「わあ!」
「無音やめろマジで」
「さっきからいたって……」
また気づいたら当也が背後に立ってた。怖いんだよ。足音とか気配とかもっと積極的に出してほしい。航介なんか歩くたびにどすどすいうんだぞ。見習ってください。
なんでこんなとこで立ってるの?と不思議そうに言われたので場所を移動する。こんなとこ、というのは、テレビの前である。確かに、ソファーに座るとか部屋に戻るとかすればよかったな。もしかしてテレビ見たかった?って当也に聞いたら、きょとんとした顔で首を横に振られた。じゃあ尚更なんで来たのさ。
「朔太郎に用があった」
「なあに」
「立って」
「?」
「そこに立って。目閉じて」
「なにい?プレゼント?」
「絶対違うだろ」
「そうかもしんないじゃん!うふふ」
リビングを出て、2階に上がる階段の一段目に立たされた。目まで閉じるなんて絶対にプレゼントじゃない?もしかして俺って今日誕生日?わくわくしながら、当也もかわいいところあるんだから!とか言ってたら、急に足が宙に浮いた。
「うわああお!?」
「あっ無理」
「なにしてんだ!?」
「お姫様抱っこ」
「……は!?」
航介のクソデカ疑問はごもっともだと思う。俺怖くて固まっちゃったもん。多分、背中と膝の裏に当也の手がかかって、ぐっ!って持ち上げられたかと思ったらすぐ下ろされた。ていうか半分ぐらい落とされた勢いだった。とっても怖かった。変な中腰の体勢のまま航介の服を掴んで固まっていると、肩を掴んでゆさぶられた。
「ほら!朔太郎が壊れちゃっただろ!」
「でもやってみたかったから」
「一声かけろよ!」
「やりたいって言ったらやだって言うよね?」
「そっ……そりゃそうだけど……!」
「ちょっと!押し負けないでよ!俺の味方でしょ!?」
「……でもやって良いかって言われたら嫌だって言うだろうし……」
「俺もそう。だから何も言わなかった。効率良いでしょ」
「うん……」
「嘘!?航介しっかりしてよお!」
思いっきり引っ張られている。ふざけんな。マジで怖かったんだぞ。航介もやられてみればいいんだ。あ、無理だな。当也に航介を持ちあげられるわけがない。俺でギリ、ていうかほぼ無理だったわけだし。やいやい言い合ってたら、やちよが顔を出した。
「もー、なにしてるのよ。お風呂入りなさい」
「やちよなら全員余裕だろ」
「なにがよ?」
「お姫様抱っこ」
「できるわよ。ほら」
「うわ怖っ」
「相変わらず軽いわねえ……ちゃんと食べさせてるのに……」
やれやれ…って感じで困ったようにため息をついたやちよが、普通に当也をお姫様抱っこして仁王立ちしているので、若干引いた。あと突然やっちゃダメなんだって。ほら。じゃないんだって。でもこれで唐突なお姫様抱っこは怖いってことが当也もわかったかもしれない。それならいいんだけど。

次!
「とーや、とーや」
「ん」
「どっちのてーに、入ってるか!」
「……こっち」
「ぶー!こっちでした」
でもあげる。手の中に隠していたちっちゃいチョコを渡せば、ありがと、と受け取られた。透明なフィルムで包まれてるやつ。当也甘いもの好きだからね。ちょっとぬるまい…と文句は言われたが、仕方がない。
おやつつまみながら、一緒に宿題。航介はししまるの散歩に行ってる。俺たちはじゃんけんで負けたから置いてけぼりなのだ。でもいいもんね、航介はお散歩が終わった後一人で宿題やらなきゃいけないんだから。かわいそ!
「当也どこまでできたあ?」
「もう終わる」
「えー、待っててー……」
「うん」
早く終わらして一緒に遊びたい、から、がんばんなきゃ。分かんない問題はないからすぐできるはず。宣言通り終わったらしい当也が、教科書やノートを閉じて自分の机から本を取った。ぱりぱり、とフィルムを開ける音がするので、全然チョコ食べてる。俺は我慢するぞ、終わったら食べるんだから。
ちょっと静かになって、俺も結構集中してたから当也のことを気にしてなかった。ようやく終わって、一応見直しをしたら一個かけ算間違ってるとこあったから、あぶな!と思って解き直した。セーフ。消しゴムのカスをぱっぱと払ってノートを閉じる。
「おーわった!」
「おめでとう」
「あそぼ!」
「ご褒美にこれをあげよう」
「えっなに」
握った右手を突き出されて、両手をお皿にして受け取る。かさ、と鳴ったフィルムの音に、チョコだ!って声を上げたら当也ににっこりされた。さっきまでもあったやつだけど、ご褒美ってことになると格別ですなあ!受け取ったチョコの包みを開けようとはじっこを指先でつまんで引っ張り、当也を叩いた。
「んぎー!」
「あは。あはは」
「いじわる!しょーもな!」
「こんなにちゃんと引っかかると、ふふ、おもっ、思わなくて」
笑いすぎて噛んでんじゃん。ひどい。
当也がくれたチョコの包みは、チョコの包みの中に丸めたチョコの包みが入っていたので、要するにゴミだった。見事に騙されたこっちもこっちだが、くそお。地団駄踏みながら当也にタックルしたら、受け止めるとかそういうことはできないので、んふんふ笑いながら後ろに倒れていった。ざまみろ。後で航介にやってやる…と心に誓って、帰ってきてからやったら、思いっきしドーンって突き飛ばされたので壁にぶつかった。

次です。
当也は全体的に鈍いので、ぼーっとしている時に話しかけるとかなりのラグがある。下手すると普通に聞いてない。基本無視されるか、5秒ぐらい経ってから「……え?なに、なんか言ってた?」って言われる。聞いてるふりだけして全く的外れな適当な返事をされることもある。それ全部俺以外にやったら怒られるからね。
例えば今とかがそう。かなりひどい時。
「とおやあ、ねえ、こないだ言ってたセーブデータ俺やっぱ消してないって、航介もぜーったい違うってこれだけはマジで信じろってゆってたから多分メモカがバグってたんだよ、もうあれ使いすぎて擦り切れちゃってんだよ多分、ねええ?」
「……………」
「ねえー、当也ってば、うおっ……」
「……………」
普通に低い声が出てしまった。俺も全然見ないで、お風呂上がりで髪の毛拭きながら部屋に入っちゃったからいけないんだけど、ベッドの上に座ってる当也が壁の方を見て固まっている。なんか虫とかいるのかと思って、俺も数秒固まってからじわじわ近づいたんだけど、なんもいなかった。余計怖いよ。寝てんのか?と思って顔を覗き込んだんだけど、眼鏡は外してるけど目は開いてる。ていうかこの至近距離で顔見てもこっち向かないのなんなの?どうしちゃった
の。
「とおや?」
「……………」
「寝てる?目ぇ開いてるけど」
「……………」
「わざと?んじゃあ変な顔してもいい?」
びっくりさせようとして氷のフリしてるなら笑うかなと思って、壁と当也の間に座って渾身の変な顔をしたのだが、微動だにされなかった。本当に電源オフの時のやつだな。目が開いてるのが誤差だと思ったほうがいい。閉じさせてあげないとドライアイになっちゃう。
「当也、目つぶって」
「……………」
「まぶた下げて」
「……………」
「むん!」
力づくだが、指で瞼を下ろさせたら一応目は閉じた。そのまま横になったら寝るんじゃないかと思って、倒れないように支えながらよじよじ頑張って押してたら、意識を取り戻したらしい当也がもぞもぞしはじめた。もうこのまま寝なよ。
「なに、やめて」
「電気消してあげるから」
「は?朔太郎重、上乗らないで」
「トントンしてあげよっか」
「な、えっ?なに?気持ち悪……」
「本気でキモがらないでくんない?傷つく」
「ごめん」
「いいよ」
「髪の毛濡れてるからベッド乗らないで」
「今正論言うのもやめて?悲しい」
「ごめん」
「いいよ」
見たいテレビがあるんだった、とあっさり部屋を出ていってしまった当也の後を歩きながら、さっきのフリーズのことは無かったことになっているのだろうか…とぼんやり思った。次あったら聞いてみよう。
そんでしばらく経ってから。ちょっと先生に質問とかしてたら遅くなっちゃって、気づいたら当也も航介もいなかった。下駄箱見たから間違いない。一人だけど、当也んち寄ろっと。学校にいないってことは家にいるだろう。
「ただーいまー!」
「あらさくちゃん。おやつ買ってくるわね」
「アイスがいい」
「うーん、あったらね」
やちよと入れ替わりになった。車が出て行く音がして、手を洗ってリビングに向かう。誰もいなそうだし贅沢にソファーでごろごろしちゃおっかなー!ってウキウキで扉を開けたらししまるがいたし、ししまるの横に無言で正座している当也がいたので、ビクってなった。
「おっ……」
「……………」
「当也いたの……なんかゆってよ……」
「……………」
「……あっ!」
こいつ、またオフモードだな!ししまるを撫でる形で手が止まっていたので、分かりにくかった。眼鏡かけっぱだから勝手に外したけどなんも言わないし。眠そうに半分ぐらい閉じた目でぼーっとしている。目の前に座ってんのに全く見えてないよね。ショック。ししまるだけが俺をちらっと見てまた寝てしまった。
「とーおやーあ」
「……………」
まあもちろん声なんかかけても無駄だし。こんな至近距離にいるのに無反応だとちょっとこうなんだろう、ここで永遠に変顔かましてたらいつ気づくんだろうなーとか、気になってきちゃう。目ぇ開いてる以上、見えないってことはないんだよね、多分。試しに3秒ぐらい変な顔してからまじまじ当也を見たけれど、微動だにしていなかった。実験開始ですね。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
いや30秒ぐらいでこっちも限界くる。表情筋の変なところが痛い。休憩を挟みながら何度も変顔してたら途中でくしゃみが止まらなくなった。なんでだ。鼻の奥が刺激されたのかもしれない。ししまるがいつの間にか起きていて、なんか微妙そうな顔でこっちを見ているのがせつない。でもお前のご主人様やばいぞ。
「……………」
「……………」
「……………」
「……なん……なに……やってんの……?」
「あっ航介!聞いてよ当也ひどいんだよ!」
「いや何……怖っ……えっ……?」
「俺の変顔無視するんだよ!」
「航介俺のノート持ってない?」
「うわ喋った!」
「……一回……ちょっと一回帰っていい……?出直すわ……」
気づいたらリビングの扉の隙間から航介が覗いていたし、恐る恐ると言った感じで声をかけられたので変顔を中断して近寄ったらドン引かれた。なんで俺が引かれなきゃならないんだよ。しかも当也は航介の存在か俺のでかい声か、何が原因か分かんないけど急に我に返ったみたいだし、唐突に通常運転で喋り出したし、ししまるを撫でている。俺だけ損してない!?

ね。変でしょ。いやいや信じてよ!絶対君たちの前では猫被ってるだけだから!騙してないし嘘ついてない!頭の中で全部考え切ってから行動しちゃうから、側から見ると行動が突飛で意味分かんないんだって!え?オフモードは伏見くんもあるらしい?あっそうなの?かわいい。最高。
そう握り拳を作れば、思い出話を聞いてくれていた有馬くんが口を開いた。
「でも俺が弁当と殴り合いになった時」
「えっ!?有馬くん当也と殴り合ったの!?」「え?うん」
「レアい……東京でできた友達にそんなに心を許してると思ってなかった……」
「許してるよ!俺と弁当は親友だぞ!」
「有馬くんの親友500人ぐらいいそうで全然信用ならないな」
「朔太郎も親友だからな」
「怖っ……笑顔こっわあ……」



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