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サウンド




「……………」
「……………」
「……………」
やるならやるで、練習しなきゃならない。曲があるかどうかとか、そういうのはまあとりあえず置いといて、ブランクがかなり空いたわけだから、それを埋めるためにも一度合わせてみようということになった。以前と今ではボーカルくんがいるかいないか、の差しかないわけだから、今までだって何回も、何十回も、何百回もやってきたことだ。だからまあ、当たり前のように今まで通りをやろうとして、したのだけれど。
「……………」
「はい」
「……ぎ。ギターくん」
「りっちゃん下手くない?」
「ぐ」
出だしから、あれ?おかしいな?って感じはした。でも俺がずれてるんだろうと思って、ギターくん相変わらずうまいなあとか頭をよぎりながら、え?あれ?待って?のまま、とりあえず無理やり最後まではやり切ったのだが。たっぷり10秒以上の沈黙の後わざわざしっかり挙手したギターくんの発言のおかげで、ドラムくんが特大の重石を乗せられている。終わってから顔見えねえなとは思ったよ。俯いたままぶるぶるしているドラムくんに、ギターくんが、あんねえ、と指を折って行く。
「すんげえ重い、テンポ取れてないそもそもリズム狂ってる、楽しそくない顔色がやば」
「やめてあげてよお!」
「気付いてないかなと思って」
「気付いてるよ!ドラムくん見て!落ち込んでる!」
「俺ねえ。下手くそキライなの」
「……こっ……」
怖え〜!を無理やり飲み込んだ。別に怒ってるわけでも苛立ってるわけでもなさそうだけど、本心ではあるだろう。当たり前のことを当たり前に言いました、という感じ。汗だくになりながら、ギターくんはずうっと上手だねえ、と無理やり方向転換したら、すごい嬉しそうに、そうでしょ!練習したから!これできるようになった!って感じのことを言われた。うんうん。ちゃんと負けず嫌いだしちゃんとストイックなとこあるもんね。その隙間にドラムくんの「俺もだよ…」っていう地獄の底から漏れ聞こえたみたいな声がしたけれど、どこについての「俺も」なのかが分からん。下手くそ嫌いに対してなのか、練習したからに対してなのか、独り言なのか。上手くなったことに着目してもらえて嬉しいらしいギターくんは、にっこにこしながら俺の周りをうろうろしている。犬みたい。それか熊。
「一人でねえ、あのー、なんて言うんだっけ?一人でみんなのことできるようになった。見ててね」
「うん……」
「……………」
ドラムくんが死んじゃう。めちゃくちゃ疲れてるのが目に見えて分かるのもそうだし、ギターくんがばっさりやったのもある。いやていうかギターくんほんと上手いな、これ余計ドラムくんに圧かけてるようにしか思えないんだけど。「まちがっちゃったー、もっかーい」みたいなことしないじゃん。上手い褒め言葉なんて思いつくわけがないので拍手していたら、ぺち…ぺと…っていう死んだ拍手が背後からかぶさってきた。
「すごい?」
「すごいすごいすごい」
「俺はねえ、りっちゃんと違っていーっぱい練習したから!」
「……………」
「し、死体蹴り……」
「ふふん」
本人に悪意がなさそうなところがなんとも言えない。俺ドラムくんの方もう見れないもん。悪意のないギターくんは、だからりっちゃんも練習しな!とにこにこしながら言って、返事はなかった。逆にここから「うん!頑張るよ!」みたいなのが返ってきても怖すぎる。
「てゆかりっちゃん太ったよね。だから重そうなんだよ」
「だからもうやめてあげてよお!」


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