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サウンド




「雪すっげ!」
ボーカルくんの声につられて窓を見に行く。ほんとだ、ちゃんと積もってる。朝から降ってたけど、この後雨になるかもーって天気予報で見たのに。りっちゃんが、げえ、と嫌そうな声を上げた。いっつも歩きにくそうな靴履いてんもんね。
割と、朝からずっと缶詰だった。最初は雑誌のいろいろがあって、そのまま車でスタジオ行って、そん時もまあ雪は降ってたけど積もってるかって言われたらそうでもなく、まあ電車は普通に動くよねー、ぐらいの感じだった。ちょっと道は混んでたかも。それからずーっとこもりっきりで、そろそろ帰ろっかーってなったから外に出ようと準備してるとこ。廊下の窓から外を4人して見ながら、こんな積もってんの久しぶりじゃん?みたいな話になった。嫌そうな顔のままのりっちゃんが、スマホを指差した。
「タクシー呼ぼう」
「えー!駅まで行こうよー!みんなで雪に手こずろうよお!」
「手こずる前提?」
「嫌だ。汚れる」
「それはどらちゃんが歩くの下手だからでしょお!」
「……ドラムくん、雨の日も外出たがらないよね……」
「濡れるのはまだいい。汚れるのが嫌」
「いいじゃんいっぱいおんなじようなの持ってんだから!行くよ!」
「それかマネージャーにかけて事務所から車回してもらう」
「没収!てゆか迎え来れないって言ってたじゃん!」
「お願いすれば誰かしら来るだろ。俺が言ってんだから」
「りっちゃんがわがままってこと?」
「違う。えらいってこと」
「わはは。うける」
「どこが面白いんだよ」
りっちゃんはどうしても外を歩きたくないらしい。ボーカルくんは歩きたいっぽいけど。りっちゃんとボーカルくんの意見が割れた時点で、りっちゃんが勝ってんのあんまないけどな。たいたいボーカルくんが力押しでなんとかする。俺はどっちでもいいので、無理やり背中を押されてじわじわ出口の方に追いやられているりっちゃんが、もだもだ抵抗しながらベースくんを指差しているのを見ていた。どっちか手伝うとややこしいかんな。
「ベースくんも歩くの嫌だって」
「えっ!?」
「べーやんも雪の上みんなで歩いてわーきゃーしたいよねえ!」
「嫌……えっと……」
「したいって!」
「嫌がってるだろ」
「ううん。俺には分かる。べーやんはきっとそういうのに憧れてるから。転んじゃってわははってなって手を貸したら引っ張られて転ぶみたいなやつに」
「……………」
まあ満更でもなさそうではあるんだよな。斜め下を見ながら固まってしまったベースくんに、ほんとにやだ?と俺も一応最後の確認をしたけど、うーん…って感じの返事だったので、ボーカルくんは許可と取ったらしい。りっちゃんを押す力が強まったようで、待て待て待て!早まるな!とか、焦った声がする。うける。
「ヨシカタくんに習った。重いものを押す時にはこうやって力を込めるといいって」
「やめろ!あんな奴と繋がりを持つな!あいつが逮捕された時ボーカルくんまで任意で引っ張られたくないだろ!?」
「ナチュラルに犯罪者扱いすんじゃん」
「寒いから出たくないいい」
「絶対どらちゃんと雪で遊ぶうう」
りっちゃんのがでっかいのに拮抗してんのうけるな。押し問答やってるのを眺めてるのにも飽きてきたので、横を抜けて扉のほうへ行く。駐車場の方とか超積もってるじゃん。楽しそう。歩いてる人たちがみんな何となくそろそろしてる。そんな慎重になるもん?と思いながら普段通りに歩こうとして、普通に滑ったので後ろにいたベースくんに掴まって耐えようとした。
「うあっぶね」
「わあああ」
「ちょおなんで転ぶのねえ!」
「ごめ……ごめんなさい……ほんとに……」
全然耐えれなかった。なんでだよお。ベースくんはまだ濡れてないとこにいたはずなのに、俺が滑って手を伸ばしたからこっちに出てきちゃったらしい。もお!引っ張ってよ!と言えば言うほどベースくんがしょぼしょぼしてしまうので、かわいそうに思えてきた。俺もいけなかったかもしれん。ていうか、俺がつるんってしたとこは、ちょうどみんなが出るのに踏み固めたからがっちがちに凍っていて、立とうとしてもものすごい滑ることがわかった。困ったなあ。
「ほらあ!ぎたちゃんとべーやんが楽しそうなことになってるじゃん!」
「絶対ここから先に踏み出したくない」
「やばあ。すんげえすべる」
「ぎたちゃん立てる?」
「うん……」
ちょい危なかったけど立てたし戻れた。ベースくんのが大変そうだった。絶対に嫌…って言いながら腕を組んでちょっと遠くで見てるりっちゃんの方に近寄れば、静かに一歩引かれた。
「この線から入ったら絶交する」
「ちょお歩いてみ」
「凍ってないとこ見極めてから出る。お前らその辺しらみ潰しに歩け」
「あー、こないだどらちゃん夜さあ、道凍ってたの分かんなくてすってーん!ってなってたもんね」
「誰にも言うなっつったろ」
「え?そうだっけ?」
「ボーカルくんが覚えてられるわけないよ」
「なんで事象は覚えてて言葉は覚えてられないんだよ」
「りっちゃんのことどうでもいいからじゃない?」
「俺はこんなに好きなのに?」
「俺のこと好きなら外出てみてよ」
「ベースくん確かスケート超得意じゃなかったっけ」
「えっ……」
「な。滑ってこい」
「ド八つ当たり」
「怖。最低」
「いじめっこ」
「うるせえバカ黙れ」

て、ゆうことが、あったなーって。
事務所の窓から見上げる空から、ちらほらと雪らしきものが降ってきているのを見てたら、思い出したのだ。年に何回か降るけどさして積もんないんだよな。そっちのが楽だし助かるんだけど、楽しさで言ったら積もってくれた方がいい。北の方にツアー行った時もボーカルくんはしゃいでたっけ。暇なのでぼおっと窓の外を見ていたら、用が済んだらしいりっちゃんが、なに?と隣に来た。
「雪降ってんよ」
「今日は降るっつってただろ」
「外出んのやだ?」
「なんで」
「前ゆってたじゃん」
「そうだっけ」
今日は降るの分かってたから平気、って足元を指さされて、成程と頷いた。つまんね。その後で来たベースくんも、凍らないといいね、と小さくこぼしていて、思い出してるのは同じことなんだろうなーってちょっと思った。
「りっちゃん、雪の歌作って」
「クソ寒いし溶けると汚いし嫌い〜」
「もっとキラキラした歌詞つけてよ」
「食ったら腹壊す〜のにギターくんとボーカルくんはかき氷みたいにして食おうとした〜」
「未遂だもん」
「マネージャーがいなかったら食ってたろ」
「まさかあ」
「ベースくんこの顔信用に足りる?」
「……うーん……」


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