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日常




※割と初期

どらちゃんとべーやんとぎたちゃんと、みんなで練習の日。俺時間間違えちゃったぽくて、スタジオについたけど誰もいなかった。そこで待ってるのも邪魔になっちゃうし、近くでなんかしてよーって思って、徒歩2分のところにある喫茶店に入った。ケーキ食べたい。看板が出ていて、どれにしようかなーって思ったけど、どれもおいしそうだから店の中で決めよってなった。
「……お」
同じように早く着いてしまったのか、べーやんとどらちゃんがいる。二人でいるの初めて見たかもしれん。お好きな席にどうぞ、と言われたので二人のところに合流しようかと思ったのだけれど、二人席に向かい合わせで座っているから一緒に座りたいなら椅子を持ってきてお誕生日席に座るしかない。それはちょっと。ていうか隠れといてびっくりさせてやろうかな。ちょうどべーやんの後ろの席が空いてたから、どらちゃんに見つからないようにこそこそ座る。目ぇ合わなかったから見つかってない。店員さんに手短に注文して、後ろに聞き耳を立てた。
「貯めるように努力したら」
「う……してはいる……」
「引き出せないように貯めたら?」
「……それはちょっと……あの、いざという時に使えないと困るし……」
「それは上手くやれよ」
「はい……」
なんの話だ。二人とも声ちっちゃいから全然よく分かんない。ていうか基本スタンスが、高圧的でオラオラなどらちゃんとちっちゃくなってあせあせしてるべーやんだから、べーやんが一方的にかわいそう。別に怒られてるわけじゃないと思うんだけど。もう座り方が違ったもん。どらちゃんは背もたれに踏ん反り返ってて、べーやんは背中丸めてちょんって座ってた。
「それかたくさん働いて使う暇をなくす」
「……………」
「一理ある顔すんな。人として終わりだよ」
「……で、でも、割と本当に困ってはいて……ドラムくんはそういう管理ちゃんとしっかりしてるから、参考にしたいなって……」
「ちゃんと稼いで必要なものにだけ使う以外に金貯める方法あるか?」
「うう……」
あっお金の話だった!なるほど!どうも、べーやんはお金を貯めようとしているけれど気づいたらちょろちょろ使っちゃっててなかなか貯まんなくて、どらちゃんにそれを相談しているらしい。なにその話。大人かよ。俺お金今いくら貯まってるかとか知らん。俺もお金貯めたい。引き続き聞き耳を立てることにしよう。
「稼ぎ口を増やす」
「……こ、これ以上働くのは無理かと……」
「ごちゃごちゃうるせえな。じゃあ一生貧乏に生きろ」
「い、いやだ」
「割り箸でも噛んで食べた気分だけ味わって腹満たして暮らせ」
「いやだあ……」
「……あ。そんなあなたにいい話があるんですよお」
「……え?」
声色を変えたどらちゃんに、べーやんも流石に不信感を覚えたらしく、若干引いた声だった。絵に描いたみたいな猫撫で声で、あのですね、と続けたどらちゃんに、べーやんが相槌を打つ。
「怪しい仕事とかじゃないんですよ。必要とされていることですし、法律には触れていないので怖がらないでくださいね」
「は、はい」
「まずですね、こちらのサイトに登録していただいて。はい、できましたら教えてくださいね」
「え、え、今」
「今だよ」
「ひっ、はい……」
「できました?はい確認しますね、はい、そうですね、ありがとうございます。そしたらこちらに口座の番号と」
「えっ!?」
「あ!違いますよ!お給料を振り込むためのものですからね、不正な利用であったり、こちらから引き出したりとかはありませんからね」
「あ、そ……そうですか……」
「そうです、はい、はいありがとうございますー。そうしましたらこのチャートに従って進んでいただきますね」
「はあ」
「今の宮本さんのステージはこちらになりますね。このノルマを達成できなかった場合は違約金が発生してしまいますが、1000円からお支払いいただけますからそんなに気構えないでくださいね」
「え?あ、えっ?はい」
「ノルマの達成量によって次月のステージが変わっていきますね。自分の好きな時間に取り組めるのも利点となっておりまして、スキマ時間であったり寝る前にちょっとだけ稼ごうかなみたいなことも可能になっておりますので」
「はい……」
「最後にこちらだけ紙面になってしまうのですがサインと印鑑をお願いします」
「はい」
「ダメだーっ!」
「うわ」
「わあ」
「ダメだよ絶対それダメなやつだって!べーやん今すぐその画面消して!画面、画面!?なんもないじゃん!」
「ゔわははははは」
「あ、ぼ、ボーカルくん、やっときてくれた……」
「なに!?どういうこと!?」
「あ″っは、げほげほっ、あはははは!」

「俺騙されてたってことね?」
「そう。楽しかった」
「恥ずかしいから噛み締めないでくんない?」
「楽しかった……」
「どらちゃんてマジ性格悪いよね……」
目を閉じてじっくり堪能しないでほしい。どらちゃんはずっと噛み締めてて話してくれなかったので、べーやんが教えてくれたけど、どうも俺が店の外でケーキセットの看板を口開けて見てた時点でどらちゃんは既に気づいていたそうだ。入り口の窓から見えて、と指さされて振り向けば、確かに大きなそれから外の様子は筒抜けだった。道行く人の顔も、俺と同じようにケーキセットの看板を指して選んでいる人も。それで、べーやんはすぐ声かけてくれようとしたけど、どらちゃんが「あいつ使って遊ぼう」と消しかけたらしい。だからわざとあんな怪しい話をしていた、と。結局椅子も持ってきてもらって、お誕生日席でケーキを食べながら話を聞く。
「で、でも、お金がないのは本当で……」
「べーやん俺より絶対あるから自信持って」
「う……」
「着もしねえ服ばっか買うからそうなるんだってさっき結論出たろ」
「……はい……」
「べーやん服好きなの?」
「う、うん」
「俺も好きー!」
「ボーカルくん毎回同じ服着てるけど」
「え!?嘘」
「嘘」
「ねえー!」
「ど、ドラムくんだって、いつもスーツ」
「電話かかってきたら即仕事になる時あんだから当たり前だろふざけてんのか」
「ひっごめんなさいっ」
「怖いなあ……」


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